ちょくちょく報道や記事で、藤巻健史氏を見かけます。相変わらず「ハイパーインフレ! 日銀破綻!」と危機感を煽る主張をしています。
藤巻健史氏に個人的感情があるわけではありません。しかし藤巻健史氏の主張は、あまりに論理として荒唐無稽に過ぎます。
荒唐無稽な理由について、藤巻健史氏の記事を参照しつつ解説します。
藤巻健史の基礎情報
藤巻健史氏は1950年生まれです。2020年現在は御年70歳。もう、おじいちゃんの領域ですね。職業は株式トレーダー、前参院議員、経済評論家だそうです。
日本維新の会の常任取締役も務めています。藤巻健史氏の著作は以下。
『外資の常識』 日経BP社、2001年3月
藤巻健史 – Wikipedia
『藤巻健史の実践・金融マーケット集中講義』 光文社、2003年10月
『藤巻兄弟の大人塾』 朝日新聞社、2003年12月
『マネーはこう動く―知識ゼロでわかる実践・経済学』 光文社、2007年
『フジマキに聞け』朝日新聞社、2007年3月
『日銀失墜、円暴落の危機』 幻冬舎、2015年
『国も企業も個人も今はドルを買え!』 PHP研究所〈PHPビジネス新書〉、2015年
『日銀破綻』 幻冬舎、2018年11月 他多数
2015年から突如、日本は借金でハイパーインフレだ! と主張し始めています。2013年に日本維新の会から出馬して、参院選初当選。当選と財政破綻論・ハイパーインフレ論を主張し始めたことは関係しているのでは? と考えてしまいます。
藤巻健史のハイパーインフレ危機説の論点
藤巻健史氏のハイパーインフレ危機説について先日、ちょうどいい記事が出ていました。藤巻健史氏の主張を、しっかりと詰め込んだ記事です。
まず藤巻健史氏のハイパーインフレ危機説の、概要について箇条書きにします。長いので読み飛ばしてもOK。
「日本政府はもっと借金しろ」そんなMMT論者のツケはだれが払うのか 借金は正義と言い張るトンデモ理論 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)
記事の概要
- 2020年の国債残高はGDP比で268%に達する見込み
- これは戦後の過剰インフレ(ハイパーインフレ)よりひどい数値
- アメリカ141%、ユーロ圏105%に比べて突出して厳しい
- GDPは税収と比例=GDPは税収の原資
- よって対GDP比の財政赤字が最悪=税金国債を返済できないを意味する
- 長期金利の低位安定=当面の平安=いつか危機が来るはずだ
- ハイパーインフレが起こり、日銀を取り潰して新日銀を設立=新券発行するしか解決策がない!
- 国債残高の増大を容認するMMTはトンデモ理論だ
- MMTを信じるのは、民間療法を信じることと一緒=エビデンスがない!
- MMTは自分だけでなく、著名な経済学者もとんでもないと思っている! だからとんでもないんだ! いやいや権威主義じゃなくて。どこが権威主義じゃないかについては、述べないこととする
- 国も家計も借りた金は返さないといけない! だからMMTはトンデモ理論だ!
- 返さなくていいなら、無税国家ができるじゃないか!
- 貧困な国だって財政出動して豊かになれる!
- しかし借金は、貸し手がいないと借りられない
- 紙幣発行による国債引き受け、つまり財政ファイナンスは歴史的禁じ手!
- 日本は金融緩和でそれをしているので、日銀が債務超過で円の暴落とハイパーインフレが起こる!
ん? 3行でまとめろって? 次に藤巻健史氏の主張を箇条書きでまとめます。
藤巻健史の理屈の簡素化
- 国の借金は返すべき。よって税金で返せる額までに制限しないといけない
- なぜならそうしないと、円が暴落するからだ
- 現在、ハイパーインフレが起こっていないのは幸運に過ぎない。しかし戦後よりひどい数字! よって将来、必ずハイパーインフレが起こるはず
さらに簡略化すると「借金は返すべき。返さないとひどいことが起きるはず」が藤巻健史氏の主張です。
そのひどいことがハイパーインフレであり、円の暴落であろうと藤巻健史氏は予測しています。こうして藤巻健史氏の主張をまとめると、ハイパーインフレ危機説がいかにずさんな理論か理解できます。
藤巻健史のハイパーインフレ危機説は何を見落としているのか
藤巻健史氏のハイパーインフレ危機説は、一体何を見落としているのでしょうか。最初に申し述べておくと、たくさん見落としすぎて言及しにくいレベルです。
「負債=絶対返済するべき」という誤った認識
まず議論の出発点が「借金は返すべき」と、べき論からスタートしています。べき論からスタートする議論が、まともな結論にならないのはご承知の通り。
藤巻健史氏の議論は「負債=絶対返済するべきもの」が前提条件です。
この前提条件は誤っています。
日本銀行券は日銀の負債です。我々の預金は、銀行の負債です。この世の中にあるすべてのお金は、誰かの負債です。
現代貨幣理論(MMT)では「貨幣=(決済に使える特殊な)負債」と定義します。
そこで問題です。貨幣=負債ですが、返済する必要性があるでしょうか? 答えは「ありません」が正解です。
すなわち負債に計上されても、返済しなくていい負債が存在する事実が確認できました。
「新規国債発行=貨幣供給」という単なる事実
藤巻健史氏の主張の前提条件であった「負債=絶対返済するべき」は偽でした。返済しなくてよい負債が、現実に存在しています。
さらに議論を発展させます。
経済主体としての民間が黒字になるには、政府もしくは海外の赤字が必要です。海外はコントロールできないので脇に置きます。したがって政府しか、民間を黒字にできません。
民間が黒字になるとは、民間に資産が積み上がることです。
「誰かの負債=誰かの資産」ですから、政府の負債(国債)=民間の資産です。民間の黒字=民間への貨幣供給ですから、逆から見れば政府の赤字(新規国債発行)=民間への貨幣供給です。
よって新規国債発行=貨幣供給です。
藤巻健史氏の記事タイトルを、思い出してみましょう。
「日本政府はもっと借金しろ」そんなMMT論者のツケはだれが払うのか
日本政府がもっと借金する=新規国債発行=貨幣供給ですから、タイトルを貨幣供給に置き換えてみます。
「日本政府はもっと貨幣供給しろ」そんなMMT論者のツケはだれが払うのか
藤巻健史氏の理屈では「貨幣供給するとツケを払わなければならない」ことになります。意味が通りませんよね? このこと自体が、藤巻健史氏の理屈が破綻していることを示しています。
なお現在はデフレ気味ですから、貨幣供給が必要です。
藤巻健史がハイパーインフレになると言っていた理屈は……
新規国債発行=貨幣供給と理解できると、藤巻健史氏の理屈が間違っていることがわかります。
貨幣供給してもインフレすらならない、デフレに近い状態なのは現状が「供給>需要」だからに他なりません。ちなみに「供給<<<<<<<<<<<<<<<<<需要」くらいじゃないと、ハイパーインフレに陥ることはできません。
藤巻健史氏は記事中で、戦後のハイパーインフレを例に出しました。しかし戦後はそもそも、焼け野原で供給能力がことごとく破壊された状態です。インフレ=供給<需要ですから、供給が破壊されたら当然ながら過剰なインフレが訪れます。
逆に言えば「焼け野原くらいにならないと、ハイパーインフレにならない」のです。
なおハイパーインフレの定義には2種類あります。アメリカの経済学者であるフィリップ・ケーガンの「月に50%、年に約13000%のインフレ」と、国際会計基準の「3年間で累計100%、年間26%のインフレ」です。
記事中に出てきた無税国家は、現代貨幣理論(MMT)でも否定済みです。なぜなら現代貨幣理論(MMT)では「インフレが行き過ぎない限り、国債発行はいくらでもできる」と言っているからです。
無税国家にするほどの国債発行は、確実に過剰なインフレを招きます。
さらに言及すると、記事中の「貧しい国も財政出動して豊かになれるじゃないか!」も、現代貨幣理論(MMT)で説明がつきます。
国内供給能力が低い場合、財政出動をするとすぐにインフレになります。インフレ制約にかかるので、国債発行余力に乏しいのです。
供給能力を引き上げるために、教育や道路などソフト、ハードインフラを整備しないといけません。
藤巻健史氏の議論は「借金=返すべき=返さないと信用暴落でハイパーインフレ」という、非常に単純かつべき論を前提条件にしたものでした。
議論がずさんにもほどがあるので、すぐに反論されるような例しか提出できないのです。
ハイパーインフレ議論と知性に関する論考
単なる事実ですが……インフレでもデフレでもないフラットな状態と、ハイパーインフレの間には無数のバリエーションがあります。
戦争や内戦、革命などの非常事態でない限り、ハイパーインフレになる前に当然、インフレになります。さらにインフレ加速政策をし続けて、ようやくハイパーインフレになります。
要するに政策を間違え続けないと、ハイパーインフレになりません。
ところがハイパーインフレ危機説を唱える人たちは、必ず「ある日突然、危機が訪れる! 瞬間的に危機になるぞ!」と言います。
なぜか? 答えは簡単で、国債発行額が200%を大きく超えているのに、危機らしい兆候が全くないからです。
つまりバネのように引き絞って溜めて、ある日突然暴発する! というイメージでないと、危機が主張できないのです。
このこと自体、逆説的ですが「ハイパーインフレ危機説が空想の産物であり、現実的なエビデンスに基づいたものではないこと」を示しています。
藤巻健史氏にぜひ、したい質問があります。
「なぜ日本は20年間もデフレなのに、いきなりハイパーインフレになると言えるんだい? どうして借金は増加し続けているのに、デフレなのさ?」
藤巻健史氏に代表する財政危機・ハイパーインフレ危機説は「借金は返す”べき”」という、べき論から出発しています。すなわち「現実はこうである”べき”」が彼らの主張ですから、現在の現実を説明できないのも当たり前です。
べき論とである論の区別すらできないことは、知性が乏しいと評されてもしょうがないでしょう。
まとめ
やっかいなことですが……藤巻健史氏は一応、経済評論家です。専門家という肩書きは、経済を知らない人たちにとっては重いです。
筆者はコロナウイルスについて無知です。したがって専門家が主張したことを、反証する術を持ちません。
経済についても全く同様です。藤巻健史氏のような稚拙な議論も雑誌に載れば、多くの人々が「ほう、そうなのか……怖いなぁ」と信じてしまいます。
そういった人たちに「事実は違うねんで!」と教えてあげるのは、この記事を読んでいるあなたです。
藤巻健史のエントリー記事ですが、一昨日読みました。相変わらず、嘘八百の財政破綻論を振りまく支離滅裂な内容のク○記事だけあって、読んでいる途中から頭がカッカしてきました。精神衛生上も極めて悪い(笑)。
>藤巻健史氏のような稚拙な議論も雑誌に載れば、多くの人々が「ほう、そうなのか……怖いなぁ」と信じてしまいます。
本来ならば、こうした財政破綻プロパガンダを垂れ流す有害経済評論家どもと、積極財政論者(特にMMT論者)達が公開討論でも行って、地上波のどっかのメディアが(恣意的な編集なしで)放送して欲しいところ。といっても、有害評論家どもが討論に応じるとは思えないし、メディアも政権や財務省に忖度して放送などしないだろうし。。。
うん、マジで○ソ記事ですよね、本当。論理性がなくて、わめいているだけの記事とすら言えます。
>本来ならば、こうした財政破綻プロパガンダを垂れ流す有害経済評論家どもと、積極財政論者(特にMMT論者)達が公開討論でも行って、地上波のどっかのメディアが(恣意的な編集なしで)放送して欲しいところ。
まあMMTerとかは基本、学者肌な人が多いので……相手を煽って土俵に上がることは難しいかなと~。
藤巻氏は経済評論家だそうですが、金融主体の表面的な分析が主体で、
通貨の価値を担保している実体経済、国際政治、安全保障の分析がほとんどありません。
それがディーラー出身の経済評論家の限界なのでしょうか。
とは言え、藤巻理論はその金融面の根拠にも乏しく、藤巻氏自身がご自身の理論を本気で信じているのかも疑わしく思ってしまうレベルです。
今日も藤巻健史氏の記事が出てましたが、本当に「それ、あなたの感想ですよね」で終わる記事でした。
あの人の記事、根拠に乏しすぎて議論にすらなりにくいという。