「インフレでお金の価値が下がる」ということは理解できていても、お金の価値が下がるとはどういう意味でどういう働きがあるのか? を理解している人は少ないのではないでしょうか。
またインフレ率が2%なら「なんだ、たったそれだけかよ」と感じる人も多いでしょう。
インフレ率2%なら35年後に、お金の価値は50%になっています。
教養のひとつとして、インフレをしっかりと理解しておきませんか? ポイントを絞って、わかりやすく解説します。
インフレでお金の価値はどうなるか
インフレとは正式には、インフレーションと言います。インフレはお金の価値が下がる現象であると同時に、物価が上がる現象でもあります。
インフレにはコストプッシュインフレと、デマンドプルインフレがあります。コストプッシュインフレは悪いインフレと言われ、デマンドプルインフレは良いインフレと言われます。
コストプッシュインフレは「コストが物価を『押し上げて』インフレになること」です。
デマンドプルインフレは「需要が物価を『引き上げて』インフレになること」です。
日本の場合、コストプッシュインフレに陥る原因はおよそ、輸入震源の価格高騰です。もし石油の値段が2倍になったら、ほとんど全ての物価が押し上げられますよね。
例えば人件費が上がったら、コストプッシュインフレにならないのでしょうか? 答えは「コストプッシュインフレにはならない」です。なぜなら人件費の上昇は、すなわち国民の所得上昇です。所得が上昇すれば、需要が増加します。
需要増加によって、物価が引き上げられるデマンドプルインフレが発生します。
簡単に「輸入資源のコスト上昇によるインフレは、悪いインフレ」「需要増加によるインフレは、良いインフレ」と覚えておきましょう。
お金の価値が下がるという現象が理解しづらい場合は
「お金の価値が下がる」という現象は最初、理解しづらいのではないでしょうか? 経済を学びはじめた頃の筆者は、理解しづらかったです。
言葉で定義を知っていても、理解が浅くて応用など出来ない状態でした。
「お金の価値が下がるって……そんなん、見えへんしわからんやん?」
「インフレがあるなら、アウトのフレもあるんかいな?」
「なんや、考えてたら眠くなってきたわ……」
その当時の筆者に、理解できるように解説してみます(汗)
理解しづらい原因は「お金がものの価値を計る尺度」だからです。イメージとしては定規や計量カップ、体重計などのようなものです。
cmやmgなどの単位は、自然科学において不変の尺度です。座高を測るときと、身長を測るときで1cmの長さが違うなんてことはあり得ませんものね。
お金は普通にあり得ます。
難しく言うと、貨幣とはものの尺度を測る性質があるとともに、それ自体の価値も変動するのです。
例えば為替は、お金の価値が変動する好例です。
もっとわかりやすい例で、イメージしてみてください。
あなたが毎日食べるのは、パンが3個、牛乳が1リットル、鶏肉が300グラムだったとします。これで栄養もバッチリだとしましょう。
では上記の食べ物を買うのに1000円かかっていたのが、1500円かかるようになりました。たくさんのお金がいるようになったのに、手に入れられるのはパンが3個、牛乳1リットル、鶏肉が300グラムと変わらずです。
あなたにとって、毎日の食事の必要量という価値は一緒。とすれば、お金の価値が下がったから、たくさんのお金が必要になったわけです。
これが「インフレでお金の価値が下がる、物価が上がる」のイメージです。
インフレでお金の価値がどれくらい下がるか計算する
上記のような複利計算サイトで、インフレでどの程度お金の価値が下がるか計算できます。計算方法は簡単です。
- 年利にインフレ率を記入
- 複利周期は1年
- わかりやすくするために元本は100
- 年数は自由に設定
1.2%のインフレだと、35年後に物価が約1.5倍、お金の価値は66%になります。
2%のインフレだと、35年後に物価が2倍、お金の価値は50%です。
インフレだと経済の名目だけでなく、実質も上がりやすくなる
インフレだと物価が上がり、お金の価値が下がるので、なんだか損したような気がしますよね。しかし経済全体では、インフレこそが多くの人に利益をもたらします。
経済成長は名目成長率と、実質成長率があります。名目成長率はインフレも含めた、金額ベースの成長率です。
例えばインフレ率2%、実質成長率が3%なら名目成長率は5%になります。
実質成長率は、インフレ率を除いた成長率です。
インフレだと、実質成長率も成長しやすくなります。逆にデフレだと実質成長率は、低成長やマイナス成長になります。
なぜか? インフレとは「お金の価値が下がる現象」ですから、現金を持ち続けても損です。企業は現金で持つことを嫌い、投資にお金を回します。
加えてインフレはお金の価値が下がるのですから、借金をしやすくなります。100万円を借りても、その価値が30年後には半減していると考えれば得ですよね?
つまりインフレは借りて使う、という資本主義本来の経済行動を促します。従って投資も増えます。投資が増えると、研究開発や技術開発などにも予算が回されます。
研究開発などの予算が増えれば、その分イノベーションも起きやすくなります。
イノベーションが起きると、生産性が上がります。また需要に引き上げられる形の、生産性向上も見込めます。
こうしてインフレは、実質成長率も成長しやすくなるのです。
ときどき「日本の生産性が低い!」と議論になりますが、それはデフレだから当たり前です。国民性も企業体質も関係ありません。
適度なインフレ、つまりお金の価値が下がり続ける現象は、経済をうまく回転させる原動力だったのです。
インフレというお金の価値が下がる現象のまとめ
- インフレとはお金の価値が下がる現象
- インフレにはコストプッシュインフレ(悪いインフレ)と、デマンドプルインフレ(良いインフレ)がある
- 良いインフレだと、経済成長しやすい
- デフレだと、経済成長しにくい
- 良いインフレは生産性も高める
上記がこの記事の復習とまとめです。忘れたりしたときに、時間がなければまとめを見てくださいね。
藤井聡京大教授による新著です。筆者も購入予定ですが……読む本がたまっていて、読むのがいつになるかは未定です(汗)