生活保護の水際作戦で脅かされる国民-コロナ禍でも水際戦線異状なし

 コロナ禍で生活が困窮する人が続出しています。非正規雇用雇い止めや、日雇い派遣で仕事が得られないなどが起きています。

 報道によれば「いのちとくらしを守る なんでも電話相談会実行委員会」には2日間で5000件の相談が寄せられましたが、これは「電話を受けられた相談」です。発信は2日間で42万件を超えたそうです。

 しかしこの状態でも、生活保護の水際作戦は続行中です。困窮した人たちの、生命と生活を脅かす水際作戦とはなんなのか? 解説します。

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生活保護とはそもそも何か

 生活保護における、水際作戦のひどさや実態を解説する前に「そもそも生活保護とはなんなのか?」を、簡単に再確認しておきましょう。

経済的に困窮する国民の権利保護

 生活保護とは経済的に困窮する国民に、国や自治体が公的扶助を行う制度です。「健康で文化的な最低限度の生活」の最終防衛ラインが生活保護です。また生存権を国家が国民に保障する際の、実質的な施策のひとつでもあります。

 国が困窮する国民に対して生活費の給付を行って生活を保障しつつ、自立を促すことが生活保護法第1条にある生活保護の目的です。

生活保護4つの原則とは

 生活保護には4つの原則があります。

  1. 無差別無平等の原則
  2. 補足性の原則
  3. 申請保護の原則
  4. 世帯単位の原則

 それぞれさらっと簡単に、解説しましょう。特に「申請保護の原則」は、生活保護の水際作戦の違法性を理解するのに重要です。

無差別無平等の原則

 生活保護は生活保護法が定める要件を満たすなら、全ての国民に「無差別かつ平等に適用される」という原則です。無差別平等の原則に則れば、困窮した理由や過去の職歴などは問われません

 つまり「アルコール依存症で生活が崩壊した」「ギャンブルで貯金を失った」「問題を起こしてクビになったので困窮した」などでも、全く問題なく適用されなければならないという原則です。

補足性の原則

 生活保護は補足的なもの、と定義されています。つまり申請する人に、生活費を十全に稼ぐ能力があるケースや、資産を現金化して当面の生活をできる場合は生活保護が適用されません。
 要するに困っていないと、生活保護は受けられませんよということです。

 また他の法律などで援助・扶助があって、それでもなお足りない部分を生活保護が補足するという原則です。

申請保護の原則

 生活保護は保護してほしいと望む国民が、申請しなければ始まりません。申請が困難な状況に申請者がある場合、行政は職権で申請を保護しなければなりません。

 当然ながら申請者の申請そのものも、保護対象です。決して行政が、生活保護の申請を妨害することなどあってはなりません。

世帯単位の原則

 生活保護は原則として、世帯単位で支給されます。世帯とは何か? というと、同じ家に住む家族という定義でおおよそ合っています。

生活保護で水際作戦が取られる理由

 生活保護は困窮する国民の、最終防衛ラインでありセーフティーネットです。水際作戦はなぜ、取られるようになったのでしょう。

生活保護者に厳しい空気の日本

 日本の”空気”は、生活保護者に非常に厳しいものです。

  • 俺たちの血税を使って生活しているくせに!
  • 働かなくて生活できるなんていいよねぇ! 俺たちは苦労して働いているのに!
  • 生活保護になる前にやりようがあったはず!
  • 生活が困窮するのは自己責任!

 およそ上記のような空気が、日本には存在します。ネット上で生活保護たたきが行われる理由も、だいたい上記です。

 またごく一部の、不正受給が問題となり空気がさらに厳しくなりました。しかし不正受給のパーセンテージは、非常に低いのが現実です。ほんの0.1%でも不正があると全体を叩くのは、日本人特有の性質ですね。この側面は後述して議論します。

 「とにかく不正受給は、何が何でも許されない! 必要としている人の生存権が侵害されても、不正受給の撲滅が先だ!」というのが、生活保護の水際作戦が行われている理由のひとつです。

緊縮財政とプライマリーバランスという強迫観念

 「日本には借金がたくさんあるので、節約しなければ!」という強迫観念も、生活保護の水際作戦が積極的に行われる理由です。

  1. 自分たちは苦労して働いて税金を払っている
  2. しかし日本は借金で大変だ
  3. どこかに不正に、税金を使っているやつがいるはずだ

 これが生活保護の水際作戦を支持する人たちの思考回路です。ちなみに日本には、財政問題は一切存在しません。赤字国債で「大変だ」というのは、フィクションないし嘘です。

 水際作戦とはフィクションないし嘘に基づいて、行われています。

自己責任論の蔓延

 「自分たちは苦労している」「国も借金で大変なんだ」とくれば、生活困窮者たちに手を差し伸べるのは「自分たちか国か、どちらかの苦労が増える」となり却下されます。
 よって生活保護を必要とする人たちに「そんなことになる前に、やりようがあったはずだ! 生活が苦しいのは自己責任!」と言い放ち、放置しようとします。

 水際作戦とは生活保護を受けたい人たちを「自己責任!」と放置し、それを正当化しようとするものです。水際作戦が行われるのは、自己責任論という放置主義も理由のひとつです。

生活保護を申請に行って水際作戦をされた人たち

 実際の報道などから、生活保護を申請しにいった人たちが、水際作戦で追い返されていることは事実です。水際作戦の要旨とは何か? を確認していきましょう。

生活保護の水際作戦とは「追い返すこと」

 生活保護の水際作戦とは、申請者を追い返すことに他なりません。これは生活保護の「申請保護の原則」を著しく侵害しています。

 例えばテロリストを水際で阻止する! とは、言い換えれば「テロリストを国内に入れず、追い返すこと」です。とすれば生活保護の水際作戦とは「生活保護を申請しに来た人たちを、申請させずに追い返すこと」になります。

生活保護の窓口で繰り返されるパワーハラスメント

 生活保護の申請自体を受け付けない、申請書類を渡さないのが水際作戦です。とすれば人間、無言でそれを実行できるはずがありません。

 生活保護の申請窓口では、パワーハラスメントや人権侵害が頻発しているとの報道もあります。生保行政に蔓延する違法行為 小田原の事件は氷山の一角に過ぎない(今野晴貴) では、その一角が見て取れます。

生活保護担当職員が、「保護なめんな」「不正受給はクズだ」などの文言が入ったジャンパーを勤務中に着用し、着用したまま受給者宅を訪問するケースもあった

 生活保護の水際作戦って「申請者に嫌がらせをして追い返すこと」でした。

ブラック国家日本

 ブラック企業という言葉がありますが、日本はブラック国家ですよね。でも水際作戦は評価されこそすれ、批判の嵐が巻き起こることはありません。なぜか?

  1. 新自由主義的・守銭奴的価値観から「権利は税金を払っている人に与えられるもの」という勘違いをしているから
  2. 税金で生活するような生活保護者に権利はなく、むしろ罰として嫌がらせを受けても仕方がないと考えているから
  3. 自分は生活保護に陥ることはないので、関わり合いのないことだと見て見ぬふり

 端的にいえばいじめの構造が、生活保護の水際作戦には見て取れます。ブラック国家といわずして、なんといえばよいのでしょう。

水際作戦の問題点

生存権や自尊心という人権への侵害

 国家は国民の生存権や、人権を保障する義務があります。生活保護の水際作戦とは、よくいっても「生活保護行政が、不正に対して厳しく運営されているかどうか」だけしか保障しません。

 「不正に対して、厳しく運営されること」と「国民の生存権や人権」は、どちらが大事でしょう? 中学生ですら即答できる問題です。

不正受給と生存権のバランス

 生活保護を独占しているのは誰だ? 生保が増えた理由と不正受給について | 白金さんちのおそろしい家計簿によれば、生活保護の不正受給率は0.45%、200件に1件ほどです。
 たったこれだけのために、どれくらいの人数の「生活保護を必要としている人たち」が、申請を断られたのでしょう。またパワーハラスメントが起きて、人権侵害が発生したのでしょうか。

申請書を出さない、受け取らないという最悪

 水際作戦は「申請書をいろいろな理由をつけて出さない」「書いてきても受け取らない」ことを頻発させるようです。

子どもを3人抱えるシングルマザーの女性が生活保護を申請しようとしたところ、所持金が600円しかなかったにもかかわらず、窓口で追い返された。本人が「申請をしたい」と何度訴えても申請書を渡さず、「帰ってください」「業務の邪魔になる」などと言って対応しなかった上、自作の申請書(※)を窓口に置いて帰ろうとした際には「忘れ物ですよ!」と言って突き返そうとしたのだ。

生保行政に蔓延する違法行為 小田原の事件は氷山の一角に過ぎない(今野晴貴)

 行政って、なんのためにあるんでしたっけ?

行政のスリム化による「審査すらしたくない病」

 行政も緊縮財政の強迫観念を受けて、スリム化されました。非正規公務員が行政の3割という自治体も珍しくありません。

 スリム化されると何が起こるか? マンパワー不足です。したがって生活保護という「審査が必要で労力がいるもの」は、できるだけ申請されたくありません。

 ここまで公務員を減らしたのは誰か? 国民ですよ。公務員を叩いて「税金の無駄遣い! スリムにできるはず!」と批判し、実際に「改革!」を連呼する政治家たちを当選させてきました。

コロナ禍においても水際作戦は続く

コロナ禍で雇用が打ち切られ困窮する国民多数

 現在、日本はコロナ禍で雇用が失われ、多くの人が困窮しています。また困窮寸前の、余裕のない人もたくさんいます。特に飲食、サービスなどの分野では休業が目立ちます。非正規雇用で雇い止めされた人も多くいますし、日雇い派遣で生活していた人には仕事がありません。

コロナ禍でも生活保護の水際戦線異状なし

 多くの国民が困窮の憂き目に遭っていますが、生活保護の水際戦線は異常なし! 突然の解雇、家賃もう払えない…2日で5000件超の生活相談。緊急事態でも生活保護妨げる“水際作戦“続く実態も(BuzzFeed Japan)という報道がされました。

 報道によれば「いのちとくらしを守る なんでも電話相談会実行委員会」に寄せられた相談件数5000件。しかしこれは「全体の1.6%に過ぎない」のだそうで、つながらなかった発信は2日間で42万件を超えるそうです。

 しかし行政も国家も、国民の生活や命はお構いなし。生活保護の水際戦線異状なし! なのであります。

生活保護たたきをしていたのが、他人事じゃなくなってきた

 ネットでは生活保護たたきが、横行していました。たたけた理由は「自分には関係ない、自分が生活保護になるはずがない」と思っていたからでしょう。

 しかし現在、コロナ禍で生活の困窮は他人事ではなくなってきました。いつ自分が困窮状態に、転落してもおかしくありません。生活保護たたきをしていた人たちに、少しくらい「ああ、悪いことしたなぁ」と省みてほしいと思うのは、筆者のわがままでしょうか。

おわりに 生存権と最低限文化的な生活とは

 国家が国民の生存権や生活を保障できないなら……とまではいいません。しかし「国民を助けようとしない国家」など、そもそも国家としての体をなしていません。生活保護の水際作戦とは、その最たるもののひとつです。

 先日、官民挙げてのパチンコ店いじめの構造を取り上げました。

 この記事で「しかしやはりパチンコ店は……」とコメントをいただきましたので、以下のように返信しました。

別に反感は否定しないのですが、それと「コロナで潰れろ」は別問題かと思いますよ。
例えば国策としてパチンコを禁止にするなら、そこで失業する人たちの補償を国家が受け持つべきです。

日本の場合、少なくとも非論理的かつ陰湿、そして無責任です。
なぜならパチンコ店に対して……
1)融資を受けられる対象から外して
2)潰れても失業する人たちに補償もせず
3)休業要請だけを強化する

この陰湿な理不尽を見て見ぬふり、ないし賛同するのなら、論理的には「自分が同じことをされても反論できない」ことになります。
再度申し上げますが「パチンコへの反感」を、私は否定していません。「官民、特に自治体の陰湿ないじめ」を問題にしています。

コロナ禍でパチンコ店いじめ-官民一体となって職業差別する日本 – 高橋聡オフィシャルブログ バッカス

 生活保護の水際作戦も、本質的には同様の構造です。なぜなら……

  1. 緊縮財政とデフレで国民を貧困化しておいて
  2. 生活保護をできる限り受けさせないように申請を妨害し
  3. 「国の借金で大変だ、だから我慢しなさい」とだけ要請する

 ほら、一緒でしょ。日本中でこのような「非論理的で陰湿ないじめ」が起きています。この機会に「最低限文化的な生活と人権」について、ゆっくりと考えてみてくださいね。

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4 年 前

生活保護の申請者を追い返すなんて、とんでもないことですよね。受給資格のある低所得者を探して回るくらいでないといけません。

トップの画像、フリー素材でなければ、中崎町の高架か何かでしたっけ? 私は外食目的でしか殆ど外出しないため、梅田もそれほど詳しくないのですが……。

阿吽
4 年 前

パチンコの件に関しては、正直意味がわからないが本音ですね・・。

そりゃあ、保障もなければ休業はしないでしょう・・。

しかして、実際問題、外出自粛が続いている昨今、それでもパチンコ店にかよっている客の人達はもはやギャンブルの『依存症』とよんでしかるべきものがあるでしょうね・・。

この事を持ってしても、そして違法賭博という観点からも、パチンコはなくなるべきでしょう。(自衛隊という違憲組織が合法なくらいは、パチンコ店も違憲かと)(合憲にするなら憲法か法律を変えるべき?)

しかして、それを黙認してきたのは国です。

しかして今、それを凖違法的な存在として扱おう(保証なし)としている・・。

パチンコ店からすれば、過去からさかのぼり、今となって国の方針に振り回されたと言っても過言ではないでしょうね。

ではどうすべきだったか?

一番良いのは、最初から違法としておくことではありましたが・・、

それでもまあ・・、今更ながら、違法賭博としてパチンコ店全店の営業を停止するか・・・、

ほっとく(緊急事態宣言に何とかできる効力はない)。

(幸いにも、自粛で営業中止しなければ依存症の方が外出自粛の中でも打ちにきてくれるので営業的にはなんとかなる(?)かもしれませんし・・)
(パチンコ店でのコロナ感染があるかないにしても、どうしようもない)

こんなところですかね・・・?

現状、どうしようもないですね・・。

国もどうにかしたかったなら、違法賭博として摘発するぐらいしかないでしょうし・・。

それを結局、できないのなら、パチンコの営業問題はどうしようもないでしょうね。。。

(仮に摘発するならば、元従業員のなんらかの金銭的な保障はすべきでしょうね)

.
>生活保護たたきをしていたのが、他人事じゃなくなってきた

想像力が必要ですね・・。

あそこの生活困窮者は明日の私かもしれない。

あそこの失業者は明日の私かもしれない。

あそこのコロナ感染患者は明日の私かもしれない。

あそこの病死者は明日の私かもしれない。

想像力があれば、人は優しくなれるんじゃないかと思います。

今日の彼は、明日の私であるかもしれないんですから・・。

今日の彼が、明日の私ではないという保証はどこにもないのですから・・。

名前を出したらあれですけど・・、

志村けん氏も、岡江久美子氏も、まさか、まさかご自身がコロナで亡くなるとは夢にも思っていなかったでしょうね・・・。

まだ、はやいですよ・・。

黄昏のタロ
3 年 前

お邪魔致しますです。

 書き込んで意味があるのかわかんないんですけど、書き記しておきます。

 毒親(♀)は、発達障害+境界知能です。じーちゃんの遺産がなければ生活保護まっしぐらでしょう。

 失業保険はもらいそびれてるです。失業手当をもらって、「じーちゃんの介護しながら出来る仕事が見つからなかった」は方便の範囲かなと思うです。
 ハロワで一通り説明を聞いたのち。「紹介が有れば応募できるか?」に「介護ですぐには応募出来ない」って答えやがったです。

 自身で失業手当を断った事になるのですが、「断られた」って言い分です。何回も説明したんですが理解できませんでした。

 発達障害アルアルで、一方的に虐められるから働きたくないって思ってるです。よく話を聞いてると、クビにならないだけ有り難く思えって働き方をしてました。
 ハロワで、働きたくない本音が出ちゃったですね。

 毒親(♀)のタイプは、福祉の手助けや生活保護が必要になると思うです。生活保護を受けるとしても、窓口でやらかしそーな気がするです。

 発達障害は正当に評価されてないです。健常者と似たような扱いになってしまうことが多いです。嘘を吐いて生活保護申請に来た人と判断されてしまいそうです。