度々「国の借金1114兆円! 国民1人あたり901万円!」と、ショッキングな報道が流れます。多くの人はこのような報道を見るたびに「大変だ! 節約しなきゃ……」と感じるのではないでしょうか。
人間は印象やイメージで、直感的に思考します。借金=悪いもの、というイメージが多くの人にあります。でも国の借金とは、本当に悪いものなのでしょうか?
国の借金とは何か? その本質とはどんなものか? わかりやすく解説します。この記事を読めば、初歩的なことは完全に理解できますよ。
国の借金とは何か?
「国の借金」とは正式名称ではありません。国の借金とは、国債のことです。国債発行残高が、いわゆる国の借金の元金部分です。
加えて「国の借金ではなく、政府の借金」という指摘も正当です。しかし本稿ではわかりやすくするため、国の借金で表記します。
国債発行残高とは、過去に発行した国債の累積です。まだ償還していない国債の合計額です。
国債は負債ですから、利子が発生します。利子や返済のための費用、そして国債発行残高すべてを含めて国債費と言います。
もう少し固く言えば「国債が発行されてから、償還するまでの費用全般」が国債費です。
国債は大きく2種類に分かれます。自国通貨建て国債(内債)と外貨建て国債(外債)です。
日本の国債はすべて円建てで発行されていますから、自国通貨建て国債です。アメリカ以外の国がドル建てで国債を発行した場合、外貨建て国債になります。
EUは自国通貨がありません。共通通貨のユーロで、国債が発行されます。ユーロ建て国債は外貨建て国債と性質がほぼ一緒です。
自国通貨建て国債と外貨建て国債の違いは、財政破綻(=デフォルト・債務不履行)する可能性があるかどうかです。
政府には通貨発行権があります。したがって国債の償還は、通貨を発行して行えます。よって自国通貨建て国債には、デフォルトの可能性はありません。
じつは自国通貨建て国債でも、固定相場制の場合は財政破綻することがあり得ます。実際の例としてロシアが、1990年代に自国通貨建て国債+固定相場制でデフォルトしました。
外貨建て国債の場合、通貨を発行して償還することができません。よってドル建て国債の場合、ドルが不足すればデフォルトする可能性があります。
借金が悪いのは、デフォルトに陥る可能性があるからです。デフォルトの可能性がある借金を「債務性がある」とすると、自国通貨建て国債に債務性はありません。
国の借金の機能とは
国の借金である国債発行には、しっかりとした機能があります。一般的に言われている機能と、現代貨幣理論(MMT)で提唱されている機能を紹介します。
税収で足りない分の政府支出をまかなう
足りない税収を補うために、国債発行はされている。一般的にはこのように理解されています。
上記の前提条件は、政府支出は税収でまかなわれている、ないしまかなうべきだという考え方です。
しかし近代資本主義国家は、赤字国債が増加するのが正常です。例えばイギリスの、国債発行残高の推移は以下です。
なぜ増えるのか? 資本主義とは、負債を拡大しながら経済成長していく経済形態だからです。したがってもっとも大きな主体である政府の負債は、増え続けるのが正常です。
よって政府支出は、税収だけではまかなえません。
加えて近年、現代貨幣理論(MMT)でスペンディングファーストという概念が提唱されました。政府支出の財源は税収ではない、という考え方です。
詳しくは以下の記事で解説しています。
政府・銀行間の信用創造によって民間にお金を供給する
国の借金、つまり国債発行のもっとも大きな役割は、民間にお金を供給することです。
信用創造理論では、負債と同時にお金が生まれます。誰かがお金を借りると、お金が生まれるのです。これは政府も一緒です。
よって国の借金とは、日本の通貨を生み出すことと同義です。
とても簡略化したモデルで説明しましょう。政府が国債を発行すると、日銀が国債を引き受けて代わりに国債発行額分のお金を政府に供給します。
つまり政府が借金すると、お金が生まれます。このお金を政府は支出、消費します。消費先は民間ですから、お金が民間に供給されます。
この事実は「誰かの負債=誰かの資産」という原則からも説明できます。国の借金である国債は、民間の資産です。国債が新規発行されると、その分、民間の通貨が増えて資産が増加します。
国債発行とは、民間にお金を供給することだったのです。
以下の記事で信用創造の詳しい解説をしています。
国債発行残高や国債費が大きいのはダメなこと?
国の借金が大きいと問題だ! とよく聞きます。あれ、本当でしょうか? じつはほぼ嘘です。
日本の場合、すべての国債は自国通貨建てです。円建てですから、いざとなれば政府が通貨発行権を行使して償還できます。したがって財政破綻(=デフォルト・債務不履行)はあり得ません。
上記は、どの経済学も認める事実です。
加えて自国通貨建て国債を、最終的に税金で返済する必要はありません。歴史的な事実として、自国通貨建て国債を返済しきった国家など存在しません。むしろ年々、国債が増加することが正常です。
マスメディアや報道が騒ぐのは、ショッキングに報じるとニュースが売れるからでしょう。
閑話休題。
「国債発行が行き過ぎると、インフレになる。だからプライマリーバランスが大事だ」と言う経済学者もいます。
つまり現在はデフレなので、新規国債発行が少なすぎるのです。加えてデフレと過剰なインフレの間には、無数のバリエーションがあります。
過剰になる前に、調整したらいいだけです。
国の借金が膨れ上がる! と言われると、悪いことに聞こえます。しかし本当は、全く問題ありません。
国の借金についての言説・俗説
国の借金について、さまざまな俗説が囁かれています。コロナウィルスのデマと同じくらい、たちの悪い俗説が多いです。
俗説を紹介しつつ、事実関係について参照していきましょう。
国の借金が大きくて財政破綻する!
もっともひどい俗説は「国の借金が大きくて財政破綻する!」です。未だにメディアや報道で取り上げられ、多くの人が信じています。
今までの解説で見てきたとおり、自国通貨建て国債で財政破綻はあり得ません。この事実は、どの経済学も認めるところです。
国の借金が大きくなるとハイパーインフレになる
国の借金で財政破綻! という嘘が通じなくなって出てきたのが、国の借金が大きくなってハイパーインフレ! です。
概要はこうです。
国債発行に頼ると、民主主義では歯止めがきかなくなる。よってさらに国債発行を望まれる。国債発行が大きくなりすぎて、インフレが過剰になり通貨の信認が揺らぎ、最終的にハイパーインフレが起こる!
ところが我が国では、あの手この手で新規国債発行を抑制しています。消費増税もされました。つまり彼らが言うように「歯止めのきかない状態になっている」のではなく、むしろ逆で「歯止めがききすぎてデフレになった」のがここ20年間の話です。
「国の借金でハイパーインフレ」論がもし正しいとすれば、日本は民主主義ではないという結論になります(笑)
閑話休題。デフレとハイパーインフレの間には、無数の状態があります。一転してすぐに、ハイパーインフレになるわけではありません。段階をたどります。
よって途中で、歯止めをきかせればいいだけとなります。
民主主義+平時+自国通貨建て国債で、ハイパーインフレになった国家は存在しません。
国の借金という言い方は間違っている
「国の借金という言い方は間違っている!」との指摘は事実です。国債は政府の借金であって、国の借金ではありません。
報道では「国の借金が1114兆円!」と騒ぎますが、我が国のメディアは正確な言葉遣いすらできないようです。正確には政府の借金ですよね。
なぜなら国の借金は政府、企業、個人を含めた負債総額のことです。
余談ですが国の借金の残高はどれくらい? : 財務省によれば、マスメディアのみならず行政も正確な言葉遣いができないようです。
国債は国民からの借金だから大丈夫
「国債は国民から借りているだけ」という俗説があります。概要はこうです。
政府の国債を保有しているのは、民間の金融機関だ。民間の金融機関の預金は国民が預けている。その国民の預金が、国債の原資になっている。よって国民1人あたり○○万円!というのは間違いだ!
国民1人あたり901万円! という報道は確かに間違いです。こんなバカな報道をしているのは、日本だけです。
しかし上記の「国債の原資は国民の預金」というのも、明確に間違いです。もしこの説が正しいとすると、国民預金以上の国債発行はできないことになります。
事実は逆です。国債発行をするから、国民の預金が増えるのです。したがって国民の預金は、国債発行の原資ではありません。
このあたりは「お金は誰かが借金することで生まれる」という、信用創造を理解することで整理できるでしょう。
「国債の原資は国民の預金」論は、破綻しない論として一時的に流行しましたが、理論的には間違いです。
まとめ 国の借金とは何だったのだろうか
日本では1990年代から、財政破綻論が出てきました。それから30年……。未だに財政破綻する兆しはこれっぽっちもありません。長期金利はマイナス金利であり、国債が暴落する予兆すら見えません。
日本で財政破綻の心配をするくらいなら、隕石が落ちてくることを心配した方がまだ建設的です。なぜなら日本において、財政破綻の可能性はゼロだからです。
日本に財政問題は存在しません。国の借金はなんら、問題ではありません。
国の借金問題とは、そもそも問題が存在しないフィクションだったのです。
国の借金についてもっと知りたいなら、まずは藤井聡京大教授の以下の著作がおすすめです。データや事実などから議論しているのでわかりやすいと思います。