【わかりやすく解説】現代貨幣理論-MMTは経済成長をどう捉えるか

 日本でも現代貨幣理論(MMT)が議論されています。しかしその議論は一般の人には、とてもわかりにくいものです。

  1. 「従来の経済学にとって、現代貨幣理論(MMT)は目新しくない!」とする議論
  2. 新古典派経済学などの流れをくみ、現代貨幣理論(MMT)のインフレ観についてくさす議論
  3. 現代貨幣理論(MMT)の内側で、裁量、非裁量的などを巡る正統性の取り合い

 有り体に言えば前者2つは、普通の人にはあまり違いがわからない。後者に至っては、なぜ現代貨幣理論(MMT)の中で内輪もめをしているのか? と疑問に思うことでしょう。

 ひとまず本稿では、経済”理論”の内容については脇に置きます。現代貨幣理論(MMT)では経済成長をどのように捉え、実現できるのか? それは従来の経済学とどのように異なるのか?

 このあたりの経済観を、わかりやすく解説していきます。

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現代貨幣理論(MMT)と従来の経済学の違いとは

 現代貨幣理論(MMT)と従来の経済学、ないし従来の経済観との違いは貨幣解釈にあります。簡単に言えば従来の経済学は、経済を物々交換の延長と捉えていました。従来の経済学にとって、貨幣は物々交換を媒介するツール以上の意味を持ちません。

 「お互いに生産した生産物を”交換する”ための理論」が従来の経済学でした。

 一方で現代貨幣理論(MMT)は、貨幣を負債と捉えます。「物々”交換”」ではなく「貸し借り、ないし贈与と返礼」として経済を捉えます。

 「物々交換」と「貸し借り」では、築き上げられる理論体系も主張も異なったものになります。

 物々交換は、負債がなくても行えます。よって均衡財政主義を主張することになります。均衡財政主義とは「国の借金が膨らむのはダメ!」という考え方です。

 一方、現代貨幣理論(MMT)の貸し借りは負債の存在が前提です。貨幣=負債ですから、負債がある状態を健全と見なします。

 「物々交換」「貸し借り」の違いは、あらゆる経済理論で差異を生じさせます。もちろん、経済成長の捉え方についても、大きな差異が出ます。

現代貨幣理論(MMT)と偉大な経済学者たち

 現代貨幣理論(MMT)がイメージする経済成長について解説する前に、現代貨幣理論(MMT)の成立に貢献した偉大な経済学者たちを紹介しましょう。

ゲオルグ・フリードリヒ・クナップ

 19世紀末から20世紀初頭に活躍した、ドイツの経済学者です。クナップが提唱した貨幣国定説は、現代貨幣理論(MMT)でも重要な理論のひとつです。

 端的に言います。貨幣国定説とは「貨幣は国が定める、表象に過ぎない」という議論です。「国が定める」「表象である」の2つが、貨幣国定説の特徴でした。前者は租税貨幣論に、後者は新表券主義へと、現代貨幣理論(MMT)に受け継がれていきます。

アルフレッド・ミッチェル=イネス

 イネスもクナップと同時代に活躍した人物です。職業は外交官でしたが、貨幣信用論を著して後世には経済学者として知られています。

 信用貨幣論は現代貨幣理論(MMT)にとって、もっともコアな部分でありエッセンスです。

 Wikipediaでは「信用の存在を前提として流通する名目貨幣の一種」と書かれています。つまり「信用を前提として、『貸し借り』から発生した貨幣」が信用貨幣と言えます。

 貨幣が生み出されることを、信用創造と言います。主流派経済学が説明してきた「又貸しによる信用創造――のようなもの」と異なる、貸し借りによる信用創造はイネスの議論を元にしています。

 イネスの他に、万年筆マネーを提唱したジェームズ・トービンも、現代貨幣理論(MMT)へ貢献した理論家として明記しておくべきでしょう。

アバ・ラーナー

 アバ・ラーナーは20世紀の経済学者で、生まれはイギリス。30代からアメリカに移住して活躍しました。かの有名なジョン・メイナード・ケインズの弟子であり、ケインズ理論を発展させたことで有名です。

 ラーナーの提唱した機能的財政論は、現代でもよく知られています。「不景気のときには財政赤字を増やしてもいいから財政出動、好景気には財政引き締め」というものです。

 機能的財政論の前提にはイネスの信用創造、クナップの表券主義や貨幣国定説があります。ラーナーはケインズ理論を正しく認識し、発展させた正統な後継と言えます。

 機能的財政論は現代貨幣理論(MMT)にとって、有機的に接合できる有力な理論です。

ハイマン・ミンスキー

 ミンスキーは異端と呼ばれた、20世紀の経済学者です。ミンスキーの提唱した金融不安定性仮説は、新古典派経済学がメインストリームに成り代わっていた当時の経済学界で、異端の烙印を押されました。

 金融不安定性仮説は「どのようにしてバブルが起きるか」を解明した理論です。簡単に言えば「金融経済がチキンレースで崩壊して、実体経済にダメージを与えるのがバブル」とミンスキーは明らかにしました。

ウェイン・ゴドリー

 ゴドリーは20世紀から21世紀の、イギリスの経済学者です。2010年の没しました。ゴドリーのSFC理論(Stock-Flow Consistent Model 部門バランス論とも言われる)、現代貨幣理論(MMT)になくてはならない理論です。

 「ある経済部門の黒字は、他2つの経済部門の合計の赤字である」と明らかにしました。3つの部門は政府、民間、海外です。

 政府が黒字の場合、民間と海外の合計は必ず赤字になります。政府と海外が黒字なら、民間は赤字です。政府、民間、海外のすべてが黒字になることはあり得ません。

 バランスシートの考え方を経済学に持ち込んだのが、ゴドリーと言えます。

現代貨幣理論(MMT)と経済成長

 参照してきたとおり、現代貨幣理論(MMT)はさまざまな偉人たちの理論によって形作られています。これらの偉人たちの理論は、主流派経済学が「あえて無視してきた」とすら言える理論です。

 では現代貨幣理論(MMT)において、経済成長とはどのようなものでしょうか。

 まず前提条件として、次のことを頭に入れておいてください。どのような経済理論でも「自国通貨建て国債で、デフォルトはしない」とされています。

 閑話休題。

 現代貨幣理論(MMT)ではインフレとデフレを、政府支出の多少を知らせるシグナルとして捉えます。デフレであれば政府支出が足りない、インフレが行き過ぎれば政府支出が多すぎるという具合です。

 日本の主流派経済学は、とにかくインフレを拒否します。しかし現代貨幣理論(MMT)で、インフレは拒否するべきものではありません。それどころか、正常な経済を営むために必要なものです。

 インフレとは、現金や預金など通貨価値の下落です。したがってインフレ下で、企業や個人は投資に比重を置きます。現金や預金のまま置いても、損するからです。

 投資は需要とイノベーションを生み出します。そして同時に、将来の供給能力を発生させます。道路を作っている間は需要が発生し、道路ができあがれば効率的に行き来できるようになって供給能力が強化されます。この理屈と一緒です。

 そして適度のインフレには、政府赤字が必要です。逆説的に、政府黒字だった場合を考えてみましょう。

 政府黒字の場合、ゴドリーのSFC理論によれば海外か民間のどちらかが赤字になります。海外を仮にプラマイゼロとしましょう。すると民間は赤字になります。

 民間の負債拡大は、信用不安を引き起こす恐れが強い。民間負債が拡大し続ければ、どこかの時点で金融危機やバブル崩壊を引き起こします。金融危機やバブル崩壊は、実体経済を縮小させてデフレを発生させます。

 よって安定的なインフレのためには、政府の赤字が必要です。政府の赤字が安定的なインフレを起こし、投資によって需要とイノベーションを循環させ、将来における供給能力を強化し、経済を成長させます。

 資本主義とは、負債を拡大し続けながら経済成長を続ける経済形態です。その負債をどこが請け負うか? もっとも大きな信用主体であり、通貨発行権を持つ政府しか安定的に請け負えないのです。

まとめ

 現代貨幣理論(MMT)における経済観を、できる限りわかりやすく解説してみました。現代貨幣理論(MMT)の理論体系は多岐にわたり、ひとつの記事で解説しきれるものではありません。

 しかしなんとなく、イメージはできたのではないでしょうか。

 現代貨幣理論(MMT)は経済理論ですから、議論が微に入り細を穿つものになりがちです。学者の間では、それでいいでしょう。しかし一般人からすれば、ちんぷんかんぷんです。

 本稿が現代貨幣理論(MMT)の、理解のとっかかりになれば幸いです。

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