ワーキングプアが日本で問題になり始めたのは2000年代中頃です。今でもときどき問題にされますが、一向に解消される気配はありません。
ワーキングプアとは何で、どうしてワーキングプアが生まれるのか? その原因を深掘りして解説します。原因を解説した後に、ワーキングプア解消のための対策についても議論します。
結論から言えば、ワーキングプアを引き起こす原因は新自由主義です。1990年代から日本に新自由主義が輸入され、格差拡大やワーキングプアなどさまざまな問題が起きました。
それらの原因についても詳しく紹介します。
日本のワーキングプアとは
欧米でワーキングプアの概念が生まれたのは19世紀末から20世紀はじめです。進歩主義の時代にジェーン・アダムズやデュボイスがワーキングプアを論じました。
ワーキングプアには2つの解釈があります。
- 社会構造上の問題としてワーキングプアを捉える
- 個人のモラルの問題としてワーキングプアを捉える
要するに、貧困から抜け出せないのは「社会構造のせい」「怠けているから」という2つの解釈があります。今回の記事では基本的に前者のスタンスをとります。
ワーキングプアの定義や現状について、さらに詳しいことは以下の記事がおすすめです。
ワーキングプアの定義
月収16万円~17万円、年収200万円未満のフルタイムで働いている労働者がワーキングプアとして定義されます。
欧米では貧困線が定義されていますが、日本ではワーキングプアの貧困線は定義されていません。したがって、ワーキングプアの定義も「一般的な」と但し書きがつきます。
生活保護以下の所得が、日本では一般的に貧困線とされます。
日本でワーキングプアが大きく問題になったのは2000年代中盤です。
ワーキングプアの現状
日本では貧困線の定義がないので、それに伴ったワーキングプアの調査も少ないです。判明している数字からワーキングプアの現状を推察します。
日本の被雇用者は5600万人ですが、そのうち年収200万円未満は1900万人です。フルタイム労働者は被雇用者の42%ですので、800万人程度がフルタイムかつ年収200万円未満と推察されます。
日本総研の統計では、250万世帯がワーキングプアと定義されています。
厚生労働省の資料では、年収192万円未満を貧困線として、ワーキングプアは被雇用者の1割としています。被雇用者が5600万人ですので、560万人がワーキングプアだとしています。
高学歴ワーキングプア
日本では高学歴ワーキングプアも問題視されています。高学歴ワーキングプアとは、一流大学や大学院を出ながら就職に失敗してワーキングプアに陥る人たちです。
大学院の博士課程を経た学生は、企業の総合職で敬遠されることも。
くわえて、大学も予算縮小や少子化でポストが減少しています。非常勤講師やポストドクターを務めつつ、アルバイトで食いつなぐケースもあるようです。
高学歴ワーキングプアは人材の浪費として問題になっています。
ワーキングプア増加の原因
ワーキングプア増加の原因はいくつもあります。しかし、大本をたどれば新自由主義を採用したことが大きく影響しています。
新自由主義による効率化・合理化
日本は1990年代から新自由主義を取り入れました。新自由主義とは自由競争を重視し、小さな政府を目指す経済イデオロギーです。
緊縮財政・規制緩和などの構造改革・自由貿易の3点セットが新自由主義です。
1990年代から多くの規制緩和が行われ、自由競争は激化しました。効率化、合理化があらゆる分野で行われました。
労働市場も例外ではありません。労働者派遣法の規制緩和などが代表的です。
くわえて、緊縮財政も行われました。緊縮財政によって日本はデフレになり、労働市場の競争は激化しました。労働市場の競争が激化すると賃金水準は下がります。
新自由主義によってワーキングプアが生み出されていったのです。
非正規雇用の増加
2000年代に入り、日本の非正規雇用は増加します。労働者派遣法の改正も非正規雇用の増加に拍車をかけました。
くわえて、デフレによる賃金水準の低下は共働きを増やします。正規雇用は増えませんので、非正規雇用だけが増加する一方となりました。
1980年代に15%だった非正規雇用は、現在では約4割にまで増加しています。被雇用者5600万人中、非正規雇用は2100万人強となっています。
ワーキングプアに占める非正規雇用の割合は大きいです。非正規雇用の増加はワーキングプアの増加に直結する問題です。
デフレによる賃金水準の低下
デフレによる賃金水準の低下もワーキングプアの一因です。
平均年収は1997年の467万円をピークに、数十万円以上も下落しています。これはデフレによる物価下落以上の速度です。
平均所得の下落に伴い共働きが増加し、労働市場の競争が激化してさらに賃金水準下落圧力となりました。
全体的な賃金水準低下は、ワーキングプアの発生に直結しました。
正規雇用の減少
正規雇用は1995年をピークに減少しています。1995年は3779万人が正規雇用されていましたが、2012年は3340万人でした。20年弱の間に400万人の正規雇用が失われました。
正規雇用が減少した原因はデフレによる企業体力の低下、コスト削減などです。コスト削減には人件費ももちろん含まれます。
コスト削減で正規雇用は減少し、非正規雇用ばかりが増加しました。
サービス残業
デフレはサービス残業増加ももたらしました。デフレで人件費削減と生産性向上圧力がかかり、1人あたりの仕事が増加します。
こうして、サービス残業が常態化しました。
日経の調査によれば、労働者の6割がサービス残業があると回答しました。こうしたサービス残業は本来の所得を毀損しています。得られるはずだった所得がサービス残業で得られません。
サービス残業もワーキングプア発生の一因です。
液状化して価値観が多様に
2000年代に入って終身雇用制度、年功序列など日本式経営が投げ捨てられました。終身雇用制度の崩壊は「会社員になれば一生安泰」という型の崩壊です。
くわえて、リストラや早期退職制度なども日本経済にとって常態化しました。
正規雇用ですら不確実性、不安定性が増したのです。
「こうすれば人生安泰」という人生設計がしにくくなり、価値観が液状化しました。
現在は多様な価値観による多様な働き方の時代とされます。しかし、その内実は「こうしていればOK」がなくなったため、多様化せざるを得なかったと言えます。
人生の型や価値眼が液状化し、多様な働き方がワーキングプアを生む一因になりました。
ワーキングプアの対策
ワーキングプアはどのようにすれば解消できるのでしょうか。いくつかの対策を議論してみます。
デフレの脱却
ワーキングプアの解消には、デフレの脱却が何より必要です。デフレによって日本は失われた20年、30年に突入しました。平均所得は下落し、国民は貧困化したのです。
デフレは企業もむしばみました。デフレとは需要過少の状態であり、企業にとって売り上げが伸びにくい経済状況です。企業はコストカットに伴う人件費削減を行いました。
合理化・効率化はイノベーションの発生を抑制します。人材・投資・研究がコストカットによって毀損されるからです。
ワーキングプアはこういった状況によって生み出されたのです。
ワーキングプアの解消には、いの一番にデフレ脱却が必要です。
最低賃金のアップ
最低賃金のアップもワーキングプアの解消に役立ちます。ワーキングプアの定義は年収200万円未満です。時給1000円がワーキングプアかどうかのボーダーです。
最低賃金は都道府県ごとに決定されます。沖縄などの最低賃金は792円と非常に低いです。全国平均でも最低賃金は902円となっています。
ワーキングプアを解決するには、最低賃金のアップが必要不可欠です。
最低賃金をアップするためには、アップできる経済状況が必要です。すなわち、デフレ脱却です。デフレを脱却するためには積極財政が必要です。
労働者保護の強化
労働者保護もワーキングプア対策には必須です。日本は1990年代から労働規制を緩和してきました。規制緩和は労働市場の競争を激化させ、買い手市場化し、平均所得下落圧力につながりました。
労働者は一方で消費者です。労働市場の競争激化で所得が下がれば、需要そのものが減少します。つまり、労働規制の緩和はデフレ圧力なのです。
労働者保護を強化することで需要が増え、企業の売り上げも伸びやすいです。この考え方をフォーディズムと呼びます。
アメリカのヘンリー・フォードの経営思想で、労働者の待遇をよくすれば需要が上がり、企業の売り上げも伸びると考えました。
ワーキングプア解消のため、フォーディズムの思想こそが日本に必要です。
まとめ
日本にワーキングプアは560万人以上存在します。労働者の約1割がワーキングプアで、真面目に働いているのに生活保護レベルの生活しかできていないのです。
ワーキングプアが発生する原因は主に、新自由主義を導入したこととデフレです。効率化・合理化によって労働市場の競争を激化させた結果、ワーキングプアは発生しました。
非正規雇用が増加し、正規雇用が減少しました。
くわえて、デフレによって全体的な平均所得が下落し、よりワーキングプアになりやすい環境が現出しました。
ワーキングプアを解消する対策は簡単です。デフレの脱却と労働者の保護、最低賃金のアップなどです。積極財政こそがワーキングプアを解消します。
ワーキングプアの悲惨さについては「ワーキングプア―日本を蝕む病」が詳しいです。
ワーキングプアとは単なる貧困ではない。一生懸命働いてきた、そして今も一生懸命働いているのに生活に困窮している人々である。
どうしてそういう事態に陥っているのかの直接の原因及びその背景を具体的な取材で明らかにしているのがこの本である。それは単なる「自己責任」や「自助努力」では解決できない突然の不幸と社会の労働環境に大きく依存している実態が提供されている。
私は、今から15年くらい前、派遣労働が大きく拡大され、定期昇給なし、ボーナスなし、社会保障もなしという層が増えていくと、将来、年金がもらえず、生活保護者が結局増える政策を政府は進めているが、将来のことを政府は考えているのだろうかと大きな疑問を持ったことを覚えている。
この本はちょうどその時点あたりで書かれているが、その時点でも非正規労働者が3分の1になっているとある。
まさに、現在2020年、新型コロナで店や中小企業が立ちいかなくなり、多くの倒産及び解雇が突然起こっている。
まさに、こうして、路上生活者や職が得られても大量のワーキングプアが生まれている。
これに対して対応できないのが今の日本であり、もう20年もすると年金なしの大量貧困者が出てくることは確実だと言える。これはもう、政府の政策とは言えない、日本政府の無策ぶりが露呈し始めていると言える。
この本の副タイトルは「日本をむしばむ病」」とある。それはかなり深刻な慢性病となっている。
ワーキングプア―日本を蝕む病 | NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班 |本 | 通販 | Amazon
いくら真面目に働いても報われない時代が来る。
「ワーキングプア」。先進国のはずの日本で日々の生活にも事欠くほどの暮らしの困窮に直面する人々を紹介するノンフィクション。
困窮する理由は様々だが、十分な給与を得られる仕事がない。あっても就けない人が多い。
離婚や病気や会社の倒産等で安定から転がり落ちた人間もいて、最早誰もがそうなっておかしくない。この本で特に注目すべき点は「他の本ではあまり紹介されていない地方の困窮者」の記述であると思う。
北海道、秋田、岐阜と、疲弊する地方経済は低賃金労働に就かざるを得ない現実。
グローバル化の波に呑まれ、低価格帯の中国製品との競争に晒され、
さらには急増する外国人労働者は「違法な低賃金」で日本人労働者の仕事を奪っていく。健康で働く意欲があったとしても、年齢や性別で差別されて仕事にあり付けない。
貧困は連鎖し、貧困な親の子供は貧困な大人になる可能性が高いのである。「問題提起の赤版」がこれ。セットでもうひとつの「青版」で解決策を提示するようなので、
ワーキングプア―日本を蝕む病 | NHKスペシャル『ワーキングプア』取材班 |本 | 通販 | Amazon
そちらと合わせて読むことが必須である。