「赤字国債=ハイパーインフレ」という図式で、頻繁に語られる赤字国債。
なんとなくイメージで「赤字国債でインフレ」とは理解できても、その仕組みを知らない人も多いでしょう。
どうして赤字国債を発行するとインフレ圧力が発生するのか? 赤字国債=インフレなのか? そういった素朴な疑問を今回の記事で解決します。
そして「赤字国債=ハイパーインフレ」の嘘にも迫ります。
赤字国債とインフレ・デフレの関係性
赤字国債はインフレやデフレと大きく関係しています。しかし直接的に「赤字国債=インフレ」ではありません。
仕組みについて詳しく見ていきましょう。
経済の主体は政府・企業・個人の3つ
日本国内の経済主体は政府・企業・個人の3つです。さまざまな統計を見る際もこの3つの主体をしっかりと頭に入れておくと、データを読み取りやすいです。
3つの経済主体で、政治がコントロールできるのは政府です。政府の徴税や支出をコントロールすることで、民間の企業や個人に影響を与えられます。
インフレは需要>供給・デフレは需要<供給
次にインフレとデフレの仕組みを理解しましょう。
インフレは需要>供給の状態です。デフレは逆で需要<供給です。
供給は主に企業が担います。そして需要は政府・企業・個人の3つの主体で構成されています。
赤字国債=政府の需要
政府は自分で利益を獲得することができません。何も生産していないからです。
注意してほしいのは「税金は政府の利益ではない」という点。利益とは「付加価値の対価」です。政府は付加価値を生み出したことで、税金を払ってもらうわけではありません。
政府は利益なく需要する存在です。その需要の源泉が赤字国債です。
「赤字国債=政府の需要」と覚えてくださいね。
赤字国債が多い=政府需要が多い=インフレ圧力
インフレは需要>供給の状態です。
いくら政府が赤字国債を発行して需要を増加させても、民間が不景気で需要減少していたらプラマイゼロです。インフレにはなりません。
インフレになるには「政府が適度に需要しすぎること」が必要です。
逆に政府の需要が足りないとデフレになります。
赤字国債が直接インフレを起こすわけではありません。需要増加がインフレの直接的な原因です。
他にも供給が破壊されてインフレになることもあります。
仮に赤字国債ゼロでも、民間の需要過多や供給過少でインフレになります。赤字国債=インフレではないことがわかります。
自国通貨建て国債は財政破綻しない
「赤字国債でハイパーインフレだ!」という嘘は後述して解説します。まず前段階として、日本はどうやっても財政破綻”できない”ことを紹介しましょう。
財政破綻=債務不履行=デフォルト
財政破綻の定義とはデフォルトです。デフォルトとは日本語で債務不履行のことです。つまり国債という借金の利払いや返済が滞ると、債務不履行=デフォルト=財政破綻というわけです。
通貨発行権で赤字国債を返済できる
日本の国債は100%円建てであり、円で借りています。
日本政府には通貨発行権があります。円をいくらでも発行できる権限です。
したがって円で借りた借金の返済は簡単です。円を発行すれば一瞬ですべて返済できます。
もちろんそんなことをすると経済が大混乱します。「そんなこと」とは「政府が赤字国債をゼロにしようとすること」です。
日本の赤字国債は、自分で自分に借りているようなものです。つまりどうやっても財政破綻できません。
赤字国債でハイパーインフレの嘘
未だに「赤字国債で国の借金が増えると、ハイパーインフレが起こる!」と嘯く人たちがいます。これは嘘です。
彼らがハイパーインフレが起こる理由としている要素を解説し、反論してみます。
「財政の信認が赤字国債増発で揺らぐ」という嘘
赤字国債を発行すると財政の信認が揺らぎ、国債が売り払われるのだそうです。そうして誰も国債を買わなくなり長期金利が高騰。ハイパーインフレになるのだそうです。
財政の信認とは「財政破綻しないかどうか」で決まります。そして財政破綻しません。よって財政の信認が揺らぎようがなく、その証拠に長期金利は0.1%以下です。
まるで砂漠で雨の心配をしているようなものです。
「通貨の信認が赤字国債で揺らぐ」という嘘
赤字国債を発行すると通貨の信認が揺らぎ、ハイパーインフレになるんだそうです。
円安で輸出大国ニッポン大復活! ですね。
閑話休題。
通貨とは「国定流通貨幣」の略称です。したがって通貨の信認が揺らぐ=政府や日本が相当不安定な状態になっている、と解釈可能です。
赤字国債で財政破綻しないのに、どうしたら「赤字国債で信認が揺らぐ状態」に陥るのでしょうか。
風が吹けば桶屋が儲かる、と一緒で相手にするだけバカバカしい議論です。
「長期金利が高騰して国債バブル崩壊」の嘘
この嘘も上記2つの嘘を足して2で割ったような話です。
赤字国債が増え続けるとクラウディングアウトが起こり、長期金利が高騰します。よって国債バブルは崩壊してハイパーインフレになるのだそうです。
クラウディングアウトとは「国がたくさん借金したらその分、民間が借金する余地が少なくなる。よって金利が上昇する」ことです。
「お金に限りがある」という前提条件の上に成り立っています。
しかしお金は「借金した瞬間に生まれるもの」であり、限りはありません。だから現在、長期金利が低迷しているわけです。
よって財政赤字が増えても供給力を大幅に上回らない限り、ハイパーインフレは絶対に起こりません。
「借金した瞬間にお金が生まれる」の詳しい解説は、以下の記事でしています。
機能的財政論で赤字とインフレを理解しよう
機能的財政論はご存じでしょうか。反緊縮派や積極財政派は必ず知ってこくべき理論の1つですよ。
機能的財政論とは
機能的財政論とはケインズ学派であるアバ・ラーナーが提唱した経済理論です。現在では、現代貨幣理論(MMT)の中核をなす理論として取り入れられました。
理論概要
理論自体は難しくありません。以下のようなものです。
「インフレ=需要>供給」「デフレ=需要<供給」だ。
したがってデフレで景気が悪いときに、政府は財政赤字を増やして支出を拡大しましょう。景気のいいときには、財政赤字を減らして支出を縮小しましょう。
財政や赤字国債は景気を調整するための機能であって、赤字国債そのものの絶対額に意味はない。
これがおおよその理論概要です。
なぜ「機能的」財政論なのか? 景気を調整するための機能として財政を捉えているからです。
反緊縮派や積極財政派で機能的財政論を知らなければ、ちょっと恥ずかしい(笑) しっかり覚えておいてくださいね。
まとめ
- 赤字国債=インフレではない
- インフレかデフレ化を決めるのはあくまで需要と供給
- 自国通貨建て国債は財政破綻しない
- 赤字国債でハイパーインフレとか言っている言説は嘘
- 反緊縮派や積極財政派なら機能的財政論は知っておくべき理論
上記5つが今回のまとめです。
財政赤字や赤字国債について知りたいなら、ステファニー・ケルトンの新著が良いかもしれません。筆者もそのうち購入して読む予定です。