グローバリズムの意味と構造から、米中貿易戦争をわかりやすく解説

 米中貿易戦争は留まるところを知りません。先日も中国、米国関税第4弾に報復 750億ドル分 (写真=AP):日本経済新聞が報道されました。

 一般的なイメージでは、トランプの保護主義とそれに反発する中国、という構図で語られることが多いでしょう。もしくはもう少し踏み込んで、アメリカと中国の覇権争いです。

 結論から言えば、米中貿易戦争はグローバリズムの必然でした。
 グローバリズムの”本当の意味と構造”を解説し、米中貿易戦争を巨視的視点から見てみます。

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グローバリズムとは何なのか?

 2008年以前、日本では「グローバリズムは避けられない潮流」という主張が、多く見られました。それも有識者や知識人から!

 彼らの主張はこうです。「グローバリズムの時代が幕開けた。歴史の必然としてグローバリズムが進み、やがて世界は経済的に1つになる。その後に、世界政府だってありうる」
 要約すれば「人間社会は発展し続ける。したがって、その帰結は最終的に世界政府になるだろう」という価値観です。

 この主張は実に、共産主義の主張と似ています。共産主義も「資本主義社会が成熟し、やがて共産主義へと同時革命が起きる」と主張していました。
 グローバリズムとは、一種の革命といえます。

 グローバリズムを日本語訳に直せば「地球主義」です。左派が言う「地球市民」と実に似ています。

 グローバリズムとは、理論的には新古典派経済学の帰結です。「自由競争に市場を委ねれば、うまくいくはず」という主張です。
 これは市場を国境の壁で規制することは、自由競争を阻害することになります。したがって、国境の壁を低くし、自由貿易を進め、世界の単一市場化をすすめるのが「グローバリズム」です。

グローバリズムが世界にもたらした経済の低成長

 新古典派経済学――以下、主流派経済学と表記――は、自由競争によって豊かになれる”はず”と主張しました。
 実際はどうだったのでしょう?

 グローバリズムが世界を滅ぼす (文春新書)のハジュン・チャンの統計では、1960年~1980年と、1980年~2010年の世界経済の成長率を比較します。
 前者と比較して、後者の成長率は半減している! という衝撃的な統計結果です。
 グローバリズムが世界に、経済の停滞をもたらしたのです。

 格差や富の集中も、グローバリズムでは問題になっています。トマ・ピケティの統計よれば、経済成長率よりも、資本収益率が高くなっているそうです。
 要するに「大資本が投資して儲かる額のほうが、経済成長率より高い」のです。
 したがって企業は、人件費より投資にお金を回します。

 富める者はますます富み、格差は拡大し続けるというわけ。

グローバリズムの構造を誰が支えたのか?

 グローバリズムは、イデオロギーです。必然的な帰結でも、自然現象でもありません。
 グローバリズムの構造は、一体誰が作り出し、支えたのでしょう?

 答えはアメリカです。

 グローバリズムの実現には、世界的な秩序が必要です。秩序とは、極めて政治的な話になります。
 その政治のパワーをもっていたのは、他ならぬアメリカでした。
 パクスアメリカーナ(アメリカによる平和)といわれる、アメリカ一極のパワーバランスが、グローバリズムを実現し、支えたのです。

 したがってグローバリズムは、極めてアメリカ的になります。アメリカナイズの押し付け。これがグローバリズムの正体です。

 実際に日本では、1990年代から「グローバルスタンダード」という名前の、アメリカナイズを進めてきました。
 日本式経営を投げ出した、というのは非常に象徴的な現象です。

現在の米中貿易戦争はなぜ起きたのか?

 米中貿易戦争を、巨視的視点で眺めてみましょう。

 2000年代にアメリカは、中国への協調路線を取りました。グローバル市場に中国を参加させれば、自由競争で中国国民も自由を知り、やがて民主化するのではないか? という理論です。
 これは現実的には、間違っていました。

 経済の自由化と、政治体制の民主化には「何の関係もなかった」からです。

 結果は現状の通り。中国の台頭を許し、そしてアメリカは相対的に国力を凋落させたのです。

 グローバリズムがアメリカナイズである以上、独立国家である中国やロシアの反発は当然でした。そしてグローバリズムによってアメリカが凋落した以上、中露の「アメリカへの挑戦」もまた必然です。

 アメリカナイズ、アメリカによる秩序とは、アメリカへの従属に他なりません。常識的な主権国家であれば、警戒します。

なぜアメリカは中国に、米中貿易戦争を仕掛けたのか

 アメリカは2000年代以降、2つの矛盾を両立しなければなりませんでした。

  1. 覇権国家足らんとすると、グローバリズムに与してアメリカが凋落
  2. グローバリズムを拒否すると、覇権国家アメリカのプレゼンスがなくなる

 覇権国家としては、グローバリズムという「アメリカの秩序」を各国に押し付けなければなりません。
 押し付けた結果、中国の台頭を招いたのは上述したとおりです。

 トランプは保護主義にかじを切りました。当然、自国第一主義を覇権国家が取れば、各国からの反発を招きます。
 グローバリズムの建前である「公平な自由競争」ではなくなるからです。

 つまり……アメリカが自国の凋落を止めようとすれば、アメリカによる世界秩序が凋落する。アメリカによる世界秩序を維持しようとすれば、自国が凋落するのです。
 現在のアメリカは、2.を選択しました。その結果が、保護主義と米中貿易戦争です。

 グローバリズムがアメリカの一極支配に支えられていた以上、グローバリズムは崩壊を始めるのです。

グローバリズムと世界はこれから、どうなるのか?

 グローバリズムは、崩壊し始めました。これは、アメリカの一極支配の崩壊ともいえます。

 グローバリズムとは、経済の自然な帰結などではなく、極めて国際政治的なパワーバランスの話でした。
 したがって「これから先の世界」を予測するには、国際政治や地政学、パワーバランスと覇権の話にならざるを得ません。

 地政学の祖といわれるマッキンダーによれば、多極化すると予言されます。地域覇権国家の台頭です。

  • アメリカ大陸はアメリカが支配
  • アジアは中国が支配
  • EUはドイツが支配
  • アフリカや中東は不透明

 日本が属するアジアに、焦点を当ててみましょう。中国がアジアの覇権国家になるのは、ほぼ間違いありません。
 日本は、中国による経済秩序を「押し付けられる」ことになるでしょう。
 それに対抗するだけの、意志も能力も日本にはありません。

 唯一、中国に対抗できるのはインドでしょう。2050年にインドは、世界第2位の経済大国になると予想されています。

PwC、調査レポート「2050年の世界」を発表し、主要国のGDPを予測‐2020年以降、中国の成長は大幅に鈍化するものの、世界の経済力の新興国へのシフトは止まらず | PwC Japanグループ

 上記の予測によれば、日本は2050年に世界第7位の経済規模に「凋落する」と予想されています。
 中国とは10倍近い国力差をつけられるだろう、とのこと。

 しかしこの予測も、楽観的にすぎるかもしれません。1990年代からすでに「失われた30年」になっています。
 あと30年、失われないと誰が断言できるのでしょう。その場合、散々に罵ってきた韓国より下位になる可能性すら存在します。

日本が凋落しない処方箋は、存在するのか?

 政治的には極めて困難ですが、一応は存在します。日本が凋落しないための処方箋は。

 現代貨幣理論(MMT)がいうように、デフレこそが問題です。したがって、積極財政でデフレを克服しなければなりません。
 せめて4%程度のインフレが、日本には必要になります。
 個人的には7~8%程度までのインフレは、安全な許容範囲だと思います。

 高度経済成長期の経済成長率によれば、名目経済成長率で20%すら達成してました。このときのインフレ率(名目経済成長率-実質経済成長率)は、おおよそ10%程度です。
※1974年に、インフレ率20%という危険な状態が一度あっただけです。

 では積極財政が、なぜ政治的に困難なのか?

  1. 緊縮財政・全体主義に日本が染まっているから
  2. アメリカの属国なので、アメリカの横槍で頓挫するから
  3. 日本国民に、独立国家たらんとする意志も能力もないから

 論理的に上記は、3.が「土台」であり、結果として1.となります。大国に庇護されることに慣れて、独立不羈どくりつふきの精神が日本にはありません。
 結果として、自らの経済を自らで興隆させる「意志」も存在しない。したがって、緊縮財政やプライマリーバランスという「逃げ道」を作り、現実逃避しているといえます。

 意志がなければ、政治的に実現が不可能なのは「当たり前」です。
 グローバリズムという幻想にしがみつき、凋落していくさまが目に見えるようです。

 米中貿易戦争がどうして起きたのか? グローバリズムとは何だったのか? を巨視的視点で眺めるとき、日本の主体性の無さと現実逃避が浮かび上がります。

 まずは現実を直視することが、いちばん大事なのだと思います。

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4 Comments
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阿吽
5 年 前

>まずは現実を直視することが、いちばん大事なのだと思います。

全てはここに帰結しますね・・。

保守も、リベラル、も認識しなければならないんですよ・・。

日本国憲法の序文に書かれた、『平和を愛する諸国民』なんてものは、アメリカも含めて日本の周りには《存在しない》という、この確固たる現実を・・!

まあ、平和を愛する国民とやらだけは、皮肉なことに今この場に存在しますけど・・・。

ライオン(韓国・北朝鮮・中国・ロシア・アメリカ)の檻に鹿を投げ込めば、どうなるかなんて全ての人間が認識するでしょう・・。

せめて我々はライオンにならずとも、せめてサイやカバになって、食われないように最低限の自衛をしなければいけないんです。

今や、74年前とは日本の周辺諸国は状況も含めて違うんです。

特に隣には核保有の独裁国家が3つもそろってるんです。

いいかげん、74年前じゃなくて、今の日本人は今のこの世界の、この現実を、見るべきでしょうね・・・。

阿吽
5 年 前

ところで・・、ちょっとふと思いついたので・・、ちょっとヤンさんのお考えを聞きたいなと思うのですが・・・。

ヤンさんは、アメリカは、東アジアから米軍を完全に撤退させるとお考えかと思いますが・・、その場合のパターンとして、グアムの基地はアメリカはどうされると思いますか・・?

グアムはハワイから見ても、だいぶアジア側に向かって離れていていますし・・、アジアにかなり近い立地であるグアムからもアメリカ軍は撤退して、アメリカ軍の最前線はハワイになるというふうにお考えですか?

それとも、グアムは周辺に対する牽制レベルでまだ基地は残されるでしょうか・・?

このへん、ヤンさんはどうお考えですか・・?

すみません、余計なことではありますが、失礼致します。m(__)m

阿吽
Reply to  高橋 聡
5 年 前

なるほどです。

お考えをお聞かせ頂き、ありがとうございます。m(__)m