誰しも公民の授業で民主主義を習います。報道でも民主主義はよく聞きます。
耳慣れて親しんでいる民主主義ですが、対義語を即答できない人は多いようです。民主主義の対義語は「専制」「絶対君主制」「貴族制」など。
どうして即答しにくいのか? 日本の民主主義にまつわる勘違いも含めて、わかりやすく解説します。
民主主義とは
民主主義とは「国民が主権を持つ政体」で、英語ではDemocracyと書きます。Demoの後につく「cracy」とは「~の支配」や「政体」を表す英語です。
例えば専制はAuto”cracy”、貴族制はAristo”cracy”です。民主主義も「cracy」がついてますので、本当は「民主制」との翻訳が正しいです。
主義は「cracy」ではなく「ism」です。リベラリズム(Liberalism・自由主義)やソーシャリズム(Socialism・社会主義)などもイデオロギーですから「ism」がついています。
民主”主義”とするなら英語では「Demoism」とでもするべきでしょうか。
民主制を民主主義と翻訳したのが勘違いの元です。日本人の多くは民主主義をイデオロギーや思想だと勘違いしています。
本当は、民主主義(民主制)は政体を表しています。
しかし本稿では便宜上、民主制を民主主義と表記します。
民主主義の対義語として挙げられるもの
民主主義が民主制だとわかったところで、対義語を紹介します。民主主義の対義語と正確に言えるのは「専制」「絶対君主制」「貴族制」です。
専制
専制は「上に立つ人が独断で政治判断をする政体」です。独裁制や王制、絶対君主制などが専制に当たります。
国民に主権がないので民主主義の対義語です。
絶対君主制
絶対君主制は専制とほぼ同じで「君主が独断で政治判断できる政体」です。
君主制には制限君主制(立憲君主制)もありますから、君主制全般が民主主義の対義語とはなりません。民主主義の対義語になるのは絶対君主制のみです。
正確には制限君主制(立憲君主制)の対義語が絶対君主制ですが、立憲君主制はほぼ民主主義国家が採用しているので、民主主義の対義語が絶対君主制としても妥当でしょう。
貴族制
貴族制は「少数の特権的な貴族が支配階級の政体」です。国民主権と正反対のため、民主主義の対義語として成り立ちます。
封建制
封建制は一見すると民主主義の対義語に見えますが、厳密に対義語とは言えません。封建制とは君主の下にいる諸侯が土地を領有し、人民を統治する制度です。
英語ではFeudal systemと書きます。対義語は郡県制であり統治制度、システムの一種です。
民主主義は政体のことですので、システムである封建制とはややレイヤーが異なります。
しかし民主的への対義語としてなら封建的が使えます。
民主主義の対義語として完全な間違いではありませんが、封建制はやや不適当です。
全体主義
全体主義も民主主義の対義語としてよく聞かれます。しかし全体主義は民主主義の対義語として不適当です。
じつは全体主義に明確な定義は存在しません。全体主義を論じたハンナ・アーレントは「全体主義=思考停止」だと言い、Wikipediaでは「政府が反対する政党を認めない政体」と書かれています。
ところが全体主義の対義語は個人主義です。なら個人主義は「政府が反対する政党を認める政体」でしょうか? 違いますよね。
全体主義に明確な定義はないのです。
よって全体主義は民主主義の対義語ではありません。加えて民主主義も、多数の専制によって全体主義に陥ります。
このことも対義語として成り立たないと解釈する理由です。
対義語として完全に間違えているもの
ときどき民主主義の対義語候補として聞かれるものの、完全に間違えている言葉も解説します。
社会主義
社会主義とは「経済自由主義の弊害に反対し、より平等・公正な社会を目指すイデオロギー」です。出現したのはイギリスの産業革命の時代です。
産業革命の当時、経済自由主義によって疲弊したイギリス社会でその弊害を抑制しようと社会主義は生まれました。
社会主義は経済イデオロギーの一種です。政体を表す民主主義の対義語としては成り立ちません。
共産主義
共産主義とは「私有財産を認めない経済イデオロギーの一種」です。出現は社会主義と同じく、イギリスの産業革命の時代です。
社会主義との違いは当初、マルクスもよくわかっていなかったようです。後に「私有財産を認めるかどうか」が違いだと言われるようになりました。
共産主義=独裁のイメージが強いため、民主主義の対義語として持ち出す人がいます。しかし共産主義も経済イデオロギーです。政体を表す民主主義とはレイヤーが異なり、対義語として成り立ちません。
まとめ
日本では民主主義が一種のイデオロギーとして扱われています。しかし本当は政体を表す言葉であり、専制や絶対君主制、貴族制が対義語でした。
さすがに民主主義の対義語で共産主義を出すのは、大人として恥ずかしすぎます。しかしそういった人がわりといるのも事実。
こそっと本当の対義語を教えてあげてくださいね。
>民主制を民主主義と翻訳したのが勘違いの元です。日本人の多くは民主主義をイデオロギーや思想だと勘違いしています。
というか、「政治体制ないし政治制度」を指すときは(本来の訳語である)民主制ないし民主制という用語を使うべきであり、その上で、民主主義という用語を民主制の意味ではなく、「民主制という政治形態を理想的なものとみなす思想ないしイデオロギー」として使うべきです。
>しかし本稿では便宜上、民主制を民主主義と表記します。
そのそもこれが誤解を招く元(笑)
つまり、民主制ないし民主政(デモクラシー)と民主主義(デモクラティズム)を使い分ければ済む話。そうすれば(民主制の)正しい対義語も自ずと出てきます。
記事を書くキーワードが「民主主義 対義語」だったので仕方がありません。そう――仕方がないのです(汗)