グーグルニュースでアベノミクスは「過去の失敗の集大成」、平成の終わりの“既知感”の正体 | DOL特別レポート | ダイヤモンド・オンラインという記事を見かけました。
出だしはこうです。
4月5日に発表された内閣府の「社会意識に関する世論調査」で、現在の生活に「満足している」という答えが7.4%、「やや満足している」が57.3%で、合計64.7%の人々が現在の生活に「満足」していると答えた。
とくに1980年代後半の「平成バブル」を全く知らない18~29歳は71.6%と高い。まれに見る高水準である。
他方で、ネット調査(マクロミル「2019年 新成人に関する調査」)では、若い世代では、日本の未来を「暗い」と思うが63%を占めた。
未来に期待がもてないとすれば、「今が一番よい」という感性が社会を支配するのは自然なことかもしれない。
「今だけ、金だけ、自分だけ」の気分がまん延した平成の初めに戻ったかのようだ。
なんだか良さそうな記事かもしれないと思ったので、内容を検討しようと思います。
内容を検討・論評することで反緊縮・積極財政派の主張がより明確になるかと思います。
金子勝教授の記事の概要
読み進めていくうちに、いくつかの違和感を持ちました。まず、記事の概要を箇条書きにします。
- 日銀が25兆円、年金基金も株を買って運用しているので、株価はそこそこ高い
- 金融円滑化法(中小企業等が返済負担の軽減を求めた際に、貸し付け条件の変更に務めることを義務づけた法律)でソンビ企業が増えている→不良債権処理
- 2.で産業構造の転換ができないため、世界の技術に遅れている
- 小泉政権では小さな政府政策が取られた
- 安倍政権では、拡張的な財政政策と金融緩和政策が取られた
- 政府の負債はうなぎのぼりだが、GDPは1997年から停滞したまま
- 労働所得なども減少している
- 成長戦略は掛け声だけ
- インフレターゲット論は破綻している
- 金融不安(地銀)がある
マーカー部分が主に違和感を感じた点です。
ゾンビ企業が悪いのか、需要がないのが悪いのか
どうも有識者というのは、不良債権処理をして企業を潰せば、筍のように新しい企業が生えてくると思っているようです。
おそらくシュンペーターの「創造的破壊」という言葉を、曲解しているせいでしょう。
創造的破壊の本能の意味は、スマホによってカメラやガラケー市場が縮小した、という現象を指します。
スマートフォンという技術革新(創造)によって、旧来の市場が破壊される様を「創造的破壊」といいます。
決して、破壊したら何かが創造されるはず、なんて意味ではありません。
したがって、日本企業に金子勝教授がいうように、ゾンビ企業が欧米に比べて多いとしても、――欧米より日本の技術が劣るとしても、それは不良債権処理をしたら解決する問題ではないのです。
むしろ需要を創出し、ソンビ企業が健全化し、多くの企業が研究開発投資に回せる資金を、売上から捻出できるようにしなければなりません。
安倍政権では、拡張的な財政政策と金融緩和政策が取られた?
金子勝教授は「日本の負債がうなぎのぼりだ! GDPは伸びない! だから抜本的改革が必要だ!」といいますが、本当にそうでしょうか?
むしろGDPが伸びない”程度”の、緊縮財政しかしてこなかったというのが正解です。
この点を誤認している人は非常に多いのです。
日本のGDPが毎年伸びるために、いくら政府支出が必要か? は、試算は可能ですが、基本的には誰にもわかりません。
よって、GDPが伸びるまで、デフレを脱却するまで財政出動しまくる、が正しい解です。
逆にGDPが伸びなかったのは、国債発行額が”足りなかった”からです。
デフレ脱却をすると、需要>供給というインフレになり、需要と供給の追いかけっこになります。つまり、民間の自律的成長が望めるのです。
こうしてGDPが伸びていけば、対GDP比での国債発行額も健全化します。
アベノミクスの失敗理由は明確に、緊縮財政にあったのです。
地銀の経営不安はどうなのだろう?
現在、地銀は経営が厳しいとはよく聞く話です。
生き残りのカギはここにある?全国地銀106行「収益力」ランキング(加谷 珪一) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)などでも、論じられております。
しかしこれ……よく読んでみると、なぜ地銀の経営が厳しいのか? 「返済能力のある、融資先がないから」としか読めません。
銀行の貸付は、融資先の返済能力に依存します。
記事によると預貸率(預金のうち何%が融資に回っているのか、という指標)も下がっているようです。
余談ですが、預貸率は2003年まで100%を上回っていました。預金総額<融資総額だったわけです。
この事例からも、「銀行の融資は、預金に依存しない」ということが読み取れます。
では何に依存するのか? 借り手の返済能力です。
閑話休題。
したがって、借り手の返済能力の低下が、地銀の経営不安を招いているとなります。
借り手の返済能力は何に依存するか? 所得や売上です。所得や売上は、需要に依存します。
やはりここでも、地銀の経営不安は、需要不足が原因であると解釈できます。
金子勝教授のアベノミクス批判記事の感想のまとめ
最初の出だしで「おっ?!」と思って読んでみたのですが、結局は主流派経済学の亜種的な記事でした。
金子勝教授の専門はマルクス経済学だそうです。
じつは共産主義と新自由主義は、真反対のイデオロギーと思われがちですが、共通した部分が大変、多いのです。
したがって金子勝教授の記事が、主流派経済学の亜種的になるのも無理のないことかもしれません。
安倍政権が積極財政と勘違いしている限り、アベノミクスの失敗原因にはたどり着けないのです。