国の借金時計は多くの人に恐怖を与えます。「こんなことになっているのか! 大変だ! 国は借金を返すべきだ!」と考えさせる仕掛けが「国の借金時計」です。
しかし、そういった人たちはもともと「国の借金が悪いもの」と考えているから、そのように見えるだけ。
正しい国の借金の知識を身につければ国の借金時計は、全く別の見方が可能だと気がつきます。
ほとんどの人が知らない「国の借金時計の正しい見方・理解の仕方」を解説します。
「国の借金時計」とは
国の借金時計とは上記のように、国の借金を刻む時計を言います。
借金時計とは財政赤字時計とも呼ばれアメリカのニューヨーク、マンハッタンに設置されたのが初端です。
日本の借金時計の歴史は平成9年、1997年にまで遡ります。奇しくもデフレに突入する前年から、国の借金時計が始まりました。
国の借金時計を掲げるサイトは均衡財政主義を取っており「いつかこの借金は返済しなければならない」と考えています。
いわゆる国の借金と呼ばれるものは国債、借入金、短期証券の3つです。しかし借金時計サイトでは、普通国債をメモリにしていることが多いようです。
未だに根強い「国の借金時計」への恐怖
「国の借金時計」というキーワードは月に数百回、検索されています。ビッグキーワードというわけではありませんが、無視できない検索ボリュームです。
未だに日本国民は国の借金への恐怖が根強く、その恐怖を確認するために「国の借金時計」というビジュアルを見に行くのではないか? と筆者は判断しています。
1秒ごとに増え続けるメモリを見て、底知れない恐怖を感じる人は多いでしょう。
しかしそれは「借金時計の正しい見方・理解の仕方」を知らないからに他なりません。
「国の借金時計」を現代貨幣理論(MMT)のレンズで眺める
現代貨幣理論(Modern Monetary Theory)は略してMMTと呼ばれる、最新の経済理論です。MMTによれば国の借金とは「悪いものではない」とされます。
考え方の入り口はとても簡単でわかりやすいです。国の借金時計の正しい見方を解説します。ぜひ、しっかりと理解してマスターしましょう。
厳密には「国の借金」ではなく「政府の借金」
国に存在する経済主体は政府・企業・個人の3つです。したがって「国の借金」とは厳密に言えば「政府・企業・個人すべての負債」という意味になります。
国債や短期証券などのいわゆる国の借金は、厳密には「政府の借金」と表現するのが正しいです。
なお自国通貨で政府の借金がある場合、返済は通貨発行権を行使すれば一瞬です。国の借金時計のメモリはいつでも、ゼロに戻すことができる数字なのです。
誰かの赤字は誰かの黒字
「誰かの赤字」は絶対に「誰かの黒字」です。誰かが赤字になったのに、黒字に誰もならないなんてことはあり得ません。
なぜなら「誰かの負債=誰かの資産」であり「誰かの消費=誰かの所得」だからです。
「誰かの赤字=誰かの黒字」をしっかりと覚えておいてくださいね。
では国の借金という赤字の裏には、黒字の人がいるはずですよね?
いわゆる国の借金は「政府の借金」です。そして国内の経済主体は政府・企業・個人です。企業と個人は「民間」と一括りにすることもあります。
政府の借金が増えたら誰かの資産が増えて、誰かが黒字になります。その「誰か」は民間です。
「家計の預金1000兆円」と言われます。そこから国が借金しているのではありません。国が借金しているから家計の預金も増加するのです。
「誰かの赤字=誰かの黒字」の原則通りです。
お金は借金から生まれる
経済学には信用創造という言葉があります。信用創造とは「お金が生まれる構造」です。どのようにお金が生まれるかを解き明かしたのが信用創造。
信用創造理論によればお金は借金から生まれます。
お金とは我々にとって資産です。先ほど言ったように「誰かの負債=誰かの資産」ですから、お金という資産が生まれるには誰かが負債を背負わないといけません。
この負債は借用書、国債、地方債、社債などさまざまな用語で呼ばれます。
政府・企業・個人の中で無限に負債を背負えるのは政府だけです。なぜなら通貨発行権を有するからです。
政府の借金とは国内市場にお金を生み出し、循環させるために必要なものです。
表現を変えれば借金時計とは「政府が生み出すお金のメモリ」です。お金が生み出される過程と考えると借金時計が、急に良いものに見えてきませんか?
万年筆マネーと国の借金時計
ジェームズ・トービンというアメリカの経済学者は「万年筆マネー」という概念を生み出しました。万年筆マネーとは「銀行はお金を貸すときに、万年筆で数字を書くだけでお金を生み出せる」ことを言い表した言葉です。
銀行は手元に現金がなくても、万年筆と用紙があればお金を生み出せるという概念が万年筆マネー。
銀行や政府にとってお金とは単なるメモリに過ぎません。
奇しくも国の借金時計がメモリを刻むように、銀行や政府もそのメモリを書き換えるだけでお金を生み出しています。
まとめ
- 国の借金時計とはマンハッタンで始まった。日本では1997年、平成9年。デフレ突入時計だったんじゃないか?
- 国の借金への恐怖は未だに根強い
- 厳密には「国の借金」ではなく「政府の借金」が正しい表現
- お金は借金から生まれる
- MMTで見ると「国の借金時計」は「政府の信用創造過程の可視化」
国の借金時計を換言すれば「お金が生まれる瞬間のメモリ」でもあります。1秒ごとに刻まれるメモリもこう考えると、なんだかワクワクしてきますよね。
国の借金に対して多くの人が間違った知識を持っています。少しでも正しい知識を、皆さんも身の回りの人に広げてくださいね。
現在Twitterで話題になっている「財政赤字の神話」は、MMTの第一人者であるステファニー・ケルトンの著書です。
筆者も来月、購入して読む予定です。興味のある人は、話題に乗り遅れないうちに読んでおきましょう。