財政出動とは?メリット・デメリットや歴史、疑問を深掘り解説

 財政出動という言葉はよく耳にしますが、内容をしっかりと把握している人は少数でしょう。
 一般的なイメージだけで財政出動を捉えていませんか?

 内容をバッチリ把握してこそ賛否を明らかにできます。財政出動のさっと把握しておきたい部分から、深掘りした知識まで解説します。

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そもそも財政出動とは

 財政出動は「政府支出の拡大」や「積極財政」とも言い換えられます。財政出動とは政府の支出を増やして、景気や雇用を下支えする政策です。

 より詳細に内容を見ていきましょう。

財政出動の歴史

 財政出動は一般的に、経済学者であるジョン・メイナード・ケインズが提唱したとされます。ケインズは一般理論で財政出動の必要性を提唱しました。

 しかし、ケインズ以前からじつは財政出動は行われていました。ケインズが一般理論を出版したのは1936年ですが、初期の財政出動とされるニューディール政策は1933年から行われました。
 また、日本では高橋是清による財政出動が1931年から行われています。

 初期の財政出動はケインズの登場を待たずに行われましたが、戦後はケインズ理論が財政出動の理論的支柱となりました。

財政出動の具体的内容

 財政出動の具体的な内容は公共事業と減税です。中でも公共事業が財政出動のメインです。財政出動の目的は、不景気のときの景気の下支えや雇用の維持です。減税より公共事業の方が直接的に効果があります。

 最近ではオバマ政権が行ったグリーンニューディールが有名です。なぜか日本ではグリーンニューディールと報じられていますが、オバマ政権の財政出動は公共事業中心でした。

財政出動のメリット

 財政出動のメリットについてまとめます。

景気が下支えできる

 財政出動は何らかのショックで景気が後退したときに行われます。その目的は景気後退を防ぎ、経済を下支えすることです。

 景気を下支えすることで経済の収縮を防ぎ、景気悪化をさせない効果があります。加えて、力強い財政出動なら好景気に導くことも可能です。
 池田勇人内閣の国民所得倍増計画はその好例です。

雇用を維持できる

 財政出動は景気悪化に歯止めをかけ、雇用を維持する効果があります。公共事業として消費することで、政府の支出は誰かの所得になります。財政出動でお金を回して雇用を維持し、景気悪化を防げます。

デフレ突入を防げる

 財政出動はデフレへの転落も防げます。デフレは需要<供給の状態ですから、政府支出拡大による財政出動は効果的です。政府支出によって需要が増え、デフレの脱却も期待できます。

 日本が1998年からデフレに突入したのは消極財政(緊縮財政)だったからです。財政出動が何度も行われて効果がなかったと語られますが、デフレ以降、財政出動したのは小渕政権と麻生政権のごく短期間だけです。

財政出動のデメリット

 一般論としては財政出動にデメリットがあることになっています。しかし、後述するように自国通貨建て国債による財政出動+金融緩和にデメリットはほとんど存在しません。

 以下に紹介するデメリットは、あくまで一般論としてお読みください。

金利上昇の可能性

 財政出動するとクラウディングアウトが起こり、金利が上昇するとされていました。クラウディングアウトとは「100あるお金のうち90を政府が借りると、10しか民間に貸し出せない。したがって、資金が貴重になり金利が上昇する(はずだ)」という理論です。

 これは主流派経済学が信用創造を理解していなかったために唱えられました。
 本当のところは「政府が90のお金を借りて90のお金が生まれた。民間が50のお金を借りて合計で140のお金が生まれた」が正解です。
 お金とは「借りたら生まれる(信用創造)」からです。

 要約すると「クラウディングアウトはフィクションで、現実には起こらない。よって財政出動しても金利も上昇しない」です

 信用創造についての詳しい解説は以下でどうぞ。

赤字国債が増える

 財政赤字が増えることはデメリットと言われています。曰く「財政健全化が遠のく」「将来世代にツケを残す」「プライマリーバランス黒字化ができない」だそうです。

 財政出動をすると赤字国債が増えます。しかし、自国通貨建て国債の赤字国債が増えてもデメリットはありません

 政府は通貨発行権を持っています。自国通貨建て国債とは日本なら円で発行されています。したがって、政府はいつでも国債を返済することが可能であり、デフォルト(債務不履行)の可能性はゼロです。

 つまり、そもそも財政健全化の必要性はありません。将来世代にツケも残りません。プライマリーバランスの黒字化も意味がありません。
 よって、赤字国債が増えてもデメリットは皆無です。

インフレになる

 インフレになることはある意味、デメリットです。財政出動とはインフレ圧力をかけてデフレを脱却する政策です。もしインフレ時に財政出動をすればインフレが加速します。
 もしそこで財政出動を止めなければ過剰なインフレになるでしょう。

 インフレになった場合、財政出動を行う積極財政から消極財政(緊縮財政)への切り替えが必要です。

財政出動+金融緩和の意味と役割

 景気が悪くなると多くの国では「財政出動+金融緩和」のセットが実行されます。財政出動はこれまでの説明でなんとなくわかったけど、なぜ金融緩和がセットなの? と疑問に思う人も多いでしょう

 従来、金融緩和は「市場にお金お供給するため」とされてきました。安倍政権は異次元の金融緩和のみ景気対策として行いました。
 ところが、金融緩和には景気を下支えする力はありません。金融緩和に効果がなかったので、安倍政権ではデフレ脱却できませんでした。

 「市場にお金を供給して投資を増やす」という従来の効果は否定されました。金融緩和の本当の効果は「財政出動しても金利上昇させず、金利をコントロールできること」です。

 この金利操作は「イールドカーブコントロール」や「長短金利操作」と呼ばれます。日銀が買いオペをしたり、当座預金への付利調整をしたりすることで金利を誘導します。

日本はなぜ財政出動しないのか

 ここまで見てきたとおり、自国通貨建て国債での財政出動にデメリットはありません。では、なぜ日本は財政出動しないのでしょうか?

財政健全化・国の借金という強迫観念

 よく指摘される理由の1つは「国民や政治家が、財政健全化というドグマにとらわれているから」です

 報道では「国の借金が1000兆円! 国民1人当たり――」と報道されます。政治家は財政健全化目標を掲げ、国民は財政健全化や改革を掲げる政治家を当選させます。

 「国民が騙されているから財政出動できない」という理由は確かにあり得ます。しかし、騙している主体は誰なのかはっきりしません。
 ある人はマスメディアだと言い、ある人は大企業や富裕層だと言います。

 なんとなくみんなが「空気」で「財政健全化!」と言っている状況を、筆者は「緊縮財政・全体主義」と呼んでいます。

緊縮財政を支持し続ける日本国民

 「国民が騙されているから財政出動できない」のではなく、「国民が消極財政(緊縮財政)を本質的に支持している」との考え方もあります。

 例えば1998年のデフレ突入以降、日本で積極財政をした政権は小渕・麻生政権だけです。どちらも短命に終わりました。
 一方、小泉・安倍政権は長期政権であり緊縮財政を行いました。

 れいわ新選組が出てくるまで、日本で積極財政を唱える政党はありませんでした。れいわ新選組への支持率も1%未満です。
 積極財政や財政出動への需要が少ないことがわかります。

 このような状況を鑑みると「国民自身が消極財政(緊縮財政)を望んでいる」と考えるのは自然です。

「国債発行=戦争」と「平和主義」

 どうして国民は財政出動を望まず、消極財政(緊縮財政)を支持するのでしょうか?

 1つは空気の問題だと思います。
 世論調査では「政府にしてほしい政策」のトップに景気対策が入っています。ところが、多くの人が財政健全化に反対できず、むしろ賛成します。
 そういう空気としか言い様がありません。

 もう1つはもっと大きな空気です。日本では長年「戦争=絶対にダメ」という空気があります。戦争とは巨大な財政出動行為の一種です。したがって、無意識に日本人は財政出動に対して拒否感があるのかもしれません。

 筆者も戦争はダメだと思います。しかし、行き過ぎた平和主義もまた同様にダメだと考えます。このあたりの論考に関して、佐藤健志の「平和主義は貧困への道」が面白いです。

 本書によれば――借金をしてはダメだと書いてある法律、財政法4条は戦争への懸念から作られたのだそうです。この事実への指摘1つを取っても、上記の著書は読むに値するおすすめ本です。

まとめ

 見てきたとおり、財政出動に大きなデメリットはありません。歴史的にもニューディール政策や高橋是清財政でデメリットがないと証明されています。

 日本は長年、デフレです。ところが、財政出動を多くの国民が忌避してきました。巡り巡ってすでに失われた20年と呼ばれるまでになりました。

 どうして財政出動という「簡単なこと」ができないのか? 国民が望まないからに他なりません。日本において財政出動とは「単なる政策」以上に忌避されるもののようです。
 どうしてそうなったのか、という本格的な論考はまたの機会に譲ります。

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4 Comments
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Muse
3 年 前

先日のエントリー「なぜデフレ下で緊縮財政は続き、有識者は財務省のせいにするのか」に関連する内容なので、改めてコメントします。前回のコメントのやり取りの中で、ヤンさんは

>私が言ってるのは土台構造の話です。土台構造によって上部構造である国民意識も変容します。本人たちが意識する、しないにかかわらずです。

と回答されました。「土台と上部構造」というと、何やらマルクス主義の史的唯物論を思い出しますが、いまだにこの説明はピンときません。この抽象的で極めてわかりにくい説明をかみ砕いた内容が次の説明でしょうか?

>もう1つはもっと大きな空気です。日本では長年「戦争=絶対にダメ」という空気があります。戦争とは巨大な財政出動行為の一種です。したがって、無意識に日本人は財政出動に対して拒否感があるのかもしれません。

もっと踏み込んで言うと、「緊縮財政は戦後平和主義の実現を担保する」という土台構造が、「政府による積極的財政出動に否定的ないし懐疑的である」という国民意識の上部構造に影響を及ぼす具体的なプロセスないしメカニズムはどのように説明できますか?

それから、1960年代~80年代の戦後経済の黄金時期においては、企業も国民も、防衛費を除く積極財政(公共投資、インフラ投資、学技術投資等)にすべて賛同的だった事情はどのように説明できるのでしょうか?言い換えれば、この時期において、戦後日本国民を支配してきた?「緊縮財政全体主義」が表面化しなかったのはなぜか?

また、戦争遂行に必要だとされている軍事費の増加に反対である(本当は自国の軍事費を削って周辺諸国との軍事パランスが崩れるほうが戦争の危険は高まるが)からといって、国民経済の成長や国民生活の安定に欠かせないその他の財政出動にも十把一絡げに及び腰になるほど、日本国民は無分別で愚かな国民であるということでしょうか?

PS

前回の記事に対するコメントで当方が何回か質問を繰り返したのは、悪意をもって不毛な議論を仕掛けたわけではなく、ご回答の度に新たな疑問が生じたためです。それからヤンさんは「あと私、再三ですがネット上の議論は嫌いです。」というお考えですので、当方もコメント欄での質疑応答をこれ以上繰り返しません。よって当エントリーに関する当方のコメントは今回限りとします。ですので、(舌足らずではなく過不足のない的確な内容の)コメントによるご回答か、それが難しいようであれば、別エントリー記事での説明をお願いします。

ザン
3 年 前

>どうして財政出動という「簡単なこと」ができないのか?
こんな感じだと思ってます。

バブル崩壊時に社会の中心にいた世代が「インフレがバブルを呼ぶ→バブルは崩壊する→バブル(インフレ)ダメ絶対→積極財政=インフレ→なら緊縮財政だ!」って思考回路になって、子世代も緊縮思考を刷り込まれたからw
当時、経済危機の国を立て直すのにIMFが緊縮を指導してた事もあって「経済の建て直し=緊縮」が世界潮流としてお墨付きを与え拍車をかけたってのもあるかも・・・

単なる妄想ですww