教育に新自由主義を持ち込むととんでもないことになる! という問題について、わかりやすく解説します。
現状の日本の教育も低迷気味ですが、新自由主義を推し進めればさらに多くのデメリットが待ち受けています。
特にお子様のいる家庭は読んで損はないですよ。
日本の教育の現状
日本の教育の現状はあまり芳しいものではありません。
例えば世界の大学ランキングで、日本は低迷しています。東大が中国勢より下位になったという報道もありました。
低迷はおよそこの10年間続いています。
ではその東大はどのような状態かと言えば、金持ちじゃないと東大に入れないという傾向が強く見られます。
統計によれば東大の親の年収は900万円以上が6割で、逆に350万円未満の家庭は9%弱です。どちらも一般的な世帯別統計で、25%弱を占めるにもかかわらずです。
参照 東大生の親「年収950万円以上が半数超」経済格差の不条理
この統計事実から「親が金持ちなら東大に入れる可能性は高くなる」ことがわかります。
他にも2015年には文系学部の廃止・縮小が取り沙汰されました。それ以前から文系学部は弱体化しており、「理系は役に立つ・文系は役立たず」との通念が見え隠れします。
基礎学力の低下なども問題視されます。
ざっとピックアップしただけでも日本の教育は、相当に弱体化しています。そして弱体化の一因が新自由主義にあることは間違いありません。
新自由主義が教育で起こす問題やデメリット
新自由主義は教育にとって問題児であり、デメリットばかり引き起こします。4つのポイントに分けてわかりやすく解説します。
貧富の格差が教育に持ち込まれる
新自由主義は教育に市場競争を持ち込みます。市場競争とは簡潔に言えば「資本の大きなものが勝ち、小さなものが負ける弱肉強食」です。
したがって上述したように、東大生の親の6割が年収900万円以上です。逆に低年収の家庭は少ない。こういった状態がさらに起きやすくなります。
貧富の格差が受けられる教育にまで影響するのです。
突き詰めると貧しい家庭の子供は良い教育が受けられないまま社会に出て、低所得層として生きることになります。
逆に富裕層の家庭の子供は良い教育が受けられ、有利な条件で社会に出ることができます。
こうして格差の再生産が教育現場で起こります。
学校間での市場競争を強いられる
市場競争は生徒だけでなく、学校も巻き込みます。
後述しますがバウチャー制度によって学校間の市場競争が起こると、学校は「ウケる授業」で生き残ろうとします。いわゆる独自色を打ち出して生き残りを図ります。
市場競争によって勝つ学校と負ける学校が発生し、その格差は固定的になります。市場競争に敗れた学校に通う生徒に質の良い授業は提供されません。
教育の公平性が担保されないことは大きなデメリットです。
小さな政府と教育予算の縮小
もっとも根本的な問題は、新自由主義が小さな政府を目指すイデオロギーであることです。新自由主義は何事にも効率化と予算の縮小を求めます。
したがって教育も民営化と効率化を求められます。教育は国の礎と言われますが、その礎を民間任せにして国家が放り出す事態すらあり得ます。
実際に日本のGDPに占める教育費は、OECD諸国の中でも低い順位です。上記は公私を合算した教育費用です。
次に公的予算のみで比較すると、以下のグラフになります。
OECD諸国の平均を大きく下回り、なんとワースト2位です。
参照 我が国の教育水準と教育費(文科省)
日本はデフレなのに緊縮財政を貫き通すなど、もっとも新自由主義的な国家の1つです。その日本の教育予算が最底辺だというのは、何も不思議なことではありません。
新自由主義の教育政策「バウチャー制度」とは
新自由主義は教育政策として「バウチャー制度」を提唱しています。バウチャー制度とは「バウチャーという現金引換券」を交付して、保護者や子供が自由に学校を選べるようにする制度です。
学校側は集めたバウチャーの数だけ政府から運営費を渡されます。
バウチャーによって学校間に競争をもたらすのが、教育バウチャー制度の本質と言えます。
学校間での市場競争が起こる
学校間で市場競争が起きると、必然的に勝ち負けが決まります。自由競争とは弱肉強食です。したがって勝ち負けは固定的になります。
強い学校が勝ち続け、弱い学校は負け続けます。
「でもバウチャーで自由に学校を選べるんでしょ? だったら負けた学校に行かなければいいじゃない」と思うかもしれませんが、そう簡単な話ではありません。
地理的な選択の自由はない
良い学校に行けば良い教育を受けられますが、では良い学校が電車で2時間かかるとしたらどうしますか?
バウチャー制度は「自由に選べる」と言いますが、地理的な選択制限は逃れられない問題です。地方に住んでいる子供は選択肢も少ないでしょう。
さらに地方の学校は人口がそもそも少ないのです。都会の学校に勝てるわけがありませんよね。
したがって地方の子供は、都会の子供に比べて質の悪い教育を受けざるを得ません。
これでは地方創生どころか地方衰退の一途です。
「ウケる」授業に学校が力を入れる
バウチャー制度は地域間格差だけが問題ではありません。都会の学校でも市場競争が起こり、学校は独自色を出すために「ウケる」授業に力を入れて生徒を集めようとします。
ウケる授業とは職業訓練色の強い内容の授業です。学校を出れば企業の即戦力として働ける、そんな授業が求められます。
傾倒しすぎればますます、基礎学力の低下は深刻になるでしょう。
市場競争を持ち込んではいけない分野がある
市場競争を持ち込んではいけない聖域は確かに存在します。例えば教育に市場競争や新自由主義を持ち込めば、たちまち立ち枯れてしまいます。
他にも安全保障や医療も同様です。
例えば軍隊に市場競争を持ち込むと、軍隊は途端に解散の憂き目に遭います。なぜなら軍隊とは何一つとして生産していないからです。
医療に市場競争や新自由主義を持ち込んで、盲腸の治療が数百万円する国家がアメリカです。日本では幸いまだ持ち込まれていません。アメリカの惨状を見れば持ち込む気も起こらないでしょう。
このように市場競争や新自由主義を持ち込んではいけない分野は存在します。
改革! 民営化! 効率化! と浮かれる前に一旦立ち止まって、しっかりと「本当にそれでいいのか?」と考えなければなりません。
まとめ
- 日本の教育の現状は低迷している。その一因は新自由主義的な運営にある
- 教育に新自由主義を持ち込むと「格差の再生産」「予算の縮小」が起きる
- 教育バウチャー制度は地域格差を固定化して、地方衰退を促す最低の制度
- 新自由主義を持ち込んではいけない聖域が存在する
「新自由主義と教育」を検索したら、難しい記事しか出てきませんでした。
難しい記事を読んでも理解するのは大変。なんとかわかりやすい記事がないものか……と探しましたがなかったので書きました。
なおリサーチしている過程で見つけた面白そうな本を紹介します。
これは面白い! 久々に、高等教育に関する素晴らしい本に出会えました。どんな専門書より読みやすく、なおかつ内容も深いです。
新書というスタイルにも関わらず、ある程度体系的に記述されているし、最近の動向までちゃんと網羅されています。論理的な破綻も見当たりません。
著者の論旨にも概ね賛同します。「大学とは何か」など、同じ著者の本を他にも読んでみたくなりました。
ただ、唯一の欠点は文系云々というこのセンセーショナルなタイトルですね。マーケティングを考えた出版社の知恵なのでしょうが、内容はもっとずっと真面目ですし、アカデミックな批判にも耐えうるものです。