「1970年のアメリカの国債発行残高はたったの4000億ドル弱で、現在は22兆ドル強」
こう聞くと、びっくりするのではないでしょうか。半世紀でアメリカの国債発行残高は60倍近くになり、多くの財政赤字を抱えることになりました。
ところが、アメリカは今も財政破綻していません。
他の先進国も似たようなものです。
財政赤字とは一体、何者なのか? 検索しても詳しくわかりやすい記事は出てきません。そこで、財政赤字や財政赤字の本当の問題点をできるだけ簡単に解説します。
財政赤字とは
財政赤字とは税収以上に政府支出が多い状態や、もしくは累積した赤字を指します。わかりやすく言えば国債を発行していると財政赤字です。
国債とは政府が発行する借用書です。発行される国債が多ければ財政赤字も多いと言えます。ここまでが一般的な財政赤字の説明です。
外債と内債
一般的な財政赤字の説明では内債と外債が混同されます。区別なく説明しているため、結果的に混乱します。
内債とは自国通貨建て国債のことです。例えば、日本なら円で発行されている国債は自国通貨建て国債であり内債です。
外債とは外国通貨建て国債です。日本の場合だとドルやユーロで国債を発行すると外債です。
なお、日本の国債は100%円建てで外債は存在しません。
「アルゼンチンがデフォルトした! 日本もヤバい!」という記事を見かけますが、アルゼンチンは外債でデフォルトしました。一方、日本は内債です。
混同しがちですが、しっかりと区別しましょう。
財政破綻と通貨発行権
内債と外債の違いは、財政破綻するかどうかです。
財政破綻とはデフォルトのことです。デフォルトとは債務不履行と言い換えられます。わかりやすく言えば財政破綻とは、利払いや償還ができなくなった状態(債務不履行)です。
内債は自国通貨建て国債です。主権国家には通貨発行権があります。通貨発行権がある以上、自国通貨建て国債はどうしたって債務不履行になりません。
内債では財政破綻しません。
反対に、外債は財政破綻します。外国通貨なので貿易で稼ぐしかありません。貿易で稼げなければ外貨が尽きて財政破綻します。
財政破綻に至るのは外債だけです。
日本の場合、100%円建て国債なので財政破綻しようがありません。
日本の財政赤字の状況
日本の財政赤字は対GDP比で2倍です。いわゆる「国の借金」は1100兆円あります。
国の借金とは国債・借入金・政府短期証券の3つの合わせたものです。
上述したように日本の国債は100%円建てです。財政赤字がどれだけ膨らもうが、財政破綻の恐れは一切ありません。
図を参照しましょう。
1975年の0.8兆円から現在は1000兆円近くなり、財政赤字は約1000倍に膨れ上がりました。しかし、金利は低下の一途をたどっています。
一般的に債務不履行の恐れが強い場合、金利は高めに設定されます。リスクが少ないと金利は低くなります。ヤミ金とローンの違いのようなものです。
財政赤字が1000兆円近くになっても長期金利は低いままです。
つまり、日本国債は市場からリスクが低いと見なされています。これも日本が財政赤字で財政破綻しない証拠の1つです。
経済学で財政赤字の問題点とされるもの
経済学も、内債では財政破綻しないと認めています。
しかし、経済学では財政赤字を問題とします。財政赤字が重なりすぎるとクラウディングアウトが起きてインフレになると考えます。
クラウディングアウトとは「100のお金のうち、90を政府が借りると民間が10しか借りられなくなる。お金が希少になるので金利が跳ね上がり、インフレになる」という経済学の理論です。
この理論の土台は外生的貨幣供給説と呼ばれます。
ところが、外生的貨幣供給説は間違っていました。最新の学説では内生的貨幣供給説が正しいとされます。
外生的貨幣供給説とは「100のお金があって、そこから政府や民間が借りる」と考える理論です。お金を借りすぎると金利が上昇するとされます。
内生的貨幣供給説とは「政府がお金を100借りると、100のお金が生まれる。民間がさらに50のお金を借りると、50のお金が生まれて合計150になる」と考えます。お金を借りる量に金利は左右されません。
上述した図では、日本の財政赤字が増えても金利は上がらず、むしろ下落の一途でした。このことから、外生的貨幣供給説が間違っていたことがわかります。
要約するとクラウディングアウトは起きません。財政赤字が増えても金利は上がらず、金利が跳ね上がることでのインフレの恐れもありません。
財政赤字の原因は資本主義であること
財政赤字が発生する原因は資本主義そのものです。資本主義の定義とは「負債を拡大することで経済成長し続ける経済形態」であり「中央銀行制度のある国家形態」です。
資本とは事業に使うお金のことです。では、お金とは何か? 現代貨幣理論(MMT)によればお金=負債と定義されます。実際に、あなたの持っている1万円札は日銀の負債として計上されています。
とすると、資本=事業に使うお金=負債と考えられ、資本主義とは負債主義と言い換えられます。
「誰かの負債=誰かの資産」という原則があります。経済成長とは資産の積み上げに他なりません。資産の積み上げとは、負債の積み上げと同義です。
誰かが負債を作らないと、資産も積み上がらずに経済成長できません。
その負債を政府が負担すると財政赤字となります。
財政赤字とは資本主義において正常な状態だったのです。
資本主義についての詳しい説明は以下の記事をご覧ください。
財政赤字は問題ではない
資本主義なら財政赤字は拡大していくものです。そして、自国通貨建て国債(内債)なら財政破綻の危険性はありません。クラウディングアウトも起こりません。
1970年のアメリカの国債発行残高は3826億ドルでした。2020年の国債発行残高は約22兆ドルです。
日本の1975年の国債発行残高は8000億円でした。現在、1000兆円近い国債発行残高です。
未だに財政破綻もクラウディングアウトも起きていません。
財政赤字の真の問題は「財政赤字を拡大しているのに経済成長できないこと」です。日本はまさにこの状態です。
1997年の名目GDPは534兆円でした。2020年の名目GDPは526兆円です。四半世紀近くの時間をかけて日本はゼロ成長でした。
1997年の国債発行残高は244兆円です。2020年は932兆円になりました。
700兆円の財政赤字を膨らませながら、日本は経済成長できなかったのです。
ゼロ成長の原因はデフレです。デフレを脱却できなかったのは、思い切った積極財政を行ってこなかったからです。日本が1998年以降で積極財政を行ったのは小渕・麻生内閣だけです。
デフレから脱却すれば民間が自立的に成長し、逆説的に財政赤字はここまで膨れ上がりませんでした。
日本の財政赤字の本当の問題は、「財政赤字を効率的に経済成長に転嫁できていないこと」だったのです。
まとめ
財政赤字とはそもそもどんなものなのか? ほとんどの人は家計を想像します。家計の借金のイメージで財政赤字を拒否します。
けれども、見てきたとおり財政赤字とは家計の借金と一線を画しています。そのメカニズムは家計より複雑で、全く異なるものです。
財政赤字は内債なら何の問題もありません。
問題は財政赤字を効率的にデフレ脱却に使えていないことだったのです。
あなたは財政赤字の真実を知りました。SNSなどで拡散してもらえると幸いです。