緊縮財政や積極財政という言葉の内容は理解できても、どこからどこまでが緊縮財政なのかの判断はなかなか難しいです。
現在の日本が緊縮財政なのか積極財政なのか、即答できる人は少ないかもしれません。
「多くの国債を発行してるから積極財政だ!」「いやいや、消費増税もしたし緊縮財政だ!」とさまざまな主張があります。
今回の記事では緊縮財政の意味や内容とともに、緊縮財政かどうかの判断基準についてもわかりやすく解説します。
財政政策の意味
財政政策とは、政府が歳出や歳入を通じて経済に影響を及ぼす政策のことです。たとえば、増税や減税などの歳入面、公共事業や社会保障費の増減の歳出面の政策です。
一方、中央銀行が行う政策は金融政策と呼ばれます。財政政策は金融政策と並ぶ経済政策です。
政府の歳入の縮小、ないし政府の歳出の拡大は需要を増加させ、景気拡大効果があります。逆に、政府の歳入の拡大、ないし政府の歳出の縮小は需要を減少させ、景気縮小効果をもたらします。
これらの働きを通じて、政府は景気をある程度コントロールできます。
緊縮財政かどうかの判断基準
政府の歳入の拡大、政府の歳出の縮小を行う財政政策を緊縮財政と呼びます。逆を積極財政と呼びます。
余談ですが、積極の反対語は消極です。緊縮財政ではなく消極財政が正しい言い方では? と思います。
それはさておき。
緊縮財政かどうかの判断基準は「政府の歳入の拡大」「政府の歳出の縮小」と言いました。何を基準に歳入の拡大や、歳出の縮小を判断すればいいのでしょうか?
判断基準はインフレ、デフレです。
インフレとは需要>供給の状態です。逆に、デフレとは需要<供給の状態です。
現在がデフレの状態だと需要が足りません。これは政府が緊縮財政を行っているからです。インフレのときは需要が足りており、加熱を防がなければなりません。
政府の積極財政の行き過ぎを防止する必要があります。
つまり、デフレとは緊縮財政の結果です。デフレが長引いている場合、政府は緊縮財政だと判断できます。
緊縮財政の具体例
緊縮財政は歳入を拡大し、歳出を縮小する財政政策です。具体的にはどのような政策が行われるのかまとめます。
消費増税などの増税
歳入を拡大する部分で、緊縮財政では増税が行われます。消費増税はその最たるものです。1997年に消費税が3%から5%に増税されました。
このショックにより日本は1998年からデフレに陥りました。緊縮財政が実行された結果、デフレになったのです。
2014年、2019年ともに消費増税が行われました。これらの消費増税のダメージは大きく、デフレから脱却できなかった原因の1つです。
構造改革による政府支出の削減
政府の歳出を減らすことも緊縮財政の一種です。構造改革などによる効率化・合理化は政府支出を削減します。古くは郵政民営化や国立大学の行政法人化です。
公務員の削減なども政府支出の削減になります。
その他、過去には公共事業の削減も行われました。公共事業悪玉論が叫ばれ、バッシングの結果として削減されたのです。
社会保障費の削減
社会保障費の削減も政府支出の削減であり緊縮財政です。年金や生活保護の削減、国民健康保険料の負担増などです。
社会保障費は年々、1兆円ずつ自然増です。これらを無理に削減しようとするのも緊縮財政の一種です。
緊縮財政のメリット・デメリット
緊縮財政は状況によってはメリットがあります。緊縮財政のメリット・デメリットについてわかりやすく箇条書きにします。
好景気・インフレ下で適切
- 好景気、景気が過熱気味なら緊縮財政は適切
- インフレの過熱を緊縮財政は冷ませる
- 緊縮財政をとることでバブルが防げる
緊縮財政も景気が過熱気味で、バブルになりそうなときにはメリットだらけです。景気を冷まし、行き過ぎたインフレやバブルを防ぐことができます。
インフレとは需要>供給の状態ですから、需要を削る緊縮財政が効果を発揮します。
不景気・デフレ下では不適切
- 不景気で緊縮財政は、さらに不景気を加速
- デフレを緊縮財政は深刻化させる
一方、不景気やデフレ下で緊縮財政は不適切です。デフレは需要<供給の状態ですから、さらに需要を削る緊縮財政は事態を深刻化させます。
緊縮財政が根強く採用される理由
日本はデフレ気味です。1998年からデフレに突入し、失われた20年と呼ばれました。ところが、日本で積極財政が行われたのは小渕内閣、麻生内閣だけです。それ以外では例外なく緊縮財政が行われてきました。
有名なのは小泉内閣や安倍内閣でしょう。小泉内閣は構造改革路線をひた走り、「国民は痛みに耐えて!」と緊縮財政を実施しました。
安倍内閣もじつは緊縮財政です。消費増税は3回ありましたが、そのうちの2回は安倍内閣で行われています。
どうして日本では緊縮財政が根強いのでしょうか。
1つは主流派経済学が均衡財政主義を採用しているからです。均衡財政主義とは、財政赤字を出さないで政府を運営しようとする経済イデオロギーです。
主流派経済学では小さな政府が望ましいとされ、そのためには均衡財政主義が主張されます。
また、均衡財政主義のためにプライマリーバランスを重視します。
2つめの理由は日本の世論です。
日本の世論は緊縮財政に迎合的で、積極財政に否定的です。世論の後押しによってすすめられた公共事業削減、公務員削減などを見ても世論は緊縮財政を歓迎しています。
これは節約、節制を旨とする国民性の影響もあるのだと思います。
世論が緊縮財政支持である以上、政治家も緊縮財政に傾きます。
3つめはマスメディアの影響です。「国債発行残高○○兆円!」「国の借金が!」「国民1人当たり○○万円」という記事は非常に書きやすく、インパクトがあります。
そのため、もはやマスメディアは枕詞のように「国の借金!」使います。
国民世論もマスメディアに影響を受けている部分は大きいでしょう。
こういった事情で日本では、緊縮財政が非常に支配的です。
まとめ
緊縮財政それ自体は善でも悪でもありません。インフレや景気が過熱したら緊縮財政はむしろ適切な処置です。
問題は現在がデフレ気味で、なおかつ緊縮財政が行われていることです。
明らかに不適切ですが、そこには経済学や世論、マスメディアの後押しがあります。こうした不幸が重なって日本は失われた20年、いや30年となりました。
デフレから完全に脱却するには積極財政が必要です。