コロナ禍もありベーシックインカムへの期待が増しています。
世界的にもベーシックインカム導入の機運は高まっており、ドイツで120人を対象にベーシックインカムの実験が始まりました。応募倍率は何と1万倍だったそうです。
「日本でベーシックインカムの実現可能性はあるか」「導入にはどのようなハードルが待ち受けているのか」など、日本でのベーシックインカムについて解説します。
ベーシックインカムとは
ベーシックインカムとは日本語に訳すると「最低所得保障」です。決められた金額を毎月、国民に給付する政策がベーシックインカムと呼ばれます。
ベーシックインカムは「給付」「財源」どちらも2種類のタイプが議論されます。
2つの給付タイプ
給付で議論されるのは、ユニバーサルベーシックインカムと負の所得税です。
ユニバーサルベーシックインカム
ユニバーサルベーシックインカムとは、国民一律に給付するベーシックインカムです。老若男女、赤ちゃんから高齢者までです。
略してUBIと書くことも。
負の所得税
負の所得税は、所得に応じてベーシックインカムを給付します。高所得なら少額ないしゼロ、低所得なら満額といった具合です。
累進的な給付です。
2つの財源タイプ
財源タイプにも2つあります。社会保障一元化と赤字国債です。
社会保障一元化
社会保障一元化は年金や生活保護、失業保険、健康保険などの社会保障をベーシックインカムに一元化することで財源を作ります。
既存の社会保障予算をベーシックインカムに置き換えると言えます。
一元化することにより、行政の効率化が期待されています。
赤字国債
自国通貨建て国債でデフォルトは起きません。したがって社会保障をそのままにベーシックインカムを実現するなら、財源は赤字国債になります。
社会保障を温存できる一方で、インフレ率が高くなるのではないか? と懸念されています。
日本でベーシックインカムはいつから?
2020年現在、世界でベーシックインカムを導入した国家は存在しません。スペインが導入したという話がありますが、ベーシックインカムではなく生活保護に近い制度です。
国家以外なら導入事例があります。ブラジル・リオデジャネイロ州マリカ市が2013年からベーシックインカムを導入しています。
コロナ禍でも失業を抑制しており、奇跡の街と呼ばれています。
ドイツが実験に踏み切ったりと、世界的にもベーシックインカム導入の機運は高まっています。韓国やアメリカでも激しく議論されているようです。
日本でも一部の有識者や著名人が言及し始めており、将来的に導入される可能性もあります。
ベーシックインカム導入の動機や目的
もともとベーシックインカムがなぜ発案されたのか解説します。
社会保障一元化による行政の効率化
ベーシックインカムの発案者は、新古典派経済学の祖であるミルトン・フリードマンです。
年金や生活保護、失業保険、健康保険など煩雑な手続きが必要な社会保障各種を一元化し、行政の効率化を図るのがベーシックインカムの目的でした。
すべての社会保障を廃止してベーシックインカム一本にします。そうすることで小さな政府が実現できると、フリードマンは考えたのです。
AIが発達して仕事がなくなる?!
社会保障の廃止はあまりに過激な話です。発案された当初はほとんど議論されませんでした。
ベーシックインカムが議論され始めたのは、AIの発達が予見されてからです。シンギュラリティによってAIが人間を追い抜き、人々はAIに仕事を奪われる。
だから失業した人々に最低所得保障であるベーシックインカムが必要だ、という議論です。
この議論について、以下の記事で詳しく解説しています。
貧困対策や格差社会問題および少子化対策
ベーシックインカムは貧困対策として期待されることもあります。生活に必要な最低所得保障を行うことで、誰もが不安なしに暮らせるようになります。
格差社会でのワーキングプアや非正規雇用、失業対策として期待されています。
また少子化対策として役立つのでは? との声もあります。ユニバーサルベーシックインカムなら子供は生まれた瞬間から、ベーシックインカムを受け取ることができるからです。
日本でベーシックインカム導入の可能性
日本でベーシックインカムが導入される可能性はあるのでしょうか? 予測は難しいですが、筆者はあり得ると感じています。そして実現もおそらく可能だろうと考えます。
お断りしておくと、筆者はベーシックインカムに賛成でも反対でもありません。
コロナ禍での不確実性から議論が高まる
コロナ禍は人々に不確実性を突きつけ、不安を抱かせました。ある日突然、今の生活が崩れることがあり得るのだと思い知らせました。
160万人もの非正規雇用が失業したと言われています。内定取り消しや雇い止めもあったと聞きます。
こうした不確実性の満ちた時代に、明日の糧を保障してくれるベーシックインカムは魅力的です。
コロナ禍が長引くのなら、ベーシックインカム導入は十分に可能性があります。
財源に問題はない
ベーシックインカムではしばしば、財源がボトルネックになります。しかし現代貨幣理論(MMT)によれば、財源に問題はありません。
問題があるとすれば、需要を支える供給力があるかどうかだけです。
自国通貨建て国債と現代貨幣理論(MMT)
日本は自国通貨建て国債、つまり円建て国債が100%です。そして日本政府は通貨発行権を持っています。
日本が国債を返せずにデフォルトすることは100%あり得ません。
理論的に――インフレさえ気にしないのであれば――いくらでも国債を発行することが可能です。
制約はインフレだけ
国債を発行すると需要が増えます。現在はデフレで需要<供給の状態です。しかし国債発行を増やすと需要>供給と変化します。
インフレ率10%未満は健全なインフレ率です。そこまでの需要>供給はOKです。
しかし国債を発行しすぎると需要>>>供給になり、供給過少となります。こうなると経済が混乱します。
したがって、ベーシックインカムで気にするべきはインフレ率です。
月額はいくらで議論されているか
日本で議論されるベーシックインカムは、月額7~10万円前後の金額が一般的です。年金が7万円強、生活保護が12万円前後です。かなり控えめな金額で議論されていると言えます。
――15万円くらいの議論があってもいいと思います。なぜならドイツの実験では、120人に毎月15万円を支給するからです。
ベーシックインカムが日本で無理という主張
ベーシックインカムは無理だとする主張もあります。
「賃下げの懸念」「労働意欲の低下」「生活保護や年金など現行制度との兼ね合い」など、さまざまな批判や主張があります。
今回の記事では本質的な2つの主張について取り上げます。
赤字国債の否定
ベーシックインカム否定論の1つとして、財源問題からベーシックインカムは無理だとする主張があります。
これは赤字国債の発行や膨張は悪いことだとする、財政健全化論から来ています。
しかしご紹介したとおり、自国通貨建て国債でデフォルトは起こりません。財源問題からベーシックインカムを不可能とする主張は無理筋です。
需給ギャップが大きくない
社会保障一元化のベーシックインカムは劇薬であり、筆者は強く反対します。とすると残るのは、赤字国債をベーシックインカムの財源にすることです。
ベーシックインカムを月7万円、全国民に給付すると毎年100兆円ほど必要です。
100兆円は日本のGDPの約20%です。この巨額の需要を支えるだけの供給力が日本に存在しているか? という問題があります。
仮に支えきれたとしても、他の財政政策ができなくなってしまいます。
まとめ
日本でもベーシックインカムの実現はおそらく可能です。2020年現在は議論が盛り上がっているだけですが、10年後にはベーシックインカムが実現しているかも。
その可能性は十分にあります。
あなたがベーシックインカムに賛成か反対かはわかりません。しかし今からベーシックインカムの議論を深めることは、とても有益なことだと確信しています。