経済の話になると必ず、財務省が出てきます。曰く「財務省は省庁最強」「緊縮財政を手動しているのは財務省」「官邸ではなく、財務省こそが本当の敵」etc……。本当でしょうか。
安倍政権は官邸に、人事権を集中させました。ところが消費税増税などを見ると、財務省の言いなりになっているというのもまた「本当かもしれない」と思わせる、説得力があります。
一般論としての組織論で考えてみましょう。
囁かれる「官邸も逆らえない財務省最強説」
藤井聡氏や三橋貴明氏などは、緊縮財政の責任は財務省にもあると説きます。また高橋洋一氏なども財務相を批判している1人です。
財務省が緊縮財政を主導しているのだそうです。
他にも安倍政権は財務省に逆らえない、ないし安倍政権は財務省と戦っているという言説も流れました。消費税増税は財務省の意向だとか、増税をすれば財務省内で出世できる。増税は財務省の省益であり省是であるetc……。
さらにはマスメディアにまで、財務省の意向は及ぶのだそうです。
……ちょっとまって。全部本当だとすると、強すぎじゃね? あれか? 日本は財務省独裁国家かなにかか?
- 緊縮財政は財務省のせい
- 消費税などの増税も財務省のせい
- 財務省の意向に官邸は逆らえない
- マスメディアも財務省に忖度する、財務省の意向を流す→緊縮財政
- 「国の借金が」説も、財務省のプロパガンダ
諸説あり、財務省の権力が強い理由
共通しているのは「財務省は緊縮財政であり、増税大好き」ということです。それが本当だとしましょう。ならばなぜ政策を実現し、官邸すら逆らえずに押し付けるだけの権力があるのか? という説明には諸説あります。
- 国税庁は財務省の実質的傘下であり、財務省に逆らうと税務調査が入る?
- 財務省は予算配分の裁量権を握っているから
- 内閣府や政治家への人的ネットワークがすごいから
上記3つが主に、財務省が強い理由としてあげられます。
マスメディアが財務省に逆らえない理由としては「税務調査で嫌がらせをされるから」「財務省がペーパーで『ご説明』にくるから(人的ネットワーク)」などがいわれます。
しかしどの説明も「書いている人たちが、感じたこと」以外の、確固たる根拠に薄いのではないでしょうか。なぜなら一方で、モリカケ問題のように「財務省が官邸に忖度した」との見解も存在するからです。
人事権と予算権、強いのはどちら?
組織論的には「人事権のあるところに予算権も付随する」というのが、一般的な解釈です。しかし政府では、どうでしょう。
安倍政権になってから、人事権は官邸に集中しました。一方で予算の裁量権は、財務省が強いようです。
人事権と予算権、強いのはどちらでしょう。結論からいえば人事権です。
- 予算権にはないピンポイントな性質(特定の役職や個人に働きかけられる)
- よほど人望のある人物以外は、組織的抵抗をされることが少ない
- より恐れられるのは、組織より各個人へと向く権力
「人間は自分が恐れているものよりも愛されているものを害することをためらわない。人間の根性は悪であるから、自分の都合で愛するものを容易に裏切る。しかし処罰する権力のあるものを恐れ、裏切らない」
人事権がもっとも強い権力なのは、歴史を見ても明らかです。官邸が財務省に逆らえないということは、考えづらいことです。むしろ官邸が強い、と解釈するほうが自然ではないでしょうか。
誰かが悪いことにすれば、自分が悪くないことになる
マスメディア批判についても、財務省批判と同じような風潮が見られます。
緊縮財政はマスメディアと財務省のプロパガンダで、国民は騙されている! という主張があります。これって「太平洋戦争は軍部の暴走で、国民は騙されただけ!」と何が違うのでしょう。
※日米開戦に当時の日本国民は、おおよそ肯定的でありむしろ支持していた(何故、日本国民はあの戦争を支持したのか? — 岩田 温 – アゴラ)
現在もそうでしょう。緊縮財政が日本のためにならないのは、明白です。しかし多くの日本国民は、緊縮財政が正しいと支持しています。日本国民の認識が「間違っていて、無知」なのです。
しかし国民は「自分たちは無謬である」という、根拠のない自負があります。よって「財務省やマスメディアのプロパガンダに、騙されていたのだ。自分たちは悪くない」と敵を作り上げ、批判する構図が存在するのではないでしょうか。
なお財務省を攻撃し、安倍政権をかばう傾向が強いのは「国民が安倍政権を、存続させてきたから」でしょう。いまさら「安倍政権が悪い!」といえば「存続させてきた国民もまた、責任を問われる」のです。
社長より強い経理部は存在しないように、官邸や政治家より強い財務省も存在しない
社長より権限のある経理部は、存在するでしょうか? 一般論的には存在しません。同じ論法と構造で、官邸や政治家より権限のある財務省、という話はフィクションなのではないでしょうか。
もし官邸より財務省が強いとすれば、歴代総理や大臣は「部下に舐められ、権限を奪われる程度の能力しか持たない人物」ばかりだったということになります。
流石にこれはない(笑)
筆者には日本の緊縮財政は、国民が望み、政治家が動き、官僚が実現しているだけに見えます。財務省が最強なのだとしたら……。その力を与えているのは、案外国民なのかもしれません。