MMT(現代貨幣理論)への批判的報道は、今日も跡を絶ちません。いくつかのMMT批判への反論を拙ブログで行っていますが、本日もMMT批判への反論となります。
田中秀臣教授といえば上武大学の教授であり、リフレ派の経済学者です。以下のような記事で、MMT批判をされているようです。
MMTは論理的に破綻…それを攻撃して消費増税強行に世論誘導する財務省は悪質 | ビジネスジャーナル
いくつかの記事内容を引用しつつ、解説することで「主流派経済学のおかしさ」を感じていただけたらと思います。
MMTの理論的基礎とは現実観察だ
だがMMTと、彼ら欧米の経済学者やリフレ派には違う点がある。ひとつは、MMTには理論的な基礎がはっきりしない点がある。いくつかの断片的な言い切りや拡張的な財政のスタンスのみが強調されていて、実際に日本でのその同調者たちを含めてMMT側から具体的な理論モデルが提起されていない。
理論的基礎がはっきりしない、と田中秀臣教授はいいますが、社会科学における基礎理論とは現実に根ざすべきです。
理論とモデルより画像を引用しますが、社会科学における理論とは以下のような位置づけになります。
理論とは「現実から導き出されるもの」ですので、「MMTには理論的な基礎がはっきりしない点がある」とは「主流派経済学の理論を使用していない」から、田中秀臣教授が理解できないだけでしょう。
MMTの基礎は現実であり、主流派経済学の理論はあまり使用しないので、当然です。
また理論モデルとは「現実→理論→理論モデル」となるわけです。この点に関しては後述するように、財政政策による機能的財政論的関与という「モデル」が存在します。
理論が現実に裏打ちされない主流派経済学とリフレ派の顛末
一方で田中秀臣教授が属するリフレ派は、現実に根ざした理論構築ができているのでしょうか?
これが非常に怪しいというより、明確に「できていない」としか申し上げられません。
リフレ派の主張は当初、「金融緩和でインフレになる」という外生的貨幣供給説に基づいたものでした。
では現実はどうでしょう? 日本は今でもデフレ、ないしデフレすれすれです。
理論モデルとは「このケースの場合、こうしたらよい」というものであり、リフレ派は2013年にそれを示したはずです。MMTには機能的財政論という理論モデルがありますが、リフレ派の金融緩和のみでのインフレという理論モデルは、すでに現実で間違っていると証明されています。
理論モデルがないのは「どちら」なのでしょう?
インフレのコントロールは税金の上げ下げだけではない
私はこのMMTの内容を最初に聞いたときに、各論では賛同できる点もあるが、むしろ全体をみると支離滅裂な経済政策を生み出す可能性がある、と全面的に否定した。政府が税金の上げ下げによって物価をコントロールすることは、政府の機能からいって実践的に困難であるからだ。
さも「増税も減税も大変なんだ! だから間に合わない可能性もあるし、実践的に困難だ!」との見解ですが、あまりにも「……えーっと」といわざるを得ません。
第一に仮にインフレ率を4%限度とめどを立てていたとしたら、インフレ率が4%近くになったら、前年度の予算額で据え置けば、4%のまま推移するはずです。
この時点では減税も増税も必要ないのです!
また、税金の上げ下げだけでなく、MMTでは政府支出によってのインフレ、デフレのコントロールが出来るとしています。
政府支出たる予算額のコントロールは、それほどまでに難しいのでしょうか? 否です。
金融引き締め、ビルトインスタビライザーの解説
その他にも、様々なインフレ退治政策があります。
政府支出によるコントロールが代表的ですが、金融引き締めも加熱する(投資)需要に対して、有効に働くでしょう。
また所得税や法人税はもともと、ビルトインスタビライザー(税の自動調整機能)が含まれています。
景気が悪く、企業が赤字の場合は法人税はかかりません。景気が良くなれば、法人税を納税しなければならなくなる=自動で税が重くなる、という機能がビルトインスタビライザーです。
主流派経済学の教科書にも載っている基本ですが、主流派経済学では現実よりモデルを重視するため、このような現実的な機能は忘れているのでしょう。
ベネズエラのハイパーインフレの真因の”勘違い”
実際に「財政ファイナンス」を中心的な経済政策として採用した国では、インフレの抑制に失敗している。南米のベネズエラは、その典型である。政府は積極的な財政政策を行い、また同時に産業の規制を厳しくした。その結果、経済が落ち込み、また積極的財政をする上での財源不足が起きてしまう。そこでベネズエラ政府は「財政ファイナンス」を始めた。結果として起きたことは、300万%に近い物価上昇である。MMTの危険性のひとつの実例だろう。
田中秀臣教授は財政ファイナンスをして、ハイパーインフレになった例としてベネズエラをあげます。
これは経済学者として、はずべき「失敗」といえます。
日本では報道されない南米ベネズエラの惨状、100万%超えのインフレで国民150万人が脱出へ=高島康司 | ページ 2 / 5 | マネーボイスによれば、こうです。
- 2007年の石油高止まりのときに、社会福祉を充実させた(外貨)
- 国内主要産業の国有化、農作物の固定価格化に踏み切る
- 石油による外貨メインの経済は、石油価格下落とともに苦しくなる
- 価格統制を行うも、農家や企業が撤退し供給力が毀損される
- さらに追い打ちをかけて、原油産出量(というか加工)ができなくなった
端的にまとめれば、ベネズエラの経済は石油による外貨獲得が、ベネズエラ通貨ボリバルの価値を支えていたのです。
参照:外貨不足のベネズエラ インフレ率100万%に 年内、IMF予測 :日本経済新聞
また急進的に主要企業の国有化を進め、価格統制なども含めて利益に無頓着であったため、企業や農家などは利益が出ずに撤退し、供給能力が毀損しました。
MMTでは「インフレ率のめどを設けて、それを超えるならインフレ抑制政策(デフレ圧力政策)をすると説きます。
すなわち金融引き締め、緊縮財政、増税などです。
ベネズエラ政府はいずれも、その真逆を行っているのでハイパーインフレになって「当たり前」です。
つまり田中秀臣教授は「MMTの理論を行わなかった国家のハイパーインフレ」を取り上げて、「MMTには危険性がある!!」と主張するわけです。
MMTでいっていない藁人形論法と、モデル依存
そのためMMTは、リフレ派などに比べて、財政政策に過度に依存することになる。ときには「財政支出を5000兆円にしても今は大丈夫」という極端な発言にもなるのは、この理論的な背景によるのだろう。ただしMMT側は、冒頭にも書いたが、特に日本の論者たちは理論モデルを提示していない。
理論モデルについては最初に、「機能的財政論という理論モデルがある」とお示ししているので、脇に置きましょう。
財政政策をやってこなかった結果が、失われた20年ということを、田中秀臣教授はお忘れなのでしょうか? 金融緩和に過度に依存するリレフ派の政策は、結局なにも生み出しませんでした。
リフレ派の理論モデルが”役立たず”だったことを、先に総括するべきではないのか? どこに欠陥があったのか? 学者ならばそれをこそ研究するべきでしょう。
自分たちを棚に上げて「財政支出を5000兆円にしても今は大丈夫」などという、MMTerが発言しないような話を、でっち上げるのはいかがなものか? と思います。
MMTer(現代貨幣理論の論者)ならこういうでしょう。
「需要が供給を追い抜かない限り、5000兆円政府支出しても大丈夫」
田中秀臣教授のMMT(現代貨幣理論)批判の総論
記事中ではさも、「自分はMMTを理解して批判している」という体ですが、あまり理解が深いようには見受けられません。
例えば「MMTは理論モデルを出していない!」としていますが、理論モデルとは「この場合はこうする」というモデルです。現実の政策への落とし込み、ともいえます。
その割に同じ記事内で、「財政ファイナンスに過度に頼ると、現実としてこうなる!」と批判しています。
この矛盾はつまり、MMTが理論モデルも提出している、ということにほかなりません。理論モデルとは主流派経済学のような、数式だけではないのです。
MMTの理論モデルの1つを、提出しておきましょう。
A:デフレの場合は財政ファイナンスと政府支出により、需要を創出する
B:インフレ率がめどに近くなってきたら、政府支出は据え置き
C:インフレ率がめどより高くなったら、政府支出を縮小したりインフレ抑制政策を行う
上記モデルの前提条件
※減税、増税ではなく政府支出によるコントロールが主要政策
※ビルトインスタビライザー機能がある税制が望ましい
※政府支出は全て、自国通貨建て国債とする
>リフレ派の金融緩和のみでのインフレという理論モデルは、すでに現実で間違っていると証明されています。
それに加えて、日銀がいまだに「百害あって一利なし」のマイナス金利政策をだらだらと続けていることに対して、メディアも世論も猛反発をしないというのも異常です。
>田中秀臣教授は財政ファイナンスをして、ハイパーインフレになった例としてベネズエラをあげます。
ベネズエラのハイパーインフレの原因を積極的財政出動のせいなどと短絡的に考えるとは、テレビに出てくるド素人のコメンテーターレベルの無知蒙昧さです。
>田中秀臣教授といえば上智大学の教授であり
いいえ、田中秀臣は上武大学のビジネス情報学部教授です。
上武大学でしたね(汗)修正しておきました(汗)
>インフレ率が4%近くになったら、前年度の予算額で据え置けば、
>4%のまま推移するはずです
先行する需要に追いつこう、対応しようと、供給が伸びますからね。それが正しい経済成長、通常経済になります。縮小する需要に合わせて供給を毎年棄損させている日本のデフレ状況が異常なわけです。前年度と同額の政府総支出に抑えると、非政府部門だけでインフレを克服してしまい、インフレ率は4%以下になるやもしれません。
まあ、いずれにせよ、「MMTでは、インフレになったら消費税を上げろと言っているに等しい」みたいな印象操作があるとしたら許せないですね。
おっしゃる通りで。
最近のMMT批判は本当、ジョークのようなものばかりで辟易とします。ワタミの渡邉美樹さんは経済の専門家じゃないのでしょうがないとしても、経済学者でこの記事ですから。