レントシーキングと聞いて、パッと意味が思い浮かぶ人はかなりの政治通。レントシーキングという言葉はあまり一般的ではありません。報道やニュースで聞くことも少ないはず。
しかし、レントシーキングの意味や定義を知ることは重要です。アメリカではレントシーキングがまかり通り、多くの公共サービスが利潤追求のために変容しています。日本も例外ではなく、レントシーキングが進みつつあります。
レントシーキングの意味や定義、歴史についてわかりやすく解説します。くわえて、実際のレントシーキングの事例も紹介します。なぜレントシーキングは否定されるべきなのかお伝えします。
レントシーキングの意味
レントシーキングは英語で「Rent-seeking」と書きます。レントシーキングの意味は、民間企業などが政府や政治家、官僚組織に働きかけて法制度の改正を行い、自分たちに都合のいい規制やルールを作ることです。
規制やルールを作ることには規制緩和も含まれます。
こうして作った規制やルールによって、超過利潤を得るための活動をレントシーキングと呼びます。
超過利潤とは通常は起きないことによって得られる利益や、想定外に多い利益を指します。レントシーキングとは、超過利潤を得るためのロビー活動と考えればわかりやすいでしょう。
レントシーキングのために活動する人たちを「レントシーカー」「ロビイスト」などと呼びます。
レントシーキングの成り立ち
レントシーキングの成り立ちは「レント(Rent)を求める(seeking)」から来ています。レントとはイギリスの農園主が小作人から徴収していた地代のことです。
レントはやがて、制度や規制などによって得られる利権のことを指すようになります。
制度や規制を変えることによる利権の争奪戦がレントシーキングです。
利権と呼ぶとすぐ既得権益を思い浮かべ、敵対的になる人もいます。しかし、既得権益そのものは良くも悪くもありません。
利権とはどんな場所にでも発生します。その利権が時間が経つと既得権益と呼ばれます。
利権そのものは公益に資する場合も多々あります。
レントシーキングの問題は公益を考えず、超過利潤を求めて企業が規制やルールを作り替えることにあります。利権(レント)そのものの問題ではなく、利権の求め方が問題です。
レントシーキングの事例
レントシーキングだと指摘される事例を紹介します。実例を参照するとレントシーキングの意味がよりリアルに理解できます。
水道事業民営化
水道事業民営化はレントシーキングだと指摘されます。公共サービスを民営化すれば民間企業が参入し、水道事業から多くの利潤を得られるからです。
日本の水道は地方自治体が運営していました。しかし、水道事業民営化で民間企業が参入可能になりました。
多くの国で水道事業民営化が推進されてきましたが、失敗に終わった例も多くあります。再公営化の事例は枚挙に暇がありません。
水道事業民営化によって水道料金が跳ね上がったり、サービスが悪くなったりしたからです。
水道事業は地域独占で、競争がありません。独占してしまえば利潤を生み続けます。もしサービスを落としても、他の水道を住民は選べません。
こういった仕組みから水道事業民営化は、レントシーキングだと指摘されています。
再生可能エネルギー特別措置法
再生可能エネルギー特別措置法、通称FITもレントシーキングだと指摘されています。再生可能エネルギー特別措置法は再エネを固定買い取り価格にし、コストを消費者に転嫁します。。
建前上は「再エネはコストが高く普及が進まなかった。そのコスト回収見通しが立つことによって再エネの普及が進む」というものです。
電気を消費する国民は再エネを拒否できません。すなわち、法律やルールによって再エネのコストが国民に転嫁されました。
再エネ関連の企業にとっては美味しいことこの上ありません。明らかにレントシーキングであり、再エネ関連企業は超過利潤を得ています。
労働者派遣法の改正
水道事業民営化や再生可能エネルギー特別措置法は最近のことですが、労働者派遣法の改正はかなり昔のレントシーキングです。
1999年と2003年に労働者派遣法は大きく改正されました。特に2003年の改正は大きな意味を持ちます。小泉内閣の頃、内閣府特命担当大臣として経済・財政政策を担当していたのが竹中平蔵です。
2003年の労働者派遣法改正では「派遣期間の延長」「製造業への労働者派遣解禁」の2つが行われました。
多くの企業にとって派遣を利用するインセンティブが増しました。
竹中平蔵は現在、パソナという人材派遣会社の会長をしています。政府内で労働派遣法改正を行い、自身は人材派遣会社の会長に納まったのです。
レントシーキング以外の何物でもないでしょう。
軽自動車の優遇廃止要求
日本でも本格的にレントシーキングが始まっていますが、本場はアメリカです。
アメリカの回転ドアは非常に有名です。民間企業から政府の要職に就き、政府の要職から民間企業に天下りを繰り返す様を「回転ドア」と揶揄します。
ロビイストたちはあらゆる企業から出向してきて、自分たちに都合のいい規制やルールを国家に押し付けます。
中には日本への要求も含まれます。
軽自動車の優遇廃止要求はその1つです。
軽自動車は税制で優遇措置があり、高速料金や保険も安いです。日本国内の新車の3割は軽自動車だそうです。
ところが、アメリカの自動車メーカーは軽自動車を製造していません。そこで「軽自動車の優遇は不公平だ」と日本政府に優遇廃止を迫りました。
自分たちに不利ならルールを変えてしまえ、というわけです。
この事例も立派なレントシーキングの1つです。
レントシーキングはなぜダメなのか
レントシーキングがダメな理由は3つあります。
- 企業の利潤追求のために公のルールが変えられる
- 利潤追求のためのルール変更は安全保障を損なう
- 市場の公平な競争が阻害される
1.は当然、ダメですよね。例えば、会社で声の大きい1人の社員ためにルールを変更するのははばかられます。ルール変更で不利益を押し付けられる人も出てきます。
同様に企業の利潤追求のため、公のルールが変更されてるのはマズいでしょう。
2.はあまり意識されませんが大切なポイントです。利潤追求のためのルール変更の多くは安全保障を損ないます。
安全保障とは軍事だけではありません。食料安全保障やエネルギー安全保障など、国民が安全・安心して暮らせる保障が安全保障です。
水は生命を維持するのに必要不可欠です。水道を民間企業が運営して利潤を追求すると、水道料金が跳ね上がります。実際に水道事業民営化をした国、地域で水道料金が跳ね上がりました。
このようにレントシーキングで民間企業の利潤を追求すると、国民や住民の安全保障に悪影響を及ぼします。
3.はそのままです。レントシーキングを許すと、政治力の強い企業が市場で勝利します。公平な競争が阻害され、消費者にとっても不利益です。
まとめ
レントシーキングとは超過利潤のため、企業が政治力を使って規制やルールを変更することです。日本においても労働者派遣法改正、水道事業民営化などさまざまなレントシーキングが行われてきました。
レントシーキングは公のルールを私物化し、国民の安全保障を損ね、公平な市場の競争を阻害します。
レントシーキングは一度、許すとタケノコのように生えてきます。アメリカでは政治が大企業に操られています。そうならないためにも、国民一人ひとりのチェックが必要です。
求める(seeking)とは優しい言い方ですよね。
盗む「Stealing」が正しいでしょう。
レントスティーリング、レントスティーラーこっちの方が実態を表してるでしょう?
法改正と言う名のピッキングで規制と言う名の鍵をこじ開けて公共の利益を盗んでいくんですからw
そちらの方が実態をより表しているように感じますね~。