MMTとはModern Monetary Theoryの略であり、日本語で現代貨幣理論と訳されます。話題になった当初は、現代金融理論とも訳されていました。
ビル・ミッチェル、L・ランダル・レイ、ウォーレン・モズラー、ステファニー・ケルトンなどがMMTの権威です。日本では中野剛志氏、三橋貴明氏、藤井聡氏、青木泰樹氏、池戸万作氏もMMTer(現代貨幣理論の論者ないし支持者)として知られます。
日本では2019年3月くらいに、話題になりマスメディアが取り上げ始めました。アメリカの史上最年少下院議員で注目を集めたアレクサンドリア・オカシオ=コルテスがMMTを支持し、採用したからです。
MMTの主張は「インフレにならない限り、自国通貨建て国債は無限に発行可能」というものです。これに対して主流派経済学は、異端の学説として批判を浴びせました。
MMTとは何か? なぜこんなに話題になっているのか? を、全体を俯瞰しながらわかりやすく解説します。
主流派経済学が議論しなかった「貨幣とは何か?」がMMTの本質
200年以上、貨幣の議論を封印してきた経済学
主流な経済学において、貨幣はほぼ議論されません。教科書に「貨幣とは何か?」は載っていません。嘘みたいでしょ? でも本当なんです。
難しい理論的背景は脇に置きます。200年ほど前、近代資本主義が始まった頃に経済学もまた始まりました。当時の最先端であったイギリスでは、地金論争が沸き起こります。
地金論争とは「貨幣の価値は、貨幣に使用している貴金属が担保しているのか? そうじゃないのか?」という論争です。
貨幣価値は貴金属が担保しているとする解釈は、商品貨幣論と呼ばれます。主流派経済学の主要理論を築いたリカードもまた、商品貨幣論を支持していました。
しかし現代、貨幣に貴金属は使われていません。商品貨幣論は誤りだった、と時代が証明しました。そのため主流派経済学は、貨幣理論を封印してしまったのです。
古くて新しいMTT
MMTの理論は、最近になって出てきたものではありません。ゲオルク・クナップやアバ・ラーナー、ケインズ、イネス、ミンスキーら、偉大な経済学者たちによって基礎理論が築かれました。
先人たちの理論を統合し、現代の解釈を加えたものがMMTといえます。MMTの理論的本質は「貨幣とは何か?」にあります。
租税貨幣論、貨幣国定説、信用創造、スペンディングファーストなどが、MMTの貨幣を語る際のキーワードになります。MMTの理論については、以下の記事をご参照ください。
MMTの主張とは何か?
自国通貨建て国債の発行制約はインフレのみ
MMTの主張は「インフレにならなければ、自国通貨建ての国債はいくらでも発行できる」というものです。この主張には、2つの条件が入っています。
- 国債が自国通貨建てであること
- インフレ制約を明示していること
MMTの主張をかみ砕いていえば、こういうことです。
「通貨は国家が発行する。自分で発行できる通貨を『国債という形で借りる』として、返済は通貨だ。よって『返済ができなくなることはあり得ない』ので、過剰なインフレ以外で国債発行が制約されることはない」
もっと簡単にいいましょう。「自分で発行したお金を借りて、返せなくなるなんてあり得ない」というわけ。
スペンディングファースト-税金は国家の財源ではない
国債発行は、過剰なインフレにならない限り理論的にいくらでも可能です。国債は、財源たり得るのです。
一般的に税金は、国家の財源といわれています。しかしMMTでは「税金は財源ではない」と解釈します。
「税金は財源ではない」ことを解説するのに使われるのが、スペンディングファースト(政府支出が先)です。
2019年の所得税は、いつ納税されるだろうか? 2020年の確定申告になる。では政府は所得税収がないので、2019年の支出から所得税収を引いて支出したのだろうか? 答えはノーだ。
これは現実的に「税収がなくても政府が支出ができる」こと、すなわち「政府支出が先」ということを示している。
自国通貨と徴税権の行使の関係性
税金は予算の財源ではない、という衝撃的な見解がMMTの解釈です。では税金はなんのためにあるのか? MMTでは「税が通貨を駆動する」と表現します。
徴税権という国家権力の行使が、通貨という「国家が発行する貨幣」を通貨たらしめていると考えるわけです。詳しくは以下の記事をご参照ください。
MMTを異端とする主流派経済学のMMT批判テンプレートとは
MMTが異端といわれるのは、今までの経済学の「国債は発行しすぎてはだめ!」という主張に、真っ向から異を唱えたからです。
当初、主流派経済学は激しくMMTを批判しました。しかしその批判内容は、たった1つにテンプレート化されていったのです。
「インフレにならない限りというが、政治的にすぐに税金を上げてインフレを抑えるなどできない! よってMMTは現実的に通用しない!」
これが主流派経済学の、MMT批判の全てです。MMTerからすれば「今までフィクションと机上の空論を振り回してきた、主流派経済学にいわれるとは!」です(笑)
主流派経済学の主張はジェームズ・ブキャナンの「赤字の民主主義」という理論を参照した議論です。もしくは「ハーヴェイロードの仮定」と呼ばれるものです。
つまり「政治を賢人たちだけが行うなら、その理論は通用するだろう。しかし現実の政治は、衆愚だったりもするから通用しない」というわけ。
よって「国債を発行しすぎて、過剰なインフレを招くことになる!」と、主流派経済学はMMTを批判します。
「国債を発行しなさすぎて、デフレになっている現実」を、主流派経済学はどのように説明するのでしょうか。「自分たちの理論も、ハーヴェイロードの仮定によって実現不可能」とでも自虐するのかもしれません。
日本にとってMMTの理論は何を意味するのか?
日本にとってMMTの理論とは、福音になるでしょう。積極財政に政治が舵を切れば、デフレ脱却はすぐにでも果たせます。
日本が経済成長していない、貧困化していくという減少の大きな原因は、デフレにあります。現在、日本の問題は多くがデフレに端を発しています。
従ってデフレ脱却を果たせるとは、日本の多くの問題が解決に向かうことを意味します。
またMMTは、海外の経済学者たちによって提唱されました。理論的に権威付けされているのです。よって主流派経済学理論へのカウンターとして、非常に有効です。
MMT(現代貨幣理論)が一部の人たちに、熱狂的に支持されているのは「日本をデフレから脱却させる可能性があるから」「日本の貧困化を止める可能性があるから」に他なりません。
後書き 真実は必ず勝つとは限らないという話
蛇足ですので、興味のある方は読んでください(笑)
筆者はMMTが、現実に適用できる理論だと確信しています。しかし同時に「正しいから広まる」という考え方は、非常にナイーブだとも思っています。
仮に「この理論は正しいから広まるはずだ!」と考えるのであれば、「広まらなかったらその理論は、正しくなかった」となるはずです。
また「間違っていたら広まらないはずだ」と逆説的に考えるのなら、なぜデマが広まるのか? の説明がつきません。
つまり「正しいから広まるはずだ」は、フィクションないし嘘なのです。
MMTがいくら理論的に正しくても「努力を怠れば、広まらないかもしれない」のです。
多くのMMTerは「MMTの正しさを証明しようとする」のに、多くの労力を割きます。それは「MMTが正しいとわかれば、広まるはずだから」と考えている証拠です。
しかし「正しいから広まるとは限らない」のであれば、労力を割く方向性も変わるのではないでしょうか。
つまり「MMTを広めるから、広まる」にシフトチェンジする必要があるのではないか、と考えます。
[…] MMT(現代貨幣理論)とは何か?わかりやすく全体像を俯瞰し解説する MMTとはModern Monetary Theoryもだん まねたりー せおりーの略であり、日本語で現代貨幣理論と訳されます。話題になっ […]