ベーシック・インカムの議論は非常に多岐にわたります。しかし筆者も読者も興味があるのは「実現は無理か、可能か」だけでしょう。
筆者は以前から「理論的に日本で実現は難しいのでは……」と考えていました。インフレ制約が存在するからです。本稿ではわかりやすく端的、かつ徹底的にベーシックインカムの実現可能性を検証します。
無理か? 可能か? さあどっち?
ベーシックインカムの分類と学術的潮流
ベーシックインカムの定義
まずベーシックインカムという定義を、しっかりしておきましょう。なぜなら既存の社会保障制度とベーシックインカムが、混同して語られることも多いからです。
厳密には「一部特定層――例えば低所得層――にだけ給付する」はベーシックインカムではありません。ベーシックインカムはあくまで「無条件で一律に、一定の金額を国民に給付する制度」が定義です。
しかしあまりにも混同されるため、「無条件に一定額を国民に給付するベーシックインカム」を、ユニバーサルベーシックインカムと呼んで区別する動きもあるようです。
ベーシックインカムの学術的潮流
ベーシックインカムはもともと、新古典派経済学に端を発しています。小さな政府を目指すため、社会保障の一元化としてベーシックインカムが提唱されました。
大本のベーシックインカムの議論では、社会保障制度をなくしてベーシックインカムが代替するという話でした。
ベーシックインカムの分類
- 新古典派経済学よろしく社会保障制度の代替としてのベーシックインカム
- 低所得層向けの最低所得保障としてのベーシックインカム(厳密にはベーシックインカムではない)
- 積極財政政策としてのベーシックインカム
筆者は、ベーシックインカムを実現するなら2.だろうと考えています。
ベーシックインカムのメリット
本稿の目的は「ベーシックインカムが無理か? 可能か?」の検証ですから、メリットやデメリットは軽く流します。
- 貧困対策
- 少子化対策
- 地方の活性化
- 社会保障制度の簡素化
- 行政コストの削減
- 労働意欲の向上
- 景気回復
- 余暇の充実
- 非正規雇用問題の緩和
- ブラック企業の矯正
- 産業空洞化の防止
- 消費税の逆進性の解消
- 失敗を恐れずに経済活動でき、学生が勉学に励むことができる
- 犯罪の減少
- 職業選択の自由
- スティグマからの解放
上記がwikiで掲載されている、ベーシックインカムのメリットです。よくいわれる「ベーシックインカムで労働意欲が減少する」ですが、地域単位や国家単位のベーシックインカムの実験で「そんなことはない、むしろ向上する」との結果が出ているそうです。
ベーシックインカムによって余裕ができ、将来のキャリアなどを考える時間もできると希望が持てます。これが労働意欲の向上につながっているのでしょう。
ベーシックインカムのデメリット
精神論的な「勤労意欲が!」みたいなものを無視すれば、デメリットはありません。あるとしても、法改正等によって対処できるものがほとんどです。
ベーシックインカムの最大のデメリットとして挙げられるのは、いわゆる財源問題です。中には「ベーシックインカムを実現するには、大増税が必要だ!」というバカな議論もあります(笑)意味ないでしょと(笑)
ベーシックインカムの政府支出額試算
なぜ財源問題が、ことさら取り上げられるのか。ベーシックインカムで想定される政府支出の増加が、かなり大きいからです。
財源問題は基本的に、均衡財政主義の人たちが取り上げます。
国民1人あたり7万円を支給すると、予算が100兆円ほど増加します。
筆者の脳みそ電卓では「1億2千万×1万×7=8兆4千億円」「8兆4千億円×12ヶ月」と計算しました。
ベーシックインカムのインフレ制約と供給能力
ユニバーサルベーシックインカム(国民に無条件で一律)を想定するなら、MMTに則ってもいくつか考慮しなければならないことがあります。
- インフレ制約
- その他の予算との兼ね合い
仮に月々7万円のベーシックインカムを実現したとします。しかし100兆円の政府支出は、インフレ率を10%は押し上げることになりそうです。
※100兆円×消費性向0.5×乗数効果1.1(財務省試算)という、低めの見積もり
しかし解決策はあります。
初年度は2万円。様子を見ながら金額を上乗せしていく方法です。これなら供給能力の伸びに合わせて、政府支出の拡大が行われます。よって過度なインフレを心配しなくて良くなります。
もう1つは「その他の予算との兼ね合い」です。
つまり30兆円程度を、初年度のベーシックインカムで支出したとします。では拡大できる公共事業費はどの程度か? インフレ制約のため、あまり拡大余地はありません。
ベーシックインカムと公共事業拡大・国土への投資の何が優先順位が高い?
ベーシックインカムと公共事業費、つまり国土への投資のどちらが優先順位が高いでしょうか? 「どちらもやれば良い」のでしょうか?
確かに「どちらもやっても、まだ日本の供給能力が追いついた」というケースもありえます。しかしそうではなかったら?
なにせ「日本にある洗剤供給能力の総力」は誰も知りません。ベーシックインカムも公共事業も! でいけるかもしれないし、無理かもしれません。
ベーシックインカムへの日本の各政党の主張
大まかな傾向として、保守と呼ばれる政党は否定的。左派と分類される政党が肯定的となっています。
- 自民党 公明党
ベーシックインカムに反対、ないし消極的 - 立憲民主党 共産党 維新の会
ベーシックインカムに積極的 - 希望の党
賛成
参照:【衆議院選挙2017】各党政策比較「ベーシック・インカムの導入」への賛否 | 日本最大の選挙・政治情報サイトの選挙ドットコム
ベーシックインカム導入後の社会保障制度の変化は?
大本のベーシックインカムは、社会保障の代替と上述しました。現在議論されているベーシックインカムは、また異なるのでしょうか?
日本においてベーシックインカムの議論は、まだまだ進んでいません。分類も不正確かつ混同しがちで、議論そのものが混乱してます。
ベーシックインカム導入が出来たとして、再考されるのが生活保護でしょう。筆者は吹田市に住んでいますが、仮に生活保護を受給すると11万8000円が受け取れるそうです。
ではここにベーシックインカムの7万円を加算すると……18万8000円です。
……ぶっちゃけていいですか? 筆者なら働きません。働くとか無理でござる!! ネトゲとアニメで廃人になるでござる!!
という冗談はワキに置いて。国からのベーシックインカムも可処分所得になり、生活保護費が減額されるのでしょうか? 詳しくはわかりませんが、見直しが必要なのではないでしょうか。
ベーシックインカムの導入事例の実態
ベーシックインカムいくつかの地域と国で導入されました。フィンランドとカナダはすでに実験を、結果を得ないままに終了しました。
他にもいくつかの地域で実験として導入されましたが、規模が小さいために「実験と呼べない」との見方もあります。
なぜなら「ベーシックインカムの実験」ではなく「給付を受け取った人がどう行動するか」の実験にしか過ぎないからです。
筆者は基本的に悲観的です。他の国でベーシックインカムがうまくいってから、導入したらよいのでは? と思います。
ベーシックインカムという「社会実験」を、十二分な検証もないままに行うことだけは大反対です。
まとめ ベーシックインカム実現は無理か可能か
インフレ制約は漸進的にベーシックインカムをすすめることで突破可能かもしれない
ベーシックインカム最大の問題点は、インフレ制約です。政府支出の拡大幅を漸進的にすることで、日本の供給能力も追いついてくると予想されます。
つまりいきなり月7万円ではなく、月に1万円や2万円から始めるというのが良いでしょう。
筆者は日本の潜在供給力を、楽観視は出来ません。なぜなら20年以上にも及び、デフレで既存され続けてきたのですから。よって「いきなり百兆円の政府支出を単年度でやって大丈夫」とは思えません。
生活保護の要件緩和では無理なのか?
- 世帯収入が最低生活費以下
- 預貯金・現金・保険・土地・家・車などの財産がない
- 援助してくれる家族・親族(親・子・配偶者・兄弟)がいない
- 病気などの理由があって働けない
- 1~4のことを書類で証明できる
上記の1.~2.と4.の要件緩和で、生活保護でも十分に相対的貧困層をケアできるのではないか? と思います。これはカリフォルニア州ストックトン市でベーシックインカム実験の結果発表 – 反逆する武士への回答でもあります。
生活保護の捕捉率が低いという問題提起もありましたが、それは「生活保護がこれから改善できない」ということを意味しません。大阪市役所が不祥事を起こしても、すなわち大阪市の解体が正しいことを意味しないのと一緒です。
また最低所得保障で言えば、JGP(雇用保証プログラム)も有力でしょう。
ベーシックインカムは可能だが、想定したものにならない可能性
インフレ制約を考慮しつつ、漸進的に進めれば「可能かもしれない」と考えます。ただしこれは「無理かもしれない」も含意してます。
- ベーシックインカムを優先して、国土への投資がはかどらない可能性
- インフレと給付金額の問題
1.は単純です。供給力の根底には、国土が存在します。国土への投資(下部構造)がなければ、上部構造もまた発展し得ません。したがって供給能力は頭打ちになる可能性があります。
2.についてはどうなのでしょう。インフレのまま10年が経てば、当初の7万円は7万円の価値ではなくなっています。ベーシックインカムも、物価スライド制などにするのでしょうか。
しかし物価スライド制では、インフレ制約を心配していたのに本末転倒です。
なぜなら「インフレが行き過ぎた→ベーシックインカムの給付額をスライドして上げなきゃ!」になるからです。
したがって「月に2万円程度の給付で限界」となる可能性があります。
ベーシックインカムに対する筆者のスタンス
ベーシックインカムが不可能だとは言いません。今後、技術革新で供給力が跳ね上がる可能性だってあります。その際には、ベーシックインカムも無理ではないかもしれません。
しかし筆者は原発問題や再エネ問題と同様に「将来の夢やまだ見ぬ技術」を根底に、現在の議論を語ることはしません。
ベーシックインカムはたしかに魅力的です。閉塞感のある現在の日本にとって、魔法の処方箋のようにも思えます。
しかしそれは「どの国もまだ、実戦的に導入してないから」なのかもしれません。例えば1990年代にEUが、魔法の処方箋として語られたように。
ベーシックインカムが大変魅力的であることを認めつつ、だからこそ批判的検討が必要であろうと思います。
今回のエントリー、私もほとんど同じ考えです。賛同いたします。
>筆者は吹田市に住んでいますが
20数年前、江坂駅周辺に済んでおりました。あの辺だと「旬菜天つちや」へたまに食べに行きます。河川敷のところにあるボクシングジムにも通っていました。
旬菜天つちや、調べたら超美味しそうです。
江坂はたまーに、自転車で遊びに行きます(笑)