2013年の安倍内閣から金融緩和というキーワードはポピュラーになりました。「異次元の金融緩和」「量的・質的金融緩和」などと聞いたことがある人も多いはず。
では、実際に金融緩和とは何をやっているのか? と聞かれて、答えられる人はどれくらいいるでしょうか。多くの人が答えに詰まることと思います。
今回の記事では「中学生でも理解できること」を目標に、簡単にわかりやすく金融緩和を解説します。
金融緩和とは
金融緩和の対義語は金融引き締めです。金融緩和は金利引き下げを目的に行われ、金融引き締めは金利引き上げを目的に行われます。
金利が下がると、企業や個人がお金を借りやすくなります。借り入れが増えて、その分が消費や投資に回されます。つまり、需要が増えるので景気がよくなります。
デフレとは需要不足ですから、金融緩和の金利を引き下げで需要を刺激します。
逆に、過剰なインフレのときは需要過多です。金融引き締めで金利を引き上げ、借り入れをしにくくすることでインフレを冷まします。
金融緩和は国債の買いオペなどによって金利操作します。
国債の長期金利は市場の金利にも影響を及ぼします。国債金利を操作すれば、市場の金利も操作できます。
買いオペとは日銀が国債を買い入れることです。買いオペは買いオペレーション(公開市場操作)の略語です。
国債は銀行の資産運用にとって重要です。日銀が国債を買い入れると国債が少なくなり、銀行が国債を欲しがって国債価格が上昇します。
たくさんの人が欲しがる債権は利回りが低くなります。つまり、日銀が買い入れることで国債の金利が低下します。
このように、日銀は長期金利を操作します。
金融緩和の効果は、金利の低下で企業や個人が借り入れしやすくなることです。しかし、ゼロ金利になると金融緩和の効果が激減します。金利がこれ以上、下げられないからです。
金融緩和はゼロ金利になると効果がなくなります。
日銀の金融緩和の効果や実績
日銀はゼロ金利下でも金融緩和を続けました。ゼロ金利では景気に対する効果はありません。けれども、それ以外にいくつかの効果や実績が上がりました。
イールドカーブコントロール(長短金利操作)
1つめの実績は「イールドカーブコントロールができると証明されたこと」です。
イールドカーブコントロールは日本語で長短金利操作と訳されます。イールドカーブとは債権の利回りと償還期間の相関を示したものです。
要するにイールドカーブコントロールとは金利操作です。
国債が多い状態でイールドカーブコントロールができるかどうか不明でした。経済学的には国債が暴落し、金利が急騰する事態が懸念されました。
ですが、日本で金融緩和とゼロ金利によって「国債が多い状態でもイールドカーブコントロールできた」という実績が上がりました。
クラウディングアウトの否定
国債が多い状態でイールドカーブコントロールできたこと関連しますが、クラウディングアウトが否定されつつあります。
クラウディングアウトとは「国が国債発行によって多く借り入れると、民間の借り入れるお金がなくなって金利が急騰する」という理論です。
「100のうち、90を国が借り入れたら10しか民間が借り入れできなくなる。よって金利が急騰するはず」がクラウディングアウトです。
金利が上がると急激なインフレになると懸念されていました。
しかし、日本では国債が積み上がっても金利が上がらず、むしろ低迷しました。世界的にもコロナで積極財政政策が採られていますが、金利が上がる気配を見せません。
財政政策+金融緩和でクラウディングアウトは起こらないと証明されました。
積極財政の可能性
クラウディングアウトが起こらないとインフレになりません。
政府は通貨発行権を持っており、自国通貨建て国債ならいつでも返済可能です。デフォルトの心配はありません。
よって、自国通貨建て国債を使った財政政策での心配は急激なインフレだけです。ところが、クラウディングアウトが起こらずインフレ懸念もありませんから、積極財政が可能と結論されます。
リフレ理論と金融緩和
安倍内閣ではリフレ理論が採用されました。
金融緩和は買いオペをします。買い入れた国債の代わりに、その金額を日銀当座預金に振り替えます。金融緩和は国債買い入れとともに、通貨の供給もしていると見なされてきました。
リフレ理論によればデフレは貨幣現象です。お金が少ないからデフレが起きるとされています。金融緩和によって通貨を供給すればデフレは解消できるはず、とリフレ理論は主張しました。
その理論はこうです。
日銀は買いオペによって国債を買い入れ、代わりに通貨を銀行に供給します。その通貨は日銀当座預金に供給されます。すると、民間では通貨供給にともなって「インフレ期待が形成」されます。
インフレになるならお金を借りておいた方が得――インフレはお金の価値が下落、物価が上昇する現象――なので、民間がお金を借り始めるはずです。
こうしてデフレ脱却し、インフレ目標が達成できるはずでした。
これがリフレ理論です。
ところが、実際には「インフレ期待」は形成されませんでした。「日銀当座預金がだぶついたらインフレ期待が形成される」とか意味不明ですよね。
こうしてリフレ理論は失敗に終わりました。
ゼロ金利下の状況では、金融緩和は景気に影響を与えなかったのです。
コロナと金融緩和
コロナ禍で世界中が金融緩和と積極財政を採用しています。これだけ多くの国が積極財政をしても金利が上がらないため、クラウディングアウトを主張していた経済学者たちも認識を改め始めています。
例えば、竹中平蔵は朝まで生テレビで、これまでの認識を転換する発言をしています。
また、元内閣官房参与の浜田宏一も同様です。
世界でも多くの著名人が財政政策+金融緩和を支持し、旧来の財政健全化を必要ないと言い始めました。
これはクラウディングアウトを起こさず、金融緩和で金利操作しながら積極財政が可能だと認めたからです。
世界の財政・金融政策も大きく変化しようとしています。
まとめ
金融緩和の解説は専門用語が多くわかりにくいです。けれども、専門用語なしに金融緩和を説明するのも困難です。
今回の記事ではできる限り簡単に、わかりやすく説明したつもりです。これ以上わかりやすくするのはなかなか大変だと思います。
金融緩和のイメージをつかんでおけば、経済関連のニュースへの理解もより深くなります。わかりづらいところは調べたり、検索したりして理解を深めてくださいね。