20年以上緊縮財政の続く日本はなぜ脱せない
基本的に日本は1997年を起点として――細かい話をすれば1990年代からその動きはあったが――緊縮財政にかじを切りました。
橋本内閣による消費税増税が起点となっております。
なぜこの頃からの緊縮財政という経路依存性を、日本は転換できないのか? について本日は議論してみたいと思います。
以下、主要な説を箇条書し、それぞれに解説を加え、そして最後に総論的に解釈をしてみたいと思います。
- 財務省がプライマリーバランス目標に向かって、邁進しているから
- 財政法4条による縛りによって、特別国債発行が戒められているから
- グローバリズムによる規制緩和・自由貿易・緊縮財政のトリニティ
- クニノシャッキンガーによって、国民が国債は返さなければならないと認識しているから
- お金(貨幣)の本質を、ごく少数しか理解してないから
1.財務省はプライマリーバランス目標を、頑なに守ろうと邁進している
財務省のせいだ説は根強くあります。しかし何も根拠のない言説ではありません。この説は主に藤井聡京大教授なども唱えておられます。
【藤井聡】大蔵省から「財務省」に転換した時、平成デフレーションは決定づけられた | 「新」経世済民新聞によればこうです。
詳細は上記リンクからお読みいただくとしまして、端的にいえば「大蔵省設置法は業務記載だけだが、財務省が2001年に設置された際の財務省設置法には財務省は、健全な財政の確保(中略)を任務とする」と書かれている、という法律上の事実をまずは論じておられます。
そして実際に財務省官僚は法律を遵守する形で、緊縮財政とプライマリーバランス目標に励んでいるというのが要旨です。以下、藤井聡京大教授のグラフ。
上記では生真面目に、「法律通りにプライマリーバランスをゼロにする」という路線を、財務省が堅持していることが伺えます。
財務省設置法が財務省を「財政健全化」に駆り立て、しかるに緊縮財政が行われているというのは、事実だったのです。
解決法としてはプライマリーバランス目標の破棄と、財務省設置法の改正というところでしょう。
2.財政法4条による縛りによって、特別国債発行が戒められているから
財政法4条(wiki)とは、日本の敗戦後にできた法律です。引用します。
1.国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
2.前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
3.第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
端的にいえば国債や借金以外の歳入、つまり税で国を運営しなさいということです。国債を発行する場合は、単年度ごとに国会の議決を得ないと駄目、という話です。
この話は佐藤健志さんが取り上げておりまして、上述した2001年の財務省設置法もこの法律から来ている、と言えます。
財政法4条の設置は、当時の関わった人に聞くと「国債が好き勝手に発行できない=戦争ができないようにする」という平和”主義”な目的があったとのこと。
つまり弱兵路線を、敗戦後のショックで選択したというわけです。取りも直さず、それは貧国を将来的に意味すると知っていたのかどうか? はわかりませんが。
詳しくは「平和主義は貧困への道」をご参照ください。
ここまででまず、法律上の問題点が明らかになりました。法治国家である以上、特に官僚は政策において法律を優先するわけで、緊縮財政を転換するには「国会議員か内閣が立法して、変える」という必要があります。
3.グローバリズムによる規制緩和・自由貿易・緊縮財政のトリニティ
これを最初に唱えたのは三橋貴明さんだったかと思います。グローバリズムのトリニティ(三位一体) | 三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」Powered by Amebaによれば以下のように定義できるそうです。
自由貿易、規制緩和、緊縮財政の政策三点セットを、わたくしは「グローバリズムのトリニティ(三位一体)」と呼んでいます。
端的に説明しますと、グローバリズムとは新自由主義に則って、小さな政府を推進します。緊縮財政です。
緊縮財政である以上、政府支出は少なくしながらなおかつ、民間へのインフラ供給をしなければなりません。民営化(規制緩和)です。
今まで政府がやっていた事業を、民間がやると言ってもノウハウがありませんので、外資にさせるしかありません。自由貿易です。
グローバリズムに押されて緊縮財政がなされたのか、それとも緊縮財政になったからグローバリズムのトリニティを推進したのか? 前後関係は私には定かではありませんが、おそらく前者であろうと思います。
1991年のバブル崩壊、ソビエト崩壊とそれに伴うアメリカの対日戦略の変更でグローバリズム路線を要求され、バブル崩壊で自身を失った中で容易に受け入れたというストーリーだと、しっくりと解釈できるからです。
グローバリズムのトリニティは「緊縮財政を進めると、他2つも不可避に進められる」という論で、緊縮財政のスパイラルの説明は可能ですが、緊縮財政の転換に何が必要か? をあぶり出す論ではないと思います。
当の三橋貴明さん自身も、緊縮財政の原因としてグローバリズムのトリニティは論じてなかったりします。
4.クニノシャッキンガーによって、国民が国債は返さなければならないと認識しているから
マスメディア、新聞、有識者もどきの財政破綻論者は「クニノシャッキンガー」が大好きです。これによって「国債(内債、自国通貨建て)は返済の必要がない」「その国債は、一体誰が貸してるんだ?」などの常識的な知識が国民に広まらず、それによって国民が「クニノシャッキンガー」から抜けられない、という説です。
確かに一理あり、「クニノシャッキンガープロパガンダ」や「緊縮財政・全体主義」などと私は表現しております。
積極財政論者でも、緊縮財政の転換が国民の認識の転換によってなされる! と主張する人は多いでしょう。私もその1人でもあります。
ただし――上述しましたとおり、財政法4条、財務省設置法案、プライマリーバランス目標といった法律的な壁は存在しています。
そして反緊縮運動を標榜する第二次薔薇マーク認定予定候補者を発表しました。 | 薔薇マークキャンペーンにおいても、42名ほどしか認定予定がない、という事実はなかなか厳しいものがあります。
そもそも、積極財政派の国会議員が少なすぎるというわけ。積極財政にはいくつもの壁が存在する、という現実を積極財政派はしっかりと受け止めておく必要があるでしょう。
5.お金(貨幣)の本質を、ごく少数しか理解してないから
これは現代貨幣理論(MMT)の議論になりますが、主流派経済学者――新古典派経済学――は貨幣をそもそも理解していません。間違った理解の仕方、現実離れした理解の仕方をしている、と表現したほうが良いかも知れません。
したがって例えば大学の経済学部などからして、現実的かつ実践的な経済学が教えられていないという教育の問題は非常に大きいと言わざるをえません。
有識者も主流派経済学を学んでいましたので、容易に主流派経済学の「小さな政府」に賛意を示すわけです。
現代貨幣理論については「初心者も分かる通貨=負債の概念を理解する-現代貨幣理論(MMT)の基本」などをご参照ください。
現代貨幣理論では「貨幣=負債」として論じ、「政府の自国通貨(円)は返済の必要のない負債」と捉えます。したがって通貨に支えられる国債も「返済の必要はない」と論じ、通貨や国債による支出増大を制約するのはインフレのみ、と論じます。
とすれば「国の”借金”が~」と唱えるメディア、有識者等々への反論も、非常に強力になる可能性が現代貨幣理論(MMT)には存在します。
私はそのような意味で、「国債はインフレに制約される」論の上位互換と考えています。
現代貨幣理論(MMT モダンマネタリーセオリー)が広まれば、アメリカのように「大統領候補と目される議員」などが、日本でも出てくるのではないか? と思います。
緊縮財政の転換 総論
- 財務省がプライマリーバランス目標に向かって、邁進しているから
- 財政法4条による縛りによって、特別国債発行が戒められているから
- グローバリズムによる規制緩和・自由貿易・緊縮財政のトリニティ
- クニノシャッキンガーによって、国民が国債は返さなければならないと認識しているから
- お金(貨幣)の本質を、ごく少数しか理解してないから
上記5つの説を上げて論じてきました。さらに他にも経路依存性などの議論も存在しますが、本日は省きます。
1.と2.で法律上の壁――財政法4兆、財務省設置法、プライマリーバランス目標――を示し、4.によってそれをどうにかするには「クニノシャッキンガー」という国民の認識の転換が必要だと論じました。
「クニノシャッキンガー」の国民認識の転換には5.の現代貨幣理論は非常に有用ではないか? と判断しております。
緊縮財政の転換にはじつに様々な議論が必要になるのだろう、と解説差し上げました。