第2次世界大戦前、なぜ世界は近隣窮乏化政策に走ったのか? そしていま再び、新型コロナが世界を近隣窮乏化政策に走らせる可能性が高まっています。
現在は「コロナの世界恐慌」と表現して、過言ではありません。
近隣窮乏化政策とは何か? をわかりやすく解説しつつ、いまそこにある危機について議論してみましょう。
近隣窮乏化政策とは?
近隣窮乏化政策とはそもそも、何でしょうか? まずwikiから引用します。
近隣窮乏化政策(きんりんきゅうぼうかせいさく、英語: Beggar thy neighbour)とは経済政策のうち、貿易相手国に失業などの負担を押しつけることによって自国の経済回復と安定を図ろうとするものをいう。
近隣窮乏化政策 – Wikipedia
例えば相手国に不利な貿易協定を強要し、貿易で相手国から富を収奪することも近隣窮乏化政策です。不平等条約と評された日米和親条約、日英修好通商条約などは、わかりやすい近隣窮乏化政策でした。
他に通貨安競争も、近隣窮乏化政策の要素を含みます。自国の通貨を安く切り下げることで、国際競争力を確保して他国に輸出し、相手国の仕事を奪うからです。
近隣窮乏化政策の手段は、主に貿易協定と通貨安です。その他には懲罰的賠償金があります。こちらは後述します。
世界恐慌で近隣窮乏化政策が採られた理由
1929年の金融危機が、第2次世界大戦前の世界恐慌の始まりです。欧米を中心に失業率が上昇し、国民が貧困にあえぎ困窮しました。
国民が貧困にあえぎ困窮すると、政府や政治に対して不満がたまります。この不満を解消するためには、とにかく富や成果が必要です。
「政府はこんなにも、あなたたちのために努力しています! 頑張っています! ほら! こんなに素晴らしい成果を上げました!」
上記のように振る舞って、国民の不満をそらそうとします。では富はどうするか?
国内に富がないなら、他国から奪うしかないでしょう! というわけ。こうして世界恐慌で近隣窮乏化政策を、世界中が採ることになりました。
もっとも、他国から収奪できたのは強い国家のみです。
近隣窮乏化政策に走る各国の構造
近隣窮乏化政策に走る、各国の国内構造をもう少しわかりやすく見てみましょう。
- 何らかのショックで経済が打撃を受ける
- 国内の失業率が上昇し、貧困状態の国民が増大する
- 国民は貧困な状況を政府や政治の責任と見なし、不満をためる
- 政府は国民の不満をそらすために、他国から富を収奪する
- 他国からの富の収奪に当たり、愛国主義が叫ばれるケースが多い
上記が近隣窮乏化政策に、各国が走る構造と経緯です。「内政の失敗は外政で」とは、使い古された非常に有効な手段です。
近隣窮乏化政策と国際政治の力学
近隣窮乏化政策に各国が走ると、国際政治はどのように変化するでしょうか。わかりやすく表現すると「国際関係に遠心力が働く」です。
隣国などの利害関係が深い国家同士ほど、近隣窮乏化政策が採られる状況では関係が悪化します。第2次世界大戦のドイツとイギリスやフランス、日本とアメリカが好例です。
ちなみに日本とアメリカは、第1次世界大戦後まで友好国でした。「石油や鉄鋼の輸出を止められて、困るほどの取引量があった」と捉えると、かなり関係が深かったことが理解できます。
近隣窮乏化政策を採らざるを得ない状況は、国際関係を一気に険悪にします。
新型コロナで近隣窮乏化政策が再び採られる可能性
本論に入りましょう。新型コロナの蔓延で近隣窮乏化政策が、再び採られる可能性が高いです。それもかなり露骨に採られるでしょう。
すでに上記の報道の通り、中国に新型コロナで賠償を請求する動きが出ています。その金額なんと5500兆円?! しかもこの金額は、4月末時点の話です。新型コロナが長引けば、さらに金額は天文学的数字となるでしょう。
賠償金の理由は非常に簡単で、新型コロナを世界に拡散させたことへの賠償です。
通常、近隣窮乏化政策は貿易協定や通貨安競争で進められます。しかし第1次世界大戦に敗北したドイツにしたように、欧米が懲罰的賠償を中国に課して富を収奪しようとする構図です。
中国のGDPは円換算で1400兆円ほどです。GDPの約4倍もの賠償金を、中国が支払うはずがありません。
自明ですが、この懲罰的賠償を強行しようとすれば、戦争すらあり得ます。
帝国主義の時代は再来するか?
帝国の王国の違いはご存じですか? 王国は王を頂点とする、君主制の国。帝国はいくつもの国家を支配下におく国、という文脈で使用されます。
もう少し詳細に議論すると、やや異なります。しかし大雑把には、上記の文脈です。
帝国主義とは「皇帝(の地位の人)がいる国家」ではありません。どのような形態であれ、複数の他国を支配する国家が帝国主義と呼ばれます。
植民地帝国主義は、まさに1国が複数国家を支配する文脈で使用されます。
アメリカは米帝と称されることがあります。アメリカが覇権国家であり、帝国主義的だからです。日本を属国にしていますしね。
一方で中国も覇権国家であり、帝国主義です。チベットやウイグルを従属させています。
新型コロナの賠償金に、中国が素直に応じるはずがありません。帝国主義と帝国主義のぶつかり合いが、起きる可能性があります。
なぜなら欧米は、新型コロナで経済が停止しています。アメリカでは、1ヶ月で2200万人の失業者が出ました。欧州も相当、マズい状況です。
欧米が結託して中国から富を収奪しようとしても、何の不思議もない状況です。中国はどうするか? ロシアはどう動くか?
欧米も中国も、引くに引けない可能性があります。
国際情勢の予測については、別の機会に譲ります。しかし国力がものを言う弱肉強食、帝国主義の時代が再び訪れるかもしれません。
近隣窮乏化政策をわかりやすく解説 まとめ
第2次世界大戦前の1930年代、世界恐慌下で各国は近隣窮乏化政策に走りました。近隣窮乏化政策は、民主主義ほど採用しやすいものです。なぜか? 民主主義国家の政府は、主権者たる国民の不満を無視できないからです。
そしていま新型コロナの蔓延によって、再び近隣窮乏化政策が採られる土壌は整いました。欧米を中心にして、中国に懲罰的賠償を課す動きが加速しています。
すわ! 第三次世界大戦か?!
筆者は1年後に戦争が起こっていても、全く驚きません。
近隣窮乏化政策を採る欧米の動きに対して、中国がどのように対応するのかを、これから注視しておきましょう。
今回はできる限りわかりやすく、近隣窮乏化政策を解説しました。よろしければ、以下の記事もどうぞ。