コロナにより、就職氷河期第二世代の発生が危惧されています。就職氷河期世代の現状や歴史を総括しておくことは有益でしょう。
中でも就職氷河期世代の悲哀や恨み、悲惨さは銘記しておくべきです。
どうして就職氷河期世代が社会を恨み、悲嘆に暮れるのか。その理由を解説します。
就職氷河期世代とは
まず就職氷河期世代についておさらいしましょう。
1995年~2005年の社会に出た世代
就職氷河期世代は1995年~2005年に社会に出た人たちとされます。もう少し広い解釈では1993年~2005年です。
いずれにしても、1990年代半ばから2000年代初頭にかけて社会に出た人たちが「就職氷河期世代」と呼ばれます。
バブル崩壊・デフレ突入・産業構造の変化という三重苦
1995年~2005年の間は激動の時代です。
1991年にバブルが崩壊し、産業構造の変化が1990年代初頭から半ばにかけて進みました。加えて1998年からデフレに突入し、企業は新卒採用を絞りました。
雇用のミスマッチと不景気による新卒採用の縮小が同時に起き、就職氷河期世代が発生しました。
詳しくは以下の記事で解説しています。
希望が見えた矢先のリーマンショック
2000年代初頭から徐々に景気は回復し2005年には一息つきます。新卒市場は売り手市場と言われ、新卒や求職者に有利な労働市場が形成されました。
就職氷河期世代もようやく正規雇用に巡り会うチャンスが到来。ここで非正規雇用から脱出した就職氷河期世代も多かったはずです。
しかし2008年のリーマンショックで就職氷河期世代は大きなダメージを受けます。非正規雇用にUターンした人、非正規雇用すら続けられなくなった人などが続出しました。
年越し派遣村は記憶に残る出来事です。
希望は見事に打ち砕かれました。
100万人以上が正規雇用を望みながら非正規
現在、政府は就職氷河期支援プログラムを打ち出しています。筆者の見るところでは、本気で就職氷河期世代を救済しようとは考えていません。
リリースされた「ゆきどけ荘」という支援サイトの中身がスカスカだからです。
支援を必要としている就職氷河期世代は、100万人以上。しかし20年ほど放置されているのが実態です。
ようやく重い腰を上げた政府が打ち出した就職氷河期支援プログラムは、中身がスカスカで救いようのない状況です。
増える中高年の引きこもり
就職氷河期世代には心を病み、引きこもる人たちも増えています。
就職氷河期世代は1995年~2005年の時点で20歳前後です。2020年の現在、すでに40歳前後~50歳手前です。
20年間も非正規雇用で生活は不安定、スキルアップは図れず正規雇用への転職も不可能。そして年収が低いので結婚して新たに家族を持つことも”許されない”としたら……心が壊れるのは必然です。
彼らの親はすでに現在70代になっており、10年後には5080問題が起きると予測されています。
5080問題とは「現在40代、70代の親子が10年後には50代、80代になる。親が亡くなると引きこもっていた中高年に生活手段がなく、生活保護が増加する」と予測される問題です。
詳しくは以下の記事にまとめています。
就職氷河期世代の恨みの理由
就職氷河期世代が社会を恨み、悲嘆に暮れる理由について7つを挙げます。
①大卒でも正規雇用が難しく非正規雇用
就職氷河期は大卒でも就職が難しく、面接で100社を回って内定がもらえないケースもざらでした。高卒や中卒は言わずもがな。
非正規雇用に甘んじて、抜け出せなくなる若者が続出しました。
②非正規雇用でスキルが身につかず転職できない
非正規雇用ではスキルが身につきません。加えてキャリアも積み上げられません。
したがって転職するチャンスも少なく、就職氷河期世代は悪循環にはまり込みます。生活のための非正規雇用が転職チャンスを狭め、さらに非正規雇用に生活を頼るという循環です。
③生活不安から心身が安定しない
非正規雇用は年収が低く、いつクビを切られるかもわかりません。シフトを減らされたら即、生活が立ちゆかなくなります。
生活不安は常につきまとい、したがって心身が休まるときもありません。
④努力しても正規雇用をつかめない
非正規雇用を続けながら何らかの勉強をして、脱出した人もいるでしょう。しかし働きながら勉強し、不安定な日々の暮らしもなんとかする。これは簡単なことではありません。
加えて年齢を重ねるごとに、正規雇用は遠のきます。スキルやキャリアがなく年齢だけが高い人を、雇いたがる経営者は少ないでしょう。
⑤非正規雇用なので平均年収が低い
非正規雇用は正規雇用に比べて年収も低いです。正規雇用が平均500万円弱の年収に対して、非正規雇用は170万円です。
フルタイムで働いても300万円に届かないのではないでしょうか。
⑥年収が低いので独身または晩婚化
年収が低ければ自分一人が食べていくことに精一杯です。したがって結婚などは夢のまた夢。
生涯未婚率の上昇や晩婚化などが、就職氷河期世代では特に多く起きています。
「なんだ、単に結婚ができないだけか」と受け止めるのは間違いです。「新たに家族を持つことができない」と考えると、ことの重大さが理解できるでしょう。
⑦他の世代を見上げて生きる
すんなりと就職が可能だった下の世代、ないし逃げ切りができた上の世代を見上げて就職氷河期世代は生きています。
そのような状況では自己肯定感を持つことも難しいでしょう。自己肯定感を持てず、その無力感は社会への恨みや諦観となります。
失ったものは二度と取り戻せないという悲哀
就職氷河期支援プログラムが打ち出されたとき、筆者は「真剣味が足りない」と感じました。失ったものは二度と取り戻せないからです。
世間は「支援すれば良くなる」と考える
貧困問題、生活保護、就職氷河期世代。さまざまな問題に対して世間は「支援したらすぐ良くなる」と勘違いしがちです。
先日「生活保護vsワーキングプア 若者に広がる貧困」という、2008年に書かれた著書を読了しました。
筆者は生活保護行政の公務員だったそうで、現場を知る人です。この著書からは「粘り強く支援し続けないと解決しない」ことが読み取れます。
就職氷河期世代支援プログラムも実施したら救われる、という単純なものではありません。
支援は「これから失わずに済む方法」
就職氷河期世代支援プログラムは基本的に「これからを失わずに済むための支援」です。「これまでの何かを取り戻せる支援」ではありません。
どのような支援でも「これまで失ったものは二度と取り戻せない」を覆すことはできません。
結婚できず40代で新入社員とかわりと絶望しかない
40代で低年収、非正規雇用。結婚もできない。もし就職氷河期世代支援プログラムで、これらの状況が改善したとします。
正規雇用をつかめたとしましょう。
状況は「40代で低年収の正規雇用、結婚していない新入社員」に変わるだけです。これって結構、絶望しかなくないですか?
40代から新入社員で、下手したら20代が先輩です。わはは(笑) やってられるか、ボケ! と思う人も多いはず。
失ったものは取り戻せない
20年にわたって非正規雇用しか選択肢がなく、スキルアップもキャリアの積み上げもできていない。ではこの20年を支援は解決できるのか? できるはずがありませんよね。
もちろんやらないより、やった方がマシです。しかし20年間の放置し続けた責任は、絶対に消えないと筆者は考えます。
まとめ
筆者も就職氷河期世代の一人です。就職氷河期世代の悲哀は理解できるつもりです。
本当は積み重ねられるはずだったものが、一つも積み重ねられずに20年が過ぎる絶望。これはなかなか理解しづらいかもしれません。
こういった就職氷河期世代の現状は「自己責任だ! スキルアップくらい自分で勉強しろ!」などという心ない言葉によって否定されます。
しかし他の世代と比べて統計的に、非正規雇用や引きこもりが多いのは事実。そして人間は環境に左右される生き物です。決して自己責任とは言えないのが現状です。
コロナ禍で就職氷河期第二世代が生まれるかもしれません。そうならないためにも就職氷河期世代とは何だったのか? 総括しなければなりません。
>本当は積み重ねられるはずだったものが、一つも積み重ねられずに20年が過ぎる絶望。これはなかなか理解しづらいかもしれません。
しかも、個人差はあるにせよ、およそ20年後あたりには、今まで味わってきた絶望とは比較にならないほどのさらなる絶望が待ち受けることになります。ずばり老後です。
スキルなし、経験なしのまま非正規雇用を65~70歳頃まで続けてきても、預貯金など金融資産はなく、もらえるのは雀の涙の国民年金のみ。もちろんそれだけでは生活できず、あてにならない生活保護に頼るのみ。しかも、独身のため頼れる身寄りは一人もおらず、重病になっても身元保証人がいないため、入院や手術もできず、病状は悪化するのみ。また、要介護状態になっても、高齢貧困者がごまんといる状況では、特別養護老人ホームへの入居もできない。
いずれにしても、病気による苦痛にあえぎ、高齢による寝たきりが続いても、治療者も介護者もおらず、誰にも看取られないまま、孤独死する。そういう人間が日本全国で溢れかえる。貧困高齢者層にとって日本の近未来社会はまさに生き地獄そのもの!
そうした光景がありありと目に浮かびます。
20年後ヤバいですよね、本当。5080問題で10年後でもヤバいのに。
>生涯未婚率の上昇や晩婚化などが、就職氷河期世代では特に多く起きています。
>「なんだ、単に結婚ができないだけか」と受け止めるのは間違いです。「新たに家族を持つことができない」と考えると、ことの重大さが理解できるでしょう。
資本論によるところの「労働力の再生産」は、最低限の衣食住が満たされた状態で、そして子供を作り育て、次の世代の労働力が十分に確保するという仕組みでした。
マルクスとしては、「この世の資本家のほとんどは、労働力の再生産を怠るようなバカではない」と思って資本論を書いたと思います。あの世のマルクスが今の日本の有様を知ったら絶句するにちがいありません。
マルクスはあまり知らなかったのですが、なるほど労働力の再生産ですか。
確かにマルス区はあの世でポカーンとしているでしょうね(笑)