日本は長らく、緊縮財政が続いています。失われた20年と言われ、21世紀に入ってGDPはほとんど成長していません。
それでも緊縮財政を続けているのですから、何らかのメリットが緊縮財政にあるのでは? と考えてみるのはごく自然なことです。緊縮財政にメリットはあるのでしょうか?
じつはあります。富裕層には。
金持ちたちが日本の緊縮財政を黙認してきた、ないし進めてきたのか!? この記事を読み終わったあなたは、そんな風に思うかもしれませんよ。
緊縮財政とは
緊縮財政について、簡単に定義しておきましょう。
緊縮財政とは、小さな政府を志向して実施する財政政策です。小さな政府とは公務員数を減らしたり、公共事業など政府の市場への介入を極力避けたりすることです。
財政赤字を許容せず、プライマリーバランスを重視します。
均衡財政が、小さな政府が目指すところです。
また緊縮財政には、もうひとつの定義もあります。経済状況に対して、政府支出が過少なケースです。日本は長年デフレないし、デフレギリギリです。これに対してデフレ脱却できない程度の政府支出は、過少と評価されます。
日本の場合は前者の均衡財政主義と、後者の経済状況への政府支出過少が合わさっている状態です。
機能的財政論での緊縮・積極財政の位置づけ
緊縮財政のメリットを解説する前に、機能的財政論における緊縮・積極財政の位置づけについて触れておきたいと思います。
触れておくことで「いかなるときも緊縮財政」という異常性が理解できるからです。
機能的財政論とは要約すると「景気が悪いときには積極財政、景気が良いときには緊縮財政をしなさいよ」という理論です。
機能的財政論にとって政府支出とは、国民経済をバランスするための機能のひとつにしか過ぎません。つまり積極財政が善で緊縮財政が悪だとか、もしくはその反対だとか、そういう話ではないのです。
経済状況によって、とるべき経済政策は変化する。これが機能的財政論のスタンスです。なぜ機能的財政論に触れたのか? 均衡財政主義や新自由主義は、どのような経済状況であれ小さな政府を優先するからです。
痩せている人は栄養のあるものを食べないといけませんし、太っている人はダイエットしなければいけません。状況によって積極か緊縮か? 変わるのは当然です。
しかし新自由主義は、いついかなるときでも「緊縮財政こそが善」だというわけです。
この異常性は、新自由主義や均衡財政主義がイデオロギーだからに他なりません。このことを明らかにするために、機能的財政論に触れました。
緊縮財政のメリットとは?
さて、緊縮財政のメリットとは何でしょうか? 日本は緊縮財政を続けて、GDPが一向に成長しませんでした。一見すると緊縮財政は、デメリットしかないように思えます。
しかしそれは「全体にとってデメリットであった」だけです。一部にとっては、メリットがあるかもしれません。
緊縮財政を進めると必然的に、規制緩和と自由貿易が同時進行します。この現象についてはグローバリズムのトリニティ(三位一体) | 三橋貴明を参照してください。
特に規制緩和は一部の層に、とてつもないメリットをもたらします。そう、富裕層です。今まで公営で行われていた事業が民営化されると、大企業や資本がその市場に参入します。新しい金儲けのネタだからですよね。
どの分野を規制緩和するのか? その決定には民間議員と言われる、大企業の社長や経団連関係、あの悪名をはせた竹中平蔵氏なども関わってきます。
民間議員が自分たちの商売抜きに、規制緩和する分野を決定するでしょうか?
こうしてレントシーキングが行われます。
緊縮財政そのものではなく、緊縮財政とセットで行われる規制緩和は、富裕層にとって有利なことばかりです。
加えて緊縮財政でデフレに陥っても、富裕層にとってダメージはありません。むしろ持っている現金資産の価値が上がるので、歓迎するべき事態とすら捉えられます。
全体的な経済成長が達成できなくても、富裕層にとっては自分たちの儲けが上がればそれで良いわけです。
とすれば緊縮財政、デフレ、規制緩和の状況は、富裕層にはメリットばかりではないですか。
緊縮財政のメリットとは、富裕層が儲かること! 有利になること! だったのです。
まとめ
緊縮財政が続いて、すでに20年以上が経過しています。21世紀に入ってOECD諸国は、少なくとも1.3倍程度の経済成長を達成しました。では日本は? 1倍! です。
そりゃ安西先生も「まるで成長していない……」と絶句しますって。
日本は「国の借金が!」との言説で、積極財政を封じられてきました。しかし現在、日本に財政問題は存在しないとの言説も拡大しています。
拡大しているにもかかわらず、多くの日本国民が緊縮財政を支持しています。消費税増税を「しょうがない」と容認したのは、世論なのです。
多くの日本国民にとって、緊縮財政は何のメリットもありません。緊縮財政のメリットを受けられるのは、富裕層だけです。
この事実をどのように考え、どのように捉えるか? それはあなた次第です。
どうしてこういうデタラメが蔓延するかな?
日本は緊縮じゃなくて、税収以上に金を使う放漫財政。
デフレじゃなくて、3年以上物価が上昇するインフレ。
富裕層は株や現物資産を持つのでインフレは怖くない。
借金漬けの政府が助かり、貯金と固定給の庶民が一番被害を受ける。
何もかもアベコベ。
>日本は緊縮じゃなくて、税収以上に金を使う放漫財政
添付のグラフ「1980-2018 世界の基礎的財政収支赤字国の割合」は、IMFのデータベースより黒字か赤字かで分類、手動で一つひとつカウントして自作しました。見たとおり、税収以上に歳出が多いケースは国家運営の「常態」だと思うのですが、これら大多数の国すべてを「放漫財政」と呼ぶべきだとお考えでしょうか?
ちなみに、日本はここ20年で事実上、世界で最もインフレ率が低い国です。そして「インフレ率と政府総支出増加率と名目GDP成長率との相関は極めて高い」ことも付言しておきます。
要するに日本は、インフレ率が世界で最も低く、それは政府総支出の増加率が世界一低いことが原因で、当然の結果として名目GDP成長率も世界一低いという、北朝鮮であれば政策担当者は銃殺刑にされているのではないかと思えるほど、人類史に残る大失敗を現在も継続しているのです。
幸福賢者さんに返信したあとで見たのですが……これまた気合いの入った図です。
「税収以内でしか政府支出をしない国」って、自国通貨建て国債を発行している国でどこかありました?
私の記憶が確かなら、ないはずですが。
財政黒字国は、中東の産油国とか、特殊な事情の国が多いですかね。
>多くの日本国民にとって、緊縮財政は何のメリットもありません。緊縮財政のメリットを受けられるのは、富裕層だけです。
この場合の富裕層とは具体的に何を指しますか?例えば、
A)金融資産がかなりあり、かつ給与所得や配当所得などを合わせた年間所得が多い層。
B) 金融資産はかなり少ないが、年間の給与所得や事業所得が多い層。
C)金融資産がかなりあるが、年間所得がないか極めて少ない層。
のうち、A)は当然含まれますが、B)とC)は?
当方の場合はC)ですが、金融資産のほとんどが超々低金利の預貯金と個人向け国債。インフレに強い株式や金、投資用の不動産はゼロ。
インフレになれば金融資産の価値が目減りするので、個人的には緊縮財政が続いたほうが得だということですか?
現金資産、国債などインフレに強くない金融資産なら、デフレの方が基本的にお得ですね~。
B)の人はインフレの方が得かと~。