インターネットでの誹謗中傷が問題になり、匿名性の議論が再燃しています。議論の内容は、実名制にすれば炎上や誹謗中傷が防げる、ないし抑止できるのではないか? という議論です。
この議論はすでに決着しています。お隣の韓国が、実名制を導入して失敗しました。実証研究によれば実名制は、誹謗中傷や炎上の抑止になりません。
韓国の実名制の結果も踏まえて、ネットの匿名性の問題やその構造、メリットやデメリットについて解説します。
インターネットで匿名性が問題とされる理由
インターネットでの匿名性を問題視する理由は、3つです。
- 匿名での誹謗中傷
- 炎上
- デマや嘘の蔓延。
匿名の特徴は、リアルの関係性を切断できることです。逆説的に匿名性を問題視する人たちは、リアルとの関係性が切断された状態では人がバカになる、だからダメなんだ! という考え方です。
上記を踏まえた上で、匿名のメリットとデメリットを参照します。その後に「実名制なら問題が解決するのか?」「匿名性があるとバカを増加させるのか」について議論します。
インターネットの匿名性のメリット
ネットが匿名であるメリットは、リアルとの関係性の切断という1点です。3つほどメリットをあげますが、すべては関係性の切断が原因です。
リアルとの関係性を切断して発言できる
リアルとの関係性が切断されると、どのようなメリットがあるのか? 実例で示したいと思います。
例えば印刷業で、特定政党から仕事を受けているとしましょう。リアルとの関係性が切断されていない場合、その政党の批判は書きにくいですよね。書いて見つかったら、取引がなくなるかもしれません。
おおっぴらにできないコメントや運営ができる
人間にとっておおっぴらにできないことでも、大切なことはあります。
実名制は利用ユーザーだけでなく、運営者にも適用されます。例えばエロサイトの運営者は、実名制なら運営し続けるでしょうか?
ちょっと難しいかもしれません。
エロサイトにコメントしたら、会社の同僚に知られるなんて最悪じゃないですか?
「エロサイトなんてどうでもいい!」という人は、視点を変えましょう。例えば筆者はゲイをオープンにしてますが、オープンにできないLGBTもたくさんいます。
LGBT系のコミュニティサイトも、実名制になると利用しづらくなりますよね。
LGBT系はほんの一例です。例えばオタクと知られたくない隠れオタクや、腐女子、隠れた趣味を持つ人etc……。
こういった人たちにとって、ネットの匿名はメリットが大きいです。
自由に振る舞える
匿名性とは、リアルとの関係性の切断です。リアルとは違ったキャラクターで振る舞うこともできます。
こういった「設定」は、ほんのちょっとした現実逃避であり遊びの範疇です。でも実名制だとこの遊びが、関係者に見つかるかもしれません。
ネカマをしていてバレたりしたら、ちょっと嫌ですよね(笑)
匿名のメリットは、こういった遊びも含めた自由な振る舞いにあります。
インターネットの匿名性のデメリット
ネットの匿名性には、当然デメリットも存在します。
誹謗中傷されている人からすると、発言者の数がわからないことは問題です。1人が1000回の誹謗中傷するのと、100人が10回の誹謗中傷するのは被害者にとって性質が異なりますよね。
1人だった場合「なんだこいつ? キ○ガイか?」で終わります。
匿名の場合、複数アカウントで執拗に誹謗中傷する人もいるようです。実名制なら複数アカウントが、全部1人だとわかります。
加えて匿名は、自作自演も容易にします。
他にも匿名は「嘘やデマを広めやすい」「いい加減なことを言いやすい」などが問題とされますが、実名制でも解決できないので、匿名固有の問題ではないと思われます。
実名制なら問題が解決されるのか?
匿名性の問題と言われる誹謗中傷や炎上は、実名制なら解決するのでしょうか? 結論から言えば、しません。
韓国におけるインターネット実名制の施行と効果(研究)という実証研究があります。詳しく知りたいならどうぞ。
なぜ、実名制でも問題が解決しなかったのか。要約して解説します。
「バカが実名制になったくらいで、賢く振る舞うか?」
上記の問いが答えです。キ○ガイやバカが実名制になったくらいで怯むか? そもそもそんな常識的な人は、バカではありません。
したがって実名制になっても、極論や誹謗中傷は抑止できません。
「そんなことはない! 現に炎上はTwitterばかりで、実名制のFacebookでは少ないじゃないか!」という反論があるでしょう。
しかしFacebookで炎上や誹謗中傷が少ないのは、Facebookがクローズド型のSNSだからです。
韓国の例を見れば、実名制以外の要素が関係していることは明らかです。
同じくクローズド型SNSであるLINEでも、炎上が発生していません。LINEは実名制ではないにもかかわらず!
ネットで誹謗中傷に参加する人は、0.5%ほどです。
参照 ネットの誹謗中傷、参加するのは「ネットユーザーの1%未満」 コロナで増加、その実態は?(弁護士ドットコム)
炎上や誹謗中傷に「参加」する人が0.5%であり、執拗に叩き続ける人はさらに少ない。多分、0.1%程度でしょう。
同様に極論を書く人ほど、書き込み回数が多いという研究もあります。ネットで極論が目立つのは、その極論を絶対正義と信じる絶対正義マンの仕業だったのです。
誹謗中傷や炎上も――その人なりの――正義感から行われることが多いです。
「自分が間違った認識、行いを正してやる!」「不倫なんて許せない!」「叩くことで正しい方向になるはず!」
その人たちの中では「正しいこと」をしているのです。したがって実名制にしても、解決するはずがありません。
ちなみに筆者は「俺が絶対正義マン」が大嫌いです。
加えて芸能人の不倫騒動で、第三者で関係ないのに叩いている人たちも嫌いです。
ネットはバカを増加させる?可視化しただけ?
過去に古谷経衡氏とひろゆき氏が、ネットについて議論していました。
古谷経衡氏は「ネットはバカを加速させる」、ひろゆき氏は「一定数いたバカが、ネットで可視化しただけ」という主張です。この議論のどちらが正しいのか? はわかりません。
しかし「実名制にしてもバカは減らなかった」という実例があることから、「実名制でも匿名でも、ネットのバカの数は変わらない」と言えます。
言い方を変えれば「ネットでもしバカが増えるとしても、実名制という規制では抑止できない」というわけ。
そもそも論ですが99.5%の匿名ユーザーは、誹謗中傷や炎上に参加してないわけです。この事実からも「匿名性がある=やりたい放題」というのは、単なる印象論です。
誹謗中傷問題は、いじめ問題に似ています。いじめは問題ですが、決してなくならないこともまた事実です。ネットの誹謗中傷や炎上も、同じ性質の問題です。
実名制にしたら解決する、というのはあまりに安易な印象論と言えます。
誹謗中傷を受けた本人が、簡単な手続きで訴えを起こせる方がよほど重要です。
まとめ
「インターネットって完全な匿名ではない」という事実を、踏まえない議論も多いです。ネット実名制論者は、今のインターネットに完全な匿名性があるかのように考える人が多いです。
しかし誹謗中傷を受けたら、弁護士を通じた情報開示請求で相手の名前、住所などを知ることができます。よって現段階でも、インターネットは匿名とは言いがたい。
匿名とは言いがたい現状で「インターネットにバカが多い」と感じるなら、実名にしても状況は変わらないはずです。
実名だろうが匿名だろうが、迷惑な人は一定数いるものです。印象論ではなく、データと論理で匿名性の議論をしてくださいね。