徴兵制とは何か?徴兵制の歴史、現代の問題や議論を中立に学ぶ

 徴兵制に議論が始まるとすぐ、多くの人が印象論に頼り判断します。左派は徴兵制=戦争のイメージで語ります。右派は徴兵制に、過剰な期待を寄せます。

 日本では、幼稚な徴兵制の議論が跋扈しています。左右どちらかに偏った議論が大半です。

 しっかりと事実に基づいた、徴兵制の解説をします。知識を得た上で、徴兵制についての賛否を示すようしませんか?

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徴兵制とは

 徴兵制とは何か。言葉の意味について、まずはしっかり押さえておきましょう。

 徴兵制とは国家が、国民に兵役を課すことです。血税の元々の語源は、徴兵制を指しました。徴兵されて血で納めるので、血税と言われたのです。
 よく「国民の血税を無駄遣い!」との批判がありますが、本来の使い方だと「無駄死にの多い作戦をしやがって!」という意味です。

 閑話休題。

 世界193カ国中、軍隊を有する国家は169カ国です。このうち、徴兵制を採用している国家は64カ国です。およそ3分の1が、徴兵制を採用しています。

 徴兵制の反対語は募兵制です。けれど志願制という表現の方が、一般的かもしれません。

 テロとの戦いが叫ばれてから、徴兵制の国家はやや増加しました。しかし大きな流れとして、徴兵制を採用する国家は減少傾向です。

徴兵制の歴史と民主主義や社会福祉

 徴兵制や国民皆兵制度の歴史は、それ単体では語れません。民主主義や社会福祉と、深く関係があります。

徴兵制度が採用された経緯

 近代の徴兵制は、フランス革命から採用され始めました。民主主義とは、国民が主権を持ちます。主権を持つことはすなわち、主権を守る義務を負うことです。
 民主主義国家では国民が主権を守る義務を負う、すなわち国民皆兵制度と徴兵制が採用されました。
 近代の国民国家の発達が、徴兵制をもたらしたと言えます。

 加えて徴兵制が採用された理由には、戦死者の増加もあります。戦争技術の発達とともに、戦争の形態が制限戦争から絶対戦争に変化しました。

 制限戦争とは、ヨーロッパの貴族同士の戦争が代表例です。ルールがあり死者が出る、危険なスポーツが制限戦争のイメージです。
 絶対戦争はルール無用で、最終的には国家総力戦に至る戦争形態です。

 徴兵制度が近代において採用されたのは、以下の理由です。

  1. 民主主義による国民皆兵制度
  2. 近代の戦争技術の発達による戦死者の増加
  3. 制限戦争から絶対戦争への変化

 加えて徴兵制+民主主義は、軍隊の数が増えるので単純に強かったという理由もあります。

徴兵制と民主主義・社会福祉の関係

 徴兵制と国民国家や民主主義は、密接な関係にありました。驚くべきことに社会福祉も、徴兵制と無関係ではありません

 国民国家とは、自分たちの国家です。したがって国民皆兵制度で、兵役の義務を国民が負いました。同時に国家は国民に、忠誠心を求めました
 義務ばかりでは、国民は国家のために戦争しません。

 国家が国民に忠誠心を求める代償が、社会福祉でした。国家総力戦に勝利するための、合理的な選択だった面もあります。

 例えば健康保険制度は、国家による国民の健康管理です。国民が健康でないと、戦争で強い兵隊が揃えられません。
 戦死者の遺族には、遺族年金が支給されました。

 多くの社会福祉が、徴兵制や戦争とともに設計され発達しました。

現代は軍事の専門化が進み徴兵制は減少傾向

 徴兵制を採用する国家は、減少傾向にあります。その理由は、いくつもあります。

 1つは軍事技術が進みすぎて、もはや国家総力戦が現実的でないこと。特に核保有国同士で、国家総力戦は発生していません。……発生したら、かなりの確率で終わりですけど(笑)

 2つめは軍事技術の発達が、運用人数の省力化をもたらしたことです。
 3つめは運用人材が、高度に専門化したこと。

 これらの理由によって現代では、徴兵された素人の出る幕がなくなりました。ロシア、中国などの徴兵制度を敷いていた国家も、志願制や徴兵・志願並立制へ移行したり検討したりしています。

日本の徴兵制の歴史と問題

 近代日本の徴兵制の歴史は、1873年(明治6年)に遡ります。明治維新とは幕藩体制を廃し、強い中央集権国家に生まれ変わるためのプロセスでした。
 必然的に徴兵制と、国民皆兵制度が採用されました。

 当時のスローガンは「富国強兵」「臥薪嘗胆」です。
 不平等条約撤廃のために、国を挙げて豊かな強国になろうとしていました。

 こうして始まった日本の徴兵制は、1945年の敗戦で廃止されます。
 戦後に作られた自衛隊の前身である警察予備隊、海上警備隊などは志願制です。憲法18条が徴兵制を禁止していると、解釈されています

何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。(憲法18条)

 日本の徴兵制はしばしば、教育的意図で語られます。戦後、幾度も「徴兵制で青少年に筋金を入れる」「国防意識を持たせる」と議論されました。
 しかし一般的に日本では、徴兵制への忌避感が強く存在しました。

 現代では徴兵制に賛意を示すと、一も二もなく右翼と見なされます。
 余談ですが徴兵制が根強く残っていたのは、共産主義国家、つまり本来的な左翼陣営です。この事実からも徴兵制への賛否は、右左を決定するものではないことがわかります。

 なお旧共産主義国であった東欧は、ソビエト崩壊やNATOへの加盟とともに志願制へ移行しました。

現代における徴兵制議論

 やや話が脱線しましたが、それはさておき。現代の代表的な徴兵制議論を、多角的な観点から参照しましょう。

軍事的観点

 軍事的観点として徴兵制は、もはや時代遅れと言って過言ではありません。高度に専門化した現代の軍事は、徴兵による短期間の素人兵士を必要としません。

 大陸国家において若干の意味があるかもしれませんが、海洋国家である日本やアメリカでは特に必要性が見いだせません。

 ただし徴兵制は、志願制よりもコストが安く済むというメリットもあります。相手国の人海戦術が想定されるなら、有効なケースがあります。

負担の公平性という観点

 一部の志願した専門職としての軍人だけが、国防を負担するのは公平性に欠けるとする主張があります。専門職的な軍隊は、国民を代表していないことが問題だとします。

 国内のあらゆる階層、人々が徴兵制によって負担を等しく負うことが望ましいと言われます。国防の負担をあらゆる人が負うことは、すなわち戦争へのブレーキにつながるからです。

 要約すると「国防の義務を公平に負担することで、戦争への抑止になるし、国民としての義務を果たすことにもなる」という議論です。

教育的観点

 日本ではしばしば、国防意識や愛国心の低さが問題視されます。「国のために戦う」人の割合、日本が最低? データが意味するもの(dragoner) によれば「非常事態なら、国のために戦う」と答えた日本人は、非常に少なかったそうです。

 興味深いのは日本人の過半数が「わからない」と答えているところです。「ある」はダントツで少ないですが、「わからない」はダントツで多いのです。

 このような国防意識を、徴兵制で高めようとの議論があります。実際に徴兵制を敷くロシア、中国、韓国などは国防意識が高いですから、あながち的外れな議論ではありません。

戦争反対だから徴兵制反対?

 日本では左派が、徴兵制=戦争という図式で徴兵制をタブー視します。徴兵制の採用は、戦争を起こす国への第一歩と主張します。

 アメリカは世界でもっとも、戦争をしている国家です。そして志願制です。この事実からも徴兵制=戦争というイメージは間違っているとわかります。徴兵制だから戦争を起こすという、因果関係はありません。

 アメリカでは逆に、反戦の立場から徴兵制の復活を望む議論があります。自分たちの子供や孫が徴兵され戦争に行くなら、みんな戦争反対するだろうとの議論です。
 戦争反対だから徴兵制賛成という議論の方が、理屈は通っています。

 この手の議論はアメリカで、わりとスタンダードな議論だそうです。

三浦瑠麗氏の徴兵制の議論

 #Amazonプライム解約運動で炎上した三浦瑠麗氏は、徴兵制賛成論者です。三浦瑠麗対談:私が徴兵制が再び必要だと言う理由 – 三浦瑠麗 阿川尚之|論座 – 朝日新聞社の言論サイトで、しっかりとした議論が掲載されています。

 徴兵制に関する内容を要約すると「戦争反対だからこそ徴兵制を復活させるべき」という、アメリカでスタンダードな議論そのままです。
 加えて、上記主張の背景について「アメリカの一極集中の終焉と、パワーバランス多極化時代の到来」を理由に挙げています。

 #Amazonプライム解約運動に参加したリベラル左派は、口々に「三浦瑠麗は徴兵制に賛成する頭のおかしい奴! そんな人物をCMに起用するなんてけしからん!」と主張しました。これはあまりに徴兵制への知識や見識の欠けた、短絡的かつ印象論だけの主張です。

 少なくとも三浦瑠麗氏の徴兵制議論は、アメリカでもスタンダードな議論です。

筆者の徴兵制議論

 最後に筆者の、徴兵制の議論を述べておきます。筆者は徴兵制について、軍事的観点から不必要と解釈しています。

 三浦瑠麗氏の見解は、多極化時代にいかに戦争発生を抑止するかの答えが徴兵制です。しかし筆者の見解は異なります。軍事が専門職となって絶対戦争が、制限戦争に移行していくのではないか? と見ています。

 制限戦争とは「人死にがあるスポーツとしての戦争」です。絶対戦争よりは、遙かにマシな戦争形態です。徴兵制を復活させることは、国家総力戦、ひいては絶対戦争の復活につながりかねません。
 よって徴兵制は不必要、との立場です。

まとめ

 本稿のきっかけは#Amazonプライム解約運動がきっかけです。三浦瑠麗氏の徴兵制賛成が、リベラル左派に叩かれていました。しかし叩いているリベラル左派に、徴兵制の正しい知識があるようには見えません

 ですから徴兵制について、知っている知識を伝えようと思いました。

 知らずに叩くことは、バカのすることです。賛否を示す前にまず、知らなければなりません。当たり前の話です。

 なお徴兵制と聞いて思考停止になるのは、リベラル左派だけではありません。右派も大抵、思考停止します。絶対愛国マンに変身して、軍事や事実関係を放り出します。

 こうなると幼稚な議論しかできません。思考停止せず、知ってから判断したいものですね。

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3 年 前

徴兵制の議論をするのなら、日本で初めて民主的な憲法構想を作ったといわれる赤松小三郎(信州上田藩士)の国政建白書について、深く掘り下げる必要があるかもしれません。
というのも、赤松は憲法構想も記されたその建白書で、女性を含めた徴兵を提言しているからです。赤松は現行憲法の象徴天皇制に近い制度も考えていました。

前天皇は、「天皇の在り方については、明治憲法よりも現行憲法の方が日本の伝統に合致する」と仰っています。赤松の建白書は、日本の伝統と歴史に合わせた近代的な憲法構想と呼んでもいいでしょう。そんな赤松が、「女性を含めた徴兵」をやろうとしていたのは大変興味深いです。

日本の民主政治の父「赤松小三郎」を知っていますか
https://ameblo.jp/klark-lee/entry-11482385649.html
とりあえずのブログ

幕末の“知られざる英雄” 赤松小三郎は人斬り半次郎や薩摩藩士に殺された?
https://bushoojapan.com/jphistory/baku/2020/01/06/116458
BUSHOO!JAPAN(武将ジャパン)

憲法9条と赤松小三郎の軍事戦略
https://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/41a2510d630fbb8f75c98025826fb19e
代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

天皇皇后両陛下御結婚満50年に際して(平成21年)
https://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h21-gokekkon50.html
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