国策としてのインバウンド-メリット・デメリットを現状分析から探る

 安倍政権の目玉政策の1つがインバウンドです。訪日外国人観光客の増加が報道され、毎年のように前年度を更新しています。しかしインバウンド効果が上がるのはいいことだ、と断言できない方も多いのではないでしょうか?

 なぜならそれは「……なんとなく不安。本当にこれでいいの?」という直感があるからではないですか?

 日本の国策としてみた場合のインバウンドを、現状から分析していきます。

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インバウンドとはどんな意味?

 インバウンドとは「外国人が訪れる旅行のこと」です。日本では「訪日外国人旅行」をインバウンドといいます。

 英語ではinboundと表記します。inは内向き、boundは交通機関の「~行きの」と訳されます。「本国行きの」「内向きの」という意味になります。
 もともとはインバウンド・ツーイング(inbound touring)でしたが、略されてインバウンドといわれます。

 インバウンドは一般的には訪日外国人旅行を指しますが、一般企業でのインバウンド業務や、ITでのインバウンドトラフィックという使用法もあります。

日本のインバウンドの現状

  1. 2018年のインバウンドの経済効果は4兆5千億円。2019年は5兆円を超えるかもしれないといわれている
  2. 訪日外国人観光客を国別に見ると中国、韓国、台湾、香港、アメリカの順になる。2018年の訪日外国人観光客は3119万人。
  3. 2016年時点でのインバウンドの目標は、2020年に4000万人の訪日と8兆円の経済効果

インバウンドの経済効果

 官公庁が発表しているデータで訪日外国人観光客は、2010年で約860万人でした。2018年で3119万人ですから、およそ4倍弱に増えたことになります。消費金額(経済効果)も2010年が1兆1500億円に対して、2018年は約4兆5千億円です。
参照:観光庁資料より

 日本のGDPが550兆円です。GDPのおよそ0.8%をインバウンドが占めるまでになった、といえます。

 なお外国人観光客の、1人あたりの旅行支出額は約15万円です。

訪日外国人観光客の国別ランキング

 訪日外国人観光客の国別では、中国と韓国が1位と2位です。両国を合わせると訪日外国人観光客のおよそ50%にあたる、1600万人になります。
参照:【2019年版】訪日外国人のランキングまとめ。インバウンドの最新予想も紹介します | インバウンドNOW

 韓国との関係悪化で対馬の観光客激減に際して「インバウンドは韓国だけではない! 韓国に頼っているのは一部の地域だけ」という言説がありました。しかし訪日外国人観光客数で見ると、真っ赤な嘘でした。

 中韓の下には台湾、香港、アメリカ、タイと続いています。

将来予測されている経済効果と目標は

 2016年時点での目標は、2020年にはインバウンドで4000万人を呼び込み、8兆円の経済効果を狙うというものです。
 上記の目標は1人あたりの旅行支出額を、20万円と見積もっています。しかしデータでは15万円強で落ち着いており、20万円まで伸びるのは難しいでしょう。

 一方でインバウンド4000万人という数字は、実現する可能性もあります。昨今の世界情勢の不透明さや、日韓関係の影響がどのように推移するか? 注目されます。

インバウンドのメリットとは?

  1. 経済効果による地域活性化
  2. 雇用の創出
  3. 文化財などの観光資源の保護が進む可能性

 インバウンドのメリットは、極めて単純です。訪日外国人観光客が日本に落とす、旅行支出による経済効果です。
 上記によって地域経済の活性化、雇用の創出、観光資源としての文化財の保護、財政問題の改善などが期待されます。
※日本に財政問題は存在しませんが、地方自治体には存在します

インバウンドのデメリットとは?

  1. 観光公害(オーバーツーリズム)の発生
  2. 地域経済のインバウンド・外需依存化
  3. 外国人受けしない文化や文化財はどうなる?

 一見してインバウンドには、デメリットが見当たらないように思えます。移民問題と異なり、観光客はあくまで一時的な滞在です。
 しかし全体として俯瞰すると、深刻な変化を日本にもたらす可能性が高いでしょう。

観光公害(オーバーツーリズム)の発生

 観光公害について詳しくは、上記を参照ください。
 観光公害は、非常に深刻な問題です。

  1. 観光地はホテルが進出し、住宅地や家賃が高騰
  2. 郊外に住人は引っ越し、観光地から住人向けの店舗やサービスがなくなる
  3. 観光地の都市機能が衰退し、地域活性化のつもりが逆の結果へ……

 観光地であるベネチアなどで実際に起こっていることが、日本でも発生し始めています。

地域経済のインバウンド・外需依存化

 日韓関係の悪化で、対馬の観光業は大打撃を受けたと報じられました。一部のおバカな有識者は「韓国はインバウンドの一部。大した影響はない。対馬などの一部の地域が困っているだけ」としたり顔で解説していました。

 訪日外国人観光客で韓国は中国に次ぐ2位で、全体の20数%を占めています。インバウンドを支持するのなら、日韓関係の良好な維持も必要不可欠です。

 対馬の例に見られるように、インバウンドを当てにした観光業は外需依存に陥ります。観光業がメインの地域ほど、外需に依存することになります。
 これは少なからず、世論や民意に影響を与えます。「日中関係が悪化したら、我々の生活が苦しくなるじゃないか!」というわけ。

外国人受けしない文化や文化財はどうなる?

 メリットの部分で「観光資源としての文化財の保護」を挙げましたが、同時にこれはデメリットでもあります。なぜなら「観光資源にならない文化財や文化は、保護されない可能性がある」からです。

 例えば橋下徹が大阪市長の2012年、文楽などの文化予算が削減されました。理由は「文楽はお金を稼げないから」です。同じことが「観光資源にならない文化財」に起こらないと、誰がいえるんでしょう?

国策としてのインバウンドの評価

 そもそもなぜインバウンドなのでしょう? インバウンドという発想が生まれた背景には、均衡財政主義があります。
 均衡財政のプライマリーバランス主義によって、日本は積極財政を行ってきませんでした。国家主導で内需経済の拡大を、しようとせずに自縄自縛に陥っています。

 そこで出てくるのが「内需拡大が無理なら、外需から取ってくる」という発想、すなわちインバウンドです。インバウンドとは、均衡財政主義の自縄自縛に陥ったがためのウルトラC(奇策)です。

 観光公害はもとより、地域経済のインバウンド・外需依存は非常に問題です。生活が外需に握られるとは、自律的な判断が不可能になることと同義です。

なぜインバウンドに、漠然とした不安を感じるか

 なぜインバウンドなのか? 日本人が国内旅行を楽しめるように、日本人の実質所得を挙げていくのが先ではないのか? 内需立国こそが健全ではないだろうか。

 上記のような疑義が、冒頭に上げた不安となっているのではないでしょうか。

 なぜならそれは「……なんとなく不安。本当にこれでいいの?」という直感があるからではないですか?

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