ベーシックインカムの導入国や実験国とその結果および問題点

 ベーシックインカムは毎月、決まった給付を受け取れる制度です。もしそんな制度があれば夢のようですよね。

 日本でベーシックインカムは議論され始めたばかりですが、世界ではすでに導入実験している国もあります。また、イランのような導入国の例もあります。

 今回の記事ではベーシックインカムの導入事例、実験事例についてまとめます。実験も含めたベーシックインカムの導入国は全部で9カ国です。

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「一時的なBI」と「恒常的なBI」

 実験も含めた導入国を紹介する前に、ベーシックインカムの基礎について少しだけ触れておきます。ベーシックインカムは毎月、決まった金額を給付する制度です。

 全国民に給付するベーシックインカムを「ユニバーサルベーシックインカム(UBI)」と呼びます。なお、ベーシックインカムの略が「BI」です。

 コロナ禍で多くの国が粗利・休業補償などを実施しました。これらは「一時的なベーシックインカム」と呼ばれています。
 一般的なベーシックインカムは「恒常的なベーシックインカム」です。

 現在のところ、恒常的なベーシックインカムに踏み切った先進国はありません。唯一、イランがベーシックインカムを導入しています。
 後半ではイランのベーシックインカムについても解説します。

ベーシックインカムの実験導入国一覧

 ベーシックインカムを実験的に導入した国や地域を紹介します。なお、2020年にスペインがベーシックインカムを導入すると報じられましたが、給付は生活困窮者に限定されています。日本の生活保護に近い制度でした。

 ですから、スペインはベーシックインカム導入国の一覧には入れていません。

ドイツ

 2020年8月、報道によればドイツが120人を対象に3年間、毎月1200ユーロ(約15万円)を給付するユニバーサルベーシックインカムの実験を開始しました。

 この実験はドイツ経済研究所が、ユニバーサルベーシックインカムの効果を明らかにするために行っています。
 比較対象として1380人の現金給付を受けていない人々も調査します。

 国家としてユニバーサルベーシックインカムの実験を行うのは、G20の中でドイツが初めてです。

ケニア

 GiveDirectlyという慈善団体が、ケニアでベーシックインカムの実験をしています。

 2017年から12年間にわたって40の村々が毎月22.5ドルを受け取ります。その他に2年間だけ月々の給付を受けられる村々、2年間分を一括で受け取る村々、何も受け取らない村々といった比較実験も行います。

 合計で1万6000人以上を対象としており、かなり規模の大きさです。
 ベーシックインカムが貧困にどう作用するのかなど、この実験でさまざまなことが明らかになるでしょう。

フィンランド

 フィンランドは2017年から2年間、ベーシックインカムの実験を行いました。2000人の失業者に対して毎月600ドル(約6万8000円)を給付したのです。

 実験の報告書は2020年5月6日にまとめて公表されました。

 フィンランドの導入実験によれば、ベーシックインカム受給者は幸福度が上がりストレスが軽減されました。雇用への影響はほとんど見られなかったそうです。

 国家として導入実験をしたのはドイツ、フィンランドの2カ国だけです。

アメリカ・カリフォルニア州ストックトン市

 2018年にアメリカのカリフォルニア州ストックトン市では、市民100人に毎月500ドルの現金を給付する実験が行われました。期間は12ヶ月~18ヶ月の間です。
 実験期間中は受給者の健康や育児、教育などの調査がされました。
 このプロジェクトはSEEDプロジェクトと呼ばれています。

 他にもカリフォルニア州オークランドでも導入実験が2016年に行われました。

 SEEDプロジェクトの結果、ベーシックインカムは雇用に影響を与えないと判明しました。

オランダ・ユトレヒト市

 2016年にオランダのユトレヒト市でベーシックインカムの導入実験が行われる予定でした。多くの人々が期待したものの、オランダ政府の許可が下りずに延期になりました。

 ユトレヒト市からその後の続報はありません。おそらく導入実験は行われなかったのでしょう。

カナダ・オンタリオ州

 カナダのオンタリオ州では、2017年から3年間のベーシックインカム導入実験が行われるはずでした。しかし、予定より早い2019年3月に実験は打ち切られました。

 自由党政権で実現した導入実験ですが、2018年に保守党に政権が移り導入実験も中止されました。

 オンタリオ州の実験では低所得の単身世帯に約1万7000カナダドル(約130万円)、結婚世帯に2万4000カナダドル(約190万円)が給付されました。

 導入実験の結果、受給者はより健康的に、より良い仕事を見つけられたとコメントされました。

インド

 インドでも2012年からインドの先住民族村落を対象に、ベーシックインカムの実験が行われたようです。しかし、詳細は報道されておらずわずかに研究資料が日本語で残るのみです。
参照 ベーシック・インカム政策導入が先住民族コミュニティに及ぼす影響

 インドはベーシックインカムに乗り気です。ベーシックインカムが州レベルで2年以内に導入される見込みだと2018年に報道されました。
 ところが2021年現在――続報はありません。

イタリア・リヴォルノ市

 イタリアのリヴォルノ市は2016年から、低所得層に対して537ドル(約6万円)の給付を始めました。対象人数は当初100世帯でしたが、2017年にはさらに100世帯を追加しました。

 実験の規模は小さく、給付期間は半年です。
 この制度はどちらか言えば日本の生活保護に近いかもしれません。

唯一のベーシックインカム導入国イラン

 イランは2010年、石油などに対する補助金を削減し、その代わりにベーシックインカムを給付し始めました。

 平均所得の3割に当たる1日1.5ドルを全国民に給付し始めました。アメリカに置き換えれば給付額は年間1万6000ドル相当(約170万円)になります。

 イランはベーシックインカムが雇用に影響を与えないと証明しました。ベーシックインカムは労働意欲を減衰させません。

 一方、イランのベーシックインカムはインフレを招きました。ベーシックインカムの給付額は当初から変わっていませんが、インフレで給付額の価値が半減しました。
 ベーシックインカムを実施してから各世帯の経済力は25%下落、全世帯の31%が貧困ライン以下に陥っているとの報告もあります。

追記

 「社会保障におけるベーシック・インカムの重要性(香川大学)」によればイランがベーシックインカムを導入したのは2011年からの6年間でした。イランのインフレ率はもともと十数%平均でしたが、2012年から数年間を見てみると30%に跳ね上がっています。
 ただしこのインフレがベーシックインカムに起因するのかどうか、議論が必要です。なぜならベーシックインカムが終了したあと、なぜかインフレ率が跳ね上がっているからです。

ベーシックインカム導入実験の結果と問題点

 ベーシックインカムを本格的に導入しているのはイランだけです。各国が小規模ながらベーシックインカム導入実験をするのは、国ごとに産業構造や国民性が異なるからです。
 イランは産油国ですから、産油国でない国はイランをあまり参考にできません

 国ごとに事情が異なるのを踏まえた上で、ベーシックインカム導入の結果や問題点について解説します。

労働意欲の減衰は起きない

 ベーシックインカム導入実験で、労働意欲は減衰しないと判明しました。もちろん金額にもよるでしょう。しかし、少なくとも平均所得の3割程度の金額では労働意欲は減衰しません。

 日本に当てはめれば年間に80~120万円ほどでしょうか。

 ベーシックインカムを給付された人々は勉強をしたり、住宅環境を変えて通勤時間を短くしたりしたそうです。
 ベーシックインカムが給付されることで、より豊かな生活になるように活動しました。

幸福度は上がる

 ベーシックインカムを給付されると幸福度が上がります。将来への不安が軽減や、より活動的に将来のために取り組めるようになります。

 金銭不安というのはもっとも大きな不安です。それが取り除かれることで幸福度は上昇します。多くの人がベーシックインカムでできた余裕を、勉強や将来のために使ったそうです。

経済全体の問題点はあぶり出せない

 労働意欲は減衰せず、幸福度は上がります。いいことずくめに見えますが、イランの例がそうではないことを教えてくれます。

 国全体でベーシックインカムを導入した事例はイランだけです。イランはインフレで給付の価値が半減しました。今まで100万円分をもらえていたのに、インフレで50万円分の価値しかもらえなくなったのです。

 では給付額を上げたらいいのか? 給付額を引き上げると再びインフレが加速します。したがって、また給付額の価値が半減して――と、無限ループに陥ります。

 ベーシックインカムが個人に与える影響は小規模な実験で判明しました。ところが、経済全体に与える影響は国家全体で実験してみないとわかりません。
 実験してみた結果、イランのような無限ループに陥るなら導入しない方がマシでしょう。

 なお、イランのインフレがベーシックインカムに起因するかどうかは議論が必要です。

 このような問題点もしっかりと把握しておきましょう。

まとめ

 ベーシックインカムの導入実験はまだまだ数が少なく、分析も研究も進んでいません。例えば精神的に幸福度が増したのは「ベーシックインカムをもらえない人への優越感」からかもしれません。
 まだまだ実証研究が必要な分野と言えるでしょう。

 実証的な実験と分析、そして社会科学の知見を交えた議論がこれから期待されます。

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