グローバリズムへの拒否や反対が、世界では多く起きています。コロナ禍もありグローバリズムの脆弱性がさらされ、懐疑や疑問はさらに多くなるでしょう。
2010年代初頭から始まったグローバリズムへの反対や拒否が、どのような理由で起きたのかについて解説します。加えてグローバリズムの反対語についても紹介。
グローバリズムの反対語、ないし反対語的と言えるイデオロギーはいくつもあります。知識として頭に入れておくと、ニュースなどで物事を考える際の役に立ちますよ。
グローバリズム-地球主義(globalism)とは
グローバリズムとは日本語では地球主義と翻訳できます。地球を一つの共同体として見なすイデオロギーと言われていますが、一般的にはグローバリゼーションを進める思想です。
世界中の市場ルールを統一化して市場を共通化し、ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に飛び回る状態を目指します。
グローバリズムは現在、新古典派経済学ないし新自由主義と組み合わさっています。グローバリズムは構造として新自由主義だけでなく、例えば帝国主義と組み合わせることもできます。
グローバリズムに反対する理由
多くの人たちがグローバリズムに反対する理由は、大きく分けて5つあります。
①格差拡大を招くから
資本主義は構造的欠陥として、格差拡大を宿命づけられています。トマ・ピケティが21世紀の資本で明らかにしたように、資本主義を放任すると格差拡大を招きます。
グローバリズム+新自由主義は自由市場のなすに任せます。また小さな政府を志向し、資本主義をコントロールしようとしません。
したがって資本主義の構造的欠陥である格差拡大が必然的に発生します。
この格差拡大への拒否が、グローバリズムへの反対になります。
②文化衝突が起きるから
グローバリズムはヒト・モノ・カネが国境を越えて移動します。中でも移民はEUなどで大きな問題です。
イスラム圏からの移民・難民が増えたことでEUでは文化衝突が起きました。例えばドイツではムスリムに配慮して、給食から豚肉が消えるという事態にまで発展。
豚肉はドイツの食文化であるソーセージに欠かせない食材です。
こういった文化的な摩擦・衝突は枚挙に暇がありません。必然的に文化衝突を起こした国民と移民の間で反発し合い、国民はグローバリズムを拒否します。
③貧困への競争が起きるから
一般的に移民は発展途上国や貧しい国から先進国に来ます。移民を受け入れた先進国では、安い賃金の移民と人件費競争が起こります。
安い賃金の移民に仕事を奪われるだけでなく、その賃金と競争して自らの賃金も抑えなければなりません。すなわち貧困への競争が起きます。
貧困への競争は移民だけに限りません。
日本で製造していた製品の製造拠点を、人件費の安い中国に移すことでも起こります。その結果、安い製品が日本に入って、日本の国内産業は対抗するためにコストカットを強いられます。
こうして自由貿易によっても貧困への競争は発生するのです。
④伝統・文化・共同体が破壊されるから
グローバリズムでは伝統・文化・共同体の破壊が引き起こされます。グローバリズム+新自由主義は自由競争を重視します。自由競争で勝利するのは効率的な企業や製品です。
一方で伝統や文化は効率性では語れません。しかし自由競争に任せれば、例えば日本の伝統工芸品も姿を消すことでしょう。
なぜなら昔ながらの効率的でない方法で生産しているからです。
このようにグローバリズムは、地域や共同体に根ざしたものを破壊します。それはすなわち共同体の破壊でもあります。
⑤民主主義が機能しなくなるから
グローバリズムでは民主主義が機能しなくなります。民主主義とは「自分たちのことを自分たちで統治する政治形態」です。
よって「自分たち」と「他者」が必要です。
しかしグローバリズムは地球主義ですから、他者の存在が消えます。したがって自分たちという概念もなくなり、民主主義は形骸化することでしょう。
他にもグローバリズムが民主主義と相容れない根拠があります。ダニ・ロドリックの「世界経済の政治的トリレンマ」です。
ロドリックによればグローバル化・国家主権・民主主義のうち、2つまでしか同時に成立しません。
グローバル化と国家主権を成立させれば民主主義は成立せず、グローバル化と民主主義を選べば国家主権を放棄しなければなりません。
グローバリズムと民主主義は非常に相性が悪いのです。
グローバリズムの反対語的イデオロギー
グローバリズムの反対語は「反グローバリズム」ないし「ナショナリズム」です。しかしそれ以外にもいくつもの反対語的なイデオロギーがあります。
まとめて簡単に紹介します。
国家主義-ナショナリズム(nationalism)
ナショナリズムは、もっともグローバリズムの反対語としてふさわしいでしょう。ナショナリズムは国家主義や民族主義と翻訳されます。
国家という独立した共同体を重視するイデオロギーがナショナリズムです。
日本でナショナリズムは、イコールで全体主義というイメージがあります。しかしナショナリズムと全体主義は全くの別物であり、同一視できるものではありません。
全体主義は思考停止から発生しますが、ナショナリズムは思考停止を起源としません。
反グローバリズム(anti-globalism)
反グローバリズムはそのまんま、グローバリズムの反対語となります。反グローバリズムはイデオロギーとして統一された見解はなく、グローバリズムへの拒否や反発を総称してそう呼びます。
例えば欧州の反グローバリズム政党を見ても、右から左まで幅広く存在します。これに対して反グローバリズムは上下対立だから、という解釈もあります。
すなわち大資本や多国籍企業、ロビイスト、グローバリストな有識者たちへの反発です。
現在のところ反グローバリズムは、体系立てられたイデオロギーではありません。
地域主義-ローカリズム(localism)やリージョナリズム(regionalism)
グローバリズム、すなわち地球主義の反対語で「地域」は有力候補です。よって地域主義もグローバリズムの反対語と言えるでしょう。
地域主義は国家内においては、地方自治の強化を目指すローカリズムを指します。愛郷主義とも翻訳されることがあるとおり、おらが村的なイデオロギーです。
一方で国際間の地域主義はリージョナリズム(regionalism)と呼ばれます。複数の国家が経済的・軍事的・社会的な統合を目指すイデオロギーを指すことが多いとされます。
例えば太平洋戦争時の大東亜共栄圏もリージョナリズムの一種です。
保護主義・保護貿易
グローバリズムは必ず自由貿易を伴います。したがって保護主義や保護貿易は、グローバリズムの一部に対して反対語たり得ます。
保護主義や保護貿易は自国産業保護のため、関税など国境の壁を設けることです。現在の先進国のほとんどは産業革命以降、保護主義を取って発展しました。
あのアメリカやドイツ、イタリアなども同様です。
保護主義というとすぐに「戦争」と結びつけがちですが、必ず保護主義が戦争につながるわけではありません。
国際主義-インターナショナリズム(internationalism)
国際主義はしばしば、グローバリズムと比較され対比されます。国際主義とは国家を前提とした多国間協調を目指すイデオロギーです。
グローバリズムのように地球を一つの共同体とは見なしません。その意味においてグローバリズムの反対語と言えなくもありません。
古くはマルクス主義の一つとして使用された用語ですが、現在では国際協調を指すことが多いです。
まとめ
グローバリズムへの反対理由や、反対語的なイデオロギーについて解説しました。どうしてグローバリズムがこうも反発されるのかへの理解が、多少は進んだのではないでしょうか。
総論的に反グローバリズムを述べる記事は多いですが、個別的に分析したり解説したりする記事が少ないように感じたので記事にしました。
反グローバリズムへの理解として役立てば幸いです。