民主主義と社会主義は両立するか? 先に結論すれば両立します。しかしこの結論へは少々ややこしい議論が必要です。
社会主義とは何か? から始め、民主主義を定義し、最後に社会主義と民主主義がどうして両立するのか解説します。
やや冗長になりますが、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
社会主義とは
社会主義を定義する前に、社会主義の誤解を解きましょう。その後、社会主義の定義を解説します。
社会主義の誤解
一般的に社会主義は共産主義と混同されます。ほとんど同じものと見なされることも。
あのマルクスですら、共産主義と社会主義の違いを明確に理解していませんでした。あるときは「社会主義!」、あるときは「共産主義!」と言葉を換えました。
社会主義は幅は広く、解釈も星の数ほどあります。
wikiによればこうです。
社会主義(しゃかいしゅぎ、(英: socialism)は、個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す思想、運動、体制[1]。
社会主義 – Wikipedia
この定義では、公益資本主義や修正資本主義も社会主義に分類できます。
公益資本主義や修正資本主義は、新自由主義やグローバリズムの行き過ぎを是正する経済イデオロギーだからです。
一般的な社会主義のイメージは「共産主義の前段階」です。実際に多くの記事がネット上でそう解説しています。
「社会主義は私有財産を禁じており、共産主義と何が違うのか理解しづらいが――共産主義の前段階である」といった説明です。
書いた人はあまり詳しくなかったのでしょう。こういった説明は誤解です。
しかし――マルクスですら理解してないから仕方ない!
社会主義を歴史的に定義づける
社会主義は産業革命と資本主義の台頭から生まれました。長時間労働など、劣悪な労働環境が産業革命で現出しました。
十数時間労働が当たり前。ブラック企業もビックリです。
当然、イギリス社会は疲弊します。
この“野放図な”資本主義への反発が、社会主義の始まりです。資本主義へのアンチテーゼとして社会主義は生まれました。
野放図な資本主義はレッセ・フェールと言います。
社会主義とはwikiの定義と同じく「個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す思想、運動、体制」と言えます。
要するに「野放図な資本主義へ反対し、弊害を是正する経済イデオロギー全般」が社会主義です。
社会主義と共産主義の違い
社会主義と共産主義はよく混同されます。
イギリス産業革命のとき、共産主義も社会主義も明確には使い分けられていませんでした。
その後、共産主義と社会主義に明確な違いが定義されます。
私有財産を認めるかどうかです。
私有財産とは、共産主義的に言えば生産手段です。工場や農場など生産手段の保有は、共産主義では認められません。
一方、社会主義は私有財産を認めます。
なお一般的な誤解として「資本主義vs社会主義」があります。しかし資本主義と社会主義は必ずしも対立しません。社会主義が生まれたのは「野放図な」資本主義、すなわちレッセ・フェールへの反発からです。
資本主義とは「通貨と中央銀行制度を持つ経済形態」です。社会主義であれ共産主義であれ、通貨と中央銀行があるなら資本主義に分類されます。
この点はよく誤解されます。気を付けてくださいね。
民主主義とは
民主主義もwikiから引用します。
民主主義(みんしゅしゅぎ、英: democracy、デモクラシー)または民主制(民主政)とは[1]人民が主権を持ち行使する政治[2]
民主主義 – Wikipedia
要するに「自分たちのことは自分たちで決める政治」が民主主義です。
民主主義は政治の一形態ですから、経済イデオロギーと対立構造にありません。ただし相性の悪い経済イデオロギーはあります。
例えば民主主義+新自由主義は相性が悪いです。ダニ・ロドリックによれば「民主主義・国家主権・グローバリズム」は、同時に2つまでしか成り立ちません。
よって新自由主義と民主主義は両立しがたいと言えます。
民主主義と社会主義は両立するか
本題。社会主義と民主主義は両立するでしょうか。
結論から言えば両立可能です。
行き過ぎた資本主義、つまりレッセ・フェールや新自由主義は民主主義を破壊します。その新自由主義にブレーキをかけるのが社会主義です。
したがって緩やかな社会主義と民主主義は、むしろ相性抜群です。
では共産主義はどうでしょうか?
この問いは非常に難解です。歴史を見て「共産主義と民主主義は両立しない!」と言うのは簡単です。
しかし共産主義国家の多くは、前提が民主主義ではありませんでした。封建制や専政から即、共産主義に移行しました。
つまり共産主義+専政となって当たり前。
そして民主主義国家が共産主義へ移行した例はありません。
私見を言えば、民主主義と共産主義は両立しづらいと思います。
新自由主義が経済極右とすれば、共産主義は経済極左です。両極端な経済イデオロギーは、大きな弊害をもたらします。したがって民主主義とは両立しないのでは? と考えます。
さらに言えば、新自由主義も共産主義も機械論・唯物論が根底にあります。両極端に見えて本質は同一なのです。
つまり新自由主義が民主主義と両立しづらいなら、共通点のある共産主義も同様ではないか? と考えます。
まとめ
民主主義や社会主義などのイデオロギーや社会形態の解説は、どうしても表現が冗長になります。なぜなら解釈の幅が広く、誤解を招かないように書くためです。
民主主義は主権を奪われない限り、原理的にはどの経済形態とも両立するはずです。共産主義との両立が可能かどうかの議論は、まだまだ多くの知見が必要ですが――。
本稿で社会主義に対するイメージが少しでも正確になれば幸いです。
社会主義とは何かをしっかりと学びたいなら、薬師院仁志氏の「社会主義の誤解を解く」がおすすめです。社会主義の歴史から思想まで網羅的に解説されており、非常に勉強になります。
本来の構造改革論とは?
https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/ab2a8b25c630f4ed9946599a16bb8e11
代替案のための弁証法的空間 Dialectical Space for Alternatives
>新自由主義が経済極右とすれば、共産主義は経済極左です。両極端な経済イデオロギーは、大きな弊害をもたらします。したがって民主主義とは両立しないのでは? と考えます。
共産主義の源流はマルクス原理主義で、新自由主義の源流は新古典派経済学の市場原理主義ですからね。マルクス主義が極端な方向に暴走すると、「資本主義はいずれ崩壊して共産主義に移行するから、恐慌になっても放置していい」という暴論に至ります。
もちろん穏健なマルクス経済学者なら、恐慌が起きる前から予防策を実施しようとするでしょう。そうしたマルクス経済学者の力石定一先生は、極端な右翼と最大限綱領主義派の両方を目の敵にして、「こういう人たちを両方片付けないと改革ができない」と考えていました。
ああなるほど、確かにマルクス主義ならそうなりますよね。