非正規雇用問題は一筋縄ではいきません。日本経済の問題が凝り固まり、表出したのが非正規雇用問題と言えます。非正規雇用問題は日本の経済問題そのものです。
今回の記事では非正規雇用問題の現状を、主に厚生労働省のデータから読み解きます。読み解いていく過程において、非正規雇用問題の実態が明らかになります。
現状を明らかにした上で、フォーカスすべき問題点を整理します。
そして、非正規雇用の問題点を整理した上で解決策を議論します。
非正規雇用とは
非正規雇用問題の現状の前に、非正規雇用とは何かについて簡単にまとめます。
非正規雇用の雇用形態
正規雇用の条件に当てはまらなければ非正規雇用です。
以下の条件が正規雇用の定義です。
- 直接雇用
- 無期雇用
- フルタイム
会社からの直接雇用であり、派遣などではないことが1つめの条件です。2つめは無期雇用、すなわち契約期間がなく退職まで企業に雇用されていることです。3つめがフルタイムで週に35時間以上働いていることです。
この条件のうち、どれが1つでも当てはまらなければ非正規雇用です。
非正規雇用はパート、アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託などに分類されます。
非正規雇用と正規雇用の扱いの違い
一般的に、非正規雇用はジョブ型雇用で正規雇用はメンバーシップ型雇用です。ジョブ型雇用は「仕事に人をつける働き方」、メンバーシップ型雇用は「人に仕事をつける働き方」と説明されます。
ジョブ型雇用は決まった仕事があり、それをできるスキルを持った人を割り振るイメージです。逆に、メンバーシップ型雇用はまず人を雇い、仕事を割り振って育てながら働かせるイメージです。
仕事には「抽象業務」「ルーチン業務」「マニュアル業務」があります。抽象業務は分析や企画、マネージメントなどです。ルーチン業務はベルトコンベアで決まったことを繰り返す業務など、マニュアル業務は接客業などです。
メンバーシップ型雇用は抽象業務がこなせる人材を育てるのに向いています。ジョブ型雇用はもともとスキルを持った人を割り振るため、教育コストかからないというメリットがあります。その代わり、抽象業務よりルーチン業務、マニュアル業務などが中心になります。
非正規雇用問題の現状
非正規雇用の現状は厚生労働省が資料をまとめています。ここから先、使用するデータや資料は主に「非正規雇用」の現状と課題(厚生労働省)からです。
年々、割合や人数が増えている
昭和59年(1984年)の非正規雇用割合は15.3%でした。1990年代から非正規雇用の割合が増加し始め、現在では労働者の約4割が非正規雇用です。
1986年に労働者派遣法が施行され、1996年や1999年、2004年の労働者派遣法改正で非正規雇用が増加し始めました。
くわえて、1996年や1997年をピークに日本の平均所得は下落しています。同時期、専業主婦が減少して共働きが増えていきます。家計を支えるため、女性が非正規雇用として労働市場に流入しました。
高齢者の非正規雇用の増加
非正規雇用では高齢者も増加しています。平成4年(1992年)、高齢者の非正規雇用はわずか57万人でした。平成29年(2017年)には316万人で、非正規雇用の6分の1を占めます。
正規雇用や自営業を含め、65歳以上で働いている高齢者は770万人と過去最多です。その理由として「生活水準の維持のため」が男女ともに約半数でした。
なお、65歳以上の高齢者雇用の76%が非正規雇用です。
派遣や嘱託、契約社員の割合が増加
非正規雇用に占めるパートやアルバイトの割合にあまり変化はありません。一方、派遣社員や契約社員、嘱託の割合が増えてきています。
不本意な非正規雇用は14.3%で270万人
非正規雇用であることが不本意な割合は14.3%で、約270万人が正規雇用へ転換したいと考えています。270万人は全労働者の5%に当たる数字です。
正規雇用で稼ぎたい、活躍したいと思っている人材を活用できないのは、社会にとっての損失です。
平均時給が正規雇用に比べて低い
正規雇用と非正規雇用の賃金は30代から大きく差がつき始めます。40代で正規雇用は時給2000円に乗り、非正規雇用は1100円~1300円です。
くわえて、非正規雇用の賃金は年齢が上がってほとんど上昇しません。
非正規雇用の時給が上がらないのは職場を転々とするからでしょうか? 上記の資料によれば、勤続年数が長くてもほとんど年収はアップしません。
正社員の半分ほどしか教育されない
正規雇用に比べて非正規雇用は、OJTやOFF-JTなどの教育訓練を半分程度しか受けられません。非正規雇用は正規雇用に比べてスキルアップが困難です。
女性の割合が非正規雇用では大きい
非正規雇用では女性が圧倒的に多くなっています。国民の平均所得が下がっていき、そのため専業主婦が少なくなり共働きが増えていきました。この経緯と、女性の非正規雇用が多いのは関係しています。
現在では1人世帯が男女ともに増えており、非正規雇用で生活を支えている女性が多くいます。女性の雇用環境は良好とは言えません。
非正規雇用の問題点
データを元に非正規雇用問題の現状を整理してきました。ここからは、非正規雇用の問題点について、特にフォーカスするべきものを挙げます。
賃金が低い
非正規雇用の一番の問題点は賃金の低さです。正規雇用に比べて、40代で5~6割程度の時給しかありません。
くわえて、非正規雇用の賃金は勤続年数が長くても、年齢を重ねても上がりません。
仕事には「抽象業務」「ルーチン業務」「マニュアル業務」があると紹介しました。このうち、高い賃金が望めるのは抽象業務だけです。非正規雇用の仕事は主にルーチン業務、マニュアル業務ですから賃金が上がりません。
これは非正規雇用がジョブ型雇用であることが理由です。ジョブ型雇用なのでジョブ以外の仕事は任されず、教育されません。抽象業務はメンバーシップ型雇用の正規雇用が独占します。
働き方改革では同一労働同一賃金が施行されました。
しかし、そもそも「同一労働を任されない」ケースが多いのが非正規雇用です
雇用が不安定
非正規雇用は雇用が不安定です。不景気になったときには真っ先に調整弁として雇い止め、契約の打ち切りなどが行われます。
くわえて、非正規雇用はスキル・キャリアアップが難しいため、年齢を重ねるごとに次の職を探すのにも苦労します。雇用が不安定だからこそ、安い賃金でも我慢するという悪循環が生まれます。
スキルアップ・キャリアアップができない
非正規雇用がOJTやOFF-JTなどの教育を受ける機会は、正規雇用の約半分です。くわえて、ジョブ型雇用でルーチン業務、マニュアル業務が多いので、スキルアップしても応用が限定的です。
応用が限定的なので、スキルアップしてもキャリアアップできない事態に陥ります。
たとえば、いくら店員の仕事に精通しても店長をするのは難しいことと同様です。
正規雇用への転換が進まない
非正規雇用の14.3%は正規雇用への転換を望んでいます。人数にして270万人が正規雇用を望みながら、不本意な非正規雇用を続けています。
日本の正規雇用は平成6年(1994年)をピークに減少しています。今後も大きく増えることは考えにくいでしょう。したがって、このままでは非正規雇用が正規雇用に転換するのも難しいはずです。
非正規雇用の問題への解決策
非正規雇用問題に対応するための解決策について議論します。
正規雇用の拡大
もっとも望ましいのは正規雇用の拡大です。
日本は失われた20年でデフレになりました。デフレは平均所得を下落させ続け、正規雇用の拡大を阻みました。正規雇用の拡大にはまず、デフレ脱却が不可欠です。
デフレを脱却し、労働市場が売り手市場化することで正規雇用拡大への道も開けます。
同一労働同一賃金の徹底
安倍内閣の働き方改革で、同一労働同一賃金が施行されました。大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から適用されます。
しかし、上述して論じたように非正規雇用はジョブ型雇用です。賃金が高い抽象業務のスキルを磨けません。仕事内容はルーチン業務やマニュアル業務ばかりです。
同一労働同一賃金が徹底されたとしても、仕事内容が異なるため賃金格差は埋まらないと思われます。
また、同一労働同一賃金の徹底はジョブ型雇用をさらに波及させるかもしれません。同一労働同一賃金の前提条件はジョブ型雇用です。企業が同一労働同一賃金を適用した結果、ジョブ型雇用が増える可能性も高いでしょう。
最低賃金のアップ
非正規雇用の大きな問題は「雇用の不安定さ」「賃金の安さ」の2つです。雇用の不安定さは正規雇用への転換が進まなければ解決できません。
賃金の安さを解消するには、最低賃金のアップが必要です。
日本の最低賃金は全国平均で902円です。最低賃金は都道府県ごとに異なり、たとえば沖縄では792円です。最低賃金を引き上げることで、非正規雇用の賃金の低さをある程度解消できます。
まとめ
非正規雇用は主に「雇用の不安定さ」「賃金の安さ」の2つが問題です。
日本の産業構造は今や非正規雇用なしでは成り立ちません。むしろ、非正規雇用を前提として成り立っています。
そのため、非正規雇用問題の解決は困難を極めるでしょう。
たとえば、最低賃金を引き上げれば、飲食業や中小企業がバタバタと倒産するかもしれません。
非正規雇用問題を解決するためには、日本全体の経済問題を解決する必要があります。それはデフレ脱却や産業空洞化、イノベーションの低下などです。
非正規雇用問題は、これらの問題が凝り固まり表出したものと言えます。
さらに大きな視点も、非正規雇用問題を解決するためには必要でしょう。