経済の生産性向上と需要の関係性-インフレで経済成長する理由とは

生産性向上

 先日、働き方改革で長時間労働の是正が進まない理由とは-イギリスとの比較で検討 – 進撃の庶民を書きました。
 上記の記事の中で、生産性向上についても触れました。

 本稿は生産性向上にテーマを絞り、解説したいと思います。

 経済成長では必ず「生産性向上」というテーマが取り上げられます。現代貨幣理論(MMT)やケインズ経済学では、長らく生産性向上について明確な理論がなかったように思います。

 サプライサイド供給側経済学(主流派経済学)では、生産性向上は「とにかく市場競争」として語られますが、それに対抗する理論が存在していたか? 部分的にはオンデマンドサイド需要側(ケインズ経済学)でも語られていました。

 明確にオンデマンドサイドから、生産性の向上を定義し、解説します。

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生産性の意味とは

 wikiから引用します。

生産性(せいさんせい、Productivity)とは、経済学で生産活動に対する生産要素(労働・資本など)の寄与度、あるいは、資源から付加価値を産み出す際の効率の程度のことを指す。
一定の資源からどれだけ多くの付加価値を産み出せるかという測定法と、一定の付加価値をどれだけ少ない資源で産み出せるかという測定法がある。

 一般的に生産性とは、wikiにも書かれる通り以下になります。

  1. 100の資源から、200の付加価値を生み出す
  2. 200の付加価値を、100の資源で生み出す

 資源とは基本的に、かかるコストや労働と定義して良いでしょう。付加価値は売上です。
 1人で100万円の売上を、120万円にすれば生産性の向上となります。
 もしくは120万円の商品を1.2人で作っていたのを、1人で作れるようになるのも生産性の向上です。

生産性の向上の方法は3つ

  1. 労働時間あたりの人件費カットして生産性の向上
  2. 設備投資等による効率化や大規模化での生産性の向上
  3. 付加価値を高めて、売上を上げて生産性の向上

 簡単にいえば1.は人件費やかかるコストのカットでの効率化。2.は収穫逓増を見込んでの、生産の大規模化や設備投資。
 3.は「同じ商品でも高く売る」ことでの生産性向上と言えます。

 便宜上1.を奴隷型生産性向上、2.を投資型生産性向上、3.を付加価値型生産性向上としましょう。

 それぞれ、どのような場合に使用されるのでしょう。

奴隷型生産性向上

 奴隷型生産性向上は、主にデフレ下で行われます。デフレとは需要<供給の状態ですから、売上が上がりません。したがってコストカットに企業は走ります。
 売上が見込めないので、価格競争になるのです。
 つまり設備投資などもコストになり、控えます。よって人件費の削減という、奴隷型生産性向上になります。

投資型生産性向上

 インフレであれば投資型生産性向上が、主に行われます。インフレは需要>供給の状態ですから、売上が見通せます。したがって企業の投資意欲は高まり、設備投資等による生産性向上が活発になります。
 設備投資とは、一方において需要です。
 需要を増大させつつ、供給も「需要を追いかける形」で増大していきます。

付加価値型生産性向上

 付加価値型生産性向上は、インフレとイノベーションによって生まれます。イノベーションについては、後述します。

 インフレは需要>供給の状態ですから、需要に対して商品が足りません。したがって価格は上昇します。
 デフレの場合とインフレでは、同じ商品であっても付加価値が異なるのです。

 そして投資型生産性向上もインフレで起こりますから、2つの相乗効果で生産性は高まります。
 結論すれば、インフレという経済環境こそが生産性を向上させるのです。

イノベーションと経済環境の関係性

イノベーションと経済環境の関係性

 イノベーションとは、投資と研究開発のスパンによって生まれます。

 研究開発とは、100を研究して5も実用化できれば良いほうだそうです。また「短期スパンでの商品化」では、イノベーションというにふさわしいものは生まれず、長期スパンで見るべきものだそうです。

 つまりイノベーションには、以下が必要になります。

  1. 企業が研究開発投資へコストを向ける経済環境。つまりインフレ
  2. 企業が長期スパンで研究開発投資できる、短期主義からの脱却

 イノベーションが、付加価値を高めるのは論を待ちません。つまり生産性は、イノベーションで向上します。
 そのためには、短期主義からの脱却も必要ですが……少なくともインフレという経済環境も必要なのです。

 失われた20年といわれるデフレ期に、日本で大したイノベーションが起こっていない。これは事実です。デフレでは、イノベーションは起こりにくい。したがって生産性の向上も、起こりにくいのです。

下部構造と上部構造のキャパシティと国家の生産性

 土台の形で、建てる建築物は制限されます。古いPCをいくら最適化しても、新型のPCと同じことを同じ時間では出来ません。

 下部構造はインフラストラクチャーと呼ばれます。建築でいえば土台、PCでいえばスペックです。
 上部構造はスーパーストラクチャーと呼ばれます。建築でいえば建築物、PCでいえば出来る作業でしょうか。
 動画のエンコードを、MSDOS(Windows98以前のパソコン)でやろうとする人はいないでしょう(笑)

 下部構造が貧弱だと、出来ることも限られます。つまり「下部構造によって、生産性のキャパシティは制限される」といえます。

 国家でいえば、下部構造とは何でしょう? まさに下部構造=インフラストラクチャーであるように、インフラが国家の下部構造です。

 イギリスは1人あたりのGDPで、日本とほぼ同等です。
※イギリスのほうが、若干上です。
 そして男性の平均労働時間は、日本が9時間/日に比してイギリスは6時間/日です。
 イギリスの生産性は、日本の1.5倍ということになります。

 21世紀に入ってから、イギリスの債務残高は6倍。公共事業費は年々伸びて2倍になっています。
 一方で日本は債務残高1.08倍。公共事業費は……最盛期に比べて半減以下です。

 明らかに下部構造、つまりインフラストラクチャーによって「生産性の差が出た実例」ではないでしょうか。

格差がなぜ、経済成長を阻害するのか

 OECDによれば、格差拡大は経済成長を阻害すると発表されています。考えてみれば、簡単な理屈です。

 格差とは9割の低所得層と、1割の高所得層に分かれる現象です。
※99対1という、極端な場合すらあり得る。

 高所得者の消費性向は低い。年収300万円なら、殆どを消費で使うでしょう。500万円でもおおよそ使います。では2000万円なら?
 多分、半分くらいしか消費しないのではないでしょうか。
 消費性向でいえば前者がほぼ100%に対して、後者は50%です。

 500万円の消費性向100%が4人なら、消費(需要)も2000万円です。2000万円の1人、0円が3人で消費性向50%なら、消費(需要)は1000万円。
 なぜ格差が経済成長を阻害するか? 需要が少なくなるからです。ひいては、需要が少ない=生産性向上が果たせないデフレ圧力、というわけ。

生産性向上の諸条件のまとめ

 上述してきたことを、端的にまずまとめます。その後に、日本の国家的な生産性向上について述べていきましょう。

  1. 需要増加によるインフレが、同一商品でも付加価値を増加。生産性の向上を実現する
  2. インフレは企業の投資を促し、イノベーションによる生産性向上を起こしやすくする
  3. インフレは企業の設備投資を促進し、需要と供給の追いかけっことなって生産性が向上する
  4. 格差縮小は需要を増大させ、インフレ圧力による生産性向上を促進する
  5. 下部構造以上の生産性向上は不可能であり、国土への投資こそが生産性のキャパシティを増加させる

 これまで論じてきたことは、一言で表現可能です。
 「需要こそが、生産性を向上させる」です。

 デフレ下においては、投資なき生産性の向上。つまり奴隷型生産性向上が行われます。これは格差を拡大し、企業の設備投資を縮小させ、イノベーションを停滞させます。
 つまり――永続的に「貧困への競争」になるのです。

 失われた20年とは、まさに「奴隷型生産性向上」を志向した時代だったのです。
 「投資型生産性向上」「付加価値型生産性向上」へと転換ピボットせねばなりません。

あとがき 世界がなぜ、デフレを怖がったのか

 現代貨幣理論(MMT)のランダル・レイによれば、政府の赤字財政は「正常」であり、「黒字こそヤバい」のだそうです。
 なぜなら資本主義とは、負債を拡大しながら成長し続ける経済形態だからです。
※上述したイギリスもそうですし、アメリカは1900年から現在で債務残高3000倍! です。

 ベルサイユ条約で多額の賠償金を課せられ、ハイパーインフレになったドイツですが、第二次世界大戦前は「デフレ」だったという事実は、あまり知られていません。

 第二次世界大戦後、世界はデフレだけは避けてきました。デフレとは、資本主義の死なのです。経済的にいうのならば、第一次、第二次世界大戦は「資本主義の死から逃れるための、戦争」でした。

 E・H・カーの著作「危機の20年」に描かれた世界と、2008年以降の世界は酷似しています。
 マルクスやヘーゲルは言いました。
「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」

 我々は喜劇を止めることが出来るのか? オンデマンドサイドから生産性向上を論じました。微力ながら、喜劇と止める一助になればと祈念します。

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