菅政権は最低賃金引き上げに言及しています。また、アメリカでも最低賃金が15ドルに引き上げられるとの報道もありました。
最低賃金を引き上げることに反対する人もいます。失業率のアップや中小企業の倒産が懸念されるからです。
最低賃金の初歩的なことから、最低賃金を上げるメリット・デメリットまでわかりやすく解説します。
最低賃金とは
最低賃金法に基づき、政府が賃金の下限を定めたものが最低賃金です。企業や雇用者は政府が定めた最低賃金を労働者に支払わなければなりません。
最低賃金には2種類あります。地域別最低賃金と特定最低賃金です。
地域別最低賃金は産業や職種にかかわりなく、都道府県ごとに決められた最低賃金です。例えば、東京は1013円ですが沖縄は792円と定められています。このように都道府県によって最低賃金は変わります。
特定最低賃金とは特定地域内の特定の産業に適用される最低賃金のことです。地域別最低賃金より高い最低賃金を基幹労働者に適用するために定められます。
特定最低賃金はその都道府県の主要産業により、適正な賃金相場を作ることを目的としています。
最低賃金を下回る賃金で雇用可能なケースもあります。最低賃金の減額の特例許可制度は、一般労働者より著しく労働能力の低い労働者に適用されます。最低賃金通りだと雇用機会がかえって狭められるとの理由です。
障害者の雇用が代表的な例です。
最低賃金の減額の特例許可制度は都道府県からの許可が必要です。
働き方改革と最低賃金
働き方改革では、年に3%の最低賃金を引き上げが明記されています。名目GDPなどに配慮しつつ、最終的に全国平均の最低賃金1000円を目指しています。
この目標以前は、年に約2%の引き上げが行われてきました。
これらの事実から「最低賃金を引き上げるかどうか」という議論が的外れだとわかります。すでに引き上げは行われているからです。
日本の最低賃金の現状
日本の最低賃金の現状はOECD諸国の中で13位、G7の中でワースト2位です。最下位のアメリカは最低賃金を15ドルまで引き上げると発表しました。
日本はG7でワースト1位となる予定です。
先進国の中で日本の最低賃金低めです。
沖縄など、最低賃金が800円を下回る都道府県では、フルタイムで働いても東京の生活保護をやや上回る程度の所得にしかなりません。
沖縄の最低賃金は792円で、月に160時間働いても12万6720円です。
東京都の生活保護は独身40歳の場合で13万円強です。
最低賃金の年収も非常に低いです。東京で200万円、全国平均では187万円、沖縄だと164万円です。これらはフルタイムで働いた場合です。
最低賃金は2003年~2018年までの15年間で32%上がっています。年間に約2%ずつ引き上げられた計算です。働き方改革では2%ずつだったのを3%に修正しました。
最低賃金の議論で必要なのは「最低賃金を上げるかどうか」ではなく、「どれだけ引き上げるか」です。
そもそも、日本の現状で「最低賃金を引き上げない」という選択肢はありません。このことをしっかり頭に入れておきましょう。
最低賃金引き上げのメリット・デメリット
最低賃金引き上げにはいくつかの議論があります。大きく分けると「引き上げによって消費が増加して景気がよくなる」と「引き上げによって中小企業が倒産して失業率が上がる」です。
この2つの意見を念頭に置いてメリット・デメリットを見比べてください。
メリット
メリットは3つあります。「格差是正」「需要の増加」「東京一極集中の解消」です。
格差の是正につながる
最低賃金のアップは格差の是正につながります。最低賃金で働いていた人たちの年収がアップするからです。
沖縄の最低賃金は下手をすれば東京の生活保護より少ないです。生活保護は「文化的で最低限の生活」のラインを示しています。生活保護より最低賃金で得られる収入が少ないということは、文化的で最低限の生活が最低賃金で送れないことを示しています。
2018年から段階的に生活保護が減額されています。やるべきは生活保護の減額ではなく、最低賃金の引き上げであることは自明でしょう。
消費が喚起され需要が増える
最低賃金が引き上げられれば低所得層の所得が増えます。低所得層ほど消費性向は高く、所得は消費に回されます。
消費性向とは所得に対する消費の割合です。年収200万円の人が200万円使えば消費性向は1です。1000万円の人が500万円消費すると0.5になります。
一般的に年収が低い人ほど貯蓄に回せず消費性向が高い傾向です。
最低賃金が引き上げられると需要が増え、景気に対してプラスの影響を及ぼします。
地域間格差是正と人口流出に歯止め
最低賃金の引き上げ地域間格差を是正する可能性があります。地方の最低賃金が上がれば人口流出の歯止めにもなるでしょう。
もちろん最低賃金の引き上げだけでなく、地域への補助や投資など政府からのサポートが必要です。
デメリット
デメリットは「企業の倒産」「失業者の増加」です。
人件費上昇に耐えきれない企業の倒産
最低賃金を引き上げれば、人件費の上昇に耐えきれない企業が倒産すると懸念されています。しかし、すでに年率2~3%程度の最低賃金引き上げは継続して起きています。
どの程度の引き上げが妥当かの議論は必要でしょう。しかし、仮に最低賃金引き上げを停止すれば倒産件数や失業率が改善するでしょうか? 甚だ疑わしいです。
また、最低賃金の引き上げも「年率数%程度」「一気に1500円に」など、引き上げ幅によって議論が大きく変わってきます。
どの程度の引き上げなのか、定義しつつ議論しましょう。
失業者の増加
失業者の増加についても同様です。
いきなり最低賃金を1500円に引き上げれば多くの混乱があるかもしれません。一方で、年率数%程度の引き上げでは大きな混乱は起きていません。
失業率の増加も企業の倒産も、極端な引き上げ以外で心配する必要はありません。
最低賃金引き上げ時で生産性は向上するのか
最低賃金を引き上げると生産性は向上します。そもそも生産性とはなんでしょうか?
生産性=アウトプット/インプット
生産性は上記の式で表されます。インプットは労働量など、アウトプットは付加価値です。付加価値は需要によって変動します。
最低賃金が引き上げられることで需要が増えます。増えた需要の分、付加価値は高くなります。付加価値の総合計はGDPです。
「最低賃金を引き上げたらGDPが減少した」なんてことが起きるでしょうか?
倒産や失業で需要は増えないのではないか? そう考える人もいますが――間違いです。
最低賃金で雇用している企業がすべてギリギリの経営なら、上記の心配は正しいでしょう。しかし、全企業がギリギリだとは考えられません。
ほとんどの企業は何らかのバッファがあるはずです。実際に年率2~3%程度の最低賃金引き上げに対応できているのですから。
もちろん、ギリギリの企業が対応できるように政府・地方自治体のサポートがあるとより良いでしょう。
まとめ
「最低賃金を引き上げると企業が倒産し、日本経済はとんでもないことになる」という俗説は、一定の人たちに信じられています。
しかし、日本の最低賃金は先進国の中でも低い部類です。日本の非正規雇用の割合は4割に達し、最低賃金が多くの人の生活を支えています。
非正規雇用の平均年収は175万円で、ギリギリ生活できるかどうかです。フルタイムで働いても200万円弱の収入しか得られません。
最低賃金を引き上げるための経済環境を整えることも必要でしょう。一刻も早く最低賃金を引き上げ、格差是正をすすめるべきだと思います。