格差社会と言ってもさまざまな格差が存在します。経済格差や医療格差、教育格差などです。その中でもとりわけ問題視されるのが経済格差です。
どうして格差が広がるのか。その原因や問題点について探っていきます。また、解決策や対策についても議論します。
今回の記事では巨視的な視点で、格差社会の全体像を俯瞰できるように解説します。
格差社会とは何か
格差の定義は「同類のものの間における、程度などの差や違い」です。差異や違いが大きく開いている社会が格差社会です。
この差異や違いは「特徴」「個性」ではなく待遇や境遇です。「同じ労働をしているのに所得が大きく違う」ことや「平等であるべき教育で差異が生じる」ことが、格差社会が問題視される原因です。
差異が生じる分野によって格差の種類も異なります。
格差の種類
今回の記事では主に経済・所得格差を扱いますが、それ以外にもさまざまな格差があります。その種類について押さえておきましょう。
経済格差や所得格差
経済格差や所得格差は同じく働いているのに大きく所得が違ったり、仕事の待遇が異なったりすることです。
所得格差は主に正規雇用と非正規雇用で問題になります。同じ仕事なのに大きく所得に差が出るからです。
他にもワーキングプア問題や貧困問題、母子家庭などさまざまな経済・所得格差が問題になります。経済格差や所得格差は年々、広がっていて深刻化しています。
地域格差
地域格差とは東京一極集中による弊害です。東京では当たり前に利用できるインフレや医療、施設、サービスなどが地方では受けられません。
地域によって受けられるサービスなどが異なるのが地域格差です。
特に近年、東京と地方の間で拡大が見られます。
教育格差
親の年収が高いと教育費がかけられますが、年収が低いと教育費がかけられません。こうして子供の教育環境に格差ができ、学歴にも影響します。
例えば、東大生の親の6割は年収900万円以上です。逆に、親の年収が350万円未満の東大生は9%弱しかいません。年収が学歴に大きく影響していることがわかります。
親の年収で教育環境が決まってしまうのが教育格差です。
医療格差
日本で医療格差は、地域格差の一種として存在します。都会では潤沢な医療サービスが受けられ、地方では受けられないという格差です。
もう1つは所得格差による医療サービスの格差です。例えばアメリカでは、医療が高額で低所得層は十分なサービスが受けられません。
インフラ格差
インフラ格差も地域格差の一種です。東京のように新幹線や高速道路が整備されている地域と、そうでない地方には大きな格差が存在します。
インフラはインフラストラクチャー(下部構造)とも言われるように、経済の土台です。インフラなしでは経済が発展しません。
インフラ格差は東京と地方の経済格差に結びついています。
絶対的貧困と相対的貧困
貧困には絶対的貧困と相対的貧困という基準があります。絶対的貧困は生活できないレベルの貧困を指します。世界では年々、絶対的貧困は減少しています。
一方、相対的貧困はその地域の多数より貧しいことを指します。所得の中央値の半分以下に満たない所得水準の人たちが相対的貧困と定義されます。
格差社会では主にこの相対的貧困率が問題になります。なお、日本の相対的貧困率は約16%で、6人に1人が相対的貧困に陥っています。これはG7で2番目に高い数値です。
格差社会を生み出す原因と問題点
さまざまな格差を見てきましたが、今回の記事では主に経済・所得格差を取り上げます。格差社会が生じる大きな原因は「野放図な資本主義」です。
野放図な資本主義
トマ・ピケティは著書「21世紀の資本」で「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という式を発表しました。この公式は過去200年分の統計データから得られたものです。
「r(資本収益率)>g(経済成長率)」を要約すれば「国全体が経済成長するより、企業や金持ちの儲けの方が大きい」です。
国全体が経済成長すると、労働者の所得が増えるはずです。しかし、金持ちの儲けが経済成長率以上であれば労働者の所得は増えず、格差は広がるばかりです。
この現象は実際に日本や欧米などで起きています。ボトム7割の所得が増えず、上位1割の所得が急激に伸びています。
奇しくも1980年代から規制緩和し、野放図な資本主義=新自由主義に世界は舵を切りました。その結果が現在の格差社会です。
「国や政府が経済を規制しないと格差が広がるばかり」だと、ピケティは統計から示しました。規制の少ない経済は格差を広げる作用があるのです。
つまり、野放図な資本主義=新自由主義が格差社会の大きな原因です。
富の再分配機能の低下
市場競争を重視する新自由主義では、富の再分配機能は軽視されます。例えば日本は累進課税である所得税を軽くし、逆累進性のある消費税を上げました。
高所得層の税金を軽くし、実質的に低所得層の税金を重くしたのです。
このように、富の再分配機能を低下させることで格差社会が深刻化します。
正規雇用と非正規雇用
2000年前後に日本は労働者派遣法を何度か改正し、非正規雇用を雇うインセンティブを企業に与えました。2000年代初頭から非正規雇用は増え始め、現在では労働者の4割が非正規雇用です。
正規雇用の賃金低下と非正規雇用の拡大は格差社会を一層、深刻にしました。平均所得は1997年をピークに数十万円下がり、家計を支えきれなくて非正規雇用や共働きが増加しました。
くわえて、正規雇用と非正規雇用の待遇の違いは大きな格差です。同じ労働にもかかわらず給与やボーナス、有給などの待遇が大きく違います。
非正規雇用が増えたのは市場競争を重視し、労働者派遣法を改正して規制緩和したからです。
市場競争の激化が格差を拡大させたのです。
教育格差と社会階層の固定化
格差社会が進むと教育格差が生まれます。親の年収によって教育環境が大きく変わります。低所得の家庭では教育環境が悪く、高学歴へのチャンスが失われます。こうして低所得の家庭の子供は再び、低所得に陥る可能性が高くなります。
教育格差は社会を階層化し、固定化します。
上述した東大の例の通り、親の年収が学歴に与える影響は大きいのです。
日本でも格差社会が広がっている
日本は格差が少ないイメージですがそんなことはありません。むしろ、先進国の中では格差が大きい方です。日本の格差社会について2つの指標から紹介します。
日本の所得格差
日本の所得格差はOECD平均を上回っておりワースト8位です。
ジニ係数は所得格差を表す指標です。0に近ければ格差が少なく、1に近ければ格差が大きいとされます。
日本のジニ係数は1999年には0.472でしたが、2017年に0.5594まで拡大しました。所得再分配後のジニ係数は1999年に比べてやや改善傾向です。
日本の所得再分配後のジニ係数は0.34ですが、先進国平均は0.297です。この数値を見れば、先進国としては格差が大きいと言えます。
相対的貧困率
日本の相対的貧困率は約16%です。これはG7の中で2番目に高い数値です。1位はアメリカで17.8%です。じつは、日本とアメリカの相対的貧困率は大きく変わりません。
16%という数字は6人に1人が貧困に陥っていると示しています。相対的貧困率もやはり先進国の中では高い水準です。相対的貧困率から見ても日本は格差社会と解釈できます。
また、子供の貧困率は13.9%であり、7人に1人の子供が貧困で苦しんでいます。
日本の貧困は見えにくいだけです。
格差社会を解決する対策
日本には厳然と格差社会が存在することがわかりました。格差社会を解決する対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
富の再分配機能の強化
格差社会を解決する対策の1つが、富の再分配機能の強化です。例えば、逆累進性の高い消費税の廃止です。
消費税は平等な税制と主張されることもあります。しかし、低所得層にとって消費税は、より厳しい税制です。
消費性向は年収が低い人ほど高い傾向になります。消費性向とは「所得に対してどれだけ消費するか」を表す指標です。
年収200万円の人は消費性向が高く、所得のほとんどを消費するとしましょう。そうすると、かかる消費税は年に20万円です。一方、年収1000万円で500万円しか消費しないとすると、消費税は50万円です。
それぞれ年収との比率にすると10%と5%になり、低所得層の負担が高くなります。
これが消費税の逆累進性が強いと言われる理由です。こういった格差を助長する税制を廃止の他にも、社会保障やセーフティーネットの充実が格差社会解消には必要です。
社会保障やセーフティーネットの充実
現在、社会保障で話題になっているのがベーシックインカムです。ベーシックインカムとは国民一律に毎月、定額を給付する仕組みです。ベーシックインカムはワーキングプアや貧困の根絶に有効です。
ベーシックインカムの他にJGP(Job Guarantee Program)も、一部で取り沙汰されています。JGPとは日本語で雇用保障プログラムと訳されます。
失業者に政府が最低賃金で雇用を保障するのがJGPです。
失業者が減少したり、ブラック企業が淘汰されたりする効果があります。
その他、生活保護の要件緩和など社会保障を充実させることは、格差社会解消に役立ちます。
非正規雇用の待遇改善
非正規雇用の縮小や正規雇用への転換、そして非正規雇用の待遇改善も格差社会解消に必要でしょう。
非正規雇用の問題点は「雇用が安定していない」「低所得」「スキルアップできない」の3つです。いつ雇い止めされるかわからず、所得も低めです。非正規雇用は責任のある仕事を任せてもらえず、スキルアップするチャンスが少ないです。
労働法を改正して待遇改善するなどの措置が求められます。
まとめ
格差社会が深刻になると社会から活力が失われます。低所得層は将来への希望を抱けず、代わりに諦観を抱くようになります。活力が失われた社会はゆっくりと衰退していくしかありません。
1980年代にアメリカやイギリスで新自由主義が採用され、1990年代から世界的な潮流になりました。日本も例外ではありません。
その結果、世界的に格差が拡大して活力が失われ始めました。
特に2008年のリーマンショック以降、経済学者は世界経済を長期停滞と呼びました。
格差縮小こそが社会に活力を取り戻し、経済成長への道を歩む方法です。