Disruption(ディスラプション)と創造的破壊の意味と誤読

 言葉の定義をしっかりとすることは、仕事や議論、思考、コミュニケーションで非常に重要です。言葉の定義が曖昧なままイメージだけで思考を進めれば、間違った結論に行き着きます。

 日本ではDisruption(ディスラプション)や創造的破壊という言葉が、誤用されています。

 Disruptionは日本で、創造的破壊の意味で使用されます。もともと創造的破壊が誤用されているのですから、Disruptionも意味が非常に怪しくなっています。

 それぞれの言葉の定義を明確にすることで、思考を明瞭にしましょう。

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Disruptionの意味とは

 Disruptionとは主に、ビジネス用語として日本では使用されます。Disruptionの日本語訳をするとすれば創造的破壊ですが、その創造的破壊が日本では誤読、誤用されています。

 創造的破壊の定義や発祥は後ほど解説するとして、Disruptionの意味について解説します。

Disruptionの本来の意味

 Disruptionの本来の日本語訳は「混乱」です。disruptionの意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書によれば「崩壊、分裂、中断、途絶、混乱」だそうです。

 はい、ここで「なんだ、創造的破壊と同じような意味じゃん!」と思った人は、創造的破壊を誤読しています。

 ポンポンと話を進めるので、読み進めてくださいね。

ビジネス用語で使用されるDisruption

 Disruptionはどうやら、ビジネス用語として5つも意味を持つようです。

①「ディスラプション」とは、主に新しいテクノロジーを用いて安い製品で市場を大転換させる現象のこと
②「ディスラプション」または「ディスラプター」は市場を根本的に変えた新興企業を指す
③ディスラプションは「破壊」だ
④ディスラプションは複雑な手法である
⑤ディスラプション には特定の人にだけ可能な特殊な能力が必要である

ディスラプション再考:本来の意味とは異なる使われ方5選 | ディスラプション・コンサルティングより

 ①は「新技術と価格破壊」がDisruptionです。
 ②は「新しい価値の提示と浸透」がDisruptionです。
 ③は文字通り「破壊」が定義です。④は簡単に言えば「新しいビジネス思考法がDisruption」だそうです。
 ⑤は要するに、固定概念を打ち倒すことがDisruptionなのだそうです。

 Disruptionの使用方法が、いかに混乱しているか! まさに正しい意味でのDisruption(混乱)ではないですか!

Disruptionと創造的破壊

 Disruptionの日本語での使用が混乱しているのは、おそらく創造的破壊が誤用、誤読されているからに違いありません。

創造的破壊の意味とは

 創造的破壊は「イノベーションを生み出すなら創造的破壊をしなければ!」という文脈で使用されます、が……これは完全に誤用です。

 その理由を読み解いていきましょう。

創造的破壊という言葉の生みの親

 創造的破壊という言葉は、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターによって生み出されました。シュンペーターはイノベーションを、初めて科学した経済学者として有名です。

 創造的破壊とは、れっきとした経済学用語であり定義が存在します。

創造的破壊の本来の意味

 シュンペーターの言う創造的破壊とは、イノベーションが起きたとき、そのイノベーションが市場を席巻する中で既存の市場が破壊される様子です。
 わかりやすく箇条書きにしましょう。

  1. イノベーションが起きてスマートフォンが生まれた
  2. カメラ付きスマートフォンによって、使い捨てカメラ市場が侵食され破壊された
  3. カメラ付きスマートフォンというイノベーションが、カメラ市場で創造的破壊を生み出した

 まずイノベーションありき。これが創造的破壊です。決して「破壊したらイノベーションが起きました!」というバカな話じゃありません。
 こんなバカな話を信じているなら、あなたの家を破壊してご覧なさい。イノベーションが生まれるかどうか、誰でも理解できます。もちろん、生まれません。

 創造的破壊の、冒頭の文脈を思い出してください。

 創造的破壊は「イノベーションを生み出すなら創造的破壊をしなければ!」という文脈で使用されます、が……これは完全に誤用です。

 なぜこれが誤用なのか? 本来は「イノベーションが生み出されたので、創造的破壊が起きた!」が正解です。創造的破壊とは、イノベーションの結果として観測される現象にしか過ぎません。

誤用される創造的破壊

 日本では「創造的破壊を起こせば、イノベーションが生まれる」という、非常に深刻な誤解が生じています。何も創造せずに、とりあえず規制や構造改革で市場をぶっ壊せば、混沌の中から創造が生まれる! と信じているわけです。

 それは創造的破壊ではなく、破壊的創造です。もっとも破壊のあとに創造は生まれませんが。破壊がもたらすのは、破壊だけですからね。疑うなら自分の家を壊して……(以下省略)

Disruptionと創造的破壊の日本語の混乱

 創造的破壊をすればイノベーションが生まれる! というおバカな誤解や誤用が、Disruptionの定義も混乱に導いています。破壊すれば混乱が生まれ、そこから何かが創造されるという深刻な誤解です。

 例えば日本語の定義が破壊され尽くしたあとに残るのは、厳密な定義をできずにイメージでしか思考しない惨状のみでしょう。
 何かが生まれたから破壊されるのであって、破壊したら何かが生まれるという発想そのものが「貧困な思考で、ロジカルではない」と言わざるを得ません。

Disruptionと創造的破壊の誤読に共通する安易さ

 Disruptionや創造的破壊は、日本でとかく破壊が強調されがちです。なぜでしょうか? 理由は簡単です。

 創造より破壊の方が簡単だからです。

 様々な調べ物をして文章を生み出すより、その文章を批判し破壊することは簡単です。家を建てるより、家を取り壊す方が簡単なように。

 固定概念を破壊して新しい発想を! と言いながら、固定概念を批判する方が「楽」なのです。

常識と固定概念を壊せばDisruptionは生まれるか?

 Disruptionの定義を文字通り「混乱」とするなら、常識は固定概念の破壊の先に生まれるものは、まさにDisruption――混乱です。

 Disruptionをイノベーション的な意味で使用するなら、常識と固定概念の破壊してもイノベーションは生まれません。
 なぜならイノベーションの日本語訳は、技術革新です。決して発想の転換ではありません。

 スマートフォンは発想の転換で生まれたわけではなく、テクノロジーと技術革新が可能にした製品です。常識や固定概念を破壊したから、スマートフォンが生まれたわけじゃないんですよね。

ベンチャー企業と大企業のイメージ論と実際論

 ベンチャー企業やスタートアップ企業では、イノベーションが生まれやすい! 創造的破壊を起こすのはベンチャー企業だ!
 こんなイメージをお持ちではありませんか? これ、統計的には100%間違っています。

 考えてみれば当たり前ですが、ベンチャー企業にあるのは自由だけ。一方で大企業には、研究設備も予算も人材も潤沢にあります。

 どちらがイノベーションが起こりやすいか? 誰でも理解できます。

 実際にイノベーションを起こしている数では、大企業がベンチャー企業を圧倒しています。Googleのような例は希有で、だからこそ成功談として語られるのです。
 100の凡庸な例より、奇跡のような物語を人は好むのです。

 イノベーションは「自由な発想や固定概念の破壊」より「潤沢な予算による研究開発」で起こる数が圧倒的です。

 ではなぜDisruptionや創造的破壊の誤読、発想の転換でイノベーション! という話になったのか? おそらく答えは「発想の転換とか自由だと、お金がかからないよね。それでイノベーションが起きるなら都合よくね?」です。

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