ベーシックインカムの財源確保3つの案-財源はどこから来るか

 ベーシックインカムの財源確保について、大まかに3つの案があります。「社会保障一元化」「消費増税などの増税」「現代貨幣理論(MMT)による赤字国債」です。

 財源案の特徴やメリット・デメリットをそれぞれ比較します。最後には「結局、財源って何? どこから来るの?」という根本的な部分を解説します。

 本稿でベーシックインカムの財源議論を、ほぼすべて知ることができます。

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ベーシックインカムの財源はどれくらい必要?

 まずベーシックインカムに、どれくらいの財源が必要か理解しておきましょう。

ユニバーサルベーシックインカム(UBI)

 ベーシックインカムは「負の所得税」「ユニバーサルベーシックインカム」の2種類に分かれます。

 負の所得税は、所得に応じて給付される金額が決まるタイプです。ユニバーサルベーシックインカムはUBIとも略されます。すべての国民に一律給付するタイプです。

 前者が制限付き、後者が制限なしのイメージです。今回は後者のユニバーサルベーシックインカムを議論します。

金額は7~10万円前後の議論が多い

 ユニバーサルベーシックインカムの金額は、7~10万円前後で議論されることが多いです。中には3万円など数万円程度という議論もあります。

 メインは7~10万円前後と覚えておいてください。

年間100兆円前後の財源が必要

 仮に8万円を毎月給付すると、1ヶ月に約9.6兆円の財源が必要です。年間で約115兆円です。
 10万円なら約145兆円、7万円なら約100兆の財源が必要となります。

ベーシックインカムの財源確保3つの方法

 ベーシックインカムの財源確保案は、大きく分けて3つあります。「社会保障の一元化」「消費増税などの増税」「現代貨幣理論(MMT)による赤字国債」です。

 それぞれの特徴やメリット・デメリットを解説していきます。

財源案①社会保障の一元化

 社会保障一元化は生活保護や年金を一元化し、ベーシックインカムとして給付します。年金予算は約55兆円、生活保護は約4兆円です。

 その他の社会保障費も合わせると約101兆円です。

 この約100兆円の予算を一元化し、ベーシックインカムに回すのが社会保障一元化案です。
 健康保険なども社会保障に含まれます。7万円程度の給付から、医療費を全額負担というケースも考えられます。

メリット

 社会保障一元化での財源確保は、増税しなくて済みます。予算の付け替えで対応できます。

 加えて既存の社会保障がすべてなくなるので、労働インセンティブは低下しません。月7万円のベーシックインカムだけでは、食べていけないからです。

 行政の効率化も達成できます。煩雑な社会保障の窓口などはすべて、ベーシックインカムの窓口に一元化できます。

  1. 増税などしなくて良い
  2. 予算の付け替えで対応できる
  3. 労働インセンティブは下落しない
  4. 行政の効率化

デメリット

 生活保護や年金、健康保険はすべて一元化されてなくなります。もし失業しても頼れるのは、月7万円のベーシックインカムだけです。失業保険も出ません。

 本当に社会保障を必要としている層に届かず、助けることができなくなります。一律7万円は一見して平等に見えます。しかし明らかに悪平等です。

  1. 生活保護や年金、健康保険、失業保険などがなくなる
  2. 悪平等な社会保障になる

財源案②消費税増税などの増税

 財源案の2つめは、消費増税などの増税による財源確保です。増税であれば社会保障を一元化せずにそのまま残し、かつベーシックインカムを給付することができます。

 しかし増税分を給付するのは「行って来い」では? との疑問符も付きます。「税金でとられて、それを給付されるだけ」と感じるかも

メリット

 増税を財源としてのベーシックインカムは、従来の社会保障制度を残せます。健康保険や年金、生活保護などです。
 生活保護について、ベーシックインカム+生活保護はもらいすぎではないか? との議論もあります。調整は必要でしょう。

 税金は高いけれども社会保障も手厚いという、北欧のような高負担高福祉社会が実現します。

 増税を財源としてベーシックインカムをすると、増税分がペイされるだけと感じるかも。しかし富の再分配になります

 一般的に高所得者ほど、消費額は大きいです。つまり消費税や所得税の納税額も、大きくなります。しかしベーシックインカムによるリターンは一律なので、低所得者ほど得することに

  1. 従来の社会保障を残せる
  2. 高負担高福祉で北欧のような国家に
  3. 富の再分配が期待できる

デメリット

 富の再分配にはなりますが、やはり増税分がペイされるだけです。富の再分配を目的とするなら、ベーシックインカム以外の方法もあります。

 高負担高福祉は、労働インセンティブが減少する可能性もあります。ただし労働インセンティブや労働意欲の低下がイコールで、生産性や経済成長率低下につながるかどうかは疑問です。
 北欧の経済成長率を見れば、上記の疑問は当然です。

 いくらベーシックインカムが支給されるとしても、消費増税で消費が低迷するかもしれません。仮に消費増税だけで約100兆円の財源を作るとなると、消費税50%以上が必要です。

 ――50%以上だと!? 筆者もびっくり(笑)

  • 増税分がペイされるだけ
  • 労働インセンティブが減少する可能性
  • 消費増税で個人消費低迷

財源案③MMTによる財源論

 現代貨幣理論(MMT)は2019年に日本上陸しました。L・ランダル・レイやステファニー・ケルトンなどが、第一人者として知られています。

 「自国通貨建て国債ならいくらでも発行できる」というのがMMTの主張です。したがってベーシックインカムの財源も、赤字国債で良いと考えます。

 MMTを詳しく知りたい人は、以下の記事をどうぞ。

メリット

 社会保障の一元化も増税も必要ありません。赤字国債発行で財源がまかなえます

 「そんなことをしたら国の借金が!」と考えた人は、以下の記事をどうぞ。

 もちろん生活保護+ベーシックインカムではもらいすぎ! という議論もあるでしょう。ベーシックインカムと各社会保障の調整は必要かもしれません。

 MMTの財源論では、財源を気にする必要がありません。これが一番のメリットでしょう。

  1. 増税や社会保障の一元化が必要ない
  2. 財源を気にする必要がない

デメリット

 労働インセンティブが減少する可能性は十分にあります。しかしそれは大きな問題ではありません。

 MMTによる財源案はインフレに制約されます

 インフレは需要>供給の状態です。需要が増加しすぎると供給が追いつかず、需要>>>供給となりインフレが過剰になります。
 インフレが過剰になると経済が混乱します。

 よって「自国通貨建て国債は無制限に発行できる。ただしインフレ制約を除く」というMMTの財源案は、供給力に依存しています。

  1. 労働インセンティブが減少する可能性
  2. インフレに制約される

財源論を考えるときに必要な視点

 3つの財源案を見てきました。それぞれに特徴があり、なかなか面白いですよね。

 ベーシックインカムの財源論を考えるときに必要な視点について、少し触れたいと思います。

財政赤字は問題ない

 歴史的に見ても中央銀行制度が発展してから、政府赤字は正常な状態となりました。1900年と比較すると現在、アメリカは3000倍以上の公債残高です。
 でも破綻してませんよね。

 自国通貨建て国債なら、財政赤字は問題ありません

 では、何が問題となってくるのか。

インフレ制約と潜在GDP

 財源問題を考えるときに必要な視点は、インフレ制約と潜在GDPです。

 インフレ制約は上述したとおり、インフレの過剰に陥らないために供給力が大事という話です。需要>>>供給になるとインフレが過剰になり、経済が混乱します。

 現在はデフレすれすれです。なぜデフレになるかと言えば「需要<供給」だからです。需要過少ないし供給過多の状態がデフレです。

 過多である供給力を潜在GDPと言います
 潜在GDPと需要の差分はデフレギャップと呼びます。

 もし「デフレギャップがほとんどない」「潜在GDPが多くない」と考えるなら、インフレ制約があるので赤字国債は多く発行できません
 したがってベーシックインカムを実現しようとするなら「社会保障一元化」か「消費増税などの増税」を財源としなければなりません。

 逆に潜在GDPが多いと考えるのであれば、赤字国債によるベーシックインカムが可能です。

 筆者は前者だと考えています。

財源を回す政策の優先順位

 ベーシックインカムは財源に約100兆円必要です。100兆円あれば大抵の政策は実現できます。

 本当にベーシックインカムが政策の優先順位1位なのか、考える必要があります。

 通行止めが多くなっている橋梁や、老朽化した水道管の改修はどうでしょう。防災・減災のための公共事業も必要です。防衛費や教育費、基礎研究費などに回すのはどうでしょうか。

 同じ社会保障費を拡充するとしても、生活保護の要件緩和はどうでしょう。年金の増額なども考えられます。

 本当にベーシックインカムが優先順位1位なのか? しっかりと考える必要があります。

結局財源はどこから来るか

 ベーシックインカム財源確保のための、財源案3つを解説しました。

 結局のところ財源とはどこから発生し、どこから来るのか? この根本的な疑問への答えは「国民の生産力・供給力こそ財源」です。

 国民が労働して生産・供給する力こそが財源の根本的な源です。もしもベーシックインカムで労働インセンティブが減少するなら、本末転倒です。
 労働インセンティブが減少して生産力・供給力が減少すれば、ベーシックインカムの財源そのものが失われるからです。

 その供給力がどれほど過多なのかは、潜在GDPで表わされます。
 しかし潜在GDPは誰も正確に測れません。したがって「やってみてインフレ率が高いなら、潜在GDPは思ったよりなかった」となります。

 ベーシックインカムをするにしても、漸進的に金額を上げていく方が無難かもしれませんね。

まとめ

  1. ユニバーサルベーシックインカムの予算は100兆円前後
  2. 財源案は「社会保障一元化」「消費増税などの増税」「現代貨幣理論(MMT)による赤字国債」の3つ
  3. インフレ制約と潜在GDPが財源議論では重要
  4. ベーシックインカムの政策優先順位を考えよう
  5. 国民の生産・供給力が財源の源

 筆者はベーシックインカムに、否定的でも肯定的でもありません。個人的には「もらえたら――そら嬉しいなぁ!」と思います(笑)

 しかしベーシックインカムの議論は錯綜しがち。しっかりと整理して、有意義な議論や思考をしてくださいね。

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2 Comments
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Muse
3 年 前

>自国通貨建て国債なら、財政赤字は問題ありません

さらに付け加えると、「変動為替相場制の自国通貨建て国債を発行する国においては、インフレ制約の範囲内でデフォルト(債務不履行)はあり得ず、財政赤字は全く問題なし」ということです。例えば、1998年に財政破綻したロシアはルーブル建て国債を発行していましたが、対ドル固定為替相場制を採っており、海外投資家からのルーブル安圧力が高まった結果、デフォルトしました。

>本当にベーシックインカムが優先順位1位なのか? しっかりと考える必要があります。

確かに、ベーシックインカムの前に、公共投資、インフラ整備、社会保障の充実等々、やるべきことは山ほどあります(残念ながら今の菅政権は、そのやるべき事を何一つ行わず、あえてやる必要のない事をやってる感を出すためにやろうとしているか、絶対やるべきでない大愚策=中小企業の再編をやろうとしている)。

>結局のところ財源とはどこから発生し、どこから来るのか? この根本的な疑問への答えは「国民の生産力・供給力こそ財源」です。

仰る通り、政府による国債発行=通貨発行の担保となるのはまさしく「国民による財やサービスの生産・供給能力」であり、逆に言えば、資本蓄積や供給能力が十二分にある限り、政府はいくらでも自国通貨建て国債を発行して財政赤字を拡大できます。