社会主義と市場経済は水と油。昔から一般的に流布されている言説です。この言説に則れば、中国の社会主義市場経済はいつか瓦解し、一党独裁が終焉を迎えるとされます。
中国が市場開放し、社会主義市場経済に移行してから四半世紀が経ちます。しかし、一向に中国の一党独裁が崩れる気配はありません。
社会主義と市場経済は本当に水と油なのか? 結論は「NO」です。
また、中国の社会主義市場経済は本当に「社会主義と市場経済の混合」なのか? これも答えは「NO」です。
社会主義や市場経済の定義から、なぜ社会主義と市場経済が成り立つのかまで解説します。
社会主義とは
wikiから社会主義を引用すると「個人主義的な自由主義経済や資本主義の弊害に反対し、より平等で公正な社会を目指す思想、運動、体制」とあります。
完全に自由な市場経済とは、新自由主義の目指すところです。新自由主義が行き過ぎると格差拡大が起こり、貧富の差が広がります。
こうした弊害に反対するのが社会主義です。
資本主義を修正して運営しようとする修正資本主義や、公益に資するよう運営しようとする公益資本主義も社会主義に含まれます。
図のように自由経済と統制経済の極地が新自由主義、共産主義です。その中間をグラデーションするのが社会主義です。
社会主義には無数のバリエーションが存在します。
社会主義と共産主義の違いは、私有財産と呼ばれる生産設備の私有を認めるかどうかです。共産主義では私有財産を認めないため、土地や生産設備の所有権は国に帰します。
社会主義では私有財産を認めます。
共産主義は私有財産を認めずに資本主義を排除しようとします。資本主義については以下の記事で解説しています。
資本主義とは「中央銀行という近代貨幣制度を持った経済・国家体制」です。旧ソ連は共産主義として中央銀行を弱体化させ、近代貨幣を追放しようとしました。
純粋な共産主義を目指したのですが、この試みは失敗しました。
日本では共産主義と社会主義が混同されます。言葉の定義が曖昧なので仕方がないのですが、市場開放する前の中国は社会主義国ではなく共産主義国と呼ぶべきです。
私有財産を認めず、計画経済を実行してたからです。
混同されているので「市場経済は社会主義国(本当は共産主義と言いたい)では成り立たない」という言説が流布されます。
共産主義と社会主義の違いについては以下をご覧ください。
市場経済とは
市場経済とは、自由にものを売買できる市場を前提とした経済体制です。市場の需給メカニズムを通じて価格が調整されるので、政府による決定より効率的に配分が行われると考えられています。
市場経済の対義語は計画経済です。市場経済は計画経済より効率的に人的・物的資源を配分できます。
その一方、市場経済のみに経済を任せると格差の拡大、富の偏在などが発生します。
また、市場競争が激化すると非効率的と見なされるモラルや道徳、共同体、伝統、文化などが排除されます。
完全に自由な市場経済はどこにも存在していません。いつの時代でも市場経済には何らかの規制、ルールが設けられます。逆説的ですが規制やルールがあるから市場が成り立ちます。
したがって、「完全に自由な市場経済」「完全に統制された計画経済」と色分けするのはナンセンスです。市場経済も規制されており、ある程度の統制も必要です。
白から黒に変わるグラデーションのように、市場経済にも無数のバリエーションが存在するのです。
社会主義と市場経済はもともと両立する
じつは、社会主義はもともと市場経済を前提としています。
社会主義の定義は「行き過ぎた資本主義の修正」でした。換言すれば「市場経済に一定の規制をすること」が社会主義です。
規制が強すぎると計画経済となり、市場経済ではなくなります。
しかし、計画経済ではない市場経済のバリエーションはかなり広いです。
たとえば、第2次世界大戦後の西側諸国は統制的な経済を敷いていました。1970年代まで西側諸国は主に福祉国家化していきました。
福祉国家とは累進課税を強化し、政府による市場介入を強め、福祉増大のために市場経済を規制する動きです。
その中でも日本は「世界一成功した社会主義」とまで言われました。
このように、ある程度の規制をする社会主義的な市場経済も存在します。
中国の社会主義市場経済とは
「なるほど、社会主義と市場経済が両立する。それは理解した。しかし、中国の社会主義市場経済とは何なんだ? あれはまた別の何かなのだろうか?」
このような疑問が湧くのではないでしょうか。
中国は市場解放する前まで共産主義国家でした。そして現在、市場開放を行ってからは市場経済+社会主義に移行しようとしています。
もっとも、中国の経済はグローバル化しており新自由主義的な部分も目立ちます。格差がひどく市場経済の弊害が目につきます。
まったく社会主義に見えないどころか、むしろ新自由主義化しているように見えます。
その割に国営企業が多く、中国共産党の支配も及んでいます。
どうにもちぐはぐに見える状況は、「社会主義+市場経済」ではなく「一党独裁+市場経済」と考えればスッキリとします。
公式には「市場経済を通じて社会主義を目指す」ことが社会主義市場経済です。現在はその過渡期と言われています。
多くの人たちは、社会主義と市場経済は相容れないと考えました。彼らの言う社会主義とは共産主義のことです。中国は共産主義を捨てて、市場開放しました。
計画経済は捨てたものの、共産党独裁は捨て去りませんでした。
現在は一党独裁+市場経済という状態です。
2000年代にアメリカは、中国は市場経済を取り入れて民主化すると考えていました。自由な経済は自由な政治のもとでしか実現しないと考えたのです。
しかし、歴史を見れば市場経済+専制国家などいくらでもありました。
自由な経済は必ずしも、自由な政治を必要としません。
中国が現在も一党独裁+市場経済を続けているのは、自由な経済に自由な政治が必ずしも必要とされていない証左です。
市場経済と民主主義には何の関係もありませんでした。
中国の社会主義市場経済と言われている体制は、これからも強固に持続する可能性が高いでしょう。
まとめ
社会主義とは自由すぎる市場経済を修正し、ある程度の規制を入れようという運動です。社会主義は市場経済や資本主義を前提条件としています。
したがって、社会主義と市場経済は両立します。
日本では社会主義と共産主義が混同され語られます。「社会主義と市場経済が両立しない!」という言説は、本当は共産主義のことを指していました。
中国は社会主義市場経済と呼ばれる体制です。ことの経緯は「共産主義をやめて市場開放し、社会主義市場経済と呼ばれる体制に移行した」です。
現在ではどうにも形容しがたい経済体制です。一党独裁+市場経済と解釈するのがもっとも自然でしょう。
日本はこのまま、新自由主義的な市場経済を続けるのか。それとも、社会主義を取り入れて市場経済をある程度規制し、福祉国家などを目指すのか。
どんな未来がいいのか、考えてみてくださいね。