コロナ禍が始まってすでに、半年以上が経過しました。日本は小康状態ですが、世界ではまだまだコロナが猛威を振るっています。
コロナ禍の恐ろしいところは、コロナへの感染だけではありません。感染対策のために、経済が停止することです。経済の停止は失業率を増加させ、人々を苦しめます。
そんな状況に各国では、ベーシックインカム導入の気運が高まっています。世界各国のベーシックインカム導入の動きを、まとめてお伝えします。
ベーシックインカムの成功事例「ブラジル・マリカ」
ブラジルのリオデジャネイロ州にあるマリカは、人口16万人の市です。
マリカは今、奇跡の街と評判です。
コロナ禍が始まる前からベーシックインカムを導入しており、雇用の維持などに役立っているからです。
マリカがベーシックインカムを導入したのは、2013年。現在では低所得層に位置する、人口の4分の1がベーシックインカムを受け取っています。
マリカのベーシックインカムは、油田に支えられていると言います。月200ドル以下の生活費が一般的なマリカでは、3人家族で200ドル弱が受け取れる仕組みです。
コロナ禍で増額され、失業してもなんとか生活できる金額とのことです。
面白いのは、マリカの独自通貨で支給していることです。独自通貨ムンブカで支給することで、消費は地元に限られます。
こうして雇用維持にも、ベーシックインカムが役立っています。
- 独自通貨で支給され、消費と雇用の維持に役立っている
- 人口の4分の1が受け取っている
- 油田がベーシックインカムの財源になっている
コロナ禍でベーシックインカムが注目される3つの理由
コロナ禍で各国がベーシックインカムに、注目する理由は3つあります。
ロックダウンや自粛による経済の停止
コロナ禍の当初、各国はロックダウンなど強い措置を執りました。ロックダウンすることでコロナを、短期に終息させることが狙いでした。
しかしコロナは終息せず、経済を停止するリスクが顕在化しました。
失業率の増加
経済が停止すると、雇用が維持できずに失業率が増加します。職を求めようにも、経済そのものが停止しているので無理です。
欧州では失業率が、大きく増加しているとの報道もあります。特にイタリア、スペインなどでの増加が目立ちます。
いつ終息するかわからない
コロナ禍によって経済が停止し、失業率が増加しました。最大の問題は、コロナ禍がいつ終息するのか誰にもわからないことです。
3ヶ月後に終息しているかもしれない。しかし数年後にまだ、続いているかもしれない。
だからこそ人々は保証を求めて、ベーシックインカム導入に賛成します。世界各国で、ベーシックインカム導入の気運が高まっています。
そもそもベーシックインカムとは何か
各国の動きを解説する前に「そもそもベーシックインカムって何?」と、おさらいしておきましょう。
ユニバーサルベーシックインカム(UBI)
国民全員に一律給付するベーシックインカムは、ユニバーサルベーシックインカムと呼ばれます。UBIと略されることも多いです。
負の所得税
負の所得税タイプのベーシックインカムは、UBIではありません。所得によって、給付額が変動します。
低所得層は多く給付され、富裕層はゼロなどが一般的です。
社会保障の一元化
UBIと負の所得税どちらのタイプでも、社会保障の一元化が議論されます。
年金や生活保護を、ベーシックインカムと一元化するという議論です。
賛成派は「社会保障を一元化することで、行政が効率的になり小さくできる」と言います。反対派は「日本に財源問題はないんだから、従来の社会保障と並立してベーシックインカムを行うべきだ」と主張します。
ベーシックインカムの詳細は、以下の記事をどうぞ。
コロナ禍で各国にベーシックインカム導入の気運が高まる
世界各国はコロナ禍を受けて、ベーシックインカムの導入の気運が高まっています。ドイツやスペイン、フィンランドなどの欧州だけではなく、韓国やアメリカでも議論が盛り上がっています。
ドイツ
ドイツでは、ベーシックインカムの実験が始まりました。
120人に3年間、継続して月に15万円を給付します。ベーシックインカム導入で、どのような変化が起きるのかを実験するとのことです。
応募120人に対して、募集者は120万人に達したそうです。
参照 120人に3年間、月15万円 独でベーシックインカム実験―新型コロナ:時事ドットコム
韓国
お隣の国、韓国でもベーシックインカム導入の気運が高まっています。火付け役の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事は、年間4万5000円から試験的に導入するべきだとします。
年間4万5000円だと予算は約2.5兆円。月額4万5000円だと約30兆円の予算が必要との議論になっています。
財源の問題が、韓国のベーシックインカム議論の中心です。
参照 新型コロナ:ベーシックインカム、韓国で高まる導入論:日本経済新聞
スペイン
スペインではベーシックインカムの導入が、今年5月29日に決まりました。6月から申請開始でした。
ただしスペインのベーシックインカムは、ベーシックインカムではないとの批判もあります。
ベーシックインカム対象者を、低所得な生活困窮者に限定しているからです。
230万人に支給される予定で、人口のおよそ5%に当たります。
支給額は最低5万6000円、最高で12万2000円とのことです。また子供には支給されず、1人世帯なら23歳以上、子供を扶養している場合は18歳以上が条件です。
スペインへの在住1年以上で支給されるので、外国人にも支給される模様。
スペインはポルトガル、イタリアと連携して、EU全体でベーシックインカムを働きかけています。理由は簡単で、EUでは共通通貨ユーロにより各国が金融主権、財政主権を持っていないからです。
参照 欧州大失業(3)世界初? スペインのベーシックインカムの狙い:日経ビジネス電子版
フィンランド
フィンランドは2017年1月から、2年間のベーシックインカム実験を行っていました。失職中の2000人に一ヶ月、約7万4000円を支給しました。
フィンランド政府はベーシックインカムに、一定の効果があったと見ています。
現在はドイツ、アイルランドでも試験的ベーシックインカムが検討、実施されています。
フィンランドでも再び、ベーシックインカム導入の気運が高まるかもしれません。
アメリカ
アメリカでも一部、ベーシックインカム導入の気運が高まっています。
アメリカ大統領候補として名前も挙がったアンドリュー・ヤンの支持者らが、Twitterでベーシックインカム導入運動を始めたそうです。
ヤンは大統領候補選で、国民一律10万7000円のベーシックインカムを主張していました。
アメリカの失業率は年内に、16%に達する見込みです。非常に困難な状況だけに、ベーシックインカム導入議論は盛り上がることでしょう。
ベーシックインカムへの各国の動きまとめ
- 実際に導入したのはスペインのみだが、実験には前向きの国も
- スペインのベーシックインカムは、日本の生活保護に近い
- 今のところ国単位でのUBIは、実績がない
日本でベーシックインカムは導入可能か?
筆者は基本的に、ベーシックインカム導入に慎重です。なぜなら、実績がないからです。とはいえ、ベーシックインカムに魅力があるのも認めます。
日本でベーシックインカムは、導入可能なのか? 検討してみましょう。
財源問題は存在しない
日本でベーシックインカムと言うと「国の借金が!」との反論があるでしょう。しかし日本に、そもそも財源問題は存在しません。
財源問題が存在しない以上、財源議論は無駄で不必要です。
国の借金問題に関しては、以下の記事をどうぞ。
インフレ制約リスク
財源問題はなくとも、インフレ制約は存在します。
インフレ制約とは、アバ・ラーナーの機能的財政論に出てくる議論です。
お金はいくらでも刷れるし、政府はいくらでも仕事を発注したり、お金を給付したりできる。しかしそれは、民間の供給能力を大幅に超えない限りにおいて、という前提条件付きだ。
供給能力を大幅に超える需要は、過剰なインフレを引き起こして国民生活を混乱させる。したがって政府支出の拡大には、常にインフレ制約がつきまとう。
供給能力は、需要増加に対応して漸進的に増加します。したがってベーシックインカムの給付額を、漸進的に増加させることで解決できるかもしれません。
従来の社会保障制度との兼ね合い
ベーシックインカムは、従来の社会保障との兼ね合いが問題になります。例えば菅総理のブレーンである竹中平蔵氏は、菅首相のブレーン・竹中平蔵氏、「生活保護&年金廃止」「一律7万円支給」提言が物議で「社会保障を一元化するべき」としました。
ベーシックインカム+年金ないし生活保護だと、単純に「多くない?」となりますよね。
ベーシックインカムが7万円に、生活保護が12万円。筆者なら働きません。絶対に! 絶対にだ!
――失礼。
「従来の社会保障の拡充」「ベーシックインカムで一元化」「ベーシックインカムと従来の社会保障の並立」など、さまざまな方向性が議論されます。
問題もあるが議論はするべき
- 日本に財政問題は存在しないので、財政制約はない
- インフレ制約はある
- 従来の社会保障との兼ね合いが問題
以下ではメリットばかり語られるベーシックインカムの、デメリットについて解説しました。
まとめ
コロナ禍によってベーシックインカムは、かなり現実的に議論されています。コロナによる経済の停止は、それほど深刻です。
加えて他国も経済が停止しているので、外需も当てになりません。
コロナ禍でベーシックインカムが導入されたとしたら、世界はまだ見ぬ方向に舵を切るのかもしれませんね。
- ベーシックインカム導入の気運は高まっている
- しかし実際には、スペインが生活保護っぽい社会保障制度を導入しただけ
- まだ各国とも手探り状態だが、議論は盛ん
- ブラジル・マリカの例を見てもUBIより負の所得税タイプが現実的かも
- コロナ禍は世界を、まだ見ぬ方向に変えるかも!?
>財源問題が存在しない以上、財源議論は無駄で不必要です。
問題は一般大衆においては、現代貨幣理論を「頭ごなし」に否定する人がやたら多いから、現代貨幣理論についての公的な議論さえ困難だという点です。いや、現代貨幣理論(MMT)を疑うのは仕方ないと思います。ただし、頭ごなしに聞く耳を一切持たずに全否定するのは、さすがにまずいでしょう。
知り合いに現代貨幣理論について話してみたら、「現代貨幣理論を支持する政治家は独裁者と同じ思考の持ち主だ!」というわけの分からない反論が返ってきたことがあります。
まあMMT論者だって暴走したらそんな風になってもおかしくないですが、それなら緊縮財政を求める人たちだって同じことです。
現代貨幣理論(MMT)は料理で言う、包丁と一緒で単なる道具や分析ツールです。
よって人殺しが使えば凶器になりますし、料理人が使えば美味しい料理を生み出すわけで。
しかし
>「現代貨幣理論を支持する政治家は独裁者と同じ思考の持ち主だ!」
という反応は、非常に戦後日本人らしいと言えます。
なぜなら財政法4条および緊縮財政主義は、「戦争では国債を発行する、よって国債を発行しなければ戦争しないはずだ」との認識で採用されているからです。
つまり「国債発行=戦争をする独裁者」との認識は、”戦後”日本人のポピュラーな考え方と言えましょう。
単なる思考停止、とも言いますが(汗)