グローバリズムの表面的な意味合いだけなら、誰しもが知るところです。しかしグローバリズムの本質について語っている記事はことのほか少なく、筆者はあまり見かけたことがありません。
なぜ誰も教えようとしないのか。単に書くのが難しいから、というのもあります(笑)
できるだけわかりやすく「グローバリズムの本質とは何か」について解説します。
結論を先に言えば「グローバリズム=天下統一」と読み直すと、グローバリズムの本質がありありと見えてきます。
グローバリズムとは
グローバリズムとは日本語に翻訳すると「地球主義」です。地球を1つの共同体として捉え、国家を超えて世界の一体化を推し進めるイデオロギーがグローバリズムです。
関連用語であるグローバル化やグローバリゼーションは現象です。グローバリズムが目指す方向性であるとすれば、グローバル化やグローバリゼーションといった言葉は現在起きている事実を示します。
例えばインターネットによって通信がグローバル化しましたが、インターネットとグローバリズムというイデオロギーには関係がありませんよね。
このように「グローバル化したから、グローバリズムである」とは必ずしも言えません。
経済的グローバリズム
グローバリズムは経済的・軍事的・技術的に分けて考えるとわかりやすいです。
経済的グローバリズムとは、経済面においてグローバル化を推し進める考え方です。例えば新自由主義は経済的グローバリズムと言えます。
なぜなら世界の市場ルールを統一することで共通市場を作り出し、自由競争させようという経済イデオロギーだからです。
グローバリズム+新自由主義の具体例として、NAFTAやTPPなどの貿易協定が挙げられます。多国間の市場ルールを共通化するための協定です。
このように経済的グローバリズムでは現在のところ、グローバリズム+新自由主義がもっぱら採用されています。
しかし必ずしも新自由主義でなければならない、というわけではありません。例えば佐藤建志氏が指摘するように「グローバリズム+MMT」も成り立ちます。
軍事的グローバリズム
軍事的グローバリズムを端的に表現すれば、天下統一や世界征服です。天下統一や世界征服と聞くと、希有壮大であり得ない夢想のように聞こえますよね。
しかし実際のところそうでもありません。古くはチンギスハーンがヨーロッパに至る大帝国を築き上げました。
19世紀は七つの海を支配した大英帝国の時代でした。
1945年の第二次世界大戦が終わってすぐに米ソが対立して冷戦が起こりました。世界は東西真っ二つに分けられ、覇権を争い合ったのです。
ソ連が崩壊した後はアメリカが一強となり、刃向かう国家に軍事制裁を行いました。湾岸戦争やイラク戦争は記憶に新しいでしょう。
このように歴史をたどれば軍事的グローバリズムは脈々と繰り返されています。
技術的グローバリズム
イギリスが19世紀に覇権を握ったのは、産業革命の影響が大きいと言われています。イギリスで発生した産業革命は、イギリスの国力を瞬く間に増大させました。
電話の発達により19世紀末から20世紀初頭、どこにいても株の取引ができるようになりました。驚くべきグローバル化と言えるでしょう。
さらに20世紀末からインターネットの発達により、もはや通信は一瞬で世界中を駆け巡ります。
技術者や科学者たちがグローバリズムを抱いていたかは別にせよ、技術的グローバリズムと呼べるのではないかと思います。
20世紀のグローバリズム
先ほど概要を述べたグローバリズムを、20世紀と21世紀に分けて参照しましょう。
イギリスの産業革命
18世紀半ばから19世紀にかけて起こったイギリスの産業革命は、イギリスの国力飛躍的に増大させました。
技術的な優位は経済のみならず、軍事力にまで影響を及ぼします。もちろんこの技術的グローバル化の芽生え、つまりは近代化に対して反旗を翻した人々もいました。
代表的なのはラッダイト運動でしょう。ネッド・ラッドという指導者の下、機械によって職を奪われることを恐れた労働者たちが起こした機械打ち壊し運動です。
この反旗は燃え広がったものの、鎮圧されるのも時間の問題でした。イギリスの司法や政府が放置しておくはずもありません。
近代化と植民地帝国主義の台頭
混乱はあったものの産業革命によって、イギリスは飛躍的に国力を増大させました。この増大した国力は外側に噴出するように出口を求めました。
産業革命後にイギリスの植民地が激増していることからも、近代化は植民地帝国主義の引き金だったとわかります。
イギリスに対抗するようにスペイン・オランダ・フランスなども植民地を増やしていきます。端的に言えば「誰が天下統一するか」を競い合っていた時代と言えます。
第一次世界大戦と第二次世界大戦
第一次世界大戦の発端はオーストリアの皇太子暗殺事件です。どうして第一次世界大戦にまで結びついたのかと、疑問視される声も未だにあります。
しかしその背景に産業革命に端を発したグローバリズムと、覇権競争が存在していました。そう考えれば第一次世界大戦の勃発は不思議なことではありません。
加えて第一次世界大戦後も世界はグローバル化をやめませんでした。よってそれぞれの覇権を確立する形でブロック経済化し、第二次世界大戦が勃発します。
このようにグローバリズムとは最終的に、軍事的な衝突を生じることが多いのです。
21世紀のグローバリズム
21世紀のグローバリズムは20世紀と異なり、歴史的に例外な形で進んでいきます。
1970年代のオイルショックと新自由主義の台頭
1945年に第二次世界大戦が終結しましたが、すぐに米ソによる東西冷戦が勃発します。世界は共産主義陣営と資本主義陣営に分かれて、覇を競い合います。
1970年代にオイルショックが起こり、アメリカはスタグフレーションに見舞われます。今まで採用していたケインズ主義で対処できなかったため、新自由主義の台頭を許します。
こうして現在に至るグローバリズム+新自由主義の経済グローバリズムが始まりました。
1991年のソ連崩壊と西側の勝利
1991年にソ連が崩壊し、資本主義陣営は勝利します。この勝利はグローバリズム+新自由主義という経済グローバリズムをさらに勢いづかせます。
1990年代は中国の市場開放や共産主義国家の資本主義への転向など、さまざまな事件が起きます。
東側の盟主であったソ連が崩壊したことで、西側の盟主であるアメリカの時代が始まることになります。
アメリカ一強のグローバリズム黄金時代
東西冷戦の終結はアメリカ一強、グローバリズムの黄金自体の幕開けでした。世界中を見渡してもアメリカに対抗しうる国家は1つもありません。
パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)が世界に訪れたのです。
2000年から2008年はグローバリズムの黄金時代と言われます。アメリカの大量消費により世界経済は支えられ、アメリカの軍事によりパクス・アメリカーナが支えられました。
しかし今から思えば、ろうそくの最後の輝きがこの時代です。
アメリカの凋落とグローバリズムの衰退
2008年のリーマンショックとともに、グローバリズムの黄金時代は崩れ落ちます。欧米では失業率が跳ね上がり、日本でも年越し派遣村ができたことは記憶に新しいでしょう。
中国やアメリカは巨額の財政支出でなんとか経済を支えようとしました。
しかし世界経済はすぐに立ち直らず、長期停滞に突入します。中国の台頭とアメリカの凋落が決定的になった瞬間でした。
いち早く退場したイギリスとブレグジット
21世紀のグローバリズムを支えていたのはアメリカの覇権です。アメリカの覇権なくしてグローバリズムの維持は不可能です。
すでにそのことに多くの国家が気がついています。例えば中国はアメリカの凋落を、もっとも敏感に察知している国でしょう。
いち早く行動に移したのはイギリスでした。グローバリズムの維持が不可能と見るや、ブレグジットによって早々に欧州離脱を決定します。
当のアメリカ自身もトランプを選出し、グローバリズムの流れを拒否しました。
日本の平和主義・グローバリズム
一方で日本はどうでしょうか。未だにグローバリズムから抜け出そうという動きはありません。それどころか2014年と2018年に入管法を規制緩和し、ますますグローバリズムを推進しようとしています。
日本国憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」はあまりに有名です。
日本の平和主義とは基本的に、グローバリズムと非常に相性がいいのです。
憲法でグローバリズムと相性の良い平和主義を掲げる以上、日本は最後までグローバリズムにすがりつくことになるかもしれません。
21世紀のグローバリズムはアメリカナイズだった
19世紀、20世紀のグローバリズムがイギリスなどの植民地帝国主義であったように、21世紀のグローバリズムはアメリカ帝国主義、アメリカナイズでした。
グローバル化とは、アメリカのルール押し付けられることに他なりません。アメリカのルールを押し付けるためには、アメリカの覇権が揺らがない必要があります。
しかし現在、アメリカの覇権が揺らいでいるからこそポスト・グローバリゼーションが求められています。
グローバリズムの本質とは
これまで議論して十分にグローバリズムの本質について、理解いただけたかもしれません。最後にポイントとしてまとめておきます。
覇権国家のルール押し付けがグローバリズム
覇権国家のルール押し付けこそがグローバリズムの本質です。例えば植民地帝国主義では、植民地に宗主国が都合のいいルールを押し付けます。
21世紀のグローバリズムでは、アメリカが都合のいいルールを各国に押し付けていました。他にもEUではドイツがギリシャなどにルールを押し付けています。
中国はユーラシア大陸に、一帯一路戦略で新秩序をもたらそうとしているように見えます。
グローバリズムとは日本人が信じるような甘い世界ではなく、力と力の押し付け合いの結果です。
どのルールにするかの勢力争いがブロック化や東西冷戦
力と力による押し付け合い、すなわちパワーポリティクスこそがグローバリズムの本質でした。
とすれば必然的に、グローバリズムに至る過程で各勢力がブロック化して覇権争いが起きます。第二次世界大戦前のブロック経済、終戦後の東西冷戦、現在の米中貿易戦争がまさにグローバリズムのための覇権争いです。
グローバリズム=天下統一
グローバリズムとカタカナにしたり、もしくは地球主義と言ったりすれば聞こえはいいでしょう。しかしグローバリズムとはいわば天下統一です。
地球(天下)を1つの共同体にしようとするのがグローバリズムです。
「500年くらい乱世が続くんちゃうやろか」「3つに分かれて覇を競うんやないやろか」と考えた人は勘がいいです。実際に地政学の権威も「地域覇権を競う時代が来る」と予測しています。簡単に言えば3つか4つくらいに分かれて覇を競うということです。
アメリカの凋落とグローバリズムの終焉はもう、すぐそこまで来ています。
まとめ
グローバリズムとは何だろうか? と考えたときに、その本質をえぐり出した記事はことのほか少ないことに気がつきます。
――というか筆者の知る限りでは、ほとんど見かけません。
本稿のまとめは以下。
- 経済的・軍事的・技術的グローバリズムがある
- グローバリズムとは覇権国家によるルールの押し付け
- 覇権国家が複数あるとブロック化して覇を競い合う
- 21世紀のグローバリズムはアメリカナイズ
- 日本の平和主義・グローバリズムは危ういかもしれない
グローバリズムは終焉を迎えようとしています。ではその先はどうなるのか? 日本の誇る知性である中野剛志氏、柴山桂太氏による共著・対話集「グローバリズム その先の悲劇に備えよ」がおすすめです。
非常に読みやすいだけでなく、大局観を持ってこの先がどのようになっていくのかを理解できます。