「今こそテレワーク導入だ! テレワークで生産性向上だ!」
コロナ禍の不幸中の幸いと導入が続くテレワークですが、調査結果はボロボロ。なんとテレワークで生産性向上は限定的どころか、全体的にはだだ下がりです。
なぜテレワークで生産性が向上すると、勘違いしていたのか? テレワークで生産性が下がった理由は? そして日本全体でテレワークが上手く機能したとしても、生産性がむしろ下がるしかないメカニズムなど全て解説します。
結論から言えば、日本の偉い人たちはITも生産性もよくわからず、ただイメージで言ってるだけです。敢闘精神なのであります! みたいなね。
テレワークで生産性が向上するという勘違い
テレワークをすると、なぜ生産性が向上すると言われたのでしょうか?
- 通勤時間が必要ないから
- 在宅で仕事ができるから
- 自分に合った環境で仕事ができるから
- 好きな時間に仕事ができるから
- オフィスにおらず先進的な働き方だから(笑)
- 総務省「売り上げが多い企業はテレワークも多い」
総務省|平成29年版 情報通信白書|労働生産性向上にも資する「攻め」のテレワークと、総務省も2017年に「テレワークで生産性向上だ!」と言っていました。
それぞれ、理由を分解してみましょう。
通勤時間が必要ないから
確かにテレワークでは、通勤時間が必要ありません。生産性向上とは「粗利を上げること」ですから、通勤時間の削減とそれに伴う交通費削減は、生産性向上に資することになります。
生産性向上とは「粗利の拡大」です。
したがってただ通勤時間を削減しただけでは、生産性向上になりません。通勤時間の部分を労働時間に転換することで生産性が向上します。
また企業にとっては、交通費というコスト削減で生産性向上になります。
この通勤時間の削減だけは、テレワークの生産性向上要素です。
在宅で仕事が好きな時間にできて、オフィスで働かなくて済む
在宅で仕事ができるから
自分に合った環境で仕事ができるから
好きな時間に仕事ができるから
オフィスにおらず先進的な働き方だから(笑)
上記4つは全て一緒の理由です。自分に合った環境で仕事ができるので、生産性が向上するはず! という勘違いです。
上記が正しいなら、内職こそがもっとも日本で生産性の高い仕事のはず。
そんなことはありませんよね? それが答えです。
働きやすい環境がイコールで、粗利に結びつくかどうかは別です。
総務省はなぜテレワークで生産性が向上すると思ったか
総務省|平成29年版 情報通信白書|労働生産性向上にも資する「攻め」のテレワーク
上記の記事のポイントをまとめると「売り上げの多い企業、つまり生産性の高い企業はテレワークをしている率も高い。だからテレワークで生産性が向上できるはず!」です。
逆じゃね? 売り上げが多い、よって余裕がある、だからテレワークを導入してみた。これが順序であって、テレワークを導入したから売り上げが上がったわけではないでしょう。
テレワークしたら、なんか顧客が商品買ってくれるの? そんなわけはありません。総務省の壮大な勘違いでした。
テレワークで生産性が下がった事実
テレワークを実施したら生産性が下がった! との調査があります。この調査内容は「テレワークをした人が、生産性がどうなったと思うか」という調査です。実際の生産性がどうだったか? ではないことに留意が必要でしょう。
……実際の生産性(粗利)は、コロナ禍の売り上げダウンでテレワークだろうが、そうじゃなかろうがだだ下がりです。
上記3つの記事でも特に、3番目の内閣府の調査は重要です。テレワーク率34.6%、継続希望は8割超、生産性効果は限定-内閣府によれば、こうです。
- 仕事の生産性が上がった 9.7%
- 変わらない 35.6%
- むしろ下がった 47.7%
なぜ下がったと感じた人が多かったのか? 非常に答えは簡単です。テレワークの準備ができていない企業がテレワークを導入したら、生産性が下がったと感じて当たり前です。仕事がスムーズに進むはずがありません。
ちなみに上記3つの記事の「生産性」とは、仕事のやりやすさやスムーズさということでしょう。厳密には生産性ではないので「仕事のやりやすさ」などと書いて欲しいです。
このあたりの混同も、生産性議論の混乱に拍車をかけています。
なおテレワークが生産性向上に資するのは、交通費削減、通勤時間削減、雑談時間削減くらいです。ただし後者2つに関しては、削減された時間が労働時間に転嫁されなければ、生産性は向上しません。
ITだから生産性が上がるという幻想
IT化すると生産性が上がる! と主張する人たちがいます。大きくは間違っていません。
しかし生産性とは「生産性=アウトプット(粗利・付加価値)/インプット」で表わされます。コストを削減するか、売り上げを上げるかでしか生産性は上がりません。
ですから「IT化で効率化して、コスト削減をする」ことで、確かに生産性は向上します。これは「コストが削減できたから、生産性が向上する」のであり、IT化はコスト削減の手段にしか過ぎません。
手段はIT化じゃなくても良いわけです。例えば日本中にドイツの並の高速交通網が整備されたら、生産性は劇的に向上するでしょう。
ではITとは何でしょうか? ひとつ、筆者も皆さんも経験している例で考えてみましょう。
ITとは、特に情報系のコストを劇的に下げる技術です。それ以上でも、それ以下でもありません。
インターネットがなかった時代に、3000文字のテキストを誰かに読んでもらえたでしょうか? 1000人に配ろうとすると、コピー費だけでとてつもない金額になりますよね(笑)
情報系コストを劇的に下げたことで、例えば宣伝広告の形が変わりました。宣伝広告に個人が介在し、PVを集めて宣伝する代わりに報酬を得るというアフィリエイトやアドセンスが生まれました。
情報を発信するコストが安くなったから、個人でできるようになったのです。
ITから直接、何かクリエイティブなことが生まれるわけではありません。コストが安くなって個人でもできるようになった結果、その個人が記事を書いたり動画を撮ったりするようになり、クリエイティブな作品が出回るようになったのです。
ITそのものが、クリエイティブな作品を生み出したのではないです。
したがって「IT化したから、クリエイティブな発想が生まれて売り上げが上がる」なんて幻想です。よって「テレワークにしたら、社員が素晴らしい発想をするようになった」なんてこともあり得ません。
IT化=コスト削減=生産性向上です。よってテレワークも、交通費削減の意味しかありません。
GDPと国家からみるテレワークと生産性
企業から見れば、交通費削減はコスト削減ですから粗利が増えます。従って生産性向上です。個人でも通勤時間削減は時間コスト削減ですから、生産性向上と言えます。
上記を整理すると、企業からは交通費が削減されて需要が減りました。しかし個人で増えた通勤時間分を、需要に回すとは限りません。睡眠に回すかもしれない。
とすると企業、個人の生産性向上は全体の需要減少を招きます。
付加価値(粗利)とは「どれだけ需要されるか?」で決定します。とすると全体の需要が減少すれば、付加価値は減少せざるを得ません。
あら不思議! 企業と個人の生産性向上が、全体の生産性を下げることに。
※需要こそが生産性を決定するというメカニズムは、以下の記事を参照ください。
全体を俯瞰すると、テレワークは生産性を下げるだけの結果になりそうです。
ちなみに生産性向上を実現する、とても簡単な手段があります。政府が支出を増やして、需要を増やせば良いのです。数年も続ければ、劇的な生産性向上が実現しますよ。いや、マジで。
まとめ
筆者はテレワークに賛成です。筆者もテレワークですし。
ただ「テレワークだから生産性が上がる!」みたいな頭の悪い議論には、辟易とします。……この議論をしているのが総務省という時点で、結構終わっていますよね。
日本の言論空間や議論のバカバカしいところは、定義を曖昧にしながら議論らしきものをすることです。
生産性向上=粗利を上げること=売り上げを上げるかコストを下げる、って定義をハッキリとしてないじゃないですか。
IT化が生産性向上になる=IT化で効率化=コスト削減、という定義も理解している人は少ないと思います。だからコロナ禍の10万円給付金が、未だに届かないんですよ(笑)
マイナンバー制度は「導入した! IT化した!」で停止してました。IT化は単なる手段ですが、それを目的化してしまったのです。
なんだかバカバカしい話ですよね。どうしてこうなっているのか? 日本の偉い人たちが、無知だからじゃないでしょうか?
>ちなみに生産性向上を実現する、とても簡単な手段があります。
>政府が支出を増やして、需要を増やせば良いのです
>生産性向上=粗利を上げること=売り上げを上げるかコストを下げる
腕利きのシェフたちが、閉店の危機に怯えながらお客を待ち望んでいるので、彼らがフル稼働できてスタッフまで雇い直せるようになるくらい、政府は財政支出を増やしてもらいたいです。
ほんま、そうですね~。
「需要は増やさないが、生産性向上は達成したい!」というウルトラCを、やりたがっている日本は変ですよ。