氷河期世代、非正規雇用、安倍政権の支持理由に見る生きづらさ

 「閉塞感がある」という報道、言説は、現代日本に跡を絶ちません。

 1970年代や80年代の日本には、頑張れば豊かになれるという希望がありました。しかし現代日本では「豊かになる」はもはや、目標になりません。なぜならその前段、「生き抜くこと」のハードルが上がっているからです。

 これが「閉塞感」の正体ではないでしょうか?

 さらに格差拡大は「上流国民」と「下流国民」の、認識共同体の断絶をもたらしています。

 現状を整理し、分析して「どうすればよいのか?」を探りたいと思います。

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「より豊かに」から「生きること」に目的意識が変化した現代日本

 今や「豊かに生きること」ではなく、「なんとか生きること」が主流になっています。

 若者の草食化は「この収入では、結婚できない」という諦めの現れです。育児には2千数百万円がかかるのだそうです。
 年金は、老後を保証してくれるものではなくなりました。

 理由は単純。均衡財政主義とデフレです。

 均衡財政主義は1990年代から、政治的に反映され始めました。
 1997年には、消費税増税という決定的な政策で、デフレに突入することになります。

 1997年をピークに、日本国民の平均所得は50万円以上も下落しました。国民貧困化時代、失われた20年の幕開けです。

 相対的貧困率も上昇しています。

 統計によれば、7人に1人が相対的貧困だということです。

若者が安倍政権を支持する、驚くべき理由

 世論調査によれば、安倍政権の支持率は18歳~39歳が、格段に高いのだそうです。朝日新聞の報道によれば、「僕が生きていけているので」若者に際立つ安倍政権支持 – 2019参議院選挙(参院選) [「安倍政権支持」の空気]:朝日新聞デジタルとのこと。

 39歳といえば、ちょうどデフレ突入と同時、ないしデフレ直後に社会に出た年代です。私も現在、39歳。社会に出たのは16歳からでしたので、1年だけは「デフレじゃない時期」があったような……なかったような。

 安倍政権を若者が支持する理由は、様々に語られます。
 支持率が高い年齢層を「デフレ世代」と定義してみると、安倍政権の支持が安定している理由が見えてきます。

 デフレ世代は「より豊かになること」ではなく、「生きること」を目標としています。豊かになれるビジョンなんて、持てという方が無理です。
 であれば……政権に対しても「現状維持」を望むのではないか? と解釈しうるでしょう。
※政策の話ではない。

 なぜなら「変えても、悪くなるかも知れない」のなら、現状維持がベターだからです。これが、安倍政権の支持率が安定している理由ではないでしょうか?

氷河期世代と「終わらない氷河期」

 氷河期世代とは、1990年代中盤~2000年代初頭に社会に出た人たちを指します。

 1997年からデフレが本格化し、2000年代初頭には非正規雇用の規制緩和も進みました。労働市場は買い手市場(雇用が少ない)状態でした。

 また、私の記憶ですとこの頃は「フリーターという生き方」が過剰に持ち上げられました。辛辣な解釈でいえば、政治とメディアに「ハメられた」とも考えられます。

 氷河期世代は大きな社会問題になるも、基本的には政治から救いの手はありませんでした。
 終わらない氷河期~今を生き抜く:生活保護のシングル女性、結婚もあきらめ 「何をしたいという希望もない」 – 毎日新聞というルポは、読んでいると悲しくなってきます。

 当時は正社員の雇用が少なく、やむなく非正規雇用で生計を立てる人もいました。

 なぜ氷河期世代の氷河期が終わらないのか? ノウハウと履歴の問題があります。

氷河期世代の奪われた「ノウハウとキャリア」

 非正規雇用は基本的に、正社員のスキルやノウハウと異なるかと思います。非正規雇用では、キャリアアップも難しいでしょう。

 正社員の入り口が狭い時代、非正規雇用で生計を立てたはいいが、ノウハウとキャリアはついてきません。
 求人を見れば多くは「35歳以下」との条件があります。

 35歳まではいくらでも、非正規雇用の仕事はあった。しかし35歳を超えるととたんに、仕事が見つからなくなるわけです。
 なぜなら、非正規雇用でやってきた35歳以上には、ノウハウもキャリアも蓄積が難しいのは、想像に難くありません。

 しかし上記のような状況は、失われた20年の中では「自己責任」として処理されます。端的にいえば「見捨てられる」のです。

非正規雇用の悲惨な現状を否認する上流国民

 国民の貧困化、格差の拡大、非正規雇用の悲惨な現状。これらは新聞で報道されても、最近はあまり反響がないように思います。

 2008年には「年越し派遣村」なるものが、大きな反響を呼びました。あれから11年。状況は深刻化、悪化し続けています。

 平成20年(2008年)の平均所得は430万円。平成30年(2018年)は名目こそ432万円でしたが、消費税増税などにより可処分所得は減少しています。

 実質賃金でいえば、平成24年(2012年)より5%ほど減少しているとのことです。

 ではなぜ、現在では非正規雇用や氷河期世代の苦境、格差拡大があまり反響がなくなったのか?
 非正規雇用の規制緩和をした2000年代初頭は、格差問題は大きく取り上げられる問題でした。

上流国民と下流国民という格差の「認識共同体」問題

 認識共同体とは「同じ価値観を持つグループ」と考えてもらえば結構です。

 例えば一流企業や外資系企業に務める、キャリアのある人達は「氷河期世代の苦境」を実感できません。当たり前でしょう。
 逆に氷河期世代や低所得層にとって、一流企業や外資系企業のサラリーマンが「どんなものなのか?」は想像もつかないでしょう。

 格差が広がれば、両端の層は「お互いの価値観が別物」になるわけです。価値観の断絶は、双方のコミュニケーションすら断絶します。
 EUやアメリカで起こっている、反グローバリズムや反知性主義の運動の根本原因は、ここにあります。

 日本も、EUやアメリカの悪しき部分に「追いついてきた」と評するべきでしょう。

経団連の無慈悲な通告

 経団連会長が終身雇用終了宣言 – あの話の気になるところ。によれば、経団連の会長は「終身雇用の終了宣言」をしたようです。

 日本式経営を完全に捨て去り、グローバルスタンダードとやらに合わせるということでしょう。
 このニュースは、非常にショッキングです。

 なぜなら……現在、雇用されている正社員すら「終身雇用の保証はない」と宣言したに等しいのです。
 下流2.0時代の到来か?一億総下流社会と消費税増税-経世済民ではなく経世殺民な時代でも書きましたが、誰もが「下流国民に転落するリスク」を背負う時代になったのです。

 企業や政治家にいわせれば、こうでしょう。
「低所得層に転落したのは、自己責任」

負の悪循環、デフレはいつ終わるのか?

 まさに今、日本国民は格差拡大によって「99%vs1%」になろうとしています。あと20年もデフレを続ければ、楽しい楽しいアメリカ型社会の到来です。
※まったくもって、楽しくないですが。

 ――アメリカはまだ、少なくともGDPは成長しています。2001年~現在で2倍程度です。日本はなんと! 1倍! EU諸国ですら、1.5倍程度になっています。

 下手をすれば、アメリカよりひどい状況すら予測できます。

 アメリカは過去30年間、ボトム9割の賃金がほぼ上がりませんでした。日本は……平均としてみてすら、「上がらない」ではなく「下落している」のです。
 アメリカよりひどい状況にはならない、なんて誰がいえますか?

 基本的に均衡財政主義、緊縮財政を続ける限り、日本のデフレは終わりません。下流国民と格差を、延々と再生産し続けるというわけ。
 いつデフレが終わるか? 均衡財政主義を捨て去ったときです。捨て去れるのか? 非常に困難でしょう。少なくとも、当面は。

 上記の予測に基づき、楽しい未来を予測してみましょう。
 デフレが続き、移民拡大で共同体は破壊され尽くす。国民の間には溝が出き、エリートと庶民で断絶がおきる。
 もちろん、エリートたちは「生活に困っていない」ので、均衡財政主義を支持する。

 均衡財政主義では各種インフラは、民営化するしかない。民営化は、無駄なコストを掛けないために、当然インフラ整備は疎かになる。
 とすれば、供給能力の土台であるインフラすら、最終的にはボロボロになる可能性があります。

 そうしてボロボロになった国土と供給能力を前に、エリートたちはこう叫ぶのです。
「ほら見ろ! インフレになったじゃないか!」

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2 Comments
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Muse
4 年 前

>なぜなら「変えても、悪くなるかも知れない」のなら、現状維持がベターだからです。これが、安倍政権の支持率が安定している理由ではないでしょうか?

仰る通りですが、彼らの根本的な間違いは、「今の政権が戦後史上のどの政権と比べても内政・外交ありとあらゆる局面で最低最悪であり、現状維持どころか、将来にわたって日本はさらなる最低最悪の状態が続き、ついには国民国家の崩壊(外国資本と一部の上級国民による寡頭支配)と下級国民にとっての”地上地獄社会”が訪れるであろう、ということがまるで分かっていないこと」です。世間に流布されている情報があまりにも偏っているために、所詮、分かれというのが現状では無理な話なのか?