
現代貨幣理論は英語でModern Monetary Theoryと書き、略してMMTと呼ばれます。そのMMTの主要な提唱者の1人とされるステファニー・ケルトンは「日本はMMTの成功例」と主張しました。
MMTが日本で話題になったのは2019年の3月くらいから。しかし、未だにMMTの理論構造が誤解されている部分があります。
「日本はMMTの成功例」と、なぜステファニー・ケルトンは言ったのか? その理由についてわかりやすく簡潔に解説します。
日本はMMTの成功例
ステファニー・ケルトンが言った「日本はMMTの成功例」には2つの解釈があります。
- 財政赤字が大きいのにデフォルトしてないから
- 財政赤字が大きいのにインフレになってないから
自国通貨建て国債ではデフォルトしないという事実は、MMT独自の主張ではありません。主流派の経済学者も認める単なる事実です。
よってステファニー・ケルトンが言った「日本はMMTの成功例」は、2.の「財政赤字が大きいのにインフレになってない」ことを指します。
この「財政赤字が大きいのにインフレではない」は2つの意味に解釈できます。1つは政府支出がまだまだ足りずにインフレになっていないという需要と供給面の意味。
もう1つはクラウディングアウトが起きていないという意味です。
ケルトンが言ったのは後者です。
つまり「(クラウディングアウトが起きていないから)日本はMMTの成功例」なのです。
クラウディングアウトとは
クラウディングアウトとは主流派経済学の理論です。
クラウディングアウト(英: crowding out)とは、行政府が資金需要をまかなうために大量の国債を発行すると、それによって市中の金利が上昇するため、民間の資金需要が抑制されること[1]。「クラウディングアウト」(crowding out)の字義は「押し出す」という意味。
クラウディングアウト – Wikipedia
上記がwikiの説明です。
わかりやすく言うと「100あるお金のうち90を政府が借りると、残りは10しかなくなる。したがってお金が貴重になり金利が上昇する。金利が上昇したことで、民間の資金需要が抑制されるとともにインフレが起きる」です。
クラウディングアウトの前提条件は「お金はプールのようなものに貯められており、量に上限がある」ことです。この貨幣観を商品貨幣論や外生的貨幣供給説と言います。
しかし実際は信用創造でお金は生まれます。つまり「政府が90のお金を借りることで90のお金が生まれ、民間が100借りると合計でお金は190になる。したがって長期金利は上がらず、民間の資金需要も抑制されない」のです。
この信用創造の貨幣観がMMTの採用する表券主義や信用貨幣論、内生的貨幣供給説と呼ばれるものです。
日本では財政赤字が積み重なっても長期金利が上がらず、クラウディングアウトが起きませんでした。もちろんインフレにもなっていません。これはMMTの貨幣観を証明しています。
だからこそステファニー・ケルトンは「日本はMMTの成功例」と主張したのです。
竹中平蔵がMMTを認めた
2019年の3月頃、MMTの成功例は日本だけでした。しかしコロナ禍の現在、状況は変わっています。世界中が財政出動して、かつ長期金利が低迷しているからです。
世界中が「MMTの成功例」になりつつあります。
実際に2020年11月27日放送の朝まで生テレビで、竹中平蔵氏は財政均衡論の間違いとMMTを認めました。竹中平蔵氏を皮切りに経済学者の多くも、クラウディングアウトが起きない事実を認めざるを得なくなるはずです。
竹中平蔵氏がMMTを認めた箇所は文字起こししています。詳しくは以下の記事をどうぞ。
まとめ
ステファニー・ケルトンの「日本はMMTの成功例」について、ちゃんと解説している記事はあまりありません。
それどころか見当違いの解説をしている記事も見かけます。
クラウディングアウトが起きるか起きないかは、非常に重要なポイントでした。そして日本では20年近く長期金利が低迷し、十分にMMTを証明しました。
クラウディングアウトは起きなかったのです。
信用創造と「なぜクラウディングアウトが起きないか」を理解すると、一気にMMTへの理解が進みます。信用創造については以下の記事と著作がおすすめですよ。
中野剛志氏の著作である「奇跡の経済教室」は、日本で一番信用創造をわかりやすく解説した本です。もし上記の記事で信用創造への理解がまだ足りないと思ったら、手に取ってみてください。