「小さな政府」や「大きな政府」といった言葉が、政治や経済の話題で出てきます。なんとなくわかっているようで、わかっていない人も多いのではないでしょうか。
今回は「小さな政府」「大きな政府」といった言葉の意味と、それに付随するイデオロギーやメリット・デメリットなどを解説します。
できる限りわかりやすく、簡単に解説してみましょう。
政府の大きさは何で決定されるのか?
政府が大きいか小さいかは、「財政」と「規制」の2点から計られます。
大雑把なイメージとしては、大きな政府=世話焼き、小さな政府=放任主義です。
政府が大きいか小さいかは、政府が市場に介入している度合いで決定されます。
- 政府支出が大きい=支出とは経済活動=政府が市場に介入している
- 政府による規制が多い=規制は市場を縛る=政府が市場に介入している
上記のようなイメージで捉えてください。
財政面から見る政府の大きさ
大きな政府は財政支出が大きく、小さな政府は小さい。これが一般論としての政府の大きさです。
財政面から政府の大きさを観測すると、しばしば議論になるポイントがあります。
- 赤字国債額が大きいのは、大きな政府だから?
- 政府支出の絶対額で、政府の大きさは決定される?
要するに「借金が大きいのは、大きな政府」との単純な観測を是とするかどうか? が議論になります。
結論を言えば、単純な金額で大きな政府、小さな政府と決定はできません。
たとえ赤字国債が多く、政府支出の絶対額が大きくてもデフレであれば、政府支出がまだまだ足りない証拠です。
財政面の大きさは、正常な経済状態を財政政策で維持しているか? それとも放置しているか? で計ることが正解です。
規制面から見る政府の大きさ
規制の面からも、小さな政府か大きな政府か観測できます。大きな政府は規制が強く、小さな政府は規制が弱いのが一般論です。
規制緩和や構造改革は、小さな政府を目指す政策です。自由貿易推進も、小さな政府系の政策に入ります。なぜなら関税などの規制を緩和する、規制緩和に他ならないからです。
大きな政府は規制強化に努めます。規制とはそもそも、おおよそ弱者保護の観点から作られています。自由貿易についても、大きな政府は何らかの規制を設けるケースが多いです。
行政組織から見る政府の大きさ
小さな政府は行政組織をできる限り効率化し、縮小しようとします。公務員数や国会議員数も小さくする方向です。なぜなら小さくする方が、財政支出が少なくてすむからです。
大きな政府は提供するサービスを、最初に考慮します。つまり公務員数が少ないとサービスが低下しますから、公務員数を確保して行政組織は大きくなります。
小さな政府とは?
小さな政府とは市場介入をよしとせず、そのために政府支出や規模の縮小を行おうとする体制です。
小さな政府は、以下の条件を満たすケースです。
- 政府支出を小さくする
- 規制はできるだけ撤廃し、自由競争に任せる
- 行政組織は小さくする
小さな政府のメリット
小さな政府のメリットは、小さな政府を是とするイデオロギーによれば以下になります。
- 自由な市場に任せれば、経済活動はうまくいく
- 政府の赤字が減少する
- 政府が国民の自由を侵害しないから、自由が保障される
- 税金が安くなる
上記3つはすべて、メリットとして享受できるかどうか非常に怪しいものばかりです。
小さな政府のデメリット
小さな政府のデメリットは、現実世界に根ざした観測が主になります。なぜなら世界は、1980年代からずっと、小さな政府とグローバリズムに向かってきたからです。
- 自由競争=弱肉強食ですから、大資本が常に市場で勝利する
- 格差が際限なく拡大する
- 結果として長期的に経済成長が阻害される
- 国民への安全保障が脆弱になる
- セーフティーネットや社会保障も削減される
政府が市場に介入しないと、資本主義は不安定さと強欲さをむき出しにします。政治が資本主義経済をコントロールしていたのに、政治が弱くなり枷が外れます。
資本主義への政治の枷が外れると、自由競争という名の弱肉強食が正当化されます。
- 自由競争の結果として、際限のない格差拡大
- 格差拡大による99%の貧困化
- 貧困化による需要縮小で経済成長が阻害される
上記のように負の連鎖が起きます。
また小さな政府とは市場介入しない政府ですから、社会保障やセーフティーねとの分野も市場開放されます。いわゆる民営化です。
結果としてアメリカのように、保険料が高く、医療費が目が飛び出るほど高額な社会体制に行き着きます。
小さな政府がよいとするイデオロギー
小さな政府がよいとするイデオロギーは、グローバリズムや新自由主義と呼ばれるものです。新自由主義は現代の主流派経済学、いわゆる新古典派経済学の奥底にあるイデオロギーです。
古くはリカードやハイエク、アダム・スミスなどが小さな政府を支持しました。現代でも、大半の経済学者は小さな政府を支持しています。
主流派経済学について、以下の記事もご参照ください。
大きな政府とは?
大きな政府とは、市場介入に積極的な政府です。
- 政府支出は大きくなる
- 規制によって、弱者保護を達成しようとする
- 行政組織は大きくなる
大きな政府のメリット
大きな政府のメリットは、以下になります。
- 社会保障やセーフティーネットが厚くなる
- 過度な競争にさらされずにすむ
- 格差が縮小し、ルサンチマンも減少する
- 安全保障なども増大するケースが多い
大きな政府のデメリット
大きな政府のデメリットは、一般論では以下のように言われます。
- 自由競争が阻害されて、イノベーションが起きづらくなる
- 格差が縮小しすぎて、成果を出しても報われないのでモチベーションが下がる
- 政治が介入の仕方を間違えると、市場がゆがむ
- 政府が経済に介入するので、自由が侵害される
大きな政府にも無数のバリエーションがあり、上記のデメリットが必ず起きるわけではありません。しかし過去の共産主義国家などでは、よく見られたデメリットです。
大きな政府がよいとするイデオロギー
究極の大きな政府のイデオロギーは、共産主義になります。しかし今さら、共産主義を唱える人もいません。
次に大きな政府を指向するのは、社会主義です。社会主義と共産主義は異なります。異なるポイントは以下の記事を、ご参照ください。
政府の大きさを適切に選択する第3の道
大きな政府と小さな政府の議論は、とかく2つしかバリエーションがないかのように議論されます。しかし大きな政府と小さな政府の間には、無数のバリエーションが存在します。
その時代や経済状況によって、最適解は変化します。すなわち政府の大きさや小ささも、経済状況によって変化することが望ましいはずです。
不景気には大きな政府、好景気には小さな政府と切り替えるのが、アバ・ラーナーが提唱した機能的財政論です。
大きな政府か小さな政府かの2択ではなく、適切な規模の政府という選択肢があってもよいのではないでしょうか。
公務員数から見る日本政府の大きさ
日本政府は大きな政府でしょうか? それとも小さな政府でしょうか?
新自由主義者やグローバリストに言わせると、日本政府は大きな政府だそうです。根拠は巨大な国債残高と、年々大きくなっていく予算規模です。
しかし上記の主張は、根本的かつ常識的な認識を欠いています。
- 近代になってから、予算規模は拡大し続けている。縮小した時代はない
- 20世紀から、国債残高が増加した国家はあってお、減少した国家は存在しない
これは歴史的事実です。アメリカの国債残高は、1900年と比較して3000倍以上になっています。
では日本政府の大きさは、どのように計ればよいでしょうか。ひとつの指針として、人口あたりの公務員数が参考になります。なぜなら公務員の数とは、イコールで行政が国民に提供するサービスの大きさでもあるからです。
日本は先進国の中で、もっとも人口あたりの公務員数が少ない国のひとつです。野村総合研究所の資料も、併せて記載しておきます。
公務員数で見ると、日本政府は小さな政府との結果になります。
他にも、デフレから脱却できるほどの財政支出をしないことも、日本政府が小さな政府であることを示唆しています。
小さな政府と大きな政府のまとめ
現代は日本だけでなく、多くの国がグローバリズムを支持してきました。グローバリズムとは日本語で地球主義、すなわち国家を薄める活動です。国家を薄めるとは、小さな政府を目指すことと同義です。
しかし小さな政府とグローバリズム、新自由主義の弊害は各所で起こっています。
- アジア通貨危機やリーマンショックといった金融危機の頻発
- 格差拡大による世界経済の成長鈍化と長期停滞
- 新型コロナに見られる、安全保障の脆弱化
特に新型コロナで先進国の脆弱性に危機感を持った人は、多いのではないでしょうか。
すでに新型コロナで世界は、ポストグローバリゼーションの時代へと差し掛かりました。小さな政府からの脱却と、よりよい大きな政府の構築が日本人だけでなく、全世界の課題となるはずです。
いち早く日本が、ポストグローバリゼーションを築き上げることを祈念します。