ベーシックインカムの論点とは?日本の国土条件も含めた議論の必要性

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 本稿では、ベーシックインカムの本質的論点を提出します。

  1. インフレ率10%を限界値として、現在のGDPで最大規模のベーシックインカムはいくらになるか?
  2. 機能的財政論の「税の機能」は「給付の機能」としても解釈しうる。ベーシックインカムはどのような「機能と目的」を持ちうるか
  3. 災害大国である日本は、ベーシックインカムに適しているか?

 上記の3つは、ベーシックインカムであまり論じられません。大抵は形式論に陥るか、理想論が強く現実に落とし込めない議論です。
 ベーシックインカムを本気で検討するなら、決して外せない議論ばかりです。

 最初にお断りしておきます。私の議論の提出は知的好奇心であり、賛否の立場を意味するものではありません。
 では、皆様も一緒に考えていきましょう。

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ベーシックインカムの種類と定義とは

 まず最初に、ベーシックインカムの種類を厳密にお示しします。ベーシックインカム議論では、大抵この作業を見落とします。

  1. 新自由主義型ベーシックインカム
    すべての社会保障費を一元化させ、ベーシックインカムとして機械的に給付する。社会保障費=ベーシックインカム財源とする議論。
    行政のスリム化、つまり小さな政府を目的とする。
  2. 負の所得税型ベーシックインカム
    所得制限をつけて、給付するベーシックインカム。救貧法タイプであり、社会保障政策としての側面が強い。所得によって、給付金額が変わる。
    既存の社会保障+ベーシックインカムの社会保障なので、積極財政型とも解釈しうる。
  3. 積極財政型ベーシックインカム
    既存の社会保障はそのままに、すべての国民に一律で給付するタイプのベーシックインカム。金額は3~10万円とされることが多い。
    給付によって、デフレ脱却を目指すタイプのベーシックインカム。

 1.の新自由主義型ベーシックインカムは、均衡財政主義であり論外です。大抵は2.の負の所得税型ベーシックインカムか、3.の積極財政型ベーシックインカムが論じられます。

インフレ率という問題から、ベーシックインカムの最大規模を算出

 まず、インフレ率を論じてみましょう。インレ率とは一般的に、名目GDP-実質GDPで算出されます。
 高度成長期などは、インフレ率がおおよそ10%前後でした。以下の条件で、計算してみます。

  1. 現在のGDP規模(550兆円)から、単年度で支出可能額を算出する
  2. インフレ率は最大10%まで
  3. 乗数効果は2とする
  4. 消費性向は0.5とする
  5. 現代貨幣理論(MMT)に則り、政府支出は税収に縛られない

GDP550兆円×インフレ率10%=55兆円
55兆円÷消費性向0.5÷乗数効果2=社会保障として支出できる額は55兆円

 上記の計算から、社会保障費として追加支出可能額は55兆円ほどです。
※公共事業などの政府による需要創出は、消費性向が1になるため支出可能額は27.5兆円になる

 上記の計算は、過去の大体の場合の乗数効果と消費性向を使用してます。大きくは、外れていないでしょう。

55兆円をベーシックインカムに使うと、公共事業ができない

 政府支出は、インフレ率に制約されます。55兆円をベーシックインカムで支出拡大すると、公共事業が行なえません。

 まず月に10万円を、ベーシックインカムで給付するといくらになるか? を提示しておきましょう。そのほうが、計算がしやすいからです。

120,000,000人×100,000×12=144,000,000,000,000(144兆円)

 ベーシックインカムの予算規模が55兆円ですと、全国民に3.8万円/月となります。
 上記は、公共事業を追加支出しない場合です。

 仮に12兆円の公共事業を、追加支出するとします。とすると、ベーシックインカムの予算規模は、インフレ率10%を想定すれば31兆円になります。
 ベーシックインカムの給付額は、2.1万円/月となります。

 インフレ率を考慮した場合、積極財政型ベーシックインカムの現実的な金額は、2~4万円弱です。

負の所得税型ベーシックインカムの検討

 負の所得税型ベーシックインカムなら、もう少し給付額を上げられます。
 相対的貧困率がおおよそ16%弱ですから、その倍の3分の1に給付することにします。また給付条件も16歳以上(1億1000万人)としましょう。
※負の所得税なので、働けない年齢には給付する法的根拠がない

 そうすると、3700万人弱が対象となります。

  1. 経済効果(インフレ効果)は55兆円まで
  2. 公共事業費12兆円支出で、ベーシックインカムは31兆円

 この場合、3700万人は6万円強を受け取れる計算になります。

公共事業も消費税廃止もベーシックインカムもは苦しい

 消費税は現在、17兆円の税収があります。廃止すれば最低でも、17兆円分のインフレ効果になります。

  1. 消費税廃止で”最低でも”17兆円のインフレ効果
  2. 公共事業は12兆円の追加支出(社会保障費の追加支出24兆円分に相当)
  3. 消費性向ありでの支出最大規模は55兆円。公共事業のみなら、27.5兆円

 上記で計算すれば、ベーシックインカムに使用できるのは14兆円になります。
 したがって負の所得税型ベーシックインカムで、3700万人に2.8万円/月となります。積極財政型なら国民全員に、9000円/月となるでしょう。

 解決策は「ベーシックインカムを給付する層を絞る」でしょうか。

現代貨幣理論(MMT)の税機能の定義から、給付を考える

 現代貨幣理論(MMT)や機能的財政論では、「税は機能」として捉えます。
 例えば炭素税を設定すれば、CO2の排出が抑えられるでしょう。このように「社会を動かす規制の一種」として解釈します。

 消費税はもちろん「消費を抑える規制の一種、罰金」と解釈できます。

 では社会保障やベーシックインカムの、給付はどうでしょう? 給付も一種の「機能」です。「社会を望ましい方向に動かすための、給付という機能」として解釈できます。

 例えば格差の縮小。これは、直接給付で可能です。したがってベーシックインカムも、1つの機能として捉えるべきでしょう。
 例えば生活保護は、「最低限の文化的な生活」という人権を守る給付機能です。

 ベーシックインカムはよく、以下のような効用が説かれます。

  1. ベーシックインカムで自由な時間が増え、クリエイティブになれる
  2. ベーシックインカムで、幸福度が上がる

 つまり一般的には、広く給付される制度がベーシックインカムといえます。しかしこれは、インフレ制約から難しいことがわかりました。

 とすれば社会保障の1つとして、捉え直すしかありません。つまり「格差の縮小」という目的をベーシックインカムは持つと、定義し直さなければならないでしょう。

 れいわ新選組が掲げる「最低賃金のアップ、政府が補助する」という制度と、同列に「どちらが良いのか?」を論じることになります。
 また消費税廃止も、逆累進性の縮小であり同じ目的です。既存の社会保障の強化も、また同列となります。

格差縮小がベーシックインカムで実現できるか

 相対的貧困層(16%弱)への給付という形なら、ベーシックインカムは5.6万円/月が給付できます。
※消費税廃止、公共事業費12兆円を追加支出という条件

 年収が約210万円以下の層に、年間に65万円ほどの給付が可能となります。
※実際の制度設計では、もう少し複雑になるでしょう。220万円の年収の人は、受け取れない! となるとかなり不公平です。
※実際にはアンダークラス(年収平均、186万円)の層が、230万円ほどになるくらいでしょうか?

 しかし上記の制度設計では、不備が生じます。……そう、消費性向は低所得層ほど「高い」のです。おそらく0.7以上になるでしょう。
※しかもインフレ率10%という、最大値での計算ですのでかなり苦しい。

 ……生活保護制度の拡充でよくね?

災害大国日本の国土条件

 日本は災害大国です。先日も、千葉県が台風で大被害を受けたそうです。2011年には、東日本大震災もありました。
 この国土条件下で公共事業費は、「絶対に削ってはいけない、むしろ増やすべき」ものです。
 国民の命に関わるからです。

 また日本は平地が少なく、海洋国家です。しかし近代国家では、食料自給率は食料安全保障に関わる問題です。
 「国土が農業に向いていないから、農業をしなくて良い」ということにはなりません。
 したがって農林水産業を保護し、「安定して暮らせる産業」とすることが必要です。

 地政学的には、中国の脅威もあります。GDP比での軍事費は、1%ほどです。しかしせめて1.5%以上は使うべきでしょう。

 これらに併せて、消費税廃止も必須です。

  1. 国土強靭化の公共事業
  2. 農林水産業への戸別所得補償
  3. 軍事費1.5倍
  4. 消費税の廃止

 これらを大雑把に、インフレ率10%として計算してみましょう。

  1. 農林水産業の戸別所得補償で3兆円の「給付」
    農林水産業の生産額6兆円なので、その半分の3兆円ほど必要? 消費性向は0.5?
  2. 防衛費へ2.5兆円の「政府支出」
    防衛費を1.5倍程度に上げるための予算。政府消費にもなるので、消費性向1。
  3. 消費税の廃止
    最小で17兆円のインフレ効果。

 上記で「最低でも25兆円のインフレ効果」になります。とすると、公共事業に使用できるのは15兆円程度(インフレ効果30兆円)。

 すべて単年度で、可能だろうとする数字です。
 もちろん供給能力が増えていけば、政府が支出できる金額も増えていくでしょう。

 上記のように「現実的な数字に落とし込んで、ベーシックインカムを考えてみる。政策の優先順位をつけてみる」というのも、良いのではないでしょうか。

現代貨幣理論(MMT)とベーシックインカム

 機能的財政論でもそうですが、政府支出には「インフレ制約」が存在します。インフレとは「供給<需要」の状態です。

 公共投資は実物ストックを生み出します。新幹線や道路は、政府支出の時点では需要を生み出し、完成後には生産性を底上げするのです。
 また農業への戸別所得補償は、投資という面も兼ねています。

 基礎研究への投資も、イノベーションを起こす可能性が高い。

 社会保障制度も、大切です。人的資源を毀損しないという面と、人権的な観点からです。
 例えば長時間労働やワーキングプア、格差社会は社会から活力を奪います。

 格差社会の解消や、社会の疲弊。これらを解決するのは「ベーシックインカムでなければならないのか?」という議論は残ります。
 従来の社会保障の拡充や、最低賃金のアップではダメなのでしょうか?
 現代貨幣理論(MMT)では「人的資源への投資と、ノウハウの活用」という観点でJGPを推しています。

 労働分配率の観点から、最低賃金のアップという政策もあるでしょう。

 現在のところ私は、「ベーシックインカムでなければならない理由」を見つけておりません。
 本稿の最後に提示する論点は「ベーシックインカムでなければならない理由は、何なのか?」です。

 ぜひ本稿を参考に、ご議論、ご検討いただけたら幸いです。

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