【新著】日本経済学新論(中野剛志)の概観と感想・レビュー

 「日本経済学新論 ──渋沢栄一から下村治まで」をようやく読了しました。平均読了時間に6~7時間かかるボリュームと濃い内容、そして昔の日本語や難読漢字に悪戦苦闘しました。

 最初に結論を言えば、日本経済学新論は教養に自信のある方のみ読むのをおすすめします。もしくは文章を行き来して読み解く根気のある人

 身も蓋もないですが、さらっと読める書籍ではありません。内容の濃さは似た系統の書籍である日本思想史新論と同じレベルです。

 今回の記事では日本経済学新論の基本情報や概観、感想を中心に書きます。

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基本情報

 「日本経済学新論 ──渋沢栄一から下村治まで」の著者は反TPPで有名になった論客、中野剛志です。筆者は中野剛志のファンで、中野剛志が著す書籍はほぼすべて目を通しています。

 中野剛志はかなりの数の本を出しています。ざっと思いつく中で「富国と強兵」「日本の没落」「奇跡の経済教室」「真説・企業論」などは面白く、名著です。

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 日本経済学新論は今年5月に発売されたばかりの新著で、書籍版とKindle版がリリースされています。書籍版のページ数は446ページです。
 平均的な文庫本が160ページ前後なので、3倍近いボリュームです。

 少なくとも初心者向けの本ではなく、一般読者の中でもかなりMMTや経済学、中野剛志本を通読している人向けな印象です。
 はっきり言えば、日本経済学新論は研究書の類いに近い。

目次

 目次をざっと書き出します。

  • はじめに
  • 第一章 日本の経済学
  • 第二章 論語とプラグマティズム
  • 第三章 算盤とナショナリズム
  • 第四章 資本主義の大転換
  • 第五章 社会政策の起源
  • 第六章 明治の通貨論争
  • 第七章 経済ナショナリスト・高橋是清
  • 第八章 危機の経済思想
  • 第九章 産業政策の誕生
  • 第十章 岸信介の論理と倫理
  • 第十一章 下村治の予言
  • おわりに

概観

 日本経済学新論を概観して解説します。まだ一度、読んだだけですから見落としもあるでしょう。その点はご了承ください。

中野剛志が日本経済学新論で明らかにしたかったこと

 中野剛志が日本経済学新論で明らかにしたかったことは、おそらく……優れた経済学の実践家・理論家たちが日本にいたという事実そのものではないでしょうか。

 経済学は中野剛志の言うように輸入学問です。しかし日本の渋沢栄一や高橋是清、岸信介、下村治などの聡明で偉大なる実践家、理論家たちは日本に適した経済理論を構築しました。
 彼らの理論は現代の私たちから見ても遜色ありません。

 現代貨幣理論(MMT)が構築される遙か前に、日本には同じような理論を構築した実践家、理論家たちがいました

 この事実は私たちの心を奮わせます。「昔の人がやっていたんだ! 今の私たちにやってやれないことはない!」と我々を奮い立たせます。

 この体験は、過去と現在を繋ぐ垂直方向のナショナリズムに他なりません。中野剛志は日本経済学新論を通じて、この体験をこそ共有したかったのではないかと思います。

日本経済学とは何か

 中野剛志が共有したかった体験の元となる日本経済学とは何でしょうか。日本経済学は日本経済学新論が明らかにしていきます。

 第一章の最初に出てくる通り、中野剛志は日本経済学をイデオロギーではないと断っています

成功する経済においては、経済政策はプラグマティックであって、イデオロギー的ではなかった。そして、具体的であって、抽象的ではなかった。(スティーブン・S・コーエンとJ・ブラッドフォード・ディロング『具体的経済学』)

 輸入学問であった経済学を日本独自のものにしようと、過去には日本経済学を打ち立てる動きもあったそうです。しかし中野剛志はこの動きすら、輸入学問の呪縛から逃れられるものではなかったと言います。

 それは要するにイデオロギーが先に来ていたからです。

 日本経済学新論では実践的な政策の中にこそ、日本経済学が宿っていると探求します

渋沢栄一、高橋是清、岸信介、下村治の共通点

 日本経済学新論で取り上げられる渋沢栄一、高橋是清、岸信介、下村治の共通点は皆、実践家であるという点です。

 渋沢栄一は実業家として、高橋是清や岸信介は政治家として、そして下村治は経済学者として実務に携わりました。下村治は池田勇人内閣で高度経済成長期のプランナーを務めた人物です。

 このように4名は実践家という点で共通しています。中野剛志は実践の中にこそ理論があり、理論は実践とともに修正されるとします。
 このプラグマティックな姿勢こそ、日本経済学に必要なものです。

日本経済学新論への感想・レビュー

 ここからは日本経済学新論を読了した感想です。まだまだ書くことはたくさんありますが、ひとまず現時点でのまとめと思ってください。

合理主義に陥らない大切さ

 中野剛志は日本経済学新論で口酸っぱく合理主義を批判します。

合理主義は、「世界を支配する根本原理を発見できる理性の力を信じ、その理性が発見した(とされる)原理に基づいて、現実世界を理想的なものへと改造できる」と考える思考様式である。

 合理主義で導き出された理論は一般化・抽象され、現実離れします。例えば主流派経済学の一般均衡理論などは、現実的には成り立たないセイの法則を前提としています。

 なぜ現実的に成り立たないセイの法則を前提にするのかと言えば、それが「理性が発見した原理(とされている)だから」です。

 プラグマティズムと合理主義の違いは、実践と理論の構造にあります。プラグマティズムが「実践の中で理論を発見する」であるのに対し、合理主義は「理性で理論を発見し、実践を理論に近づける」のです。

 要するに「頭でっかちな人間ほど合理主義に陥る」ので気をつけましょう

輸入学問ではなく実践と応用が大事

 経済学は一貫して輸入学問でした。最近入ってきた現代貨幣理論(MMT)も輸入学問です。しかし輸入したからと使わなければならない道理はありません。

 輸入であろうがなかろうが実践的に解釈し、落とし込み、実際の応用へ活かすことが大事です。

 理論的に厳密な解釈ももちろん重要でしょう。しかしそれ以上にその理論は一体何から発見され、何に使えるのかこそ重要です。

日本にも偉大な実践家・理論家がいた事実

 日本経済学新論は日本にも、輸入学問ではなく経済学を解釈し、体得し、実践した経済学者や理論家、実践家がいたことを示しています。

 この事実は我々の心を奮い立たせます。偉人というのはいつの時代も、心を奮い立たせたり震わせたりする対象です。
 その意味で日本経済学新論は研究書であるとともに、一般読者に向けての啓発書でもあるのかもしれません。

収穫逓増と主流派経済学の矛盾

 同じ内容の同じ文章でも、何度も読んでようやく腑に落ちることがあります。もしくは時間をおいて読んでみたら突然、理解できる。――読書というのは摩訶不思議なものです。

 収穫逓増と主流派経済学の一般均衡理論の矛盾について、私は日本経済学新論で唐突に理解できました。腑に落ちたという表現がいいでしょうか。
 富国と強兵から知識としては持っていました。

 収穫逓増とは何も難しいことではなく、工場が大きくなればなるほど製品製造コストが下がるというそれだけのことです。
 現実世界を観察している人なら誰しも「ああ、それはその通りやな」という話。

 主流派経済学の一般均衡理論を説明するのに需給曲線が使われます。この需給曲線をよく見てみると「数量が上がれば価格も同じかそれ以上に上がる」ことになっています。
 つまり収穫非逓増ないし収穫逓減が前提です。

 「大きな工場で大量生産してもコストは下がらない、ないし上がる」ことが収穫非逓増ないし収穫逓減です。この前提がないと主流派経済学の根幹理論が崩れてしまうのです。

 なるほど! と個人的にはもっとも腑に落ちたポイントでした。

まとめ

 まだまだ書かなければならないことがある気がしますが――この辺で切りよくまとめます。

 日本経済学新論のポイントは以下です。

  1. 日本独自の経済学とも言える理論を実践した、偉人たちを知ることができる
  2. 日本にも日本経済学と言えるものが存在した
  3. 理論とは実践の中から生まれるもの。合理主義に陥ってはならない

 日本経済学新論は一般的な文庫本の3倍弱の長さと、数倍以上の内容の濃さを持っています。読了するのに1ヶ月かかった人もいます。
 私もぼちぼち読んで2~3週間はかかったと思います。

 しかしその分、得るところは大きい。多くの知的興奮を得られることだけは間違いありません。経済読み物として、もしくは研究書として、偉人伝として。

 ぜひ、あなたにもおすすめしたい書籍の1つです。

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