2010年代から非正規公務員が大きな問題となりました。非正規公務員は低所得で雇用が不安定にもかかわらず、専門性が要求されます。そのアンバランスさが問題視されました。
くわえて、公共サービスを受けるのは国民です。非正規公務員の増加による公共サービスの低下や、非常事態への対応が心配されます。
非正規公務員を取り巻く環境は、2020年の会計年度任用職員制度でやや改善したように見えます。しかし、日本の公務員数や人件費はOECD諸国と比較するとかなり低めです。会計年度任用職員制度だけでは改善しきれません。
日本の非正規公務員やそれを取り巻く諸問題について、わかりやすく解説していきます。
そもそも非正規公務員とは
非正規公務員とは、国や地方行政で働く非常勤職員を指します。自治体の窓口業務や学校の教員、図書館の司書、公立保育園の保育士などに多い雇用形態です。その他にハローワークの相談員や介護保険、障害福祉サービスの認定調査員などにも非正規公務員が多いとされます。
1990年代から行政改革が行われ、その一環として公務員が減らされてきました。合理化や人件費の削減で正規公務員が減らされ、非正規公務員が増加しました。
年収200万円未満の非正規公務員も存在し、公務員のワーキングプアとして問題視されています。
非正規公務員を取り巻く問題
ここでは非正規公務員を取り巻く問題を参照しましょう。
増加し続ける非正規公務員
1969年に施行された総定員法は、行政の肥大化を防ぐための法律です。総定員法により公務員は一貫して減らされ続けました。さらに、1990年代に入りバブル崩壊や地方債務残高が増加した結果、行政改革と称して合理化を推し進めました。
人件費圧縮のため、非正規公務員は増える一方です。
国家公務員で正規公務員26.5万人に対して、7.8万人が非正規公務員です。非正規率は22.7%で4人に1人が非正規公務員に数えられます。
地方公務員の非正規率の調査は2005年に初めて行われました。2005年に全国で45.5万人だった非正規公務員は2016年に64.3万人にまで増加しました。11年間で18.7万人、約4割以上の増加です。地方公務員の3人に1人は非正規公務員で、そのうちの75%は女性です。
非正規公務員にも専門性が要求される
非正規公務員も行政サービスを担います。専門性を要求される仕事も非正規公務員が担っているケースが多くあります。
例えばハローワークの相談員や障害福祉サービスの認定調査員、教員などです。正規公務員と変わらない専門性が必要とされる分野の多くが、非正規公務員によって支えられています。
非正規公務員だから雇用が不安定
非正規公務員は民間の有期雇用労働者と同じく、期限を定められて雇用されています。常に雇い止めの可能性があり、雇用は不安定です。
民間では2018年から有期雇用労働者が5年を超えて働いた場合、無期契約が結べる無期転換ルールが始まりました。しかし、非正規公務員にこのルールは適用されません。契約更新の確約がない不安定な雇用が、精神的負担になる非正規公務員も少なくありません。
非正規公務員も給料が安い
専門性が求められ有期雇用なら給料が高くてもいいはずです。ですが、非正規公務員の所得は決して高くはありません。
総務省の行った調査によれば事務補助の非正規公務員の場合、時給900円ほどが平均です。フルタイムで働いたとしても月に13万~14万円ほどにしかなりません。
他例では保育士で時給1000~1200円ほどです。
なお2020年の会計年度任用職員制度が始まるまで、非正規公務員にはボーナスがありませんでした。
非正規公務員が増加した原因
非正規公務員が国家公務員で4人に1人、地方公務員で3人に1人にまで増加したのは国の方針による影響が大です。増加した原因と現状について参照しましょう。
行政の定員を減らす総定員法
1969年に施行された総定員法は、国家公務員の膨張を抑える法律です。総定員法により公務員は削減される方向に進んできました。政府は2000年代に入っても一貫して公務員削減を続けました。
国と地方による合理化と行政改革
1991年にバブルが崩壊し、急速に国債や地方債の残高が膨らみました。そのため財政健全化が目標とされ、予算の一定部分を占める公務員が削減されました。特に地方は債務残高が大きくなり、国からの支援もなくスリム化せざるを得ない事情がありました。
こうして行政改革で合理化やスリム化が行われました。しかし、業務が減るわけではありません。そこで非正規公務員による人件費の圧縮が行われ、非正規公務員が増加していきました。
OECD加盟国で最低の人数と人件費
日本はOECD諸国の中で公務員の人数、人件費ともに最低です。
日本の公務員数は先進国で最低レベルです。
付言しておくと、日本は災害大国です。そんな日本で、災害時に多くの業務を担う公務員が少ないのは自殺行為です。これ以上の人件費圧縮は大きな禍根を発生させるでしょう。
非正規公務員が増えると国民も困る
公務員の人件費を圧縮して非正規公務員を増やす方向性は、国民にとって有害無益です。日本はむしろ非正規公務員の割合を減らし、公務員数も増やすことが必要です。
なぜ、非正規公務員が増えて公務員数が減ると国民が困るのでしょうか。
公共サービスの質が保証されない
普段はあまり実感しませんが、公共サービスを誰でも享受しています。また、いざというときに公共サービスを利用する機会もあるでしょう。
例えば失業保険や年金、生活保護、国民健康保険などです。
こういった公共サービスの質は、そこで働く正規、非正規公務員たちによって支えられています。公務員全体の数が減れば当然、提供できる公共サービスの質も低下します。
コロナ禍などの非常事態に対応しきれない
上述したとおり日本は災害大国です。今回のコロナ禍のような非常事態はいつでも想定されます。非常事態で公共サービスを円滑に行うにはマンパワーが必要です。つまり、公務員の数や質こそが非常事態に有効です。
しかし公務員数を削減し続け、非正規公務員を増やし続けたらどうなるでしょうか。非常事態に対応できない脆弱な行政しか残りません。それで本当にいいのか? 国民一人ひとりが自問自答するべきでしょう。
2020年から非正規公務員の待遇はやや改善
非正規公務員のワーキングプアや過酷な状況が明らかになり、政府も一応の対処療法を採りました。会計年度任用職員制度を定めることで待遇の改善を図ったのです。
会計年度任用職員制度について簡単に触れておきます。
会計年度任用職員制度とは
会計年度任用職員制度とは2020年4月1日から施行された制度です。非正規公務員に対して「昇給制度の導入」「残業代や通勤手当の支給」「ボーナスや退職金、休暇制度の待遇改善」などが行われました。
非正規公務員に一律の身分を与え、そのルールを統一化するのが会計年度任用職員制度です。これまでは地方自治体によって待遇がまちまちでした。
ただし、デメリットも指摘されています。
例えばボーナスの支給が制度化されたので、その分、月給を低くするケースが見られます。
問題の根本は、地方自治体にそもそも財源がない点です。政府が緊縮財政を行っており、地方交付金などの自治体支援が少ないために財源が十分ではありません。
非正規公務員の処遇を改善するなら、政府は緊縮財政を改めるべきでしょう。
副業禁止や月給が下がると言った弊害も
会計年度任用職員制度は、フルタイムかパートタイムかによって副業規定が異なります。今まで非正規公務員は副業OKでした。施行後、フルタイム非正規公務員は副業禁止になりました。他に、正規公務員と同じように守秘義務も課せられます。
ボーナスを支給された分、月給が下がるケースも見られます。月給が下がって生活に困窮するケースも散見されます。
まとめ
今回の記事では非正規公務員がどのような状況に置かれており、現状はどうなのか? などの点を重点的に見てきました。
民間でも非正規雇用はいろいろと問題になっていますが、非正規公務員も同様です。雇用が不安定で所得が安く、職場環境によってはワーキングプアである場合すら見られます。
非正規雇用の問題は突き詰めると人件費カット、合理化が根底にあります。民間では景気が悪くデフレだから非正規雇用が増え、行政では国が緊縮財政だから非正規公務員が増えます。
結局、緊縮財政が問題の根本です
緊縮財政をどうにかしないと、非正規雇用や非正規公務員の問題は根本的に解決しません。