保守主義という言葉で思い浮かぶイメージは「勇敢」「マッチョ」「復古的」「前時代的」などではないでしょうか。日本のいわゆる保守と呼ばれる人たちは、まさに上記のイメージです。
しかし、本来の保守主義は異なります。
日本では、いわゆる保守が安倍政権を支持していました。安倍政権は各種規制緩和、構造改革など新自由主義的な政策を推し進めた政権です。
保守主義と新自由主義は元来、相反する思想です。日本のいわゆる保守は全く保守主義ではありませんでした。
今回の記事では保守主義の基本の「き」を解説します。また、わかりやすいよう、いくつかの政策に対して保守主義がどのような態度を取るのか議論します。
保守主義とは
保守主義とは従来の伝統や習慣、制度、考え方を重視する姿勢です。これは理性に限界があると考え、理性よりも伝統や習慣などの常識に答えを求めるからです。
保守主義は革命などの急激な改革に反対、警戒します。特に理性によって正しいとされる改革全般に常識や伝統、自生的な秩序の観点から警戒します。
理性を信じる進歩主義や合理主義と保守主義は相反します。
進歩主義とは、社会の矛盾を社会制度の変革で解決できるとする思想です。また、進歩主義は時間とともに社会はより優れたものになっていくと考えます。
新しいもの=進歩的なもの、いいものと考えるのが進歩主義です。
合理主義は、理性によって正解が常に導けるとする思想です。理性で効率的な方法や秩序、制度を目指すのが合理主義です。
これらの合理主義、進歩主義と保守主義は相容れません。保守主義は理性ではなく、常識を重視するからです。
保守主義の芽生えと原点
保守主義はもともと、フランス革命で芽生えました。フランス革命を痛烈に批判したエドマンド・バークが保守主義の父と呼ばれています。
バークはフランス革命の進歩的、急進的な動きに反発しました。
これが保守主義の始まりです。
「何らかの進歩的、急進的な動き」があって、それに反発するのが保守主義です。進歩的、急進的な動きが多数になったときに保守主義者は警戒します。
この構造からわかるとおり、保守主義者は多くの場合は少数派に立たされます。
フランス革命を批判したバーグの言説は「フランス革命の省察」として出版されています。
また、保守主義はイギリスの産業革命のとき、労働者保護を訴える社会主義を支持しました。当時のイギリスは労働法の整備が不十分で、低賃金の長時間労働が蔓延っていたからです。
くわえて、野放図な資本主義が旧来の価値観を破壊していくことを恐れました。
現代日本のいわゆる保守が、新自由主義と手を結んでいるのとは大違いですね。
保守は主義と呼べるのか
主義(ism)とはイデオロギーのことです。イデオロギーとは「観念の体系」のことで、わかりやすく言えば根本的な考え方のフレームワークです。
イデオロギーには原則があります。原則とは、いかなるときや場所でも正しいことです。例えば、進歩主義の場合は「社会は社会制度の変革で良くなっていく」が原則の1つです。
ところが、保守主義には原則がありません。もしくは、曖昧です。
保守主義の原則は「伝統や習慣、制度などの常識を”重視”すること」です。理性を否定してはいませんが、理性と常識のバランスは常識で判断します。
常識とは国や地域で異なりますので原則とは言えません。
くわえて、常識同士が矛盾し合う場合もあります。
保守主義では矛盾は矛盾として飲み込みます。解決できない矛盾は解決しようとしません。
このように、保守主義は原則があやふやで曖昧です。
日本の保守の大家、福田恆存は「保守は態度」だと言いました。福田恆存も保守を「保守主義」とすることに違和感を覚えたのです。
保守主義が取るであろう各種政策・イデオロギーへの態度
保守主義とは原則が曖昧でわかりづらい思想です。いくつかの政策に保守主義が取るであろう態度を解説すれば、保守主義への理解も深まるかもしれません。
規制緩和・自由貿易・緊縮財政と新自由主義
規制緩和・自由貿易・緊縮財政の3つは、新自由主義やグローバリズムで推進される政策です。新自由主義とは小さな政府を目指し、市場競争を重視するイデオロギーです。文化や伝統は市場競争のテーブルにのせられ、値がつかないものは淘汰されます。
新自由主義とは文化や伝統を破壊します。文化や伝統を重視する保守主義とは相容れません。
ベーシックインカム
ベーシックインカムとは、一定の金額を全国民一律に毎月給付する政策です。日本語では最低生活保障と呼ばれます。
ベーシックインカムに対して保守主義者は中立でしょう。
日本の「労働が美徳」という観念が破壊される恐れもありますが、現行の社会保障制度ですくい上げられない貧困の蔓延も無視できません。
しかし、ベーシックインカムより穏当な生活保護の拡充をまずは提案します。
国土強靱化
国土強靱化とは2030年までに南海トラフ地震が起こる確率は高いとし、それまでに防災や減災の対策をする政策です。毎年数兆円程度が国土強靱化予算として盛り込まれています。
国土強靱化やインフラ整備は国土の保守、メンテナンスです。保守主義が反対する理由がありません。
憲法改正
憲法9条改正は日本で大きな議題となっています。リベラルが護憲を主張し、いわゆる保守が改憲を主張しています。この構図はあべこべで、本来ならリベラルが改憲、保守が護憲を主張するはずです。
閑話休題。
保守主義は国家という枠組みを大事にします。国家を守る安全保障も「国家の保守、メンテナンス」と言えます。その立場から保守主義は改憲に賛成するでしょう。
ただし、この賛成は慎重な賛成です。慎重に慎重を重ねて改憲するべき、と保守主義なら考えます。
ジェンダーフリー
ジェンダーとは男女の社会的役割の差異を指します。簡単に言えば「お母さんは家事、お父さんは仕事」という役割分担がジェンダーです。
このジェンダーをなくしていこうとするのがジェンダーフリーです。
「お母さんが仕事で、お父さんが家事でもいいじゃない」というわけ。
日本の保守主義はジェンダーフリーに懐疑的でしょう。ジェンダーフリーとは進歩的、合理的な考え方にほかなりません。保守主義はジェンダーフリーに警戒します。
まとめ
筆者は保守主義者ではありません。保守思想にシンパシーを感じるものの、一部はリベラルよりだったりします。例えば、筆者はジェンダーフリーを許容します。なぜなら、筆者自身のセクシャルがゲイであるため、ジェンダーフリーはむしろ歓迎するべきことだからです。
閑話休題。
保守主義がそれぞれの政策に取るであろう態度を参照すれば、より保守主義に対する理解が深まるのではないでしょうか。保守主義者になることと、保守主義を知ることは別物です。
さまざまな主義やイデオロギーを知ることは、あなたの人生を豊かにしてくれるはずです。
雑誌正論へ投稿しました。
https://ameblo.jp/datoushinzoabe/entry-11722092537.html
真の国益を実現するブログ
特番『保守思想の父、エドマンド・バークと保守思想』ゲスト:文芸評論家 小川榮太郎氏
https://ameblo.jp/aizu1952412/entry-12605908292.html
真正保守をめざす 元衆議院議員渡部篤
小川榮太郎さんは自分を伝統保守主義者と位置付けた上で、中野剛志さんを批判しているようですね。小川さんは保守系雑誌の「正論」で、「新自由主義を批判したいのであれば、アメリカに対していうべきで、安倍政権に対していうべきではない。新自由主義者が産業競争力会議などに多いのは人材不足だから仕方ない」と主張していたらしいです。
保守以前に相当無理がありすぎる主張ですよね。本来なら、小川さんも中野さんと同じように安倍政権を批判すべきでした。今更こんなことをいっても仕方ないですが。
小川榮太郎さんがそんな批判の仕方をしていたとは、知りませんでした。
なんというか――無理筋過ぎますね~。
批判の矢
https://ameblo.jp/ikyagami/entry-11957515767.html
ヤガミの今勉強中
小川榮太郎さんは、「最後の勝機(チャンス)―救国政権の下で、日本国民は何を考え、どう戦うべきか」という本を書いていますが、そこでも同じような主張を展開して中野剛志さんを批判しているようです。
おそらく中野さんはこの批判に対する反論してないでしょうね。これほど無理がある批判は反論する気が失せてしまいます。新自由主義に反対している人の多くは、小川さんのこの主張を知れば無理筋だと思いますよ。