ベーシックインカムがインフレを起こす構造と効果を詳細に解説

 ベーシックインカムの議論にインフレ率は欠かせません。しかししっかりと議論されることはまれですし、議論されたとしても的外れなものが多いです。

 ベーシックインカムではどうしてインフレが起こるのか? どのような構造で発生するのか? 理解しておくことで議論に深みが出ますよ。

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ベーシックインカム=インフレではない構造

 一概にベーシックインカム=インフレではありません。ベーシックインカムの財源によってインフレになるかどうかが決定されます。

財源の種類

 財源の種類を簡単に区分すると「赤字国債とそれ以外」です。

社会保障一元化や消費増税

 ベーシックインカムでも社会保障一元化型はインフレになりません。なぜなら既存の社会保障予算を、ベーシックインカムに置き換えただけだからです。

 消費増税によって財源を確保し、ベーシックインカムを行うケースもインフレになりません。消費増税による歳入増加と、ベーシックインカムによる歳出増加がイコールだからです。
 つまり政府収支や赤字額が変わらないのでインフレにならないのです。

赤字国債

 赤字国債を財源としたベーシックインカムが、唯一インフレになるベーシックインカムです。なぜなら純粋な政府支出拡大を行うからです。

 ベーシックインカムとインフレを解説するにあたり、赤字国債を財源としたベーシックインカムを本稿では前提とします。

総額を抑える負の所得税

 負の所得税とは、所得によって給付される金額が変わるベーシックインカムです。高所得層はゼロないし少額、低所得層は満額といった具合。

 負の所得税型のベーシックインカムもインフレになりにくいです。負の所得税型はベーシックインカム予算の総額を抑制しやすく、その分だけインフレ圧力が弱まります。

 本稿では負の所得税型ベーシックインカムは脇に置きます。

総額が大きくなるユニバーサルベーシックインカム

 全国民に毎月給付するベーシックインカムを「ユニバーサルベーシックインカム」と言います。略してUBIと書くこともあります。

 ユニバーサルベーシックインカムを本稿では前提条件とします。

ベーシックインカムでインフレになる構造

 ベーシックインカムでインフレになる構造を、まずは理解しましょう。

財源は赤字国債

 財源は当然ながら赤字国債です。

 一般的な議論の7万円が全国民に毎月給付される場合、年間約100兆円の赤字国債が必要です。

需要>供給の図式

 日本のGDPは現在、約550兆円です。GDPとは「国民が生産した付加価値の総合計」であり、一方で「国民の需要の総合計」でもあります。

 インフレとは需要>供給の状態です。100兆円の赤字国債=需要増加によってインフレが引き起こされる見通しになります。

インフレ率を決める潜在GDP

 インフレが起こるとしても何パーセントなのか? インフレ率が大切です。インフレ率20%とか冗談じゃないですものね。

潜在GDPとは

 インフレ率を見通すためには、潜在GDPがいくらか知らないといけません。

 潜在GDPとは日本の工場や設備、労働力をフルに活用した場合に供給できる生産量のことです。潜在GDPが大きければ、赤字国債をたくさん発行してもインフレになりにくいです。

計測できない潜在GDP

 潜在GDPを「だいたいこれくらい」と見込むことはできても、計測はできません

 ある経済学者は日本の潜在GDPを1%程度と見積もります。違う経済学者は10%と見積もります。要するに誰にもわからないのです。

 したがって「潜在GDPがゼロだった場合、100兆円支出すると18%程度のインフレ率になる」くらいしか意味のある計算はできません。

 ときどき「潜在GDPは100兆円以上ある! だからベーシックインカムで100兆円支出しても大丈夫!」という暴論を見かけます。

 こういう議論は嘘に近いです。なぜなら「正確な潜在GDPは誰にもわからない」のですから。

 丁寧な議論をするなら「潜在GDPがゼロだとしても、○%までのインフレは許容できる。したがって○兆円までは確実に支出可能だ」と主張するべきです。

インフレ率は何パーセントまでが望ましい?

 インフレ率は何パーセントまで許容できるのでしょうか。

高度成長期のインフレ率は10%も

 日本の高度成長期は1955年~1973年です。この間で最も高いインフレ率は1973年の11%、次いで1970年の7.7%です。

 1970年代はオイルショックもありました。一概の上記の数字まで大丈夫とは言えませんが、一つの指標になるでしょう。

 高度成長期のインフレ率の資料をあたると、他の資料でも4~8%のインフレが続いたとあります。

中国のインフレ率も最盛期で4~5%

 中国のインフレ率も2000年代の最盛期、4~5%程度をマークしています。最も高いのは2008年の5.9%です。

 中国国内の経済が高インフレ率で苦しんだという話は聞きません。妥当なインフレ率の指標となり得るでしょう。

インフレ率6%に到達する政府支出額

 日本の高度成長期と中国のインフレ率を併せて考えると、高めに見積もって6%程度が経済が混乱しないインフレ率でしょう。

 潜在GDPはゼロだとすると、33兆円の支出拡大でインフレ率は6%に達します。

潜在GDPの可能性と経緯

 潜在GDPが67兆円以上ないと、総額100兆円のベーシックインカムを実施するのは危険だとわかりました。なぜならインフレ率が6%を軽く超えて、経済が混乱するからです。

 では潜在GDPはどれくらいあるのでしょう? 正確に見積もることは不可能ですが、考えてみましょう。

デフレで既存し続けた供給力

 デフレとは最終的に供給力を毀損します。需要が減少することで投資が減り、投資の減少は供給力の毀損につながります。

 20年以上もデフレを続けた日本は、相当供給力が毀損していると考えるべきでしょう。

 潜在GDPがいくらか? 正確な計算はできませんが「100兆円ある!」と大風呂敷を広げることは危険です。
 「そこまで大きくない」と想定しつつ支出拡大を漸進的に行うべきでしょう。

 結論を言います。いきなり単年度の支出拡大を100兆円とか、冗談じゃないですよって話

まとめ

  1. ベーシックインカム=インフレではない。財源によって変わる
  2. 赤字国債以外の財源ではインフレにならない
  3. インフレ率の上限は6%程度。それ以上だと経済が混乱する
  4. 潜在GDPによって支出できる金額が変化する
  5. 潜在GDPは誰にも計測できない
  6. いきなり100兆円の支出拡大は危険
  7. 支出拡大はインフレ率を見ながら漸進的に

 財源を赤字国債に求めるベーシックインカムで、いきなり100兆円の支出拡大は無茶です。おそらく10%以上のインフレになるはずです。

 せめて毎月3万円くらいから様子を見るべきでしょう。

 なお本稿の財政支出に対する乗数効果は「乗数効果2」「消費性向0.5」で計算しました。

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2 Comments
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Muse
3 年 前

>せめて毎月3万円くらいから様子を見るべきでしょう。

確かにユニバーサルベーシックインカムを実施するのであれば、潜在GDPが計測できない以上、毎月の支給金額の算定は慎重であるべきかと。ただ、高額所得者、とりわけストックオプションなどの株式配当金でぼろ儲けしている大企業の役員とかにも支給するのは甚だ疑問です。ベーシックインカムをやるとしたら、所得の再分配を実現する「負の所得税型」が個人的には一番妥当であろうと思います。

しかし!特例公債(いわゆる赤字国債)を財源としないベーシックインカム(社会保障一元化型や、消費税その他の税収で賄うタイプ)などは、本来行うべき社会保障の切り捨て、あるいは増税による家計への大打撃に直結するので、百害あって一利なし、断固反対です。